境界線の知識者

篠崎流

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変わる世界

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夏前、ロッゼの出産でロベルタ側は大騒ぎになった、男女双子、王子と姫、である

念願の後継者しかも二人同時フォレスとロッゼの間の子でありしかも事前にロベルタの後継者とするという告示まである、これで国内や近隣国がお祭り騒ぎに成った

皆「めでたい!」と臣民共に吉事周辺国からも訪問や祝いがひっきりなしに届く事に、そして二人の名前だが、これは女の子はロッゼが

「エリン」と名づける
「成る程、平和か、なら」とフォレスは息子にこう名づけた
「クレメンス」と
「慈悲、ですか」
「ロッゼの言いたい事も分るからな、敢て偉そうなモノにしない方がよかろう」
「はい」

そう、ロッゼはこの子らの時代そういう物が当たり前の世界であれば良いという期待をこめた、双子とあればどちらかはフォレスの後継者となるがこれは事前に「二人の子はロベルタの後継者とする」と書かれ、公示されていた為、もめる事は当然無い

この一連の吉事が収まった頃、ロベルタにカルディアも、最後に祝いに訪れ祝福を述べた

「おめでとさん」
「どうも」だけだったが

「色々な意味嬉しい事だろうな」
「だな、どっちにとっても」
「ロッゼ殿もそこそこの年齢だし、後継者が二人出来たのは良い」
「うむ、許婚の類も居ないし」
「相手が難しいよなぁ‥かなりもめるだろうし」
「同感だ」
「その意味、ロッゼ殿が自分で選んだのだからそれは幸運と言えるな」
「それも同感だ、この立場だと大抵誰かをあてがわれるのが通説というか」
「うむ、戦略、政略の的もいいとこだ」
「カルディアは?」
「アタシみたいなと一緒に居れる男が居るか?」
「だよなぁ」
「大体今更探す気にもならんわ」
「まぁ‥そうかもな」

「で、今後だが」
「そうだな、そこは一度各国の者を集めて話すか」
「あまりやる事もないが」
「ない、だろうな、もうペンタグラムもこっちに居るし、ちょっかい掛ける状況にない、連合も拡大の流れだし」
「連合もここまで大きくなると攻められる所がもうあまり無い、膠着戦で終る可能性のが高い」
「そうだな、オレとしてはそれでいいが、ぶっちゃけ世界全部が統一した仕組みで生きる必要は無いし」
「地域毎に別々の「世界」であってもなんら問題ないな」
「そういうこっちゃ、コッチはコッチで平和に仲良くしてればいい、それでは気に入らない奴は居るだろうが」

「テスネアか?」
「どうかな。このまま南も教皇様も諦めて北、東辺りと勝手に覇権を争ってくれればそれはそれでいい、オレの目的は賛同する味方の国とその集まりの中で各国と民が無意味に不幸に成らなきゃいいし、どうせ統一した平和、なんて夢物語だからな」
「そもそも上手く行った例が無いな」
「そういう事だ地勢が違えば考え方も違う、決まった形に当てはめよう等アホウの考えだ」
「同感だね」

「ま、それはいいさ、ロッゼが復帰したら後で連絡する、教皇様も居るし、バルクスト辺りで会議する」
「分った」

ここから凶事も続く、まずロドニの前王の急死である、別に重病でも無く、流行病であったが、あっけなく五日で逝去する事になった

所謂、風邪の悪化からの肺炎で、最初の風邪自体を軽く考えて悪化、前王自身も「ただの風邪だから」と診断も治療も流した事にある、結果、医療的対処も遅れこの結果になった

無論、前王の急死に調査も行われたが不審な部分は無く病名通りの終わり方ではあった、現代でも高齢者ではよくある死因で、直ぐに国葬が行われたがロドニにとってはそれ程深刻な状況ではない、既にプルーメが国主に成っているし連合の一国、前後の守りも維持も整った所である

ただ、妻でもあるプルーメはかなり気落ちした様だ、連合各国からの弔問が相次ぐ中、プルーメも気丈に振舞ったが明らかに沈んだ様子が見て取れた、特に頑健でも無いが持病があった訳でもなく、あまりにも急だった為の驚きもある

一通りの葬儀が終った後、合間を見てフォレスもロドニに訪問プルーメと対面して慰めた

「夫には予兆が有ったのかもしれません」
「確かに、状況の整いが終った途端だからな。ただ偶然、だとは思うが」
「ええ‥」
「早期にこちらに相談してくれればロベルタやペンタグラム、それとオレの所にも術士も居る」
「申し訳ありません‥」
「謝る事でもない、が」
「こちらには神聖術の使い手が居りませんので」
「うむ、だが、病床から五日だからな、間に合ったか微妙だが」
「初期と仰いましたね」

「ああ、神聖術、つっても当人の元々持っている回復力を上回る効果が出せる訳ではない、故、早ければ早い程、助かる、それにターニャ、娘が居るからな」
「確か‥」
「そうだ、癒しの力を潜在的に持っている、神聖術より強力だ」
「なるほど‥」
「ま、過ぎてしまった事を云っても仕方が無い、兎に角オレの考えが浅かったすまない」
「い、いえ、誰のせいという話ではありませんし」
「兎に角、あまり深く考えるな、それで物事が良くなる訳ではない」
「はい‥」

フォレスはそのまま数日ロドニに留まって、そこから指示を出しつつ、ロドニの支柱とも云えるミルデとも会談を持った、内容は単純にプルーメの事である

「前王の死だが不審な点は?」
「ありません、医者もそう判断しております、調査の類も行いましたが特に毒を盛られた様な事もないです」
「風邪からの悪化だが‥」
「陛下自身ただの風邪と流した事ですね、それと、元々医者嫌いですし、ご本人が流しましたので我々としてもそこを曲げて強要は出来ません」
「うむ‥確かに医者嫌いという人は結構居るからなぁ」
「ご尤もです、小生も好きではありませんが」
「なるほど‥ところで、今後だが」

「幸いと言ってはなんですが、既に代替わりしておりますので、国内の乱れは無くロドニ、ヘイルズ共に、形は整っていますので」
「ああ‥だが、見た所プルーメはかなり堪えているミルデもプルーメをよく見ておいてくれ」
「御意ですが。小生には不向きですね」
「そうか?」
「自分で言うのもなんですが朴念仁ですから」
「自覚のある朴念仁も珍しいな‥」
「プルーメ様とは逆のタイプであるのは分析せずとも自覚してます」
「そうか」

「しかし、小生としては陛下にもらって頂きたいのが本音です」
「プルーメをオレの妻に、という事か?」
「はっ」
「意図は分るが流石に無理だと思うが」
「何れの事、です、小生はそう考えて居ると頭の隅にでも置いていただければ幸いです」
「分った、だが、そちらで再婚相手は探したほうが良い第一、プルーメの気持ちがある」
「了解しました」

と、ここでの、この薦めには応じなかった「意図は分るが」の部分、ミルデの狙いも非常に単純で彼らしい計算もある

プルーメ、フォレス、両国王互いに悪印象が無い一族もいない、後継者も無いましてフォレスが相手なら連合の主国であるし能力的にもあらゆる面で信頼性が高く、実際先のロッゼ、ロベルタへの配慮、つまり後継者を同じ形、ロドニの側の後継者とする意図があり、形として既に見せている点である

ましてプルーメも三十近い国家を支える支柱、参謀長としては焦らざる得ない状況もある

もう一つがプルーメもロッゼと同じく積極的に信頼を見せる相手というのが他に居ない、最も纏まりやすく、ロドニ側に損が無い材料が面前にある

ただこの一件、フォレスが一旦ロベルタに戻った後それとなくロッゼに話を振って報告してみたがロッゼは否定しなかった、先の外交を自らやった事もあり、プルーメにある意味同情の様なあった

もう一つが王が複数の妻を取るのも別に珍しい事でもないという社会体制や常識がある

「陛下がお嫌いで無いのでしたらそうなさっても宜しいと思います」そう自ら告げる

「このままではロドニも自然瓦解の懸念がありますし後継者も親族もありません、それに」
「それに?」
「プルーメ様も様々な面からプレッシャーがあります」
「ふむ‥確かに周りから圧力の様な物はあるかもしれんな」
「ええ、精神的に今は参っているでしょうしなんらかの支えは必要かと、形の上だけでも」
「一理あるな‥、では、一応プルーメも許婚の形をとるか‥」
「宜しいと思います、近くにそういう方がいらっしゃれば良いのですが」

ロッゼもそう進言した事から結局、ミルデにもその旨を伝える事と成る、あくまで「どうしても妥当な者が居なかった場合」という事、つまり保険の様なモノである、もう一つ「年明けまで待って」と成った

九月~の実りの収穫から周囲の状況が落ち着き、一定の区切りからフォレスも本国へ戻る

ここでカルディアも招き全官会議を開いた、が、事ここに至っての全体戦略と言っても連合から積極的に動く要素が無く、会議も「今後の他国の動き出し」を待つ方針と成る

「こっちから動くのも効率悪いんだよなぁ」
「そーねー、こっちは連合が大きくなった、守ってる方が楽よね」
「現状うちらに攻められる敵が居ない」

というフォレス、インファル、カルディア、三者の略統一した見解があった

一つ問題となるのが「連合」という形であるが、一般的な歴史上の連合と違い、グランセルナ連合は精神的に固い

とかく連合と云うと其々が利用する、あるいは損得で組んでいるとか、強敵と対抗する為の一時的寄り合いである場合が多くその敵、あるいは目標が失われた時、瓦解しやすい、が、事、グランセルナ連合に限ってはソレが無い

外圧で潰れる様な物でもないし、其々の君主が利用する見識が無く、戦略的方針が明確で乱の抑えでの統一した目的がある、従って内部崩壊策も略ありえない

そしてペンタグラム、つまり歴史上ある中央権力や皇の立場の奪還等を目的の類では無く擁立すらしていない

転ばぬ先の杖、で構築して先手を打ってきた事で、考えられる不安要素が非常に少ない点だ、この状況にあって事が動くにはかなりの極端な変化が無いと成立しないのである

それは他国も同じだろう、ペンタグラムは維持され、連合にありその連合自体は拡大していく、これを覆す程の「事」というのは少々の事では起こらない、再び膠着状態に成らざる得ない


冬まで状況の動きは無かった事の動きは11月、後方支援、兵糧の準備が収穫から整った所でテスネアは大胆な手を打った、同時それは一見無謀なモノに見えた

つまり「先の行動は教皇様の奪還を図ったモノであり武力制圧を目的としたものではない、グランセルナはペンタグラムの機能を移すという暴挙を行っており、認められる物ではない」という宣言と同時

「この事態を不当と考える国々との共闘を望み広く、これを受け入れる、中央統制機関を元の形に取り戻す」とした事である

情報を受けた連合各国も唖然だ、ペンタグラムもこれに対して即座に

「ペンタグラムは自らの意思と機関の維持の為連合に頼っておりテスネアの宣言とは関係ない」

としたが、これで混乱が起こった、事実がどうかという問題ではなく、各国の打算的要素からである

他国から見ればこうだ
テスネアは武王だが力も領土も国力もある、連合とペンタグラムは理があるが教皇を庇護し、高い立場を得ているグランセルナは気に食わない、つまり「どっちについたら得か」で右左に分かれたのである

ここでテスネアは反連合の形を打ち出し、中央を略制した状況から、フォレスらの懸念の通り「中央王」の号令と「ゼントラム」の連合を挙げ、自らを地域王とした

ある意味、この固定した膠着状況から物事を動かすのはそれしかないとアデルの勘違いがあった

また、それを行ったからと言って今更評価が覆る訳ではない「損得だけ」を考えた場合これが最も楽だからだ

12月にはこれに同調した「世界」の一部国がテスネア側に付く事になる

そしてこれまでの連合の「敵」が集まる、ベルーサやロンドギア北のピスノーラ、西地域の一部である

ここも単純に「損得」である、要は元々「連合は邪魔」と考えている連合と事を構えて痛い目に会った各国が打算からこれに便乗したに過ぎない

ある意味、テスネアの暴挙に見える行動は立場を逆にする者からすれば「渡りに船」の状況だった「反グランセルナ連合」の形にだけ飛びついた

アデル自身、暴挙であるのも自覚しているが、彼には「理」を求める、見せる形は無い、だから計算だけでこの戦略を打った、自分の立場がそれをやり易いともあった

「驚いたな‥」としかフォレスも言いようが無い、実際閣僚会議でもそう口にした

「ペンタグラムをあたしらが庇護した事、自分らが出来なかったのなら、逆に立場を利用して、反グランセルナ連合を作ればいいて事ね」
「し、しかし、テスネアには理がありません」
「無いだろうが、この際向こうに靡いた側にそれは関係ないな賛同した側と組んで、気に入らんモノを潰せばいい、其の後、新たな定義を定める」
「そーね、アホウのアホウたる所以は「自分の都合の良い様にしかモノを見れない」という点だからね」
「しかしそれでも、評価が落ちませんか?」

「他に手段が無い、のだろうな目先の利益のみに与した、が、これは最も救いの無い道でもある」
「それは?」
「仮に目的を達した、利益を最大化した、其の後に来るのは何だ?という事だ、テスネアの連合が協調して良い制度、社会を構築できるか?」
「ええ、全てを制覇したとして起こるのは内部での新たに覇権を握るための争い、でしょうね」
「なるほど‥」

「うむ、ただ、それほど無謀とか馬鹿げた、という程でもないAに対してBというカウンターが生まれるのは、どこでも普通の事だ、政治に限った話じゃないし善悪の問題でもない」
「この際ウチらと対抗するには同じ形を作り、力を拮抗、あるいは上回ればいいし、そもそも、ペンタグラム自体邪魔と考える者が居ない訳じゃない、賛同する国が出た訳だし」
「目的は戦力と規模の増強、それと道、だろうな」
「という事は‥」
「宣言通り、ペンタグラムの再奪還かな」
「頭の痛い話ねぇ」

「ああ、だが、これは運要素が強いな」
「それは?」
「簡単な事よ、ウチらの連合と決定的に違う点、ただの寄り合いですらない、て事よ」
「?」
「今、私益に寄って中央各国が便乗しました、こういう共闘は恐ろしく脆いわ、日和見主義の集まりだから」
「な、成る程‥」
「どっかで躓いたらそれでオシマイ、旗色が悪くなるだけで裏切る奴すら出るでしょうね、しかも簡単に」
「アデルはそれすら覆す何らかの用意があるのかも知れんがそこまでは知りようが無いな」

「今後ですが?」
「そう遠くない時期、こっちに侵攻してくるだろうなぁ」
「あくまで表面上の目的はペンタグラムの奪還、だからね」
「兎に角、用意だけはしておこう、つっても大体整ってはいるが」
「連合各国に注意喚起かしら?」
「だな、何れにしろ、即攻めて来る、という訳ではなかろう、向こうも共闘、としても一本化が図れるとは考え難いそれなりに時間は掛かるハズだ」
「分りました」

そのままフォレスは会議の後、未だブライドレスに留まっているメリルにも伝心での会談をもつ

「これは不味いですね「コチラ側」からすれば退路がありません」

そうメリルが述べたとおり、いざ、ブライドレスで戦と成った場合、孤立した状況に成る。連合各国との領土が隣接していない、中央街道から援軍は出せるが、これも遠い

「ここから兵を送るにしてもなぁ、とりあえず二人は一旦本国に戻った方がいい」
「いえ、それも不味いです、表面上でも引くとブライドレスを見てないと捉えられます」
「しかしなぁ‥」
「現状、ブライドレスは軍として戦力部分は問題ないです、連合として援護を続ける形は見せないと、なので私達は残ります」
「むう‥分った、まだ時間はあるので何か手を打つ」
「はっ」

流石にこの流れに成るとフォレスも打つ手に詰まる
何しろ先が読めない、あまりにも不安定、不確定要素が多く状況がコロコロ変わる

「読める」という状況はある意味「相手の行動が想像の範疇」であって初めて成り立つ。余りにも非常識な事はかえって読みにくい

「とりあえず」でロドニに作った滞在施設へ追加派兵を指示し一万は直ぐ北に動かせる状況を作って全体の動きを待ち、中央付近の斥候隊への情報収集の指示に留まった

散々考えた挙句、フォレスも一定の決断、方針決定があった、全体戦略の新しい構築である、が、これは「まだ先だろうな」と誰にも言わなかった

話は割りと単純、ではある、中央で自ら地域王として名を作る、賛同した各国と組、戦力の増加と連携行動を取る、ペンタグラム、教皇の奪還の名目で南にシフトする

だがそれは無謀だ、インファルらも言った通り、損得だけの共闘で統一した見解が無く、脆い、第三者から見ても一定の正当性はあるがテスネア側にそれ程、理が無い

この状態で連合対連合、としたところで上回るのは数の戦力だけだろう、にも関わらず、アデルはこの手を打った、余りにも目先での動きにも見えた

が、一方で当のアデルは割り切った上でこの手を打った、テスネアの会議でもそれは指摘されたが彼は進言も流した

「他国が便乗して加わったとしても、それは長続きはしない」
「我らを利用する事しかありません」

そう、口々に意見が出るがそんな事は百も承知であった

「云われるまでもない、僕は利用されるつもりはない」
「!?」
「使うのは「向こう」じゃない「僕の方」だ」
「そ、それは?!」
「この共闘に賛同した面子を見ろ、元々、南連合に痛い目にあっている連中、そしてペンタグラムを低く見積もっている、そういう国の集まりだ」
「は、はぁ、確かにそうですが」
「一方、南連合は強固で、でかくなり過ぎた、こうなると、どこも積極的に動き難い、であれば、僕はその材料、餌をくれてやっただけだ」
「‥つまり、南連合と隣接する国への後押し、ですか?」
「そうだ、目の前の人参だな、先に出した指示も整った。これで「前」の国に援護をする」
「成る程‥防波堤に使うつもりですな」
「いいや、剣にもなってもらう」
「?」
「ま、いい、兎に角、通貨の増産と兵糧の援助の準備だ」
「は、ははっ」

テスネアはここから、ペンタグラム本国首都の機能と地域王の立場を使い通貨を増産する、同時、回復から増産した兵糧を整え新たに賛同して味方に付いた国への二重援助を行った、尤も、味方とは思っていないのだが

それだけ、後の方針あってこの中央連合は、国家間での正式な書や宣言の様な区切り、形は持たれなかった

この情報が中央斥候隊、アノミアから、グランセルナ、フォレスの耳に届いたのが、テスネアが各国への輸送を始めて軍備を整え始めてから遅れて五日である

本国で即高官会議が開かれたが簡単な指示出しだけであった理由は単純である

「クローゼ、テラ、トリス、二万率いて北関所へ、首都軍は派兵準備、全部動かせるようにしておいてくれ、カハルへも派兵、これは増員一万でいい、インファルも自軍の用意、状況の変化に寄って派兵先を変える」
「緊急事態ですか!?」
「おそらく」
「おそらく??」
「テスネアの打った手の狙いがある程度分った、多分南進してくる」
「は?!中央街道ですか!?」
「いや、それは多分まだだろう」
「あの‥どういう事でしょう‥陛下」
「うむ、簡単に説明するぞ、ただ、絶対の確信ではない」

そこでフォレスは一連の急速な情勢の変化、テスネアが打った一見関係ない事態の連続の理由と策の目的を、現状、フォレスの憶測に近い読みだが語った、聞いていたグランセルナの面々も唖然に近い

「そんな無茶苦茶な‥」
「ではテスネアの挙げた地域号も、それだけの為の材料なんですか?」
「憶測の範囲でしかない、が、コレ自体、表面的な事である可能性もある」
「でも、理屈は分るわねぇ‥この状況から事を動かすには多重連動が要るわ、それを一気に動かす為の餌、て訳ね」
「多分な」
「けど対処が難しいわねぇ‥、どこから来るのかしら」
「残念ながらこっちの斥候隊を持ってしても、そこまで広範囲に監視は出来ん、が、テスネアを張らせているのである程度は分るだろう兎に角、こっちのやる事が多い」
「そうねぇ‥」
「事前準備だけでも大変だ、直ぐに派兵準備を各国の首脳とも話さねば成らない、最速で頼む」
「わ、わかりました」

フォレスは会議後、そのまま私室で連合各国の首脳と伝心で起こりうる可能性を伝えた

先の会議でも自身が云った事だが、これは相手の策が全て読めている訳ではなく変わってくる可能性もある、故、伝える人物を絞った

そしてこれら人物は事がどう動いても対処出来る鋭敏さを持っている事にある

「確定では無いので、そういう懸念がある、という程度だ、だが、中央から大規模に動いてるので其の可能性がある」と※を付け加えて

つまりある程度は各国独自の判断で対応してくれ、という意味でもある、そして最後にロドニに直接訪問、ミルデと個人会談を行う

「先にやった中央街道伏兵で使った間の国とも再度交渉を頼みたい、娘、ターニャに預けた軍も事態に寄っては送りたい」
「中央街道「以外」からですね」

流石にミルデは話が早い

「そうだ、ブライドレスも最早連合であるし、簡単に捨てる訳にはいかぬ、向こうに行っているメリル、ターニャも分っていて退避はしないつもりだ」
「分りました、材料を何か頂きたい」
「こっちの鉱物は余っている、金銀は少し難しい、今通貨材が必要なんでね、もしくは、輪を広げてもいい、或いは、ペンタグラムからの配慮だ」
「送る数は?」
「五千前後」
「それなら問題無いでしょう」
「後方支援部隊や武装はこっちの商売半々で送るので其の程度でいいな」
「分りました、早速使者を出します」
「すまぬ‥それと例の件だが‥」
「はっ、プルーメ様に話は通しました」
「云ったのか‥」

「この時期にこういう流れとは思いませんでしたのでですが、プルーメ様は良を出しました」
「マジデ」
「マジです、という訳で時期が時期ですが、小生としては簡易でも婚姻を交わして頂きたい、同時、プルーメ様を陛下の下に置きたい」
「お前が二心を疑われないか?」
「大丈夫でしょう、お二人が婚姻と成れば期待すべきは「フォレス王」の手腕、ですから、それに小生は他人から何と思われようと構いません、大事なのは「ロドニの維持」ですから」
「成る程な‥そう考えて居るならいい」

「はい、事が動くとあらば、両国、既に連合ですが関係が近い方が良い、それと、やはり緊急事態とあらば、フォレス王に軍を主導して頂きたい、おそらく中央街道でも戦の懸念もありますし、フォレス王の下に置いて避難させたくあります、前に置くのは危険が増えます」
「プルーメを戦の矢面に立たせん、同時、オレの名を使うか」
「左様です、其の辺りのご配慮お願いします」
「分った」
「では本日はこちらに滞在を、既に、司祭を招いてありますので明日には婚礼の儀を開けます」
「用意のいいことだ」

「ですが「配慮」はもう一つお願いしたい」
「ロッゼの時と同じ、か?」
「左様です」
「なんか種馬扱いだな‥」
「まさか。プルーメ様が「嫌だ」と云わない相手を選んだに過ぎません」
「ま、いい、分った、書こう」

そういう流れでフォレスはそのまま一日滞在翌日には急な事ではあるが、プルーメとフォレスの婚姻の儀が開かれた

簡素だが、事前用意をしていた、だけにスムーズにそれが行われ国内に情報が蒔かれる、そしてロベルタの時と同じ様に書も交される

「二人の間の子はロドニの後継者とする」と

「新婚旅行」の名目でプルーメはそのまま本国に戻るフォレスに付いてグランセルナ方面の馬車旅ついでに退避の形を取った、ミルデの強引なやり方に見えるが、実際これはフォレスも舌を巻くほどの計算である

連合主国のフォレスと近い関係を構築し相手から配慮を引き出し、後継者の居ないロドニの不安の一時的解消

事、緊急事態、つまり戦と成れば、前王なら兎も角、プルーメが居てもあまり意味が無く、その能力も無い

ならばいっそ、一族唯一の残りであるプルーメを最も優れた連合の王に嫁がせ、強い後ろ盾、危険な場所から退避させ、何か有っても連合から配慮を貰える様にし、尚且つ「血族」という関係と、後継者、間に子を作って貰おうという計算である

無論、プルーメ自身がフォレスに悪い印象が無い
ミルデが話しを持って行った時点からプルーメも拒否してない、ロドニの臣民共に「あの王ならば」とある程度の納得が得られるし、既にロベルタがどうなっているかも皆知っている

ましてロッゼとの間に子供を作っていてその子はロベルタの後継者である、そういう人物を選んだに過ぎない

負の感情が無い、と言った通り
この表面上の馬車旅行でもプルーメも悪い感情は無かった

「私などが陛下の第二后妃で宜しいのでしょうか‥」と言うくらいである

これは、プルーメ自身が自覚している事ではある、そもそも外見も普通の女性、普通の服装で街に居ても気が付かれない程で、ずっと若いときからそう評されてきた

大抵立場と出身のしっかりした者であればお世辞でも「美しい」と云われる事もあるがプルーメは一度も経験がない

彼女は元々は下級貴族の娘で城に上がって前王の世話係の一人だったが、そこで謙虚で余りにも細やかな心と配慮あって認められてあれよあれよという間に后妃となって今に至る、故にこの婚姻も「打算的なモノなのかしら?」とずっとあったが

ある意味、それは相手フォレスも同じである、外見も境遇も左程違いが無い、つまり両者共、「内面」の部分で余人が及ばぬ部分があり似た者同士な所があった、故に、プルーメも悪印象が最初から無いのである

ただ、この数日の旅は「新婚旅行」には成らなかった
フォレスのそれどころでない忙しさにある

移動中も指示、伝心での各国との相談等、殆どひっきりなしだった、特にバルクスト、自領土に戻ってからペンタグラムの高官、教皇ら、バルクスト軍部や滞在軍エミリアらとも会合、殆ど間が無い

一週間後にはグランセルナ本国に着いてここで「一応」
「おめでとう御座います陛下」と成ったが
「ああ」としか返せない、疲れた、というのが一番だが

私室に戻って休んだがプルーメの「配慮」に聊かの曇りも無かった、世話人らから話を聞いて直ぐに暖かい食事と薄めのアルコール、寝所を用意してフォレスを休ませた

面会の類も「陛下はお疲れですので」と一度切って緊急以外の者を全て追い払う朝には軽く食事と風呂を用意させ

上がると同時に医師も招いてフォレスの体に配慮させた、正直、元々居る、フォレスの周囲の世話人もやる事が無い程だった

「しかし、いいの?プルーメ様こっちに居て」

とインファルも聞いたが、プルーメは既に事態を理解していた

「本国はミルデが居ますし、私があちらに居てもあまり意味がないので、それに配慮、も理解しています」
「それは?」
「疎開、の様な物でしょう?」であった
「ロッゼ様はどう思うのかしら?」はあったが

事前にこの話を通した上で「構わないのでは無いか」とあった為フォレスも受けたのではある

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