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長坂の戦い
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城へ上がって劉備らと対面するが劉備のこの行動と円を訝しんだ者も居る。が基本的に劉備と周囲の臣下は円を上の者として尊重して対応した
これも当時の常識として「仙人」と評される者が居て歴史に加わっている事である、所謂、左慈、于吉等であるが、曹操や孫策等が罰しようとして逆に痛い目に合っている
その為「怒らせては成らない」と一部には認知されており仙人というより、化け神の類に近い印象があるだろう。勿論、円もそれは承知の上で最初からそこを誤解無き様、否定した
「仙術と言っても色々ありますが、私は治病と武の術それから学、占星術の部分です」
と自らの立ち位置を明らかにして普通に会談した。劉備は勿論なのだが、彼の軍師孔明も大いに興味はある何しろ彼も星読みを使うからだ
会談は和やかなまま、常識的対応で済む事になる。これは円が学士でもあり。お互い、相手の認知、信任を得るには誠実でなくては成らないからだ。劉備は其の中でも自身の見識と思いを隠さず述べた
「漢王室の復興が悲願であります、この様な割拠が続けば疲弊するは民です、この形を繰り返しても苦しむのは弱き者ばかりです」
「一理あります。中央集権という形は正しくあります。事実漢の光武帝から近年までは優れた内治に寄って安定と発展を齎しました」
「やはり円殿もそうお考えですか、考えを同じくする方に会えたのは喜びの極みです」
「無論、それは優れた政治あっての事ですが今の様な割拠では地方によって著しく潤う所とそうでない所に分かれます。形として正しくはありません」
「確かにそうですね」
「国の楚は民である事に同意します、君主あらずとも国は成り立ちますが。逆はありえません、玄徳様の考えは至極真っ当です」
「今は余りにも、皇室を軽視しています」
「ええ、ですが、この形から逃れる事も難しいでしょう。既に曹操が一大勢力と成っていますから。これと対抗するか、和睦に寄り、分割統治か対抗できる大勢力を作り牽制し合う形しかないでしょう」
その見識に劉備らも驚いた。何故なら、これは孔明が劉備に登用された際示したモノと同じだからだ、だが、円の見識は「戦略」で見れば普通の事だ
Aの強国が制覇を狙い、それをBが止めるとあれば一対一であればAとBが同程度の戦力を持たねば成らない、がAは既にBが対抗できない戦力を持つ
この場合、A10対B5であれば第三の勢力C5をBに加える。A10に対してB+C=10でAを上回れば防ぐが可能か、勝機がある。単純な話だ
これは三顧の礼をもって孔明を軍師に迎えた際示された「天下三分の計」と同じ物だ
円の見識がそれと同じであるのは必然でもある、これは戦略の常識で学んだ者なら大抵同じ形に結びつくからで、別に円の思考が特別優れて居る訳ではない
「今後私はどうするべきでしょう?」
「未来を知る力は私にはありません、ですが、単に戦略の話しであれば一刻も早く、一城の主と成るべきでしょうね、今の様などこかの客将では全体への影響力がありませんし利用されておしまいです。玄徳様には味方も多く、配下も優れています。ですが現状では宝の持ち腐れです」
そしてその円の意見も劉備以外の者全員と同じである。劉備は劉表の客将として置かれて頼っている、新野に居るのも前線の遊撃であるが劉表は病で、度々劉備に国を譲る話をしている
受けて州の牧となるべきと周囲からも言われている現状である、結局彼は最期までそれを受けなかったが
「円殿も荊州を押えるべきと考えていますか?」
「それは玄徳様の判断次第でしょう、私がどうこう言う話ではありません、これは二つの「義」のどちらを取るかという話です正解等ありません」
「二つ??」
「一つは恩人たる表殿の領土を受けるのは寧ろ仇に感じる義に劣る行為。二つは、感情を廃して強敵に対し「正義の義」を行う道を取るかという事です、後か先かの話であって戦略の話しではない」
「うむ、確かに」
「どちらにしても、正しくもある為殿が後悔しないようするべきでしょう」
「成る程‥」
「人間、万事塞翁が馬と申します。なので私はですが、その後、時「ああしておけば良かった」と思わず過ごしたいと考えています」
「成る程、よくわかりました」と劉備も力強く返した
ここでも表の申し入れを受けない事を否定されるかと思ったが、そうでなく、自身の意を大事にせよ、と云われた事がそう後押しされた気がして、強く返したのである
尤も、円の云ってる事は一般論でしかないが、それは良識のある者なら「意に従え」は大抵、公正である、愚君の意には私益で、出世とか制覇とかだが良君の意は公益で多くの他人の為だからである
円は劉備という人の人となりは知らないが、世間の評判どおりなら、まず後者であり間違いは少ないだろうという憶測があった、実際、彼の評価を街で聞いても悪く言う人はまず居ない
円は結局「客」として招かれ城に滞在する事と成った。まず、マトモな人間ならこういう特別な秀でたモノを持った人物を手放しはしないだろう、まして他の知られた「仙人」とは違い礼を持ってお堅い人物だ周囲に不安あるかも知れないが優先すべきはそこにない
国にとっての民衆が楚であるように人材こそ組織の楚であるのだから。円は勿論の事、ヤオもこれを否定しなかった
「それはそれで丁度いいな」と言った
「部屋をくれて滞在してはどうか、と云われれば楽ではある」
「ま、そうじゃな、それにこのままへばりついて居た方が後々楽じゃ」
「ええ、当初の方針通りね」
「だが、円」
「うん?」
「あまり肩入れするなよ?」
「わ、わかってる」
が、二人は長期滞在で厄介に成る時期は短かった。その後一ヶ月には劉備の頼り先の劉表の病と死。ここでも劉備は州を譲る話を受けなかった
「長男の劉琦殿に譲るべき、自分は彼を立てて補佐します」とそれを受けず、あくまで息子に譲るべきとした
これは勿論、劉備周囲の者も説得し州を譲り受け曹操と戦うべきとしたが。周囲全ての臣下の意見でも受けなかった
「病に倒れた劉表殿の意思とは云え、恩人の病死にかこつけて彼の領地を実子を押しのけ譲り受ける等、義に劣る」とした
だが結果的にそれは苦難の道とも云える
劉表、劉備両者にとって
劉表一族は後継者を巡り内部分裂を起こす。劉表死去から、蔡瑁を筆頭とする豪族らは蔡瑁の姉で劉表側室の蔡夫人の子・劉琮を擁立。
家督を相続すべきであった長男の劉琦を退け劉琮を後継者とした
そしてそこから曹操は南下。これが前線に着くと劉琮は周囲の勧めあって帰順を曹操側に申し出る。つまり降伏するからそちらに加えてくれという事だ
当時劉表の庇護を受け客将として新野に居た劉備一行はこの裏切りで最前線で戦う前に孤立の状況、前後に味方無しの状態である
曹操は新野攻略を曹仁に、十万強の兵を預けて任せる一方劉備軍は一万無い、これには現地に居た円らも唖然である
劉備らと会談を持ち、協議するが云う前にすでに方針は「逃げる」だった。ただ、勿論無策に逃げろでは無い
劉備軍は新野の住民らを退避させ
自身らも城を捨てて南へ
曹操軍は空の新野を占拠制圧して城へ、一戦もせず領地奪取したが、それも仕方無い事だろう。何しろ戦力差が有り過ぎる十万対一万以下では篭城してもどうにもならない
が、これは劉備軍の策である
新野城に入った所で一斉に劉備軍の伏兵が四方から襲撃これで曹仁軍は身動き取れずのまま敗退から撤退する事になる、所謂空城の計というやつだ
一旦曹操軍先鋒を撤退に追い込んだが劉備らは継続した防衛は行わず時間を稼いで南へ後背の樊城へ逃れる
荊州周辺の民衆は劉備を慕い共に同行したため、劉備軍はそれらと共に兎に角逃れる事を優先した、民衆を抱えての戦闘など出来様ハズもない。無論、周囲の者、軍師孔明は捨てる事を進言したが劉備はこれを認めなかった
「自身を頼って付いて来る民を捨てれない」としたためだ
円らもこれに同行していたが賞賛すべき資質であるが、愚行だとも思った、馬の後ろでヤオも言った。だが、それはこの一件の事ではない
「不味いのこれは‥」
「この状態だと曹操軍に追いつかれたら戦闘にならないわね守りながら戦える訳がない」
「いや、そっちじゃない」
「?」
「分岐がハッキリしてきた、しかも多いぞこれ」
「へ?!ちょ!どゆこと?!」
思わず言って周囲の軍兵に注目された。元々「変わった人扱い」だけにどうしました?とは聞かれなかったがそのまま馬を斜め前に歩かせ隊列から外れて話した
「うむ、干渉もだが、それ以外でも訳の分らんルートが複数出ている」
「それは??」
「この劉備の判断で当人と周囲の死亡フラグばっかどんどん増えていくわい」
「つまり‥劉備殿のその場の判断から自身とか臣下とか死ぬの??」
「うむ、これはやっかいだな」
「で、でも、干渉でないなら、止めなくて良いんでしょ?」
「ところがそうも行かん。その選択、判断の結果と後の干渉が絡んでいて、アチコチに分岐する、ていうか、説明し切れんな」
「えー‥、どうやって防ぐのよそれ‥」
「うむ‥、だが、こっちとしては単純だ、劉備殿を死なせなければいい、それが唯一の正解だ」
「‥イマイチ分らないわねぇ‥」
「干渉はこの逃亡の後半なんじゃが、それ前でも死なれると向こうに有利な結果に成る、干渉で無くても、結果的に歴史が大きく乱れて圧制になる」
「はぁ‥つまり、干渉もあるけど、そうでない選択で後々多きなマイナスになるって事?」
「そういう事じゃ」
「まあ、一応分ったわ。それに私としてもそれは悪くない」
「ただ、かなり大変じゃな」
「そうでも無い、いざとなれば向こうの追っ手くらい私だけでもどうとでもするわ」
「ま、確かに、既に謎人物の形にはなっとるが‥あんまり個人の範囲を超えると不味いぞ」
「わかってるけど、前にヤオが言ったのは中心に成って大きく変える、事でしょ?つまり「お役目」も修正な訳だから、その意に沿う結果的にそうなるなら特別問題には成らないハズ」
「ふむ、分ってるならいいが‥」
ヤオも、そう一応納得した訳だが彼女の懸念も半分はそこに無い、円の性格である。
「あっさりしてるようで、あっさりしてないんだよなコイツ」
一方劉備軍は新たに荊州牧となった劉表の子、劉琮の居城に辿り着き面会を求めたが開城してもらえず、その場で矢を撃たれて追い返された
心理、としては分らなくは無い。裏切りにより前線で孤立した劉備が戻ってきて開けろと云っても開ける訳がない
当然向こうの側からすれば、報復に来たのだと思うだろう、ようは琮は恐怖したのだ
ただ、これは真っ当な反応だし。実際、孔明も今劉琮を討って荊州を劉備の物として曹操に対しても。不興を買うものではないと劉琮討伐を進言したがこれも拒否されている
そう劉備は事ここに至っても裏切りの反撃から荊州を自分の物にする事を渋ったのである、そして、ここに来た理由も劉琮に曹操への降伏を思い直すよう説得しに来ただけである
だが、相手にそういう反応をされるとどうする事も出来ない、やむなく、州の各地から劉備を慕って集まった住民十万強を抱えながら、更に逃げるしかなかった
ここで孔明と関羽を南東に先行して向かわせる、もう一人の子、劉表長男の「劉埼」に助けを求めた、劉表長男、劉埼は穏健で物の分かった人で父と心を同じくする人物、劉備と孔明に借りがあり南東の州の防衛に当っていて軍力もある
だがこれら一連の行動全て周囲の助言を廃しての行動、選択である、それが苦境を招いたとも云えるだろう
曹操はこの一連の流れを知り南進を早める、即座に精兵五千と虎豹騎を劉備の追撃に先行して送り出す
劉備らは十万の民を抱えての移動であり一日30キロ半程しか進めず、曹操の先行追撃隊に途上の陽県長坂に差し掛かった際、追いつかれ攻撃を受ける
殿を務める備軍、後方から襲われ民衆らを逃がすが既に混戦、反転して戦う状況にない、が、劉備はこれを反転迎撃に向かう
周囲は止めるが、これも聞かずだったがこれを円が止める
「玄徳殿、まずは後退して御身を保たれるべきです」
「しかし民を捨てる事になる」
「民や臣下は玄徳殿が討ち死にするのを望んでいるのですか?」
「だが‥しかし‥!」
「私が行きます、早く後退してください。貴方を討ち取る事こそ向こうの目的、司令官無き軍が形を保てる理由がありません。敵の狙いは擒賊擒王第十八計です。玄徳様や軍の重要人物を叩き一部を崩す事に寄って全体に致命的な打撃を与えます」
「‥分った、円殿の意見も尤もだ」
として引かせる
これには劉備も反論出来なかった。まして「仙女」の言葉である
そしてこれをヤオは止めなかった目的の大元は彼と一族であり、不安要素は抑えるべきである、円はヤオを玄徳に置いて自身が馬を反して迎撃に向かう
最後尾の前線両軍に駆け馬から跳びつつ曹操軍の最前線の相手に先制の跳び蹴りを放ち蹴り飛ばし、降りると同時、敵と自身の間に先の使徒戦の様に近接百歩神拳を誘爆させて周囲敵兵を10人吹き飛ばして昏倒させ立ちはだかった
少々派手なやり口だが、向こうを抑えればそれでいい
実際これで相手も動けなくなった
「な、何者!?」
「人が言うには「仙女」らしいぞ」
「ふ、ふざけた事を‥」
「どっちでもいいさ、ここは通さぬ」
背中越しに味方に指示して引かせ自身は直立で前に無人の野の如く歩く、駆られて前に出て来る相手を次々突き倒し一歩も相手を進ませず迎撃した
ものの数分で30倒され、円が前に歩く分相手も下がるという状況を作ったが、自身一人で無意味に迎撃してもあまり影響が無い
その為、急襲で崩れた味方の再編だけ時間を稼ぎ円も下がり、再び劉備軍にそこを任せた、一撃して後退させる、それで十分である
それで実際戦果が変わる訳ではない、曹操軍は連続した波状攻撃で繰り返すと劉備軍も崩れる、これに劉備の義弟、張飛が手持ち部隊で殿を務め後退迎撃を繰り返した
円の見立てでも彼は嘗ての飛将、呂布に引けを取らない将だと分った故、譲って任せた
これも当時の常識として「仙人」と評される者が居て歴史に加わっている事である、所謂、左慈、于吉等であるが、曹操や孫策等が罰しようとして逆に痛い目に合っている
その為「怒らせては成らない」と一部には認知されており仙人というより、化け神の類に近い印象があるだろう。勿論、円もそれは承知の上で最初からそこを誤解無き様、否定した
「仙術と言っても色々ありますが、私は治病と武の術それから学、占星術の部分です」
と自らの立ち位置を明らかにして普通に会談した。劉備は勿論なのだが、彼の軍師孔明も大いに興味はある何しろ彼も星読みを使うからだ
会談は和やかなまま、常識的対応で済む事になる。これは円が学士でもあり。お互い、相手の認知、信任を得るには誠実でなくては成らないからだ。劉備は其の中でも自身の見識と思いを隠さず述べた
「漢王室の復興が悲願であります、この様な割拠が続けば疲弊するは民です、この形を繰り返しても苦しむのは弱き者ばかりです」
「一理あります。中央集権という形は正しくあります。事実漢の光武帝から近年までは優れた内治に寄って安定と発展を齎しました」
「やはり円殿もそうお考えですか、考えを同じくする方に会えたのは喜びの極みです」
「無論、それは優れた政治あっての事ですが今の様な割拠では地方によって著しく潤う所とそうでない所に分かれます。形として正しくはありません」
「確かにそうですね」
「国の楚は民である事に同意します、君主あらずとも国は成り立ちますが。逆はありえません、玄徳様の考えは至極真っ当です」
「今は余りにも、皇室を軽視しています」
「ええ、ですが、この形から逃れる事も難しいでしょう。既に曹操が一大勢力と成っていますから。これと対抗するか、和睦に寄り、分割統治か対抗できる大勢力を作り牽制し合う形しかないでしょう」
その見識に劉備らも驚いた。何故なら、これは孔明が劉備に登用された際示したモノと同じだからだ、だが、円の見識は「戦略」で見れば普通の事だ
Aの強国が制覇を狙い、それをBが止めるとあれば一対一であればAとBが同程度の戦力を持たねば成らない、がAは既にBが対抗できない戦力を持つ
この場合、A10対B5であれば第三の勢力C5をBに加える。A10に対してB+C=10でAを上回れば防ぐが可能か、勝機がある。単純な話だ
これは三顧の礼をもって孔明を軍師に迎えた際示された「天下三分の計」と同じ物だ
円の見識がそれと同じであるのは必然でもある、これは戦略の常識で学んだ者なら大抵同じ形に結びつくからで、別に円の思考が特別優れて居る訳ではない
「今後私はどうするべきでしょう?」
「未来を知る力は私にはありません、ですが、単に戦略の話しであれば一刻も早く、一城の主と成るべきでしょうね、今の様などこかの客将では全体への影響力がありませんし利用されておしまいです。玄徳様には味方も多く、配下も優れています。ですが現状では宝の持ち腐れです」
そしてその円の意見も劉備以外の者全員と同じである。劉備は劉表の客将として置かれて頼っている、新野に居るのも前線の遊撃であるが劉表は病で、度々劉備に国を譲る話をしている
受けて州の牧となるべきと周囲からも言われている現状である、結局彼は最期までそれを受けなかったが
「円殿も荊州を押えるべきと考えていますか?」
「それは玄徳様の判断次第でしょう、私がどうこう言う話ではありません、これは二つの「義」のどちらを取るかという話です正解等ありません」
「二つ??」
「一つは恩人たる表殿の領土を受けるのは寧ろ仇に感じる義に劣る行為。二つは、感情を廃して強敵に対し「正義の義」を行う道を取るかという事です、後か先かの話であって戦略の話しではない」
「うむ、確かに」
「どちらにしても、正しくもある為殿が後悔しないようするべきでしょう」
「成る程‥」
「人間、万事塞翁が馬と申します。なので私はですが、その後、時「ああしておけば良かった」と思わず過ごしたいと考えています」
「成る程、よくわかりました」と劉備も力強く返した
ここでも表の申し入れを受けない事を否定されるかと思ったが、そうでなく、自身の意を大事にせよ、と云われた事がそう後押しされた気がして、強く返したのである
尤も、円の云ってる事は一般論でしかないが、それは良識のある者なら「意に従え」は大抵、公正である、愚君の意には私益で、出世とか制覇とかだが良君の意は公益で多くの他人の為だからである
円は劉備という人の人となりは知らないが、世間の評判どおりなら、まず後者であり間違いは少ないだろうという憶測があった、実際、彼の評価を街で聞いても悪く言う人はまず居ない
円は結局「客」として招かれ城に滞在する事と成った。まず、マトモな人間ならこういう特別な秀でたモノを持った人物を手放しはしないだろう、まして他の知られた「仙人」とは違い礼を持ってお堅い人物だ周囲に不安あるかも知れないが優先すべきはそこにない
国にとっての民衆が楚であるように人材こそ組織の楚であるのだから。円は勿論の事、ヤオもこれを否定しなかった
「それはそれで丁度いいな」と言った
「部屋をくれて滞在してはどうか、と云われれば楽ではある」
「ま、そうじゃな、それにこのままへばりついて居た方が後々楽じゃ」
「ええ、当初の方針通りね」
「だが、円」
「うん?」
「あまり肩入れするなよ?」
「わ、わかってる」
が、二人は長期滞在で厄介に成る時期は短かった。その後一ヶ月には劉備の頼り先の劉表の病と死。ここでも劉備は州を譲る話を受けなかった
「長男の劉琦殿に譲るべき、自分は彼を立てて補佐します」とそれを受けず、あくまで息子に譲るべきとした
これは勿論、劉備周囲の者も説得し州を譲り受け曹操と戦うべきとしたが。周囲全ての臣下の意見でも受けなかった
「病に倒れた劉表殿の意思とは云え、恩人の病死にかこつけて彼の領地を実子を押しのけ譲り受ける等、義に劣る」とした
だが結果的にそれは苦難の道とも云える
劉表、劉備両者にとって
劉表一族は後継者を巡り内部分裂を起こす。劉表死去から、蔡瑁を筆頭とする豪族らは蔡瑁の姉で劉表側室の蔡夫人の子・劉琮を擁立。
家督を相続すべきであった長男の劉琦を退け劉琮を後継者とした
そしてそこから曹操は南下。これが前線に着くと劉琮は周囲の勧めあって帰順を曹操側に申し出る。つまり降伏するからそちらに加えてくれという事だ
当時劉表の庇護を受け客将として新野に居た劉備一行はこの裏切りで最前線で戦う前に孤立の状況、前後に味方無しの状態である
曹操は新野攻略を曹仁に、十万強の兵を預けて任せる一方劉備軍は一万無い、これには現地に居た円らも唖然である
劉備らと会談を持ち、協議するが云う前にすでに方針は「逃げる」だった。ただ、勿論無策に逃げろでは無い
劉備軍は新野の住民らを退避させ
自身らも城を捨てて南へ
曹操軍は空の新野を占拠制圧して城へ、一戦もせず領地奪取したが、それも仕方無い事だろう。何しろ戦力差が有り過ぎる十万対一万以下では篭城してもどうにもならない
が、これは劉備軍の策である
新野城に入った所で一斉に劉備軍の伏兵が四方から襲撃これで曹仁軍は身動き取れずのまま敗退から撤退する事になる、所謂空城の計というやつだ
一旦曹操軍先鋒を撤退に追い込んだが劉備らは継続した防衛は行わず時間を稼いで南へ後背の樊城へ逃れる
荊州周辺の民衆は劉備を慕い共に同行したため、劉備軍はそれらと共に兎に角逃れる事を優先した、民衆を抱えての戦闘など出来様ハズもない。無論、周囲の者、軍師孔明は捨てる事を進言したが劉備はこれを認めなかった
「自身を頼って付いて来る民を捨てれない」としたためだ
円らもこれに同行していたが賞賛すべき資質であるが、愚行だとも思った、馬の後ろでヤオも言った。だが、それはこの一件の事ではない
「不味いのこれは‥」
「この状態だと曹操軍に追いつかれたら戦闘にならないわね守りながら戦える訳がない」
「いや、そっちじゃない」
「?」
「分岐がハッキリしてきた、しかも多いぞこれ」
「へ?!ちょ!どゆこと?!」
思わず言って周囲の軍兵に注目された。元々「変わった人扱い」だけにどうしました?とは聞かれなかったがそのまま馬を斜め前に歩かせ隊列から外れて話した
「うむ、干渉もだが、それ以外でも訳の分らんルートが複数出ている」
「それは??」
「この劉備の判断で当人と周囲の死亡フラグばっかどんどん増えていくわい」
「つまり‥劉備殿のその場の判断から自身とか臣下とか死ぬの??」
「うむ、これはやっかいだな」
「で、でも、干渉でないなら、止めなくて良いんでしょ?」
「ところがそうも行かん。その選択、判断の結果と後の干渉が絡んでいて、アチコチに分岐する、ていうか、説明し切れんな」
「えー‥、どうやって防ぐのよそれ‥」
「うむ‥、だが、こっちとしては単純だ、劉備殿を死なせなければいい、それが唯一の正解だ」
「‥イマイチ分らないわねぇ‥」
「干渉はこの逃亡の後半なんじゃが、それ前でも死なれると向こうに有利な結果に成る、干渉で無くても、結果的に歴史が大きく乱れて圧制になる」
「はぁ‥つまり、干渉もあるけど、そうでない選択で後々多きなマイナスになるって事?」
「そういう事じゃ」
「まあ、一応分ったわ。それに私としてもそれは悪くない」
「ただ、かなり大変じゃな」
「そうでも無い、いざとなれば向こうの追っ手くらい私だけでもどうとでもするわ」
「ま、確かに、既に謎人物の形にはなっとるが‥あんまり個人の範囲を超えると不味いぞ」
「わかってるけど、前にヤオが言ったのは中心に成って大きく変える、事でしょ?つまり「お役目」も修正な訳だから、その意に沿う結果的にそうなるなら特別問題には成らないハズ」
「ふむ、分ってるならいいが‥」
ヤオも、そう一応納得した訳だが彼女の懸念も半分はそこに無い、円の性格である。
「あっさりしてるようで、あっさりしてないんだよなコイツ」
一方劉備軍は新たに荊州牧となった劉表の子、劉琮の居城に辿り着き面会を求めたが開城してもらえず、その場で矢を撃たれて追い返された
心理、としては分らなくは無い。裏切りにより前線で孤立した劉備が戻ってきて開けろと云っても開ける訳がない
当然向こうの側からすれば、報復に来たのだと思うだろう、ようは琮は恐怖したのだ
ただ、これは真っ当な反応だし。実際、孔明も今劉琮を討って荊州を劉備の物として曹操に対しても。不興を買うものではないと劉琮討伐を進言したがこれも拒否されている
そう劉備は事ここに至っても裏切りの反撃から荊州を自分の物にする事を渋ったのである、そして、ここに来た理由も劉琮に曹操への降伏を思い直すよう説得しに来ただけである
だが、相手にそういう反応をされるとどうする事も出来ない、やむなく、州の各地から劉備を慕って集まった住民十万強を抱えながら、更に逃げるしかなかった
ここで孔明と関羽を南東に先行して向かわせる、もう一人の子、劉表長男の「劉埼」に助けを求めた、劉表長男、劉埼は穏健で物の分かった人で父と心を同じくする人物、劉備と孔明に借りがあり南東の州の防衛に当っていて軍力もある
だがこれら一連の行動全て周囲の助言を廃しての行動、選択である、それが苦境を招いたとも云えるだろう
曹操はこの一連の流れを知り南進を早める、即座に精兵五千と虎豹騎を劉備の追撃に先行して送り出す
劉備らは十万の民を抱えての移動であり一日30キロ半程しか進めず、曹操の先行追撃隊に途上の陽県長坂に差し掛かった際、追いつかれ攻撃を受ける
殿を務める備軍、後方から襲われ民衆らを逃がすが既に混戦、反転して戦う状況にない、が、劉備はこれを反転迎撃に向かう
周囲は止めるが、これも聞かずだったがこれを円が止める
「玄徳殿、まずは後退して御身を保たれるべきです」
「しかし民を捨てる事になる」
「民や臣下は玄徳殿が討ち死にするのを望んでいるのですか?」
「だが‥しかし‥!」
「私が行きます、早く後退してください。貴方を討ち取る事こそ向こうの目的、司令官無き軍が形を保てる理由がありません。敵の狙いは擒賊擒王第十八計です。玄徳様や軍の重要人物を叩き一部を崩す事に寄って全体に致命的な打撃を与えます」
「‥分った、円殿の意見も尤もだ」
として引かせる
これには劉備も反論出来なかった。まして「仙女」の言葉である
そしてこれをヤオは止めなかった目的の大元は彼と一族であり、不安要素は抑えるべきである、円はヤオを玄徳に置いて自身が馬を反して迎撃に向かう
最後尾の前線両軍に駆け馬から跳びつつ曹操軍の最前線の相手に先制の跳び蹴りを放ち蹴り飛ばし、降りると同時、敵と自身の間に先の使徒戦の様に近接百歩神拳を誘爆させて周囲敵兵を10人吹き飛ばして昏倒させ立ちはだかった
少々派手なやり口だが、向こうを抑えればそれでいい
実際これで相手も動けなくなった
「な、何者!?」
「人が言うには「仙女」らしいぞ」
「ふ、ふざけた事を‥」
「どっちでもいいさ、ここは通さぬ」
背中越しに味方に指示して引かせ自身は直立で前に無人の野の如く歩く、駆られて前に出て来る相手を次々突き倒し一歩も相手を進ませず迎撃した
ものの数分で30倒され、円が前に歩く分相手も下がるという状況を作ったが、自身一人で無意味に迎撃してもあまり影響が無い
その為、急襲で崩れた味方の再編だけ時間を稼ぎ円も下がり、再び劉備軍にそこを任せた、一撃して後退させる、それで十分である
それで実際戦果が変わる訳ではない、曹操軍は連続した波状攻撃で繰り返すと劉備軍も崩れる、これに劉備の義弟、張飛が手持ち部隊で殿を務め後退迎撃を繰り返した
円の見立てでも彼は嘗ての飛将、呂布に引けを取らない将だと分った故、譲って任せた
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厳しい訓練、激しい戦闘、苦しい戦時中の暮らしの中で、色んな人々と出会い、別れ、彼は成長します。
そんな彼の人生を、年表を辿るように物語りにしました。
※この作品は、残酷な描写があります。
※直接的な表現は避けていますが、性的な表現があります。
※「小説家になろう」「ノベルデイズ」でも連載しています。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
明治仕舞屋顛末記
祐*
歴史・時代
大政奉還から十余年。年号が明治に変わってしばらく過ぎて、人々の移ろいとともに、動乱の傷跡まで忘れられようとしていた。
東京府と名を変えた江戸の片隅に、騒動を求めて動乱に留まる輩の吹き溜まり、寄場長屋が在る。
そこで、『仕舞屋』と呼ばれる裏稼業を営む一人の青年がいた。
彼の名は、手島隆二。またの名を、《鬼手》の隆二。
金払いさえ良ければ、鬼神のごとき強さで何にでも『仕舞』をつけてきた仕舞屋《鬼手》の元に舞い込んだ、やくざ者からの依頼。
破格の報酬に胸躍らせたのも束の間、調べを進めるにしたがって、その背景には旧時代の因縁が絡み合い、出会った志士《影虎》とともに、やがて《鬼手》は、己の過去に向き合いながら、新時代に生きる道を切り開いていく。
*明治初期、史実・実在した歴史上の人物を交えて描かれる 創 作 時代小説です
*登場する実在の人物、出来事などは、筆者の見解や解釈も交えており、フィクションとしてお楽しみください
女の首を所望いたす
陸 理明
歴史・時代
織田信長亡きあと、天下を狙う秀吉と家康の激突がついに始まろうとしていた。
その先兵となった鬼武蔵こと森長可は三河への中入りを目論み、大軍を率いて丹羽家の居城である岩崎城の傍を通り抜けようとしていた。
「敵の軍を素通りさせて武士といえるのか!」
若き城代・丹羽氏重は死を覚悟する!
陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――
黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。
一般には武田勝頼と記されることが多い。
……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。
信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。
つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。
一介の後見人の立場でしかない。
織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。
……これは、そんな悲運の名将のお話である。
【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵
【注意】……武田贔屓のお話です。
所説あります。
あくまでも一つのお話としてお楽しみください。
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