境界線の知識者

篠崎流

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ウィステリア(藤)の女王

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大方の「先」も決まり内地も軍事も順調であったが、人事の達成の前に事が起こる。丁度ロッゼが本国に戻った3日後、グランセルナの西、所謂「世界」南西地域でも戦争の気配が明確になった

元々グランセルナと不戦条約を組んでいた小国から援護要請が来た事で慌てて動く事態と成った

「南西地って‥どこから攻められるというのだ?」
「自治、領主国が多く、そういう風土というか流れは無かったハズですが‥」

フォレスもメリルも意味不明に近かった、兎に角外交交渉が居るだろうと、グランセルナ西の小国ウィステリアと会談の要請を行った

相手国が派遣した外交官がグランセルナに辿り着き、中央砦に上がったのが更に五日後の事である

「援護要請という事だが‥」フォレスは先にそう相手に聞いた
「はっ‥、先の中央の混乱から南西地でも北、つまり世界の西から、南下の姿勢が見られます、それから‥南方地域、つまりウィステリア北東のヘイルズからの外交が」

それでフォレスも合点がいく、ヘイルズとウィステリアは中間に山裾野の広い大きな山があり、軍行では西大回りしての距離は4日だが、直線距離であれば2日程度という近さ、グランセルナ連合側に仕掛けられないなら南西へ、と考えたのだろう

「と言う事は脅迫でもあったのか?」
「左様です‥ウィステリアは元々軍力が低く一万ありません、それで改めて不戦でなく同盟という形をと」
「それはいいが‥あまり意味があるとも思えんなぁ‥こっちから援護派兵するにしてもかなり距離がある人魔森を抜け街道を大回りして軍を移動してそちらの首都に向かわせても軽く7日は掛かるぞ‥向こうが動いてこっちから出してもマズ、間に合わんと思うが‥」
「了解しております、が、我らウィステリアとしては打てる手段少なく」

外交官は思わず本音が出て口にしてしまう、それだけこちらが思っている以上に向こうは苦境にあったとも云える、フォレスもそれを察して幾つか条件を提示した

「分った、とりあえずこちらも会議を行い、どうするかの判断なり方向性を決める、それと、ウィステリアには不快だろうがそちらの統計情報が欲しい」
「それは‥」
「基本、そちらに手を貸すのは問題ないしその方向で良いが、そちらの軍力、財政に寄っては派兵にしろ援護にしろ、こちらも予定が立たん」
「成る程、そういう事でしたら」
「うむ、外交官殿はこちらの裁定が出るまで滞在願おう、往復する時間と手間も無駄だろうし切羽詰った状況なのも理解している」
「陛下のご配慮ありがたく」

外交官もそう返して了承、そのまま中央砦の客室に案内され滞在する事となった、早速フォレスは全高官を集めて臨時会議を開く

「という訳で西のウィステリアからの要請だ」

ウィステリアは「国」としての形は王政ではあるが王は若い女史「一万無い」と言ったが実際の総兵力は5千丁度、元々自然の多い農耕などの自然生産の多い治世でこれといって有名な将も無く、国民性も温和だ、それだけに「外交」に置けるフットワークの速さはある

グランセルナ建国から最も早く会談を持ち不戦条約を持ちかけ結んだのも自国の前提条件を把握していた事にある、とは云え、先ほどのフォレスの言の通り派兵にしろ援軍にしろ極端に距離、時間が掛かる

それ程「遠い」という訳ではないのだが間に人魔の森、街道も一度西に抜けてから、ウィステリア本国のある北に向かう為6~7日掛かる

「いっそ連合に加えてはどうか」との意見も出る
「基本それでもいいが、相手あっての事だしなぁ」
「同感です、が状況、情報を見る限り細かい交渉に掛ける時間的余裕があるとも思えません」

フォレス、メリルがそう見解を示した

「では、どのようになさいます?」
「そうだなぁ、基本同盟は良い、が、事は何時動くか分らん、故に向こうに告知して、ダイレクトに派兵と訪問交渉を同時にやるのも良いのではないか」
「成る程」
「ただ、あまり大軍という訳にも行くまい?同盟交渉、派兵を同時と言っても実際ちゃんと組むまでやり難い」
「ですねぇ‥こちらに攻め込むつもりなのか!等と不安を与えるのも問題ですし‥」
「うーん‥まいったなぁ、カハルと違って連合で無いと中間施設を作って、そこから派兵、て訳にはいかんぞ‥」
「相手の情報が薄いからな、最初の外交から「こっちに構うな」というスタンスだったし、戦乱になるとは思わんかったからなぁ」
「とりあえず王様、人数は少なめで、人材も其れなりの方を、それから同時交渉出来る「内政」側の人間も必要です」
「だな‥幸い、と言っては何だが、グランセルナの守りを固める意味ももう無いしな、そこが救いだ」
「ですねぇ」

「オレが行った方がいいのかなぁ‥」
「構わないと思います、直接的な外交とあらば話は早いですし、相手への印象も宜しいでしょう」
「よし、んじゃとりあえずオレと、んー、エミリアで行こう、軍は三千くらいでいいだろ、主軍からで、多分だが移動中心軍なら日数は短縮出来るだろう」
「了解しました、騎馬と馬車軍を揃えます」
「それから事態がどう転ぶか分らん、援軍の用意と前に云った人事も繰り上げ、北関所のクローゼとトリスはそのまま、インファルは首都に召還」
「はは」

この決定はその日の内にウィステリアの外交官に伝えられ彼も即日頭を下げて先に本国へ出立。翌日にはフォレスとエミリアの軍も西に出撃する事と成った

だがフォレスらが出立してウィステリアに辿り着く7日前に、当のウィステリアでは事が動いていた

ヘイルズからの脅迫外交と、南西地域への北からの派兵である、元々南西地も騒乱から遠く、如何に不穏の気配ありと成っても実戦闘に成る様な事態が起こるとは考えにくかった

どこもそれ程軍力が無い、更に問題なのが平和故の人である、強国とも、数、質で言えずこの様な事態が初であり外交に寄る抑えと云ってもヘイルズやベルーサの様な強攻策に対しての反撃手段が乏しいのである

「やるならやってみろ」と言える軍力が無い

まして南西地は自然多く比較的温暖で豊かな土地、となれば、他国から見れば御しやすい相手という側面もあった

特にウィステリアは「若い女史」と言った通り、君主は「ファルメント=アクイーラ」17歳、かなりの美女で気が強い、早世した王族で唯一残った娘だけだった、そして一番の問題が「君主たる能力の無さ」だろう

ヘイルズからの一回目の脅迫外交から大混乱だった何しろ

「ウィステリアは小国、こちらと併合する以外乱世に生き残る手段は無いでしょう、故、ヘイルズ王と婚姻なされては如何か?」

と凡そ外交とも云えない相手からの外交にまともに返せず、ファルメントは王座から手に持っていた扇を傅く相手外交官に投げつけ

「ふざけるな!」と怒鳴って退出したのだ

ウィステリア側の側近がどうにか取り成し納めたが、ファルメントは以降の外交会談にも顔を見せず物別れ、というとんでもない決裂の仕方をする

そこからまともな方針決定も無く、外交会談も君主を外した物と成り、どうにも出来ず、周囲の側近、官僚がグランセルナに縋って来たという形と成った

フォレスらは軍を率いてウィステリア本国に辿り着き、どういう事なのか?と聞いてこの前後の事情を知る事となった

「ちょっと待て‥それじゃ君主の方針決定も無くこっちに持ちかけたのか?!」
「そういう事に成ります‥」

そう返され、フォレスもエミリアも唖然であるが、直接対面して対応した周囲の者、宰相の男性の話を聞くと、こういった事は1度や2度では無いらしい

宰相の「グレゴール」は君主と違い稀有な人物であった、前王から仕える官僚、軍師、宮廷術士を歴任した方で、40歳前半だが知性と愛国心深い

先代から暗愚に近い君主の国家である、その中にあって一人孤軍奮闘して多くの苦境を乗り切って今に至らしめた、内政にしろ緊急事態にしろ外交にしろ、殆ど仕切っているのは彼で、ただ只管任され国を維持してきた名士であり、国士である、故に今回のこの事態も単独で動いた、というより

「どうにかしろグレゴール」という周囲からの圧力に近い

彼自身、それを何とも思わず、只管王国の維持に奔走してきただけで今回も全権委任されたので動いただけの事である

「まぁ、事情は判ったが‥オレにどうしろと‥」
「ヘイルズとの外交は私が抑えて引き伸ばしておりますが、相手は結論ありきに等しく、恐らく、出兵は遅かれ早かれ成されるでしょう、ですがウィステリアには強軍とは言えず、数も相手の四分の1以下です、事、軍事と成れば私に力なく、最後の手段としてグランセルナにお縋りするしかありません」

「気持ちは判るしグレゴール殿の思いも分りますが‥これは流石に」
「私もそう思います、あまりにずうずうしい願いです」
「分っている、のにそれをするというからに、何か策なり条件なりあるのか?」
「はっ、せめても救いは我国の財政です、元々豊かであり毎年、黒字が出ております、材木、食料、水資源、砂金等も取れ、人口も多い、故に年度黒字からグランセルナに毎年贈呈をさせて頂きます」
「成る程、つまり国家的「傭兵」て事だな」
「左様です。ですが実戦闘になる事は略無いでしょう」
「と、云うと?」
「先年からのグランセルナ連合の「戦果」です、しかもヘイルズは陛下の軍勢に、これ以上無い程叩きのめされています。我ウィステリアの後ろ盾と成れば、向こうも早々仕掛けてはこれません」

これは中々狸だなぁ、とフォレスも思った

「成る程な、それで更に時間を引き延ばそうという訳か」
「流石陛下です、我が国は財政面、人口的優位がある為軍備を整えるのは時間さえ稼げれば出来ます、一方ヘイルズは我国よりは両面で劣ります、引き伸ばしさえすればどうにか出来ます」
「ふむ、まあ、それは良いとして問題は人だが‥単に兵を集めても、勝てるとか防げる、という物ではないぞ」
「それは‥私は軍師でもありますし、主軍大将は優秀ですから‥」
「うーん、オレを説得するには材料が足りんな、と言うより、そちらの手持ちのカードが少なすぎる」
「‥ご尤もです‥」

が、フォレスはウィステリア云々より、こう思った
(この人物を潰すのは惜しいな)と

「ふむ、連合では無く、同盟な理由は?」
「それは‥私個人の裁量では動きませんので‥何しろファルメント様はああいうお人なので」
「成る程、よく分った。ま‥そういう事ならいいだろう」
「?」
「貴君の策に乗ろうと云っている」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ」
「あ、有難う御座います!」

とグレゴールはテーブルに額を押し付けた

「まー、落ち着け、まだ組めるとは限らん」
「左様ですな、しかし‥」

そうして両者は話し合いと、両者共術士である事から伝心の環境も構築。10分の話し合いの後、グレゴールも何度も頭を下げてフォレスらの客室から退出した

「ま、何れにしろ、女王様が受けるかどうかだが」
「この現状で断りはしないかと‥」と

じっと隣で無言で聞いていたエミリアも呆れ顔だった

「良いのか?」
「まーな、個人的にウィステリアどうこうは別にどうでもいいがあのおっさんが潰れるのは勿体無い」
「確かに、よく国を見限らんもんだなという感じだ」
「それにまぁあれだ、ヘイルズに好き勝手やらせるのも不快だし、ここを取られると後々面倒だし、大体民が不憫だ」
「同感だ、前の外交も舐め腐ったやり方だったからな」
「うむ、くだらんちょっかいと 裏だけは得意そうだ、ウィステリアを与えると真横から色々やりそうだし」
「そうだなぁ」
「ま、とりあえず明日だな、あっちの女王次第な面もあるし」
「だな」
と、その日を終えてゆっくり休んだ

翌日朝からフォレス王の歓迎会に等しい外交会談の場と成った、官僚総出でもてなされる、当然と云えば当然だろう、この現状でグランセルナが手を差し伸べたのだ、どこから見てもありえない状況に見えた、ましてウィステリア存続の危機なのだ

フォレスは眼鏡装備でそのまま外交会談に着いた、と、云ってもこのままだとやり難くて仕方無いので

「まだ、助けるとは云ってない、出来るかどうかも謎だ」

そう述べて、牽制して周囲の者を下がらせた、それで明らかにウィステリア側に暗いムードが起こった

それはフォレスの態度どうこうで無く、こちら側の「君主」の問題だ、あくまで最終決定は君主であるし、ファルメントは正直「まとも」な人物ではない、この会談すらぶち壊しにしないかと戦々恐々なのである

実際その後ファルメントと王座の間で対面したが彼女は最初から不機嫌だった

「ファルメントじゃ」と王座に頬杖片肘でそっぽ向いたまま平然と言った、横に着いたグレゴールも勿論諌めたがずっとそのままだった

「グランセルナ連合の盟主様ですぞ!その様な態度は‥」
「こんな‥そこいらの冒険者みたいな奴が王だと?」

フォレスは別に云われ慣れているが「こちら側」の味方がそれでは済まないのである

「なんだコイツ‥馬鹿なのか‥」とエミリアもフォレスに耳打ちするくらいだったが、フォレスは何時もどおりだった

「実際数年前まで冒険者だったしな、フォレストだ」
「名前も凡庸だな、森とは」
「親無しなんでね、そこで生活していたから、自分でそう名乗っただけさ」
「成り上がりか」
「そうなるな、ファルメントは反面偉そうな名前だ」
「ほう‥意味を知ってるか」
「天空、鷲、古い言葉だな」
「知識だけはあるようなだな」
「一応魔術士でもあるんでね」

「で?、我方と同盟という話だが?」
「元々不戦条約同士の国だ、今回の苦境あって同盟を、という話だな」
「同盟ね、我が国にメリットがあるとは思えんが」
「まあ要請あって来ただけだからグランセルナとしてはどちらでもいいが…」
「は?」
「オレにしてもそちらから要請あって会談を持ったというだけだ、これがその初回となる。そこのグレゴール殿の出す条件も悪くないし、そちらの裁定次第だが」
「は?、裁定次第、とは何だ?貴公は我が国との同盟は不服なのか?」
「現状を理解しているのか?」
「どういう意味だ?」

やれやれという感じでフォレスは切り替えた

「ウィステリアは小国だ、軍力も低い、ヘイルズから脅迫があって求めてきたのだろう」
「‥誰が、何時貴様に求めた‥」
「違うのか?」
「当たり前だ!、誰が他所に助けを求めるか!」
「が、グレゴール殿に丸投げしたんだろ?そのグレゴール殿は現状どうする事も出来ずオレらに助けを求めた」
「そうなのか!?」
「はっ‥」

「何故!‥この様な手段を‥」
「陛下、ご理解下さい‥我国は兵力は過小、ヘイルズに攻め込まれて勝てる可能性は」
「だったら増強すれば良かろう!」
「残念ながら‥その時間もありませんし、あったとしても数を揃えればどうにか成るという問題でもありません、徴兵、装備、訓練、どれだけ時間が掛かると御思いですか」

が、ファルメントは怒鳴って王座を立ち

「だとしてもこんな不愉快な連中と組むのは御免だ!」

と謁見の間から去ってしまった。そういった流れで「また」ファルメントがぶち壊した、グレゴール筆頭に女王の後を追い説得、フォレスにも何度も頭を下げて再び客室へと成った

「信じられんアホだな」

エミリアにすら云われる事態である
が、フォレスの見解は違っていたようだ

「救いようの無い程アホという訳ではないな」
「そうか?」
「資質を見たが大体全部並だし、知性はそこそこある」
「あれが?」
「うむ‥まともな教育とか受ければもうちっとマトモだったろうな、それと軍で云えばだが、所謂猪突系なだけだな」
「ああ‥そういう事か‥」
「うむ、挑発に掛かりやすいとか、自己の思いを優先する、てだけだな、だから議論とか交渉では難しいが、愚君ではないな」
「しかし、今更直らないだろ‥」
「まーなー、そもそもこうなっては俺らが手を貸すとか出来んじゃろうし」

一応、その点についても午後にまたも謝罪に訪れたグレゴールとも話したが

「申し訳御座いません‥」
「別に貴官の謝る事でもないさ‥が」
「はい‥説得は続けて居りますが、おそらく無理かと」
「どうすんだ?フォレス」
「んー‥どうすっかねぇ‥当初のグレゴール殿の策を続けるしかないな」
「と言うと?」
「このままコッチの軍置いとけばヘイルズも迂闊には攻めて来れまい、そこでウィステリアには外交なり増強して貰うしかないなぁ」
「同感です」
「一応不戦は継続してるからグランセルナの軍を置いて置けるが、何時までもという訳にいかんだろう、具体的な条約を交さないとこっちも動けんぞ?ヘイルズもまだ二万やそこいらの兵力はあるだろ」

フォレスにもそこは分ってはいる、が、向こうに「いらん」と、しかも君主に言われると何ともし様が無い

グレゴールにしてもそれは同じだ、全権委任と言ってもあくまで最終決定は王なのだ、全ての作戦なり環境を整て提示しても、そこで「NO」と云われれば成し様が無いのである、故にフォレスも考え方を切り替えた

「もうあれだ、説得とかいらんだろ」
「え?!」
「こっちが配慮し様がなんだろうが変える気もないだろ」
「そうだが、どうするんだ?」
「アレ外して勝手にやるしかないだろうな、今までも君主が内政だの軍事だのやってた訳じゃないしどうせグレゴール殿に丸投げだろ?」
「ではありますが‥決定は陛下の「良し」が必要ですし‥」
「オレが見た所どうしょうもない愚君ではない、ワガママなお嬢様てだけで、現実を突きつけてやれば変わる可能性もあるが正直、それを気長に待つ時間もない」
「ふむ‥では?」

「こっちがやれる事をやって「示す」しかないな、それで、ファルメントも承認と云えばという事になる」
「ふむ…」
「と、いう訳でオレらは人魔の森まで引く、そっちで野営して軍は直ぐ来れる状況を作る一応両国の間ではあるし問題ないか?」
「はい、そこは私が告知しておきます、不戦条約は継続していますので恐らく問題無いかと」
「こう云っては何だが、もうこちらに出来る事が殆ど無い、実戦闘に成っても不戦条約では参加出来んし、最低そっちの君主の許可は要る」
「わ、わかりました」
「兎に角、後はそっちの問題だ、こっちが街道に置く軍を交渉に「利用」しろ」
「はっ」

そうしてフォレスらは即日、何かする事も無くウィステリア本国を去った

そこから2日程南に下がった場所でグランセルナ軍は森の傍で野営陣を組んで滞在、状況の好転を見守る姿勢をとりあえず取った。当日からフォレスはそのまま本国への事態の通知、指示も出す

「インファル居る?」
「本国居るよ、何?せんせー」
「お前の軍もコッチのエミリアと合流してくれ、俺グランセルナ帰るわ、ここからだと指示とか会議し難い、準備だけしといてくれ」
「あいよー」

伝心だが、大よそ国家の指令とも思えぬ会話が成されてフォレスは単身グランセルナへ蜻蛉帰り

即日、既に戻った時には夕方だったが緊急会議が開かれた、事態の詳細を説明されて一同も呆れ顔だ

「と言うかですね、手を差し伸べる意味が分りません」

メリルの言も尤もである

「首脳部の連中を見たが、向こうは割とまともだし捨てるのは惜しい。このまま行くとヘイルズに回り全部取られる事になる、それは避けたい、この際だからヘイルズ自体潰してしまおうと思っても居る」
「は?!」
「つまり、ヘイルズが南西にチョッカイ掛けるのを逆用してこちらから攻め落とす、と?」
「そこまでは考えてないなぁ、こっちの兵力無駄だし拡大政策はしないつもりだ」
「それでは?」
「うむ、策を説明するぞ」

会議は10分で終り、一同同意して其々、急ピッチでの準備が成された

まず、翌日朝には準備を整えたインファルの軍がそのまま西に出撃、同時、グランセルナ北関所のクローゼらに援軍準備指示

バルクストのオルガ、アトロスらにも策を伝えた、フォレスも外交の為の「書状」を用意して事態の展開を待った

一方、西、ウィステリアではヘイルズからの脅迫交渉があった、無論流れは全く同じだ

「決断は決まりましたか?ファルメント様」
「ヘイルズと併合、婚姻という話なら受けん!」
「では、我々と戦うというおつもりで?」

無論、そんな事が出来る訳がない、ファルメントも王座で拳を握って「ぐ‥」と唸るだけだった。グレゴールはその場で先に配慮された通りグランセルナとの関係を利用して凌ぐ

「当方としても無意味な争いは避けたくあります、が、どうしても陛下に無理な要求するとあらば、それも辞さない用意があります」

そうグレゴールが宣言した為ファルメントも周囲の官僚も驚いた、当然だ戦って勝てる相手ではない、強行姿勢を取れる状況にない

ファルメントもグレゴールを見て睨んだがグレゴールは睨み返して抑えた「余計な事はするな」と

「ほう‥では、こちらもその準備を進めましょう」
「結構です、ですが、こちらも無策ではありません」
「それは?」
「ウィステリアは元々「不戦条約」の関係にあった「グランセルナ連合」との「協力」をお願いし、その関係を結んでおります。既にフォレス王は援軍の派兵を行い、我国の南街道並びに領土境界線に追加援軍の用意を整えてくれています」

それで相手、ヘイルズの外交官も顔色が変わった

「初耳ですな」
「つい、先日の事ですから、ですが、ウィステリア南街道2日の所に滞在して居られます」
「そうですか、ですが、ヘイルズの要求は変わりません、よく、お考えになられた方が宜しいでしょう」

そこで会談は終りヘイルズ側も自国へ戻った

「どういう事だ!?」とファルメントも怒鳴ったがグレゴールは平静だった
「云ったままの通りです、フォレス王はこちらの無礼な物別れに関わらず自国の軍を「残していく、窮地にあっては使え」との申し出をされ実際南森付近に軍を滞在させて居ります」
「ふ、ふざけるな!奴らと組む気は無いと云ったろう!?」
「ですが私に全権委任されております」
「だったらお前が何とかしろ!」
「出来るならそうします、ですが、もうどうにも成りません、陛下にもその程度の事はお分かりでしょう、先ほどのヘイルズの脅しに何も返せませんでした」
「ぐ‥、貴様まで‥」
「私は先代から仕えるこの国を潰したくはありませんその為なら方法、手段を厭いません、それだけの事です」

ファルメントは王座から一歩も動けなかった、あまりにもその通りだからだ、だが、それだけでは済まなかった、ヘイルズの外交官と入れ替えに今度は自国の兵が駆け込んでくる

「に、西砦に敵です!」
「!?」
「どういう事か!?」
「はっ、西領土線に隣国が主軍を出し、牽制の構えを‥数六千!」
「何故‥」

そう、ファルメントは呟く様に云った、が、ある意味当然の事態だ、ウィステリアに北からヘイルズが圧迫を掛ける、それに対しての対応が碌に無い

逆方向から包囲の姿勢を見せて漁夫の利を狙うのは当然だ、しかもウィステリアは軍力が低い上に潤っている国、まして、南西地は西、北からの侵攻もある、押されてこちら側に来ただけの事だ

それが上手く行かなくてもウィステリアから撤兵交渉等図り、何らかの取引が出来る

弱り目に祟り目には、戦略的場合に置いて意図した展開がある、それがこの事態だ

グレゴールは直ぐに指示を出す

「兎に角、西との交渉の場を作る、直ぐに書状を」
「ははっ」

一方ファルメントは王座から去り私室へ引きこもった、ベットに座って、ただ俯いてぶつけ様も無い怒りと悲しみを呟くしかなかった。後追って部屋に訪れたグレゴールに力なく云った

「何故‥こんな事に‥」
「平和な世、ならば苦境を体験せずに済みましょう‥ですが今は乱世であります」
「ヘイルズの要求を受ければ良いのか?‥」
「‥それも選択肢の一つでしょう、ですが最善とは思いません」
「では?‥」
「ヘイルズは先のバルクスト開戦でも分る通り領土拡大政策を行っています、その為にかなりの軍備を行っていますし、得とあらば我々に行った様な脅迫も辞さない、臣従して国が良くなるならそれも良いでしょう、が、そうは成りますまい」
「グランセルナと組め、というのか」
「‥私の個人的意見ではありますが、グランセルナは「連合」という形を行っています、弱国同士が組み、その繋がりを持つ事で「連合」という領土を広げております、現に、連合に加わった各国への援助、援軍を積極的に行い維持、拡大を成しています」
「だが、奴は好きに成れん‥」
「あくまで、選択の一つとして申し上げて居るだけです、グランセルナ連合は今までの経緯見る限り、強引な併合は行いません、組んでもウィステリアの独自性を失う様な真似はしないでしょう」
「何の保障もあるまい」

「同感です、ですがフォレス王は優秀なお方、そして心あるお方です、確かに見た目は位高き者に見えないでしょう、が、その行動と思想によって「形」として生き様を見せて居ります」
「そう、なんだろうか‥」
「陛下、冷静に成ってお考え下さい。誰がこの時期、どんな理由があって、ウィステリア等に手を差し伸べてくれますか?」
「?!」
「戦とあらば自国兵に被害も出ましょう、ですが、彼は自国の兵を出しています、しかも極めて不利なウィステリアの状況に関わらずです、この苦境にあって周辺国は何をしましたか?」
「漁夫の利を占める、事、だけだな‥」
「左様です、陛下に節を曲げろとは言っておりません、どうか、冷静に誰が本当に味方であるのか、それをお考え下さい」
「!‥、わ、分った‥今一度考えよう」
「はっ」
「それと、当面の事態解決も委任する」
「はっ‥グランセルナへの協力を受け入れても宜しいですか?」
「ああ‥だが、一時的な事だ、その、行動とやらを見極めてからだ」
「分りました、では早速」

そうして退出したグレゴールは即座に、まずフォレスに伝心での連絡を取った

「ゴーサインが出たか、が、一時的な事、か」
「申し訳御座いませんフォレス様‥そちらの負担に成るような形に」
「別に構わんよ、実戦闘をやるつもりも無いし」
「え?!」
「まあ確かにハタら見れば貴国を助ける意味はあまりないのかもしれないが、南西地でも乱闘になると我々も不利益が多いしな」
「確かにそうですが」
「まあ、任せとけ、それからこっちの軍と参謀を本国に送っていいか?」
「勿論です、ファルメント様も同意されました」
「了解」

フォレスはそのままチャンネルを切り替えインファルにも通達

「向こうのOKが出た、インファルは単身でも先にウィステリアに向こうの周囲脅迫の反撃を頼む」
「あいよー。どこまでやっていいの?」
「んー、とりあえずエミリアの残り主軍五千も出す、装備輸送200、兵糧、バリスタ隊と医療隊も後詰に置いた、思いっきり釣ってやれ、エミリア居るし大丈夫だろ、ただ、十日は稼いで貰いたいな」
「分った、直ぐ飛ぶわ」
「頼む」

そして更に今度はバルクストのオルガへの連絡である

「オルガ」
「は、はい、陛下」
「最初の一手が動き出した、アトロスらに告知して出撃準備を、タイミングはまた告知する、まだ数日掛かるハズだ」
「かしこまりました」

そのまま伝心での告知を終え、グランセルナ閣僚会議へ、が、命令は一つ

「動き出したぞ、作戦開始だ」
「はっ」
「クォーレとティアは予定通り書状を頼む、伝心、飛行があるから問題ないだろ」
「分った」
「お任せあれ」
「待機させておいた援軍軍二段も直ぐ出していい、ウィステリア本国への滞在許可が出た」
「はは」
「必ずしも上手く行く、という訳でもないが確率的には高いだろう、頼むぞ」
「了解です」
「では、其々頼む」

そうして全ての準備を整え、事を待つだけと成った

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200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月
ファンタジー
「もううんざりだ。俺は軍を抜ける。王国なぞ知ったことか!」 「ふん、無駄飯食らいの給料泥棒なぞこっちから願い下げだ! さっさと出て行け!」  ブラックすぎる王国軍の対応に嫌気が差した俺は軍部トップや、貴族のお歴々の面々に中指を立てて自主脱退を申し出た。  ラスト家は親子三代にわたり召喚士としてテイル王国軍を支えてきた一家であり、クロード・ラストは三代目である。  テイル王国はモンスターを軍に導入する事で、世界でも比類なき軍事力を手に入れていた。  軍部で使役されているモンスターはラスト家が召喚してきたモンスター。  その事実は長い年月の中で隠匿され、真実を知るものはごく少数であり、お偉方はそれを知らない。   「本当にいいんですね? 俺がいなくなったら、王国は終わりですが」 「虚勢はそれだけかね召喚士君。今やテイル王国は大陸一、軍を抜けるとなればむろん爵位も剥奪させてもらう」  最後通告を無視されたクロードは全ての仕事をほっぽり出し、魔界との境界近くにある田舎で暮らす事に決めた。  しかし軍部の機密保持のため、暗殺者に狙われて瀕死の重症を負ってしまう。  その時、一命を取り留めたクロードに前世の記憶が蘇り、前世もまたブラック企業に在籍し過労で命を落とした経緯を思い出す。 「貴様、ウチで働かんか」 「はい?」  魔界の境界で魔王軍にスカウトされたクロードは、ホワイトな環境に驚きながらも着々と地位を築き上げていく。  一方、クロードが抜けた穴は大きく、軍部にいたモンスター達が全て消失、兵士達が相次いで脱退するという事態になったテイル王国はクロードを探し、帰ってきてくれと懇願するが--。 「俺もう魔王軍と契約してるんで無理」  クロードは自業自得な王国を身限り、自分を正しく評価してくれる魔王軍を選び、魔王の覇道に手を貸すのだった。  これは虐げられ続けた影の大黒柱の転職活動記録と、世界を巻き込んだ騒乱の物語である。

ぼくは帰って来た男

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 あっちにとっては→必要な召喚 =≒≠ こっちにしたら→いきなりの神隠し そんな召喚から帰って来た元勇者の六歳児とみんなの 召喚と転移と神隠しと それからやり直しの話

ダンジョンが出現して世界が変わっても、俺は準備万端で世界を生き抜く

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人間不信になり。 人里離れた温泉旅館を買い取り。 宝くじで当たったお金でスローライフを送るつもりがダンジョンを見付けてしまう、しかし主人公はしらなかった。 世界中にダンジョンが出現して要る事を、そして近いうちに世界がモンスターで溢れる事を、しかし主人公は知ってしまった。 だが主人公はボッチで誰にも告げず。 主人公は一人でサバイバルをしようと決意する中、人と出会い。 宝くじのお金を使い着々と準備をしていく。 主人公は生き残れるのか。 主人公は誰も助け無いのか。世界がモンスターで溢れる世界はどうなるのか。 タイトルを変更しました

聖騎士殺しの異世界珍道記〜奴隷を買ったらお姫様だった件〜

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 彼には秘密がある。殺した奴のスキルを奪うスキル食いのギフトを持っているのだ。最初に一つ奪うまではハードルが高いが、そこからはそれを駆使して相手を上回れる可能性を秘めた超チートだ。  戦闘奴隷として死に戦に投入されるも、片手を失いつつ見事に敵将を討ち、その功績から奴隷解放された。  しかし左手を喪い、世話をさせるのに男の子だと思った奴隷を買う。しかし実は女の子だった。また、追加で買った奴隷は殺した聖騎士の婚約者だった・・・  

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