晴海様の神通力

篠崎流

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表と裏の認知

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更に翌日には実際晴海の住む屋敷を訪問し
これも平伏して挨拶した

「京極朱音と申します!ほ、本日はお日柄もよく‥」
みたいな感じで最初はガチガチであった

晴海からすれば「また違う世話の人か」くらいの感覚だったのだが、名前に覚えがあった事で違うとも同時に分った

「京極?‥、確か一派の一つだったような‥」
「さ、左様です‥京極善幸の孫の一人です!宜しくお見知り置きを!」
「ま、まあ、それは分ったので平伏は止めてくれる?」
「はっ、はい!」
と、彼女も顔を上げて座りなおした

お互い失礼ではあるが、凝視せざる得ない舐める様に下から上に見てテレた

晴海から見た「彼女」は同年らしいのだが、どちらかと言えば年上には見える。身長も体格的にも晴海よりは見た目では大きそう

和風の着物に近い格好だが、動きやすそうな武芸服にも近い、丁度合気道の様な袴色は控え目な紫である

重そうというのではなく、むっちりしている。髪はおかっぱというかボブというのだろうか、襟足は首の中程の長さで前髪も眉が隠れない程度の長さ、両方横に綺麗にスパッと切ったように揃えられている

雰囲気も姉とか母ぽい感じがある
垂れ目の丸くて大きな眼で普通にしてても笑ってるような
口元とプリッとした唇と肉付きの良い頬肉

全体的に丸い感じで狸顔というのだろうか。当人は落ち着いていないのだが雰囲気は落ち着いた感じと、柔らかい母性を強く見た目に反映しているが可愛い系

一方、アヤネから見た晴海は逆で、緊張して話した様に、本家、神宮寺のおぼっちゃんなので仰々しい感じかと思って居たが、自分より下に見える。

身長も男子にしては小さく精精160cmちょいくらい、細身で中性的。要はショタ系の少し頼りなさげな見た目で。髪は今で言う無造作ヘアみたいな

後ろ側は長めで少し藍色、外に刎ねたクセ毛なのでそういうセットやカットでもなく地毛なのだろう、まだ男の子か女の子かハッキリしていないような幼い美形という感じ

だからアヤネも緊張感は緩和されたこともある

「じゃあ単に世話の者という訳でもないんだね」
「はい、今後のスケジュールは既に本家から提示されまして
首都へ引越しからあちらの学校へ、わたくしも同道することになります」
「分った、用意しよう。そう準備が要る訳ではないけど」
「は、はい」

それから二人の共同生活が始まるが晴海はこれまで通りであまり関係ないが一方のアヤネは忙しい。晴海の世話というか最低限の食事の支度や身支度、これはまあそう手間ではないが。基本的に晴海は「家」の情報と歴史、特に重要な所は知らないらしく、これをある程度教える

何れ現場に出るという事であればその指導も護衛も必要である事、それから直接指示された彼の監視も必要であるから

同年の子にいう事でもないが、彼は手間の掛からない子ではある。前任者の教育がしっかりしていたのもあるだろうが
勉学に問題ないし、武芸もそれなりに出来るし、自分の事は家事でもなんでも自分で出来る

ただ「肝心な事は知らされて居ないだけ」だから基本的な
家や一族の知識がほぼゼロなだけだ

こうして思いのほか苦労もなく翌週には引越し。首都、つまり東京に移り住む

住家は本家が用意したそれなりに大きなマンションの上階で
新しく綺麗ではあるしかなり大きい4DK、晴海はこういう所に住むのは始めてだ

とは言え。まだ晴海は三年の二月半ばであるので一応転校の形で学生生活は続くが、彼自身疑問も多くあった。今までの世話の者は誰も問うても教えてくれなかったが彼女はそうではなかった。

これは彼女自身が事前に「晴海様の自主性を重んじろ」つまり、必要ない事は与えず、知らせずに良い、というこれまでの教育方針から転換があったからだ、が残念ながらアヤネも詳しい事は分らない

「君の前に来た子はどうなったの?」
と、聞いてみたがこれもそもそもアヤネは知らない

「残念ですが、その蔡という前任者の事は存じません‥会った事も無いですし‥」
「そうか‥」
「何か懸念する事が?‥」
「いや、かなり短期間で急に居なくなったから‥誰も知らないみたいだし」
「そうなんですか‥本家への問い合わせ等は?」
「してない、僕は知らないし」
「申し訳ありません、私も知らないです‥」

アヤネもそこまでしか言えないのは勿論、神宮寺本家の関わる事には干渉出来ないのもある

あちらにはあちらの考えがある。という基本的な考え方とあくまで神宮寺とそれ以外の補佐は補佐でしかないから。現代ではおかしな話しには聞こえるだろうが、それが大昔からのルールである

晴海達が住み始めた借り家に荷物が届いたのが翌週。これは中身も理由も知っているのでアヤネも自分の事。というより晴海の用意をしなければ成らなくなったのでそちらに集中しなくてはならない

まだ高校に上がるまで二ヶ月ある事
上から指示された様に「現場」に近い内にでる事になるのだが細事にかまけている暇は無いのもある

早速、荷解きし晴海にこれを渡す。一つは護身刀、もう一つは身分証、三つに金属ケースに入ったアンプル

刀と言っても刃、刀身が無い、日本刀に近い形なのだが其れは柄、グリップ部分だけだ「これは?」と聞いた事から、本当に何も知らされていないらしい

「はい、1から説明する必要があるようなので、そうしますが神宮寺の一族、いえ、含めた我々一派の長い歴史の事はご存知ですか?」
「いや‥」
「私達一派は、古代より魔物狩りをしてきた者達です」
「は?」
「貴方様はその頭領の候補の一人で我々はその補佐をする者」
「ちょっと待ってくれ‥魔狩りてなんだ??」
「一般的には知らされていませんし、情報は表に出る事はありませんが誰でも分る様に言えば妖怪の様なモノです。社会の裏ではずっとそういう戦いが繰り返されてきました」

「‥冗談じゃなくて??」
「はい、信じられないでしょうけど事実です。晴海様はこれから現場で経験を積まれる必要があります。その初期という事です」
「唐突過ぎて‥」
「でしょうね‥、なので実際眼にして頂く、認知していただくのが早いでしょう、論より証拠です」

晴海がそういう反応なのは当たり前ではある、そういう事を今まで一度も聞かされず、表の生活をして来た訳で冗談にしか聞こえないだろう

だからアヤネは見せる事が最も早いと考え
こういう提案をした。勿論、教えなければ成らない事も山程ある

「それから武器は昼間等は必ずしも持つ必要がありません
魔が出るのは夜中心ですし、御大が戦う必要も本来はないです、ですが、その身分証だけは常にお持ち下さい」

そう示され晴海もクレジットカード大の身分証カードを見たが薄い一般的なカードでなく金属製である。身分証と示された通り、自分の姓名と写真、簡易プロフと大きく表示された「特級指揮官」の文字

「特級指揮官??」
「はい、神宮寺一派の血族である事を示すモノです。これを提示すればどこでも入れますし、現場では強力な権限を発揮します」
「具体的には??」
「ええと、例えばですが、事件現場、警察組織等の権限を超えて命令出来ます、全て貴方の判断が優先されます」
「え!?」
「これも歴史から説明しなければ成りませんが、神宮寺家というのは古代から日本を守護してきた一族の中心です、大昔から政府と関わりがあり、多く人間では対処出来ない相手を
討伐してきました、これはまだ現代でも続いています」

「なので、多く配慮も受けられますし、特に公的組織では対処出来ない事件では優遇もされますが、同時に、これを解決しなくてはなりません」
「急に言われてもなぁ‥」
「そうですね、ですので暫く現場を見る事で認知していただくことになります、何をするのか、どうなっているのか、どんな役割なのか、です」
「そこまでは一応分った‥当面は何もしなくていいんだね?」
「はい、事件があれば、連絡が入りますので、まず、行って見る事ですね」

そう言われ不詳ながらも、従うしかないだろう本当に晴海は何も知らないのだから

それからも「現場」の講義である、様々な状況に遭遇する事もあるし一部警察組織との連携もある、簡易に云えば現場や事件に参加の場合

識別する目印を服等に捜査官と一般人をお互い見分けられないと困るので、コレを付ける 非常に稀だが目撃者が出た場合、負傷者が出た場合の対処等だ

その機会が訪れたのは二月中頃に入ってからだ「ほぼ夜」と言った通り零時近かったが、晴海は起こされ軽く身嗜みを整える

「現場」とやらに向う事になるが晴海とアヤネの二人で急ぎの感じはない

「こんなにゆっくりしてていいのか?」
「はい、もう終ってるそうです。事後ですので」
「事後?」

そうして現場らしき場所に着いたが
一般の居住区、マンションが立ち並ぶ比較的静かな場所

周囲に警察車両が来ていて既に封鎖されているが先に示された通り、アヤネも自身の身分を示して中に入れてもらう
マンションから少し離れた駐車場で、視覚封鎖のシートが周囲に張られているが、ここに堂々と入った

まあ、緊張はする、始めての事だし
周りはおそらく刑事か専門家のおじさんばかりだ、ただ「なんだこのガキは」とは言われない。そう、これは警察側も分っているから

「遺体が出たそうですね」
とこれもアヤネは関係者の如く話して主導する

「いえ、正確には「一部」ですね」
「悲鳴を聞いた、との証言があり、棄損遺体が発見されました、珍しいケースではありますので、周囲を封鎖しました」
「分りました」

言ってアヤネは羅盤の様なモノを出して
周囲をグルっとその場で回れ右する様に向けて見た

「近くに反応無しです、大丈夫でしょう
回収と撤収して結構です」
「はっ」
「何なんだ??」
「あれを‥」

とアヤネは人差し指で指示する。晴海もその先を見たが

「‥?!」
そう「一部」と言った通り、少し先に赤黒い水溜り、それとおそらく肉塊だろう、一見すると第三者には小動物の交通事故現場に見えるだろうが、人間の死体である、晴海にも一瞬分らなかったが。遺体と言った通りに受け取れば人間なのだろう

晴海も混乱した、同時フラフラとその場を離れる

「大丈夫ですか?」
「あ‥ああ、ちょっと認知が追いつかないだけだ‥大丈夫」

そう応えたが、勿論そんな訳がないだろう
当たり前の話だが、予備知識無しでこんなモノを見せられても混乱するだけだ。だが、少なくとも察し得るだけの事は今まであるにはあった

アヤネに連れられ家に戻った休んだが
翌日、学校から戻ってからも「認知」の勉強である

一つは映像媒体。
まず滅多にありえないのだが、偶然監視カメラに映った過去事件の現場の映像がある、これを見せられる、とは云っても昨晩の様なグロ画像でもない

深夜コンビニから出て路上を歩いているスーツの男性が
何も無い所で立ち止まり、2~3秒後に正面から殴られた様に体をくの字に折って膝から崩れて前に倒れた

映像にはそれ以外ない。
一見すると急に腹痛を起こしてそのまま倒れた様にも見える

「さっぱり分らないんだが‥」
「映像媒体だとそうですね‥ですが彼はこの後、通行人に発見され緊急搬送前に亡くなっています」
「え‥」
「こちら側の世界で殺されるとこの様に成ります、逆にアチラ側に拉致等され殺された場合は遺体が残らないとされています、無論例外もありますが、反面死、とも言います」
「反面とは?」
「オカルト映画とか見たことあります?鏡の妖怪とか悪魔とか」
「合わせ鏡や血まみれメアリーとかの伝承、都市伝説?」
「はい、あれは実際存在します」
「‥胡散臭いけど、事実として見せられると信じるしかないな‥」

「はい、もの凄く多い、という訳ではありませんが現実に今の時代にもああいったモノは存在しています。時々、何らかの切っ掛けで裏側の世界と繋がり向こうの住民が出て来る事があります、ケースは様々ですが、主に捕食です。先ほどの映像、昨夜の例は物理的にこちら側で殺された例です」
「他人からは認知出来ない??」
「大抵の場合そうです、これは現代兵器や武器では討伐出来ません、そこで必要に成ってくるのが我々です」

「成る程、一応分った‥。けど僕はそんな力は無いけど‥」
「それはまだ分りません、ですのでこれから探していく事になります」
「拒否権は無いの?‥」
「その場合はこれまで通りです」
「これまで通り?」
「はい、普通の生活をある年齢までされて、以降は一族の人として生きる生活になるでしょう、強要ではありませんし。ですが、私個人の意見として言えばですが拒否は為さらない方が良いかと」
「どうして?」
「晴海様は上に二人の兄姉が居ますので、家を継ぐ必要も無い、つまり、あまり重要視されていない立場なので、これまでの受けた一族の恩恵は残りますが、あくまで上二人のご家族の後継という立場で保持という形になります」
「うーん‥、分った、とりあえずやってみる、このまま知らない、分らないままも気持ちが悪いし」
「はい」

そうして基本的講義も始まるが要するに神宮寺の一族というのは西洋で言うエクソシストとかハンターの様なモノらしい

日本には古来から妖怪の伝説、逸話があるが脚色されては居るが事実との事。実際その片鱗はこの二日で見たので
信じるしかない

神宮寺家を筆頭に、分四家が存在する
細かく言えば、中小含め他にもあるが、組織として機能
分別すると。神宮寺、分四家、それ以外、という事になる

其々分家は古代から存在し、其々別な手法で妖怪の類と対峙する力を持つ、特徴は異なるが、どちらにしても才能に依存するが近代では技術のみをベースにしてもそれなりに戦力にはなるらしい、要は当人の意思と努力でどうにかなる場合もある

例えばアヤネの京極家は、昔で言う陰陽師の様な者らしく
積み重ねた技術の蓄積がある為、才能の云々に関わらず
ある程度の対魔が可能、勿論才能があるに越した事はないが

これは晴海も同じで、道具があるので晴海でもどうにか成る事は成るらしい。尤も、一番才能に依存はする

「どういう事?」
「ええ、神宮寺家は「血」の力の影響でかなり個体で差があります。特に晴海様は代々頭領ですから、その影響が強いです、ですがそれだけに千差万別でどういう力を発揮するか、ある程度の年齢になるまで全く分りませんし調べる方法もありません」
「だからこれから探す、か」
「当面は現場への「参加」が主に成りますね」
「妖怪みたいな者の討伐、らしいけど僕がどうやって戦うんだ?」
「晴海様が直接参戦する事はそうありませんが。武器はお渡ししました」
「え?もしかしてこの刃の無い刀??」
「はい。それは霊圧刀とか霊気刀と言いまして、刃の部分は晴海様の霊力で作ります、同時にどの程度の長さ、強さで晴海様の霊力に関しての力もある程度見えます」
「なるほど‥」

そういう訳で早速距離を取って構えてみるが‥

「あれ?‥」
「そんな直ぐには使えませんよ、コツとか練習は必要ですので」
「そっか」

それから実際「現場」に出る話だが
基本的に晴海も素人同然で、アヤネも下っ端、退魔師とは名ばかりの力しかないらしいので主に見回りとか、雑魚だった場合は討伐することになるのであまり気を張らなくて良い、との事だった

早速、夕方から早めに寝て夜二十一~零時間で見回りをする
これも現代では相手を探すのは探知機があるので散歩のついでみたいな感じだ。

この時間なのも相手が出やすいというか探しやすいらしい、正確には反面に繋がる時間というのか、勿論例外もある多々あるが

二人はこうして見回りをしながら知識を共有していく、何しろ晴海は知らない事ばかりだ。それから二時間程度の見回りの帰りには技術講義を受ける

「アヤネは下っ端と言ってたが」
「はい、京極の大家の孫ではありますが「才能」という意味ではあまりありません、戦闘の事ですが‥」
「それってテストとかあるの?」
「いえ、判定機というのがありますね、残念ながら私は一番下です。A~Eまでランクが示されますがEという事になります」
「それでも戦えるのか‥」
「私は家に昔から伝わり錬磨された技がありますので‥どうにか。正直、晴海様の補佐、護衛としては自身でも不安が多いです」
「実際戦った事が?」
「ある事はあります、一度だけですが」

そう聞かされると不安は不安だ、どっちもヘボイて事だし
こうした事を週五日程行いながらも、晴海も霊圧刀を発動を覚える

ただ、結論から言えばだが、晴海はかなり強力な霊力を持つらしい最初の発動から刀身はニメートルくらい出たし少なくとも「才能」という意味ではかなりある様だ

「おめでとうございます!」とアヤネに我が事の様に喜ばれ
また、自身が適正がある事が分り嬉しくあった

勿論「かっこいい」と思った、見た目は青白い刀身のレーザーブレードみたいだし。十五歳の子供らしい感想である

実際この武器は精神波と物体の中間の武器らしいので、ほぼ、どんな相手にも効くそうだ。

使い方は多種多様で、握り、グリップの部分以外は重さは無く刀身が大きかろうと小さかろうと、関係なくかなりの速さで振れる、腕力が関係ないから

攻防、近距離、遠距離両方使えコントロールが上手くなれば、長さも意図して変えられるし刀身を飛ばして射撃する事も可能で、軌道もコントロール出来るらしい

要は、アヤネは術士で補佐の家、ゲームで言えば後衛の僧侶とか召還師で。

晴海は其々の四家を指揮する立場で指揮官でもあるが
神宮寺家というのは付与とか道具を使う特徴の家という事になる

実際そうした武器が使える様になると晴海も面白くて仕方なく、暇を見ては練習し十日で、剣の刀身の出し入れの自由。サイズの変更も出来る様に成った
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