晴海様の神通力

篠崎流

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次の事件は高校に入ってまだ一ヶ月の頃である、直接的警察組織側から連絡を受けた訳でもなく、天気予報の様な、地図と予報を頼りに行動、見回りする事も可能に成った為晴海らもこれを中心に行動する様に成ったから、最初から現場近くに居たというのもある

そして実際携帯に情報が入ったのが
夜で「事件」として通知された

要は前回と同じ「失踪」である、ビルの駐車場に入ったカップルが停めてある車に乗り込んだ、男性がエンジンを掛けた所で運転手が「居なくなった」という事件で、相手の女性が錯乱して周囲を探すがどこにも相手がいない、通報してコチラに回ってきた、という事だった

ただ、不味い状況ではある
何しろモバイルに提供される予想予報は繁華街、夜二十二時過ぎだと言っても人がメチャ多いから、アヤネの羅針盤でもこれを捉えたのでほぼ間違いない

「不味いですね‥これは、既に公人側組織も動いてますが規制は限界があります‥」
「何か手はある?」
「場所は‥あのビルですね‥下を指しているので地下駐車場に何かあるのかと。不幸中の幸いでしょうか、おそらく人は多く無いハズですから人目は規制出来るかと」
「そうか」

そうして、ビルの地下は一時封鎖規制されたので
私服警官というか刑事だろう人らに話して入れてもらう

所謂商業ビルなのだが、地下一階は結構広い、アヤネを前に一番奥の壁側に「門」を発見した。勿論、見た目はただの壁だが「向こう側」に居る相手なら誰かに目撃される事もなく
その意味では安心ではある

一応医療班やスモーク付きの車両等も用意されるが基本的にはここからは晴海らの仕事だ、普通の人間が入るにはリスクが多いが、この時はその場で待たされる事になる

「え?」
「実は‥、同行したいという人が居りまして」
勿論、アヤネは
「止めた方がいいですよ?」とは言ったが

五分後にバンで入って来て降りたのが数名の男女、警官というよりも武装した兵に近い、一応ポリスのマークとロゴがあるので、警察には違い無い。特殊部隊の類だろう

もっと「上」の人達らしい
「本庁から来ました、高砂警視正です」
「警視正‥と言う事は部署や組織の責任者ですか‥」
「左様です」

高砂と名乗った相手は見た目は若い
30半ばの男性でどちらかと言えば細身で知的な眼鏡のエリート風、おそらく官僚系だろう

「同行したい、という事ですが‥」
「はい、私は今実験中のE案件対応の部署の責任者でして、殆ど謎、では対応し難い、なのでこの目で見たいと思いまして」
「どうしましょう‥晴海様」
「相手に寄るけど‥どう?」
「‥それ程巨大な霊気は感じませんね、ただ、羅針盤は激しく振れているので‥一匹では無さそうです、前回の相手より強いという事はありませんが‥」
「正直‥前回の相手でも厳しいんだけどね‥」

「では撮影等では?後方離れた所から、とか?」
「それならまあ可能かもしれませんけど‥撮れるかどうか分かりませんが‥如何しましょう?」
「単に見たいとか撮りたいだけなら大丈夫かなぁ。ただ、僕らも皆さんの援護は出来ませんが」
「結構です」

と同意はしたのでアチラ側に行く事になるが
まあ、危ないと判断すれば出入り口に戻れば、基本的に大丈夫だろうとは思った、ので同道を認める事になった

一般人ならありえないのだがE案件への専門部隊の責任者という事であれば体感してもらうのも後々の対処とか対策を立てやすくはなるだろう、そういう計算も有るといえばある

ただ、実際同行するのは高砂警視一人で、一応武装というか防刃のベストやヘルメット等も付けハンディカメラ持ち、勿論専用のモノなので、安全性は高いモノだが、これもエネミー相手にはあんまり意味がないが

「物理的に」攻撃される場合もあるがそうじゃない場合も有る、つまり鎧自体貫通するとか、精神的攻撃の場合もあるので人間の装備が通用しない事もある

こうして壁に穴を開けて三人で進入

「失踪」である通りおそらく前回と同じく捕食されているのだろう。

またあのグロ場面か、というのはあるがこの際しょうがないだろう、慣れはしないが経験があると割り切れるらしい

壁の向こう側に入るが「鏡の世界」と基本同じなので
抜けた先はまた駐車場で、アヤネが先導して進む

そのまま灰色の街、外に出るが
始めて見る警視も驚いて硬直している

「本当にあったなんて‥」
「嘘だと思ってたんですか‥」
「いえ‥ただ、実際見ないとにわかには信じられなかったので‥映像や画像記録として殆どありませんから‥」
「まあ、そうかもしれない僕も最初はそうだったし‥」

警視とはとても思えないリアクションだろう
カメラ片手に目を丸くして四方八方をグルグル撮影してたし

「今までコチラに入った人は居ないんですか?」
「無いですね。そもそも公家から「止めとけ」と止められていましたし、情報、資料も紙ですから」
「そのくらい協力すればいいのに‥」
「それも無理でしょう‥一般人が入った所で餌でしかないですし‥専門家の護衛有りでもかなりリスキーです」

ただ「敵」はそこまで遠くは無いらしい

「晴海様‥案外近い様です」
「どこ?」
「正面に見えるバスターミナルの向こうに人工公園、広場があります、あの中かと」
「分った、僕が前をやる、アヤネは高砂警視の防衛を」
「はい」

晴海は霊刀、アヤネは紙犬を二匹呼び出し左右へ置き迎撃体勢を取って後に付く、札術を見るのも初らしい、これも
「これが式神!凄い!」と撮影する。

おのぼりさんみたいだ、とも思ったが実際向こう側の人が見るのは始めてのモノばかりなので分らなくは無い

現場の距離はそれでも5百メートルはあるので
警戒しながら徒歩で近づく

「こちら側は現実側の模写の様ですな‥」
「ええ、本来反面の世界は形を留めていません、現実を模写したような、という感想は正しいです」
「どういう事?」
「人側の知識で言いますと多元宇宙論に近いというか‥現実とパラレルの合間、と一応考えられています」

「成る程、ではどんな事が起きても不思議ではないのですね」
「そういう事になりますが、中間なので現実の影響もあります、模写した世界に見えるのも我々の認知、或いは別の異物が入った事での影響です」
「観測物理学と同じ事が起こる訳ですね?観測者の影響を受けて変わる、これは凄い‥」
「それに近いモノだと聞いています、ただこれも確定してる訳ではないので」

目標地点の二百メートル手前、実際樹木や垣根が植えられている公園手前でアヤネが制した

「こちらから中に入るのは危険です、視界が悪い上に相手の数が多い、おそらく八~十の集団です」
「けどどうする?」
「犬を行かせます、可能であれば広い道路側に引き出します」
「よし、迎撃だな」

そうしてアヤネは盾を展開し、晴海も霊刀を発動させ入り口左右に分かれ犬を一匹中に放った、一分程外で構えて待った後、引っ張り出すは成功する

犬が走って戻った後を追ってか公園の出入り口に何かが走って来る、複数の足音の様なモノが聞こえてくる、軽い、素足に近いだろう

走って飛び出してきたのは所謂(いわゆる)餓鬼、子鬼
人間の三分の二くらいの背丈で黒っぽい肌に裸体に近い姿だ、晴海は確認と同時、飛び出して来た相手を霊刀で横に斬った

飛び出して来たのと略同時だった為、相手は前に飛びながら半断されて後ろに引っくり返りつつも前に滑る様に切り裂かれ地面を転がり

喚き散らしながら紙が燃える様に体が消失していく
これが「火」属性付与の霊刀の威力である

一応合間の訓練で使える様に成った手法を試してみたのだが
思った以上に強力だ

後続で出て来た子鬼もこれを見てたじろぎ双方で睨み合いになったが、向こうが7匹揃った所で横にジリジリ展開、十か八と言っていた通りで、これで全部だろう

晴海も迎撃の構えのまま半包囲されないように右にアヤネも応じて左後方へ、これで相手を逆に左右から挟む格好になる。

幸い餓鬼は雑魚なので二人なら負ける相手ではないだろうという一定の安心感はあった

が、実際餓鬼から動いて物理の戦闘状態になると思ったより手強い、確かに妖怪とか魔物とかいう基準では肉体的に優れていないのは確かだが反面小柄で細いので動きが早い

アヤネの紙犬と互角くらいらしく、双方で取っ組み合いの噛み付き合いになっていた

一方で晴海の刀も中々当たらない、防御に秀でているというより、小型で動きが早く、飛んだり跳ねたりが多く当たらない、とも言うが

それでも晴海は更に二匹斬り殺し、アヤネが相手している二匹を除けば後三、単にランクの話しで言えば晴海はCな訳だから当然と云えばそうだが、実際実戦というのはそういうモノだ、必ず上の方が勝つという訳でもない、まして一対一ではない

晴海は前方に居る子鬼二匹を霊刀を延ばして横に払って斬り
致命傷を与えたが、残り一匹に背中から飛び付かれ前に押し倒された

この状態だと晴海側から攻撃し難い、そのまま背中から密着される様に圧し掛かられ左の肩口を尖った細かい鮫のノコギリの様な歯の口で噛み付かれる

「晴海様!」と叫んでアヤネも狼狽したが、紙犬で自分が請け負った子鬼二匹を押さえつけた所で、彼女の方も手一杯
援護までは回れなかった

が、噛み付いたのと同時くらいだろうか、子鬼が「ギャン!」と叫んで頭から吹っ飛ばされて晴海の背中から退かされ、アスファルトの道路を四メートル転げた

晴海も「え?」と思った途端
背中側で「カチ」という機会音と同時、乾いた「パンパン!」という破裂音が響き、吹っ飛ばされて転げた子鬼が中腰体勢のまま撃たれる

そう、高砂警視である。晴海が後ろから襲われ、組み敷かれた途端「不味い!」と判断し、走って勢いのまま子鬼の頭を蹴飛ばし、拳銃で二度撃って追撃した

通常兵器等あまり効果が無いとは言われているが相手が相手だけにそれなりに効果があるのだろう、警視は銃を右手片手持ちのまま、歩きながら連弾三発し、地面に這い蹲った子鬼にトドメに近接から眉間に撃って殺した

こうして子鬼を片付けた後
晴海の被弾を気遣ったが、実際被弾は無し、どうやら新たに本家から貰った陣羽織が防いだらしい

「助かりました高砂警視」
「いえ、こちらも用意した武器を試したいとは思っていたので、何にしろ、怪我が無くて良かった」
「という事は普通の拳銃ではないんですか??」
「拳銃は一部特殊警察組織にも配備されているグロックですが弾が少し違います、毒入りです、Eは野生動物的特長も半分ある、とも情報提供されていたので予め用意した特注の弾ですね」
「成る程‥」
「まあ、相手が相手ですから実際どこまで効果があるか撃ち込んで観察、見る余裕ありませんでしたが」
「ですね」

こうして二件目の事件、討伐は果した形には成ったがまだ終りではない「消えた被害者」の捜索だが今回も救出の類は不可能だった。公園内に踏み込み捜索したが遺留品はあるモノの死体の方はかなりの惨殺体

まあ、相手が相手と言っても八匹に集られたらまずかなり食われている、実際体の七割は残っておらず右肩から肘までと、頭の下半分から上半身の一部しか残っていない、と聞くのも嫌に成るレベルの棄損死体であった

幸い、こう言った事には慣れて‥は居ないが
専門家でもある警視が記録と、被害者の遺留品を透明パックに入れて回収確認

色々希望や要望はあるのだがあまりコチラの世界に留まるのも危険である為一行はそのまま「門」から離脱した

理由は二つで、反面の世界というのは非常に不安定である事
現実世界の干渉も受けている中間世界なので一定の現実というか三次元の物理法則も通用するがしない面もある、何時また中で変化や繋がりが起こるか分らない為入ってから出るまでの時間は早い方が良い
「用事が済んだらさっさと帰れ」という事だ

もう一つはやはり、どこでどんな多元世界と繋がるか分らず
且つ、相手側の巣の様なモノなので別な相手が現れる可能性もある、雑魚ばかり、とも言い切れないし基本的に危険だ

一応事件は片付いたのだが晴海にはあまり嬉しくは無い、根本的にE案件の解決とは関係なく、単に害虫駆除したような感じだし被害者が助かる事もマズ無いから

まあ、だから世間的にE案件、事件は伝えられない、妥当な解決とか事態の前進とかは現状不可能だし伝えた所で防止策すら無い

実際署で言われた通り、失踪とカウントするしかないし年国内で百件無いのだからそう片付けた方が楽ではある

この時代でも殺人は三百程度、事故も一万近くあるし、自殺はその倍、数の深刻度だけで言えば些細なモノなのかもしれない

一方で高砂から見た今回の一件は小さくは無い、おそらく公家の関係者以外で実際同行した一般人はそういない、映像記録も撮ったし、実際一部自分も戦闘参加した訳だし

出た所でこれも説明と指示を警視がしたので手間は無く
晴海らも住家まで送られる事になる

ただ「あれ?」と時計を確認して警視も不信に思った、門に入った時間は二十二時半くらい、出て今確認したらもう零時近かった、どう考えても反面世界に三十分も居ないハズだ

理由は後日明らかになる
街で晴海らと喫茶で会って、一連の事を伝えたが
映像記録の方は殆ど使い物に成らなかったそうだ

「どういう事です?」
「カメラは起動していたハズなんですが‥殆ど砂嵐でして」

そう説明された、ただアヤネにはある程度分っていた様だ

「反面世界は残念ながらコチラの物理法則が通じない面もありますので‥」と
「あ‥もしや」
「はい、精密機器の類は不具合が出る可能性も‥何しろ重力、光、時間、も不確定な世界ですので」
「そうでしたか‥どうりで‥」
「残念ながら」
「いえ、それでも得るモノは大きかった、お二人には感謝しています」
「恐縮です」
「それと出来ればですが、今後共協力を御願いしたい」
「僕らに出来る事なら」

そうして高砂から名刺を貰い直接遣り取り出来る様に連絡先を交換し警視と軽く雑談してとりあえず三十分程で別れた

「今後共、か」
「何か懸念でも?」
「いや、改めて考えると難しい事だなぁ、とか」
「そうかも知れませんね」
「今までも昔からもずっと続いてきた事なのに僕らは何も分ってない、何か前進や改善出来る事なんてあるのかなぁ‥」
「急に解決、とは成らないでしょうね、でも晴海様は動かせる立場にあります」
「そうだな、まあ、あまり深く思い悩んでも仕方無いか」

実際、晴海が関わって一石を投じたのは事実ではある、一方で関われば関わる程、謎や懸念が増えるのも事実で茨の道でもある、とも思っていた

何しろ「長い歴史、裏で続いていた」事なのに、現実には魔に対しての対処が殆ど確立されていないのだから、それが単に手段が無いのか、意図なのかすらまだ分らない

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