混血の守護神

篠崎流

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お役目

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目的の場所に着いたのはきっちり10日後の早朝、ここで少し離れた適当な集落に一旦入って示し合わせる

「さて、問題はここで起こる」
「何其れ?分ってるの?」
「当然じゃな、が、まだ時間はある」
「ふーん」
「一応、簡単に説明する、越と皇帝軍の戦に成る。その際、本来ならば、皇帝軍の派遣する将が越を抑えて、打ち破り早期講和が成される、この光武帝の人事と政治はしっとるな?」
「ええ、稀有な人物ね、これだけ民の方を見て政治が出来るという事は頭が良いし、穏健派でしょう」

「左様、本来の歴史なら越との争いに派遣した皇帝の軍将は相手に一撃して終らせ、優位な条件も捨てて、越側に配慮して越側も心服して漢と一時的だが、この皇帝に牙を向く事は無くなる」
「成る程、て、なんで分るの?」
「こっちの言葉で言う、予知じゃよ、事例にも寄るが、結構先を読める」
「特殊能力ね」

「が、これは変わる、干渉と選択に寄って。予知と言うより予想「道照らし」という能力だ、暗闇の先で見えない、分かれ道を照らして知る事が出来る」
「ふむ」
「で、だな、皇帝軍を任された将は今回、そうしないで相手を徹底的に叩く可能性もある」
「あー‥、もしかしてそれが「干渉」?」
「そ、ウチらはそれを止める、これが成された場合南全部が反旗を翻し、再び大乱になる」
「なーるほど。て、全然イージーな仕事じゃないじゃん‥」
「南方戦を任された皇帝の臣下の将に取り付くか操る奴を追い返す、それだけじゃよ」

「ハァ‥ま、それはいいとして、どうやって?」
「ウチが、取り付いてる奴が出た場合、追い出しと封印をする」
「で、私は?‥」
「お主は前で防御してりゃいいウチが後ろから封印する、その時間稼ぎじゃな、後、将軍なら、護衛の類も多いじゃろ、余計な邪魔の排除」
「成る程、それなら出来そうね‥貴女が何か術を使い干渉者の追い出しと封印をすると、私は貴女の邪魔をさせない、と」
「そういうこっちゃな」
「時間は?」

「まだ皇帝側の軍も来てない、来るのは7日後だ一応、武器の用意くらいかの?」
「問題は「ソイツ」とやらなきゃならない場合よ、気功が利くのかどうか分らないし、貴女を狙われた場合、魔?と手を合せる必要もあるんだけど?」
「一応、ウチのを使え」

とヤオは両手の手袋みたいのを脱いで寄こした

「霊抑対、それは精神体の様な物理が利かん奴を捕まえられる、まあ、本来は幽霊捕縛用じゃが、それで殴ればいいじゃろ」
「結局殴るのね‥」
「他のモン借りてきてもいいが寧ろ邪魔じゃろ?」
「そうね、私も徒手、仙術メインになってるし余計な重い武器とか寧ろ邪魔ね、ただ、有効な何かがあるならその方が良いし、て思っただけよ」
「ま、大丈夫じゃろ、失敗しても向こうが出来なきゃ良いしウチ等が殺し合いも不毛じゃからの」

「不死同士の殺し合いて確かに無意味ね‥」
「いやまあ、中、下種なら死、消滅する場合もあるが、この際、相手は見るまで分らんしのぅ、下種でも能力に寄っては不死は居るし」

ちなみに下種だけど死にませんは今で言うアンデットである、と言うより、既に死んでるが

「そっか、基本防げば良い訳だしね、優位と云えば優位、楽と云えば楽か」
「そう」

こうして現地の集落で時間まで過ごした
ヤオは「グロイグロイ」云いながら中華料理に舌鼓を打った、どうやら気に入ったらしい

「もう一つ、疑問があるんだけど」
「なんじゃい?」
「なんで「向こうの側」は人界の混乱みたいのをセコセコやってるの?」
「ふむ、例えばじゃが円が薬の実験体にされたろ?」
「ええ」
「そこで、もし、ウチで無く、向こうの連中が助けたとしたらどうだ?」
「あ‥そっか‥」
「うむ「お前を酷い目に合わせた連中をぶっ殺したくないか?オレと契約したら力くれてやる、好き勝手出来るぞ?だからコッチの味方になれ」と云われたら大概受けるじゃろ」
「確かに」

「だから人界の混乱はあればあっただけいいんじゃよ、つまり「もう、こんな不公平でクソだらけの連中の居る世界なんぞ壊れてしまえ!」と、憎悪が生まれる、ウチと逆の側から見ればそういう人間は負の感情の塊で、強い、引き込みやすい」
「でもさ、無理矢理従わせたりしないの?」
「一時的には出来るだろうな、だが人間は精神の生き物じゃ、騙して、操って手下にして戦力にしても何れ裏切るか、従わん、これは「不満」という感情から暴発した場合、恐ろしい敵になる」
「だから敵側からすれば、完全に人界の不幸で見切った人間を引き込んで戦力にした方が楽、て事ね」

「そう、ついでに言えばだが、お主はその精神が強い、不当な事には従わんし、ウチが騙して味方につけても「よくも騙したな!」て反撃するじゃろ」
「これはどこ世界でもあんまり変わらないのね‥」
「実際そうじゃ、神魔でも酷い迫害で受けて、罰を食らわせば逆方向に逃げる、右から左に、左から右へじゃ人間界での、「謀反」もそれに当る」
「なるほど‥ソッチの側で云えば「堕天使」ね」
「そうじゃな、先にも言ったが、どういう経過で得たとしても、扱いが不当であれば勢力を変える、酷い目に合わせれば合せる分反撃の怒りはでかくなる」
「だからなるべく「状況を整え、魅力的に誘う」と」

「向こうからすれば混乱とか不当とか憎悪が生まれる社会のが勧誘はし易いだろうな、早い話、円みたいな状況に陥る事例を増やす、と」
「ちょっと待って‥という事は私の逆の相手も居るのね?」
「勿論だが、負の感情から向こうに付いた側の人間は基本扱いにくい、何しろ節制は無いし忠実でもない」
「会ったらどうするのかしら?」
「別に、争う必要もないだろ、殆ど意味が無いし。大体、お前に勝てる人間スペックの使徒が居るとも思えん」
「そうなのかしら‥」
「何れにしろ可能性は低い‥ウチもまだそういう経験は無いしなんとも云えないのう」
「そっか、ならそれはいいか‥」
「うむ、所で、このスープの中を大量に泳いでる白ヘビは何だ?」
「麺、白ヘビ云うな」

円とヤオはそのまま地元で過ごした後
目的日の前日には離れる、皇国軍が到着したのが翌日朝、南から北へ上がる越と領土線平地での布陣で対峙したのが昼過ぎ、二人は近隣の丘に隠れて流れを見守る

「始まるの?どうする?」
「開始は明日じゃ、夜まで待つ、そこで片付ける」
「分った」

そうヤオも云ったとおり、両軍は距離を取ったまま動かず、書の遣り取りでの牽制、探りが続いて当日を終える

両軍陣を張って、下がった位置で警戒態勢に成った所で円とヤオは皇帝軍側に潜入する

ヤオは飛べるのでどうという事もない、だが、円も「軽身功」で会議が行われている陣の上に軽く乗って様子を見た

何しろ、自身の体を枝葉並みにまで軽く出来る、風に乗って軽く飛ぶ事すら出来る

ヤオの「予想」の通り会議は荒れていた

「皇帝陛下の威光を示す、越等、叩き潰して漢の領土にすればいい」
「お待ち下さい将軍、陛下の御意は穏健にです」
「何を云う、これ程穏健な治世の陛下に反逆するなどその時点で、穏健もクソもないわ」
「し、しかし」
「我方は十万ある、この際、越を占拠し我が国に加えるべきだろう」

が、これに賛同する者も居る

「一理ありますな、皇帝陛下のこれまでの対応は十分穏健です、これに反逆するとは彼らには「心」等無いと云えるでしょう」
「うむ、この際一気に飴から鞭にして分らせるべきだ」
「しかし御意を無視する事になりませんか?」
「むぅ‥」
「分った、では相手に勧告を行う、それの反応待ちで受けねば相応の対応をする」
「では、今日と同じ対応でしょうか?」
「そうだ、これを受けぬとあらば「穏健」な対応をしたと御意には叶う」
「分りました、では、書を用意します」
「うむ、早朝また会議を開く、それでよいな」
「はっ」

そうして将軍は自分のテントに戻る

「真っ二つじゃったの」
「勧告で向こうが受けないなら潰す、て穏健じゃないでしょ」
「周りから反対されて間を取った感じじゃな」
「ま、兎に角、今しかないわね」
「おう、いくぞ」

と将軍の後を追う

「テント」と言っても結構デカイ、何しろ皇帝軍の主将の専用だ、入り口に見張り二人、中にも世話の者含めて6人居る

「さて、ウチは消えて入れるがお主は‥」
「問題ないわ」

と、円も先行して堂々と歩いていった。そこいらに置いてある空き壷を拾って正面から行く、勿論、見張りに話して

「なんだ?酒か?」
「ええ、いいかしら?」
「一応確認する、入れ物を見せろ」

当然毒見は必要だ、が、円はそれを入り口二人の兵に渡し、それを覗き込む「前」に神業の速度と静けさのまま、飛び込み二人の見張りの胸に「発勁」を入れて失神させた

兵が「うっ」と成って前に倒れ込む前に
落とした壷も何事も無くキャッチして、兵二人が倒れるのも体を入れて止める

壷を静かに置いて兵をゆっくり座らせ音すら立てずに、入り口から堂々と入った

勿論、入って来た円を見て「世話の者か」と一同思ったが将軍の周りの護衛の一人は分った

「ん?何だ女、見ない顔だな、何時もの食事運びはどうした?」

円はそれに答えず。即、脅威の速さで動いた
向こうも「え!?」と反応する暇も無い

室内で風が起こる程の速度で飛び、将軍の周囲護衛、四人を勁打で昏倒させる

「刺客か!?」と唯一、円が「何時もの女」でない事を見抜いた、残り護衛一人も剣を抜くが先に円の掌打を受けて膝から落ちた

それだけではない「ヒッ!」と声を挙げて叫ぼうとした、世話人の女性も眉間に指弾を軽く入れて落とす

眼を回して倒れる彼女が転倒でケガをしないように背中を抱えて座らせる程の「配慮」すら見せて終らせる

この間、5秒である

残った目的の将軍も手近の槍を取って円の胴を払う様に振りぬく、それは円を捉えて薙ぎ倒したかと「思われたが」槍そのものが円に当って真っ二つに折れた

空手の左外払い受けの形で前腕で刃の部分手前で止めつつ
「硬気功」で防ぐと同時武器を奪った

将軍も余りの出来事に「な!!?」としか出なかった。そして言えたのはそれが最初で最後だった、円の放った掌打が腹にめり込んだ、それで全て終りであるが、それで終りでも無かった

倒した将軍の背中から黒い霧そう「乗り移った」相手が出て来る

「ヤオ!」
「わかっとる!」

ヤオも咄嗟術を唱えるが、霧は形を作りながらテントから空に向かってすり抜けた

「あ、逃げた!?」

円も咄嗟に外に出て跳躍する、飛んで逃げた相手を夜の空を駆けて追尾する

円の頭の中に「一人で行くな!」とヤオが叫んで投げたが逃がす訳には行かない


逃げる霧を跳躍を繰り返しながら追う、ソイツの背中をずっと見ながらだが、次第に距離が遠ざかる

何しろ円は「軽身功」で重さを極端に0に近くしながら、地面に降りては脚力で「跳躍」しているだけで「飛べる」とは違う、速度で負けると遠ざかる、しかも気が尽きればそれで終りだ

所詮惰性でジャンプ移動しているだけで速度を上げられる訳ではないし。円の現在の基本脚力では横に7,80メートル飛ぶが精精だ

「くっ‥」と円も強く呟いた

霧は形を作り、人型になるまで確認した
ここで円も閃いた

「追いつけないが撃ち落す技がある!」と

8回目の着地から斜め上に跳躍し、最も速度と高さが出ている頂点で「技」を切り替えた

「軽身功」を解くと同時ありったけ練気して拳を相手に向けて打った、そう「百歩神拳」気功弾である

それは軌道を描いて飛ぶようなもんではない、狙った相手、目標地点を遠隔爆破する感覚に近い技だ、これが炸裂して空気が弾ける

そしてそれは「当った」「効いた」のである。人型の霧は視線の先、遠く空で破裂してチリジリに成ったのを円は確認しながら空から落ちた

地面に着地して円も「ぐっ」と唸って相手見た、つまり空を
、が、もう相手の姿は無かったのである

そのまま四つんばいで激しく息を吐いた、気と体力を一気に使って「百歩神拳」を最大気力で打って、疲労困憊だ

「やったのか!?逃げたのか!?」

それに答えたのは何時の間にか後ろに居た「ヤオ」だった

「やったよ」
「ヤオ!」
「ありったけの気功を受けて四散したな、終りじゃ」
「はぁ‥、何あれ?」
「下種も下種じゃったな「スペクター」だ、幽霊みたいなもんだ」
「そっか‥」
「全く、勝手に突っ込んで行きおって」
「ごめん‥でも足止めくらい出来るかと思って‥」

ヤオはそのまま四つんばいの円に寄って背中をさすった
不思議と疲労が無くなっていく、そういう術を使ったのかも知れない。そしてヤオは咎めなかった

「ま、だが、結果だけ見れば完璧じゃ、敵を妨害、引っ張り出し追って捉えて、ぶっ飛ばした、よくやったな」

円が回復するのを待ってヤオも前後の事を話した

「でも、結構目撃されたわねぇ」
「別に問題ない、将軍周りのお主が倒した連中の前後記憶は消した」
「そっか」
「それにしても手間の掛からん「守護者」だな」
「え‥」
「まさか、侵入から撃退まで一人でやれるとは思わんかったわ」
「た、たしかに、一人でやっちゃったね‥」
「ウチは「補佐」なんじゃが、何もする事ないわな」
「ごめん‥」
「咎めておるのではない、寧ろ良く出来た使徒だと云っておる」
「そっか」

「それに現在のスペックも把握出来たしの上々じゃ、帰って寝るか」
「そうね」

二人もそのまま立ち上がって、また集落に歩いて戻った

「それにしても、思いつき、デタラメで打った気功波も効くのね‥」
「まぁ、ウチも初めて知った、こんな例も無いしの」
「そうなんだ」
「だがまあ、西洋魔術も効く例があるし精神波や闘気の類なら通じるのじゃろうな、一つタメになったわい」
「私もよ」
「それと、引っ張り出すのも有効らしい、お主、将軍に勁をぶち込んだろ?」
「ええ、それで引っ張りだしたの??」
「じゃろうな、普通は出てこん、取り付き先が著しく被弾か死ぬかしないと」
「つまり、取り付いている対象が操れない、其の対象で無くなった時出て来ると?」
「それもある、後は術で追い出す、退魔術や御祓いだな」
「そっかー‥」
「流石仙人様じゃな(笑)」
「神様に言われても‥」

とマヌケな会話をしながら戻ったのである

「それと、コレ使わなかったわ‥」
「んじゃの、つか、いらんみたいじゃな‥」

ヤオも法具の手袋を受け取った

その後「本来の道」に戻る。皇帝軍と越は一戦したが一日で終る、数と質に勝る、皇帝軍が先制して一撃、相手を怯ませて、即時停戦から会談、これでこの戦いは終り、後、越との融和に成って行くのである

それらも近隣に潜んで確認した円とヤオもそのまま本土に戻った

こうして「最初のお仕事」は恙無く終り「守護者」「使徒」の役目も果した

「さて、んじゃ、旅の続きに戻ろうかしら」
「どこ行くんじゃ?」
「んー、まだ行ってない西周り観光+修行、成都まで行って、また中央かなぁ、この統治なら旅もし易いし」
「西は美味いモンあるのかの?」
「知らないけどあるんじゃない?‥て、付いて来る気?‥」
「暫くな」
「あのさぁ‥」
「ええじゃろ別に、上に居ても暇なんじゃい」
「あーハイハイ」

結局円にくっついてヤオも付いてくる事となった
そのまま西へ向かったのである

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