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知者の掌の上で
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当日の夜にはウィステリアに単身でインファルが来訪、迎えられて歓迎の儀を開こうとしたがインファルは
「疲れたから寝る、明日ね」
と言って客室に案内されてホントに直ぐ寝た「ええ!?」としかウィステリア側高官も云い様が無い行動ではある
翌日、昼までたっぷり寝たインファルが起きてようやく挨拶、会議室で顔合わせした
「えーと、グランセルナ派兵軍、一応内軍参与のインファルよ」
「はっ‥あの、宜しくお願いします‥」
(事態を理解して無いのか?)と思わず全員思ったが
「とりあえず、フォレスから話は聞いてる、本国でももう策は動いてるわ、それから私の方はウィステリア周辺の脅迫に反撃せよと御達しを受けてる、外交、策に対して一任して貰いたいのだけど?」
「わ、わかりました」
「ただ、とりあえず、私の手持ち軍が来るまで策の方は打てないわ、今の所挨拶以上の事は出来ないわ、状況確認だけお願い」
「ははっ。西からの敵侵攻は砦を挟んでの睨み合いです、相手六千、こちらは三千出していますが、動きはありません今書状を出してアチラの外交官が」
「パス、いらないわ、そのまま書状だけ送って」
「どのような‥」
「グランセルナ連合と組んだ、やりたければどうぞ、不戦か融和交渉以外直接対面は必要ない、でいいわ」
「宜しいのですか?‥」
「向こうも数少ないし、単なる脅しね、北のヘイルズが動かなきゃ向こうもナンも出来ないわよ」
「は、はぁ」
「それからこちらの軍将は?」
「はっ!わたくしです!ウォートと申します!」
「西砦とやらは固いの?」
「はい、西との街道を繋ぐ関所も兼ねて居りますので」
「ならいいわ、現有戦力でとりあえずの維持を、どうせ攻められないし」
「は、では?」
「ウチの軍が来るまで牽制、防衛だけでいいわ」
「は!」
「こんなもんかしらねぇ‥、じゃ解散で、ヘイルズの外交が来たら呼んで私がやるから」
と、さっさとインファルは退出して解散となった、一応、で同席していたファルメントも呆れ顔だ
「君主もふざけた奴だが、配下もふざけとるな‥」
「で、御座いますな‥」としかグレゴールも返しようが無い
夜にはインファルの手持ち軍三千が強行軍で来援直ぐに休息をさせて翌日へと成る、朝からインファルは動いた、軍を3分に割って輸送軍から「ありえない装備」を全て出して換装
兵の8割と騎馬にそれを持たせて西砦へ向かわせる、横に着いて見守っていたグレゴールも唖然だった
「槍旗だけあんなに?!」
「グランセルナ連合が来たぞー!、て見せれば十分よ、どうせ、向こうも本気じゃないしw」
「成る程‥」
「アッチもそんな兵力居ないし、南西地は北や中央から圧迫されてる実戦闘は向こうも自爆するわ」
「仰る通りですな」
そうインファルは自軍の兵殆どに「グランセルナ」の掲げ槍と旗を持たせた、本来なら戦場の目印に近い物だが如何にも大軍が来たと見せる為だ
「成る程、故の、直接外交の拒否ですな」
「バレるからねこっちの砦に入れると、そもそも10日稼いで釣れとしか云われて無いし、ま、後ろから援軍来るし、したら入れ替えればいいわ」
「ふむ、では、こちらもやらせますか?」
「そーね、非戦闘員も集めてやらせとけばいいわ、表面上の数だけ居るように見えればいいだけだし」
そして残り二千の内一千の手持ち軍にも同じ装備をさせ、今度はそれもウィステリア王都外に野営陣と共に配置した、そしてまた朝飯食ってインファルは二度寝、一連の流れを黙って見ていたファルメントは笑っていた
「なんという動じない奴じゃ」
「私としては呆れるばかりですが‥」
「しかし、彼女を見てると、この苦境にあってアレコレ悩んで居た自分が馬鹿みたいに見えるわ」
「同感ですな‥」
昼前にはヘイルズからの「また」脅迫外交、インファルが叩き起こされて謁見の間に同席した、内容は同じである
「婚姻と併合、そろそろ決断されては如何ですか?」だった
ウィステリア側は黙って聞いたまま、インファルに目配せする
(時間稼ぎと釣りね~、どうしよっかな~)とのんきに考えていた、とりあえず引き伸ばして、後でぶち壊せばいいか、と両国の間に割り込んだ
「条件が不足ね」
「!?」
「貴方は?」
「グランセルナから派遣されたインファルよ、宜しくね」
その一言で相手の表情が固くなる
「援護、という話は事実でしたか」
「まーね」
「では、ウィステリアは連合に加盟を?」
「まだ交渉中」
「そうですか、では、下がっていて貰いたい、今回はヘイルズとウィステリア、両国の問題です」
「私、グランセルナ本国から「ファルメント様の代わりをせよ」と充てられたのよね、それにウィステリア側からも外交委託されてるわ」
「それは妙な話ですな。具体的な条約も同盟も無くその様な人事を行うとは」
「元々不戦条約はしているウィステリアとの交渉条件はほぼ決まっている、後は君主の決定だけね、で、その間に他所に割り込まれると迷惑だからね」
「成る程、分らない話ではありませんな」
「多重交渉は基本困るのよね、こっちも詰めの段階だし」
「ですが、こちら、ヘイルズの条件を提示し、より良い方を選んで貰う、それも可笑しな事ではありません」
「そうね、でもそっちは併合でしょ?あんまり良い条件でもなくない?んで、ファルメント様を嫁に寄こせじゃ、こっちの交渉条件もぶち壊しだわ、流石に看過出来ないわねぇ」
「分りました、ではもっと良い条件をつけて選ばせろ、という事ですね」
「そーね、「こっちが手を引くなら」こっちにも手土産は欲しいわ、私も陛下に怒られるし~」
「では、そう伝えます」
「基本的にファルメント様もあまり乗り気じゃないわ、これまでの経過見ても明らかだけど、そっちの王様もう50近いでしょ、余程の事が無いと無理なんじゃないかな~」
「‥分りました、それも伝えます」
と会談を終らせ、ヘイルズの外交官もさっさと戻った、王都を出てヘイルズ側領土線近くまで戻り、直ぐに文書にして鳥を放つ、当日にはその外交文書を受け取ったヘイルズ王は当然怒った
「またグランセルナか!」
「そのようです‥」
「おのれ‥あの若造が‥」
「陛下、グランセルナと事を構えるのはまずかろうと思います」
「分っておるわ!」
「はっ、ですが、書状を見る限り交渉の余地はあります」
「ん?‥うむ、確かにそうじゃな‥」
「ハイ「こっちが手を引くには」とあります、つまり向こうも本気ではありません」
「うむ、向こうに土産があれば譲っても良いとも取れるな」
「私が思うに先の南西地方、ウィステリアに西から軍を出した連中と同じスタンスでしょう、所謂、漁夫の利です、先に取り入って干渉する事によって何らかの取引に使えると考えて居るのでしょう」
「ありうるな」
「はっ、それにこの状態でウィステリアを救う意味も薄い。派兵をしている模様ですが、実際ウィステリアの為に戦う可能性は低くあります」
「うむ‥かなり不利な状況だからな、略この状態でウィステリアを助けるのは一方的な庇護に等しい」
「左様です」
ヘイルズの王は椅子に腰掛け腕を組んで考え込んだ
「しかし、土産と言ってもな」
「陛下、この時点で向こうに得があれば良いのです、庇護は負担、マイナスしかありません、ですからそれ程の条件で無くてもグランセルナは手を引く可能性はあります」
「そうだな」
「更に云えばですが「後」でも良いと思います」
「と、云うと?」
「とりあえず向こうに手を出させない様にして、こちらがウィステリアを落とす、その後グランセルナと交渉し、なんらかの条件を付ければ宜しいかと」
「成る程‥こっちがウィステリアを併合するまで邪魔するな、併合した後はアノ小娘でも金でもくれてやるとすればいいのか」
「ハイ。更に云えば、その「後」の交渉も決裂させても良い、終った後ならどうとでも条件交渉出来ます」
「先ずはウィステリアを抑えてしまえば良いか、確かにな‥よし、書状を書く、直ぐグランセルナへ、いや、バルクストでいいじゃろ、直ぐ届けよ」
「はっ!、こちらの監視部隊が南東方面にいくばか居ます直ぐ行えます」
「よし、まかせる」
こうしてヘイルズ王はその場で書状を書き、直ぐに鳥を使って、バルクスト方面に居る監視部隊に届けられる、そのまま受け取った部隊から早馬が出て即座バルクストへ、と成った
一昼夜の移動でヘイルズの書状が届いたのが翌日早朝、直ぐに外交官がバルクストに求め城へ上がる事となる
急な会談、外交以上にその内容に対処したオルガも驚いた、書状を読んだ事を確認した後、ヘイルズの外交官が口を開く
「我方はウィステリアと先行して交渉、外交しております、どうかグランセルナ連合はこちらを優先されたし、との事です」
「つまり、フォレス陛下に自重しろと仰るのですか」
「いえ、外交を同時するのはまま有りますが、あくまで今回は先に行っていたのはコチラです、ですから、こちらの出す条件で一度引いて頂きたい」
「成る程‥」
「こちらの交渉が終った後、そちらの優位に成るような外交、会談を改めて直接行いたい、無論こちらが「全て終った後で」ですが」
「それがこの内容とは‥しかし、全てソチラの成功前提の話に成っていますが、少々無茶なのでは?」
「はっ、故に、失敗した場合もヘイルズから何らかの条件を付けるとの事です」
「‥分りました、兎に角内容を本国のフォレス様に。こちらは術士が居りますので直ぐ伝えます」
「はっ、では返答が出るまで外でお待ちします」
「ええ‥ヴァイオレット」
「はっ」
と横に控えたヴァイオレットが部下に指示して外交官を客室に案内した、バルクストの四剣とオルガだけに成った王座の間で話し合いに成る
「驚きました‥まさかこの様な手で来るとは‥」
「あちらさん‥何か思い違いをしてる様ですな」
「ええ‥フォレス様の人となりを誤解してますね‥」
「まぁ~、あれですね、自分がそうだからこちらもそうだろう、と思い込んでいる、そんな所でしょうな‥」
「呆れますね‥」
「ですが、兎に角陛下へ連絡を」
「そ、そうですね」
オルガは即座に立って王座後ろの私室へ向かう、座ってエンチャントアイテムでフォレスに伝心を飛ばして事態の説明を行った、通達を受けたフォレスも「はぁ?」としか出なかった
「如何しましょう‥陛下」
「んー‥ヘイルズがウィステリアを併合するまで引っ込んでろて事か、その後、向こうの女王なり金なりくれてやるから好きにしろ、てか」
「文書には印もあり、併合後分配の会談を持つ、と正式な形が取られています、正直、わたくしもどうしていいのか‥」
つまりこういう事だ
ウィステリアの圧迫外交を続ける、後から来て邪魔するな、こっちがウィステリアを併合、或いは、攻め落とした後、ウィステリアの女王、或いは一部資産はグランセルナに献上する、だから終るまで引っ込んでろ、交換条件で手を引け。である
もちろん文書はグランセルナに配慮したキチンとした穏健な文章であるが要約するとそういう内容である、流石のフォレスも腕組んで考え込まざる得ない、が、それならそれも良いかとも思った
「まー‥いいか、向こうがそういうつもりなら」
「どうされます?」
「んー、とりあえず受けて良い」
「は?!」
「いや、当初の策が変わる訳じゃない、多少修正が要るが」
「あの‥どういう事でしょう‥」
「その公式文書は「終った後で」だ、終った後等来ないし、表面上受けて、向こうが全力でウィステリア側に動くなら釣り作戦に態々向こうが飛び込んできただけの事だ」
「あ、確かに‥」
「で、こっちは実際やる事は変わらん、元の作戦自体同じだ、ウィステリア側で破談にして攻めさせても良いし」
「そうですね‥どちらにせよ、相手をウィステリアに向かわせて背後を突く策ですし」
「ウム、という訳で受けていい、だが、そのまま外交官は待たせておけ、まだ、ティアらの連絡が来てない、それ如何でパターンを変える」
「はい」
そして待望の「ティアらからの連絡」が来たのが三時間後午前九時の事である
「向こうは受けたぞフォレス」
「おし、よくやった」
そのまま直ぐに再びオルガに伝心、オルガも即座に外交官を呼んでOKを出して帰らせた、その通達をヘイルズ王が受けたのが当日午後、飛び上がる勢いで喜んだ
「何!?こっちの条件を飲んだか?!」
「はっ、グランセルナはウィステリアに派遣した軍、外交官を下げるとの事です」
「でかした!」
「いえ、向こうに損はありませんから寧ろ受けるのは自明」
「うむ、直ぐに止めの一手を打つ、軍を出せ!」
「準備は出来ております、直ぐに」
とヘイルズ側はその日の夕刻前には軍を整え、一万五千の兵で出撃、ウィステリアの領土線に向かった
一方フォレスからの通達を受けたインファルも、直ぐに動いてファルメントの部屋へグレゴールらと合わせて一連の「策」の全容を明かした
「なんと!?」
「その様な策を打っていたとは‥」
「そゆこと、多分直ぐ最後の脅し外交が来るわ」
「わたしはどうすれば?」
「派手にぶっ壊していいわよ、どうせ、それを理由にヘイルズはそのまま軍を出す」
「わ、わかった」
「ただ、ある程度はソッチの軍で支えてね、そう長くも掛からないで向こうも引くでしょ、全軍を集めて決戦、西砦と首都防衛はこっちの軍でやるわ」
「了解しました」
「実際始めるのは3,4日後だからこっちの用意も直ぐやるわね、表面上、私らは引くけど心配しなくていいわ、どうしても無理なら加勢するし、ほんでそっちの制服の予備とかあったら全部頂戴、細かい策打つから」
「はっ」
「では、解散」
インファルは会談の後ある程度の策を練って城の外に滞在した手持ち軍を西砦に全部向かわせ、主軍と合流、エミリアとも会談する
「用意は?エミリア」
「出来ている、と言っても大してやる事は無いが」
「まーねー、出番が無いならその方がいいし」
「だな、ま、大丈夫だろう、ウィステリア軍も一応正規軍だし、しかし‥他所の国の制服を着るのも妙な気分だな」
「そーおー?楽しくない?コスプレ」
「新鮮ではある、デザインは秀逸だしな」
「でそ」
「しかしまあ、よくも次から次へとセコイ策を考えるもんだ」
「間違ってウィステリアに負けられても困るし、こっちの制服着てりゃバレないでしょどうせ戦場だし」
と言った通り、エミリアと主軍の精鋭千はウィステリア軍の制服に着替えた、これで最初から戦闘に加わり援護するという形だ、間違っても負けて貰っては困る為、と「手を引く」つもりなど無いのであった
そこから二日
事前提示の通り「最後の脅迫」外交がヘイルズから来る「ぶっ壊していい」と云われていた通り、ファルメントは王座の間の謁見でホントに派手にぶち壊した
「ここが最後の外交です、お断りに成られるなら宣戦布告致します」
「お前の主は鏡を見た事は無いのか?30も歳の離れた女王に、しかも「南方の美」と名高いわらわに求婚する等「恥」の概念が無いようじゃな」
と盛大に打ち返した
「な?!、そ、その様な態度は‥」
「だったらどうする?」
「ウィステリアも終りですな!」
ヘイルズの外交官も捨てセリフを残して去った。勿論激怒したヘイルズ王は宣戦布告と同時、即座に領土線に置いた軍を動かす
ウィステリア側も全軍集結、準備万端の軍5800、プラス紛れ込んだエミリア、インファルの軍1000が出撃である
そこから丸一日後、両軍は北街道で対峙した、ここでインファルが伝心通達「はじまるよ~」とだけ入れる
受け取ったフォレスもバルクストのオルガ、ロドニに滞在外交していたティアらにもそのまま伝達、各方面同時に「大規模多重包囲作戦」が一斉に動いた
ウィステリア北で始まった開戦は数差ヘイルズ一万五千 ウィステリア六千八百、双方縦列陣で正統的な打ち合いと成った
ウィステリアの主軍大将ウォートも正規軍も悪くない、これは先にあったロベルタ開戦と同じ事情がある、数の増強があまりされていない分の装備の強さだ、ロベルタ程異常な豪華強力装備では無いがかなり重装備の歩兵中心で固い
しかも事前策が周知されている為ウィステリア側は無理に防ぐ必要が無い、どこまでも下がっていいのだ、極端な話、首都まで下がって篭城しても構わない、それだけヘイルズを自国側に引き込めるからである
30分の初手、手合わせの後、即座にウォート大将は後退迎撃に切り返る、陣形も綻びも見せず完璧に統率して下がった
正直後ろに控えたウィステリア予備軍(グランセルナ軍)も暇だった
「なんかふつーに上手いな」
「ねー‥やたら軍運用の上手い提督ねぇ‥」
「ま、楽でいいが暇だな」
「出てもいいけど猪突しないでよ?」
「いいや、やめとこう、あそこまで全体統率が上手いとヘタに参加するとかえって邪魔する事になる」
「まあ、いんじゃない、このままいけるかは分らないし」
「そうだな、それに反転攻勢もあるしな作戦上」
エミリアもインファルも後方観戦を決め込んだ。 3時間の押し引きの後、両軍一旦後退して休息再編した後、午後にまた再開、そこからも同じ展開で縺れ、夜に戦闘は継続せず両軍停戦、翌日に持ち越した
昼前から再び再開されたが開始一時間後、ヘイルズ側に急報が届く
「なに!?本国に侵攻!?」
「グランセルナ連合のバルクストとロドニの両国軍が侵攻!既に首都防衛戦に‥」ヘイルズ王も唖然だった
「ふ、ふざけるな!‥空き城を強奪しようというのか!しかもグランセルナには外交で引かせただろうが!」
「陛下‥兎に角本国へ!‥首都軍も八千は残してあります!」
「う、うむ‥!、全軍反転撤退だ!」
が、時既に遅し、この際ヘイルズに侵攻した敵はロドニ2万、バルクスト一万、しかもアトロス指揮、バルクストは直接戦闘せず、ヘイルズの城を中心とした四時方向から、弓、弩、バリスタのみの構成で只管遠くから矢と石を放り込んだ
無論ヘイルズも過去、グランセルナに似たような策で痛い目に有っている、故に本国にも守備軍を残しているが、後背襲撃対策で残した、と言ってもヘイルズは八千である、絶望的な数差、しかもロドニとの共闘だ
ヘイルズ主軍は反転撤退するがそこでウィステリア軍はここぞとばかりに追撃。逃げる相手を追い続けながら、突撃を繰り返しヘイルズが離脱成功するまで六千も打ち倒した
ズタボロの軍で二日掛けて本国に戻ったヘイルズ主軍だが、既に帰る城も無かった、戻る前に首都決戦は終っていたのである
城を占拠したロドニはそのまま出撃して反対側から追い縋るウィステリア軍と残りヘイルズ軍を挟撃、ヘイルズ軍は残り七千軍も半数失いヘイルズ王も討ち取られた、こうしてヘイルズの主は変わる事になる
ウィステリアは本国へ撤退、バルクストもヘイルズをロドニに譲って撤退した、フォレスの打った策は特別難しいとか複雑という物ではない
ヘイルズの脅迫外交を破談させて軍事行動を取らせる、ウィステリアを防衛させながら防ぎつつヘイルズをウィステリア側に引き込む、同時、ヘイルズ北東のロドニに不戦条約を組むと同時にヘイルズを攻めさせ
バルクスト、自国領からロドニと組んで同時侵攻、薄いヘイルズ本国を最速奪取して出撃したヘイルズ本軍を孤立死させるというだけの事だ
これでウィステリアを守り、ヘイルズを潰しつつ、ロドニと不戦してヘイルズ領土を譲り「前」の防波堤を築きつつ、グランセルナの兵力の磨耗を0にするという作戦であった、実際、グランセルナ側の兵の損耗率は0である
「外交で引かせた」と言っても
グランセルナとヘイルズの交わした文書はあくまで「終った後の正式交渉」の約束であって、それが行われる前にヘイルズは滅んだ、つまり「無効」であり「何も公式には決まっていない」のである
そしてロドニに出した条件は単純
「ヘイルズはウィステリアに攻め込む、グランセルナと協力してヘイルズを落としましょう、城も領土も譲ります、成功したら同時、連合と不戦条約も成立で如何ですか?」である。これを断る馬鹿は居ないだろう
領土、城、グランセルナ連合との共闘、不戦である、何一つ損が無いのだ
そこから五日、ウィステリアでは戦勝パーティとなった、そしてこの戦果も全国に広がる「またしても連合の華麗な戦略での大勝利」である
「しかし宜しかったのですか?ヘイルズを譲って」
メリルが王座に腰掛けて書類を読んでいるフォレスに問うた
「まーな、あそこ持ってても維持が面倒だロドニに持たせて防波堤に使ったほうがいい、どうせ拡大政策はしないし」
「成る程、確かに地勢上、孤立型に成りますね」
「向こうもウチと事を構えたくないだろう、同時不戦で略固まったと云っていい」
「そうですね。こちらの軍力が多いという訳ではありませんし」
「うむ、三国持っても寧ろ困る、代理統治もあるしな」
「ええ」
「それに、おそらく連合は拡大するだろう」
「でしょうね、では、西はどうします?」
「んー、ウィステリアは前後の情報見る限り単身で任せて大丈夫だろ、向こうの軍力の建て直しまで援護してやれば勇、知はある」
「ですね」
その「でしょうね」はそう間を置かず実現される、ウィステリアから使者が訪れグランセルナ連合への加盟を望むという女王からの親書が届けられる事となる
「疲れたから寝る、明日ね」
と言って客室に案内されてホントに直ぐ寝た「ええ!?」としかウィステリア側高官も云い様が無い行動ではある
翌日、昼までたっぷり寝たインファルが起きてようやく挨拶、会議室で顔合わせした
「えーと、グランセルナ派兵軍、一応内軍参与のインファルよ」
「はっ‥あの、宜しくお願いします‥」
(事態を理解して無いのか?)と思わず全員思ったが
「とりあえず、フォレスから話は聞いてる、本国でももう策は動いてるわ、それから私の方はウィステリア周辺の脅迫に反撃せよと御達しを受けてる、外交、策に対して一任して貰いたいのだけど?」
「わ、わかりました」
「ただ、とりあえず、私の手持ち軍が来るまで策の方は打てないわ、今の所挨拶以上の事は出来ないわ、状況確認だけお願い」
「ははっ。西からの敵侵攻は砦を挟んでの睨み合いです、相手六千、こちらは三千出していますが、動きはありません今書状を出してアチラの外交官が」
「パス、いらないわ、そのまま書状だけ送って」
「どのような‥」
「グランセルナ連合と組んだ、やりたければどうぞ、不戦か融和交渉以外直接対面は必要ない、でいいわ」
「宜しいのですか?‥」
「向こうも数少ないし、単なる脅しね、北のヘイルズが動かなきゃ向こうもナンも出来ないわよ」
「は、はぁ」
「それからこちらの軍将は?」
「はっ!わたくしです!ウォートと申します!」
「西砦とやらは固いの?」
「はい、西との街道を繋ぐ関所も兼ねて居りますので」
「ならいいわ、現有戦力でとりあえずの維持を、どうせ攻められないし」
「は、では?」
「ウチの軍が来るまで牽制、防衛だけでいいわ」
「は!」
「こんなもんかしらねぇ‥、じゃ解散で、ヘイルズの外交が来たら呼んで私がやるから」
と、さっさとインファルは退出して解散となった、一応、で同席していたファルメントも呆れ顔だ
「君主もふざけた奴だが、配下もふざけとるな‥」
「で、御座いますな‥」としかグレゴールも返しようが無い
夜にはインファルの手持ち軍三千が強行軍で来援直ぐに休息をさせて翌日へと成る、朝からインファルは動いた、軍を3分に割って輸送軍から「ありえない装備」を全て出して換装
兵の8割と騎馬にそれを持たせて西砦へ向かわせる、横に着いて見守っていたグレゴールも唖然だった
「槍旗だけあんなに?!」
「グランセルナ連合が来たぞー!、て見せれば十分よ、どうせ、向こうも本気じゃないしw」
「成る程‥」
「アッチもそんな兵力居ないし、南西地は北や中央から圧迫されてる実戦闘は向こうも自爆するわ」
「仰る通りですな」
そうインファルは自軍の兵殆どに「グランセルナ」の掲げ槍と旗を持たせた、本来なら戦場の目印に近い物だが如何にも大軍が来たと見せる為だ
「成る程、故の、直接外交の拒否ですな」
「バレるからねこっちの砦に入れると、そもそも10日稼いで釣れとしか云われて無いし、ま、後ろから援軍来るし、したら入れ替えればいいわ」
「ふむ、では、こちらもやらせますか?」
「そーね、非戦闘員も集めてやらせとけばいいわ、表面上の数だけ居るように見えればいいだけだし」
そして残り二千の内一千の手持ち軍にも同じ装備をさせ、今度はそれもウィステリア王都外に野営陣と共に配置した、そしてまた朝飯食ってインファルは二度寝、一連の流れを黙って見ていたファルメントは笑っていた
「なんという動じない奴じゃ」
「私としては呆れるばかりですが‥」
「しかし、彼女を見てると、この苦境にあってアレコレ悩んで居た自分が馬鹿みたいに見えるわ」
「同感ですな‥」
昼前にはヘイルズからの「また」脅迫外交、インファルが叩き起こされて謁見の間に同席した、内容は同じである
「婚姻と併合、そろそろ決断されては如何ですか?」だった
ウィステリア側は黙って聞いたまま、インファルに目配せする
(時間稼ぎと釣りね~、どうしよっかな~)とのんきに考えていた、とりあえず引き伸ばして、後でぶち壊せばいいか、と両国の間に割り込んだ
「条件が不足ね」
「!?」
「貴方は?」
「グランセルナから派遣されたインファルよ、宜しくね」
その一言で相手の表情が固くなる
「援護、という話は事実でしたか」
「まーね」
「では、ウィステリアは連合に加盟を?」
「まだ交渉中」
「そうですか、では、下がっていて貰いたい、今回はヘイルズとウィステリア、両国の問題です」
「私、グランセルナ本国から「ファルメント様の代わりをせよ」と充てられたのよね、それにウィステリア側からも外交委託されてるわ」
「それは妙な話ですな。具体的な条約も同盟も無くその様な人事を行うとは」
「元々不戦条約はしているウィステリアとの交渉条件はほぼ決まっている、後は君主の決定だけね、で、その間に他所に割り込まれると迷惑だからね」
「成る程、分らない話ではありませんな」
「多重交渉は基本困るのよね、こっちも詰めの段階だし」
「ですが、こちら、ヘイルズの条件を提示し、より良い方を選んで貰う、それも可笑しな事ではありません」
「そうね、でもそっちは併合でしょ?あんまり良い条件でもなくない?んで、ファルメント様を嫁に寄こせじゃ、こっちの交渉条件もぶち壊しだわ、流石に看過出来ないわねぇ」
「分りました、ではもっと良い条件をつけて選ばせろ、という事ですね」
「そーね、「こっちが手を引くなら」こっちにも手土産は欲しいわ、私も陛下に怒られるし~」
「では、そう伝えます」
「基本的にファルメント様もあまり乗り気じゃないわ、これまでの経過見ても明らかだけど、そっちの王様もう50近いでしょ、余程の事が無いと無理なんじゃないかな~」
「‥分りました、それも伝えます」
と会談を終らせ、ヘイルズの外交官もさっさと戻った、王都を出てヘイルズ側領土線近くまで戻り、直ぐに文書にして鳥を放つ、当日にはその外交文書を受け取ったヘイルズ王は当然怒った
「またグランセルナか!」
「そのようです‥」
「おのれ‥あの若造が‥」
「陛下、グランセルナと事を構えるのはまずかろうと思います」
「分っておるわ!」
「はっ、ですが、書状を見る限り交渉の余地はあります」
「ん?‥うむ、確かにそうじゃな‥」
「ハイ「こっちが手を引くには」とあります、つまり向こうも本気ではありません」
「うむ、向こうに土産があれば譲っても良いとも取れるな」
「私が思うに先の南西地方、ウィステリアに西から軍を出した連中と同じスタンスでしょう、所謂、漁夫の利です、先に取り入って干渉する事によって何らかの取引に使えると考えて居るのでしょう」
「ありうるな」
「はっ、それにこの状態でウィステリアを救う意味も薄い。派兵をしている模様ですが、実際ウィステリアの為に戦う可能性は低くあります」
「うむ‥かなり不利な状況だからな、略この状態でウィステリアを助けるのは一方的な庇護に等しい」
「左様です」
ヘイルズの王は椅子に腰掛け腕を組んで考え込んだ
「しかし、土産と言ってもな」
「陛下、この時点で向こうに得があれば良いのです、庇護は負担、マイナスしかありません、ですからそれ程の条件で無くてもグランセルナは手を引く可能性はあります」
「そうだな」
「更に云えばですが「後」でも良いと思います」
「と、云うと?」
「とりあえず向こうに手を出させない様にして、こちらがウィステリアを落とす、その後グランセルナと交渉し、なんらかの条件を付ければ宜しいかと」
「成る程‥こっちがウィステリアを併合するまで邪魔するな、併合した後はアノ小娘でも金でもくれてやるとすればいいのか」
「ハイ。更に云えば、その「後」の交渉も決裂させても良い、終った後ならどうとでも条件交渉出来ます」
「先ずはウィステリアを抑えてしまえば良いか、確かにな‥よし、書状を書く、直ぐグランセルナへ、いや、バルクストでいいじゃろ、直ぐ届けよ」
「はっ!、こちらの監視部隊が南東方面にいくばか居ます直ぐ行えます」
「よし、まかせる」
こうしてヘイルズ王はその場で書状を書き、直ぐに鳥を使って、バルクスト方面に居る監視部隊に届けられる、そのまま受け取った部隊から早馬が出て即座バルクストへ、と成った
一昼夜の移動でヘイルズの書状が届いたのが翌日早朝、直ぐに外交官がバルクストに求め城へ上がる事となる
急な会談、外交以上にその内容に対処したオルガも驚いた、書状を読んだ事を確認した後、ヘイルズの外交官が口を開く
「我方はウィステリアと先行して交渉、外交しております、どうかグランセルナ連合はこちらを優先されたし、との事です」
「つまり、フォレス陛下に自重しろと仰るのですか」
「いえ、外交を同時するのはまま有りますが、あくまで今回は先に行っていたのはコチラです、ですから、こちらの出す条件で一度引いて頂きたい」
「成る程‥」
「こちらの交渉が終った後、そちらの優位に成るような外交、会談を改めて直接行いたい、無論こちらが「全て終った後で」ですが」
「それがこの内容とは‥しかし、全てソチラの成功前提の話に成っていますが、少々無茶なのでは?」
「はっ、故に、失敗した場合もヘイルズから何らかの条件を付けるとの事です」
「‥分りました、兎に角内容を本国のフォレス様に。こちらは術士が居りますので直ぐ伝えます」
「はっ、では返答が出るまで外でお待ちします」
「ええ‥ヴァイオレット」
「はっ」
と横に控えたヴァイオレットが部下に指示して外交官を客室に案内した、バルクストの四剣とオルガだけに成った王座の間で話し合いに成る
「驚きました‥まさかこの様な手で来るとは‥」
「あちらさん‥何か思い違いをしてる様ですな」
「ええ‥フォレス様の人となりを誤解してますね‥」
「まぁ~、あれですね、自分がそうだからこちらもそうだろう、と思い込んでいる、そんな所でしょうな‥」
「呆れますね‥」
「ですが、兎に角陛下へ連絡を」
「そ、そうですね」
オルガは即座に立って王座後ろの私室へ向かう、座ってエンチャントアイテムでフォレスに伝心を飛ばして事態の説明を行った、通達を受けたフォレスも「はぁ?」としか出なかった
「如何しましょう‥陛下」
「んー‥ヘイルズがウィステリアを併合するまで引っ込んでろて事か、その後、向こうの女王なり金なりくれてやるから好きにしろ、てか」
「文書には印もあり、併合後分配の会談を持つ、と正式な形が取られています、正直、わたくしもどうしていいのか‥」
つまりこういう事だ
ウィステリアの圧迫外交を続ける、後から来て邪魔するな、こっちがウィステリアを併合、或いは、攻め落とした後、ウィステリアの女王、或いは一部資産はグランセルナに献上する、だから終るまで引っ込んでろ、交換条件で手を引け。である
もちろん文書はグランセルナに配慮したキチンとした穏健な文章であるが要約するとそういう内容である、流石のフォレスも腕組んで考え込まざる得ない、が、それならそれも良いかとも思った
「まー‥いいか、向こうがそういうつもりなら」
「どうされます?」
「んー、とりあえず受けて良い」
「は?!」
「いや、当初の策が変わる訳じゃない、多少修正が要るが」
「あの‥どういう事でしょう‥」
「その公式文書は「終った後で」だ、終った後等来ないし、表面上受けて、向こうが全力でウィステリア側に動くなら釣り作戦に態々向こうが飛び込んできただけの事だ」
「あ、確かに‥」
「で、こっちは実際やる事は変わらん、元の作戦自体同じだ、ウィステリア側で破談にして攻めさせても良いし」
「そうですね‥どちらにせよ、相手をウィステリアに向かわせて背後を突く策ですし」
「ウム、という訳で受けていい、だが、そのまま外交官は待たせておけ、まだ、ティアらの連絡が来てない、それ如何でパターンを変える」
「はい」
そして待望の「ティアらからの連絡」が来たのが三時間後午前九時の事である
「向こうは受けたぞフォレス」
「おし、よくやった」
そのまま直ぐに再びオルガに伝心、オルガも即座に外交官を呼んでOKを出して帰らせた、その通達をヘイルズ王が受けたのが当日午後、飛び上がる勢いで喜んだ
「何!?こっちの条件を飲んだか?!」
「はっ、グランセルナはウィステリアに派遣した軍、外交官を下げるとの事です」
「でかした!」
「いえ、向こうに損はありませんから寧ろ受けるのは自明」
「うむ、直ぐに止めの一手を打つ、軍を出せ!」
「準備は出来ております、直ぐに」
とヘイルズ側はその日の夕刻前には軍を整え、一万五千の兵で出撃、ウィステリアの領土線に向かった
一方フォレスからの通達を受けたインファルも、直ぐに動いてファルメントの部屋へグレゴールらと合わせて一連の「策」の全容を明かした
「なんと!?」
「その様な策を打っていたとは‥」
「そゆこと、多分直ぐ最後の脅し外交が来るわ」
「わたしはどうすれば?」
「派手にぶっ壊していいわよ、どうせ、それを理由にヘイルズはそのまま軍を出す」
「わ、わかった」
「ただ、ある程度はソッチの軍で支えてね、そう長くも掛からないで向こうも引くでしょ、全軍を集めて決戦、西砦と首都防衛はこっちの軍でやるわ」
「了解しました」
「実際始めるのは3,4日後だからこっちの用意も直ぐやるわね、表面上、私らは引くけど心配しなくていいわ、どうしても無理なら加勢するし、ほんでそっちの制服の予備とかあったら全部頂戴、細かい策打つから」
「はっ」
「では、解散」
インファルは会談の後ある程度の策を練って城の外に滞在した手持ち軍を西砦に全部向かわせ、主軍と合流、エミリアとも会談する
「用意は?エミリア」
「出来ている、と言っても大してやる事は無いが」
「まーねー、出番が無いならその方がいいし」
「だな、ま、大丈夫だろう、ウィステリア軍も一応正規軍だし、しかし‥他所の国の制服を着るのも妙な気分だな」
「そーおー?楽しくない?コスプレ」
「新鮮ではある、デザインは秀逸だしな」
「でそ」
「しかしまあ、よくも次から次へとセコイ策を考えるもんだ」
「間違ってウィステリアに負けられても困るし、こっちの制服着てりゃバレないでしょどうせ戦場だし」
と言った通り、エミリアと主軍の精鋭千はウィステリア軍の制服に着替えた、これで最初から戦闘に加わり援護するという形だ、間違っても負けて貰っては困る為、と「手を引く」つもりなど無いのであった
そこから二日
事前提示の通り「最後の脅迫」外交がヘイルズから来る「ぶっ壊していい」と云われていた通り、ファルメントは王座の間の謁見でホントに派手にぶち壊した
「ここが最後の外交です、お断りに成られるなら宣戦布告致します」
「お前の主は鏡を見た事は無いのか?30も歳の離れた女王に、しかも「南方の美」と名高いわらわに求婚する等「恥」の概念が無いようじゃな」
と盛大に打ち返した
「な?!、そ、その様な態度は‥」
「だったらどうする?」
「ウィステリアも終りですな!」
ヘイルズの外交官も捨てセリフを残して去った。勿論激怒したヘイルズ王は宣戦布告と同時、即座に領土線に置いた軍を動かす
ウィステリア側も全軍集結、準備万端の軍5800、プラス紛れ込んだエミリア、インファルの軍1000が出撃である
そこから丸一日後、両軍は北街道で対峙した、ここでインファルが伝心通達「はじまるよ~」とだけ入れる
受け取ったフォレスもバルクストのオルガ、ロドニに滞在外交していたティアらにもそのまま伝達、各方面同時に「大規模多重包囲作戦」が一斉に動いた
ウィステリア北で始まった開戦は数差ヘイルズ一万五千 ウィステリア六千八百、双方縦列陣で正統的な打ち合いと成った
ウィステリアの主軍大将ウォートも正規軍も悪くない、これは先にあったロベルタ開戦と同じ事情がある、数の増強があまりされていない分の装備の強さだ、ロベルタ程異常な豪華強力装備では無いがかなり重装備の歩兵中心で固い
しかも事前策が周知されている為ウィステリア側は無理に防ぐ必要が無い、どこまでも下がっていいのだ、極端な話、首都まで下がって篭城しても構わない、それだけヘイルズを自国側に引き込めるからである
30分の初手、手合わせの後、即座にウォート大将は後退迎撃に切り返る、陣形も綻びも見せず完璧に統率して下がった
正直後ろに控えたウィステリア予備軍(グランセルナ軍)も暇だった
「なんかふつーに上手いな」
「ねー‥やたら軍運用の上手い提督ねぇ‥」
「ま、楽でいいが暇だな」
「出てもいいけど猪突しないでよ?」
「いいや、やめとこう、あそこまで全体統率が上手いとヘタに参加するとかえって邪魔する事になる」
「まあ、いんじゃない、このままいけるかは分らないし」
「そうだな、それに反転攻勢もあるしな作戦上」
エミリアもインファルも後方観戦を決め込んだ。 3時間の押し引きの後、両軍一旦後退して休息再編した後、午後にまた再開、そこからも同じ展開で縺れ、夜に戦闘は継続せず両軍停戦、翌日に持ち越した
昼前から再び再開されたが開始一時間後、ヘイルズ側に急報が届く
「なに!?本国に侵攻!?」
「グランセルナ連合のバルクストとロドニの両国軍が侵攻!既に首都防衛戦に‥」ヘイルズ王も唖然だった
「ふ、ふざけるな!‥空き城を強奪しようというのか!しかもグランセルナには外交で引かせただろうが!」
「陛下‥兎に角本国へ!‥首都軍も八千は残してあります!」
「う、うむ‥!、全軍反転撤退だ!」
が、時既に遅し、この際ヘイルズに侵攻した敵はロドニ2万、バルクスト一万、しかもアトロス指揮、バルクストは直接戦闘せず、ヘイルズの城を中心とした四時方向から、弓、弩、バリスタのみの構成で只管遠くから矢と石を放り込んだ
無論ヘイルズも過去、グランセルナに似たような策で痛い目に有っている、故に本国にも守備軍を残しているが、後背襲撃対策で残した、と言ってもヘイルズは八千である、絶望的な数差、しかもロドニとの共闘だ
ヘイルズ主軍は反転撤退するがそこでウィステリア軍はここぞとばかりに追撃。逃げる相手を追い続けながら、突撃を繰り返しヘイルズが離脱成功するまで六千も打ち倒した
ズタボロの軍で二日掛けて本国に戻ったヘイルズ主軍だが、既に帰る城も無かった、戻る前に首都決戦は終っていたのである
城を占拠したロドニはそのまま出撃して反対側から追い縋るウィステリア軍と残りヘイルズ軍を挟撃、ヘイルズ軍は残り七千軍も半数失いヘイルズ王も討ち取られた、こうしてヘイルズの主は変わる事になる
ウィステリアは本国へ撤退、バルクストもヘイルズをロドニに譲って撤退した、フォレスの打った策は特別難しいとか複雑という物ではない
ヘイルズの脅迫外交を破談させて軍事行動を取らせる、ウィステリアを防衛させながら防ぎつつヘイルズをウィステリア側に引き込む、同時、ヘイルズ北東のロドニに不戦条約を組むと同時にヘイルズを攻めさせ
バルクスト、自国領からロドニと組んで同時侵攻、薄いヘイルズ本国を最速奪取して出撃したヘイルズ本軍を孤立死させるというだけの事だ
これでウィステリアを守り、ヘイルズを潰しつつ、ロドニと不戦してヘイルズ領土を譲り「前」の防波堤を築きつつ、グランセルナの兵力の磨耗を0にするという作戦であった、実際、グランセルナ側の兵の損耗率は0である
「外交で引かせた」と言っても
グランセルナとヘイルズの交わした文書はあくまで「終った後の正式交渉」の約束であって、それが行われる前にヘイルズは滅んだ、つまり「無効」であり「何も公式には決まっていない」のである
そしてロドニに出した条件は単純
「ヘイルズはウィステリアに攻め込む、グランセルナと協力してヘイルズを落としましょう、城も領土も譲ります、成功したら同時、連合と不戦条約も成立で如何ですか?」である。これを断る馬鹿は居ないだろう
領土、城、グランセルナ連合との共闘、不戦である、何一つ損が無いのだ
そこから五日、ウィステリアでは戦勝パーティとなった、そしてこの戦果も全国に広がる「またしても連合の華麗な戦略での大勝利」である
「しかし宜しかったのですか?ヘイルズを譲って」
メリルが王座に腰掛けて書類を読んでいるフォレスに問うた
「まーな、あそこ持ってても維持が面倒だロドニに持たせて防波堤に使ったほうがいい、どうせ拡大政策はしないし」
「成る程、確かに地勢上、孤立型に成りますね」
「向こうもウチと事を構えたくないだろう、同時不戦で略固まったと云っていい」
「そうですね。こちらの軍力が多いという訳ではありませんし」
「うむ、三国持っても寧ろ困る、代理統治もあるしな」
「ええ」
「それに、おそらく連合は拡大するだろう」
「でしょうね、では、西はどうします?」
「んー、ウィステリアは前後の情報見る限り単身で任せて大丈夫だろ、向こうの軍力の建て直しまで援護してやれば勇、知はある」
「ですね」
その「でしょうね」はそう間を置かず実現される、ウィステリアから使者が訪れグランセルナ連合への加盟を望むという女王からの親書が届けられる事となる
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