境界線の知識者

篠崎流

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先の戦争での協力のあったロンドギアの王城へ足を運んだフォレス、城下町を回って見学した後、城へ入った

ロンドギアも王政継承の国で兵力は一万数千、南方主要4国では一番軍力は少ない

比較的安定的で穏健な治世。二つの交易の街と領主街を抱えた商業地域に近い体勢である、領地街の街道交錯地点でもある事を考慮し独自に治世を任せその上で税を納めるというシステムを構築

人口も多いが徴兵も行われず志願の類で賄っている、その理由の一つが食料の不足と地勢上強国に囲まれている点、つまり「金はあるけど、米が無い」という状況である

そして王も若いが、配下の将も若く、守将として非常に有名な国である、王は「アルネスト=ロンド=クライブ」19歳の王で先王の実子でバランスに優れた人物である

彼と謁見の間で対面して挨拶して顔を合わせた

「アルネストです」
「フォレストだ」

強いて言えば、だが、見た目は若い学者風で聊か頼りない、威厳とかオーラとか全く無い、街で会ったら王だと気がつかない程だろうか、茶の髪と目を持った、どちらかと云えばハンサムという感じだ

が、既にフォレスは彼、アルネストが凡王で無い事は見抜いていた、先の交渉、戦時の判断からサーチするまでも無く分っていた

「先の開戦では陛下の配慮を頂き、感謝に絶えません」
「いえ、とんでもない、こちらとしては連合に恩が売れるのは、悪くありません、街道通過如きで」

アルネストのその言い草に思わず口の端が緩んだ

「素直な方ですな」
「は、すみませんつい‥」

どうやら隠し事が出来るタイプでは無いらしい

「なら、オレも本音でやらせてもらおう」
「そうしてください、僕も気が楽です」

お互い笑って正式会談はその場で終了、昼食の場を用意されて、其々の従者と卓を囲んでの会談に移り変わった

「王にしては質素だな」
「これでもフォレス様が来られるというので奮発したんですよ」
「普段は何食ってるのか気になるな」
「僕はあまり食べない方なので、パンとスープと果物くらいかな」
「ほう、オレとあんまり変わらないんだな」
「はは、なら何時もどおりにすれば良かったかな?」
「そうだな、まあ、会談と成ればそうも行かないのはあるが」
「他国だと怒る人もいるだろうね「ウチの国の重臣を迎えるのにこの用意はなんだ!」とか云われそうだし」
「外交会談だともてなしによって重要かどうか判断する者も居るからなぁ」
「そうですね、何をつまらない基準で決めているのか‥と、これも失言したね」
「構わんさ、気にする人間ではない」
「ですね、フォレス様は非常にやりやすい、で?今日はどのような」

「ああ、アリオローラの方に支店の許可も貰ったそうで」
「いえいえ、どこの商人さんでも店が多くなるのは有り難いですから」
「それに関連した事なのだが、水稲の種、苗、作り方、育て方の指導がカハルから来る独特の手法がいるのでね」
「わかりました」
「それから家畜の類が少ない様だな」
「そうなんですよ、何しろ住民が多いので、食料関係が兎に角回らない。飢えさせるわけにも行かないし、周囲は食糧輸出に積極的じゃない、年中戦時だったし」
「今回は多少改善されるでしょう」
「だと有り難いです」
「そこで、だが、オレの方から芋蔓等、他の、食糧生産品の苗や種も提供する」
「宜しいのですか??見返りは?」
「そうだなぁ‥今後とも良いお付き合いをくらいかな?」
「それはもちろん」

「それと相互協力の同盟を」
「それは寧ろこちらからお願いしたい、ですが、この状況だと連合の方が損しませんか?」
「そうだなぁ‥こちらとしてはそういう意識はあまり無いなぁ」
「と言うと?」
「友好のある国同士が次々と組む事で他の強国、戦争がお好きな連中を止めて動き難い事態を作る、というのがそもそもの目的だ、その意味連合各国は元々戦を望んでいないし、「民」中心の治世派だ」
「ふむ」
「故に現在の情勢からどこか一強になるのは望んでいないし、拡大戦略は考えていない、だから、そちらが様々な面で強くなるのは有り難いとも言える」
「防波堤ですね」

「ハッキリ云えばそうだ、オレ自身も世界の統一は考えてないし、連合の強化によって連合と言う「国の領地」を増やせば良いと考えている」
「なるほど、よくわかりました、が、こちらが反転して連合を叩くという考えは無いのですか?」
「その為の寄り合いさ、そしてその場合やった当事者が不興を買う、人の評価、てのは案外大事なもんさ」
「確かにそうですね、そうなると誰もウチと外交もしなくなるし民心も離れる」

「ああ、そうなれば自然自爆だろうな、それを覆す程の軍力なり覇王の資質でもあれば別だが」
「それも嫌な流れですねぇ」
「そうだな、出ないとも云えん、そうならないため、成っても対処出来る形を作って置きたいのさ」

会食の後、用意された同盟合意書にそれぞれサインと印
スムーズ且つ和やかなまま正式会談は終了した

「所で、ロンドギアには有名な将が居るとか」
「ああ、もう会ってますよ」
「ほう?」

そこでアルネストは衛兵に声を掛けて走らせた

「城下門でお迎えした、と言っても挨拶はしてないでしょうねぇ、帰り掛けに紹介しましょう」

と、そのまま二人で城の門まで歩いた、そこで対面から表れたのが女性騎士

「カンツォーネ=ロンド=クライブです。軍の司令を勤めています」
「と言う事は」
「ええ、僕の姉です」

正直似て無いな、と口に出そうになる。髪の色は同じだが王と違って余りにも偉そうと言うか迫力のあるキッとした目元の、美女という感じだった

「似てないでしょ?」
「顔の作りは似ているな、が、女性将とは思わなかった」
「フォレス王の所も女性司令官であろう、私が将でも可笑しくはあるまい?」
「南方で最高の守将と聞いていたのでね」
「フォレス王も王には見えんな、殺し屋みたいだ」
「実際二年前まで冒険者だったからな、ついでに言うと魔術師でもある」
「フ‥益々、そう見えませんな」

アルネストは割って入って頭を下げた

「す、すみません、フォレス様、姉はズケズケ言う人で‥」
「フ‥構わんよ、誰が相手でもズケズケ言うくらいのがイザという時役に立つ、千人の諾々は一士の諤々に如かず というやつだ」
「成る程、ご尤もで‥」
「それに、頼りがいはありそうだ」
「少なくとも僕よりはありますね、君主も代わって欲しいくらいです」
「ま、兎に角、これからは同盟国だ、仲良くしようぜ」
「はい、よろしくおねがいします」

そうして何度目かの握手をして別れた

「お前も王に見えんがアレも王に見えんな」
「見えるか見えないか、で云えばそうだけどね、でも「予言の王」とまで呼ばれるお人だ、それに、先の戦での結果を知ってるだろう?」
「ああ、あそこまで大胆な策を打つ奴もそう居ないだろう、それに、案外懐が深い」
「そうだねぇ、あれだけさばけた王様もめずらしいよ」
「何にしろ、敵に回す人物ではないな」
「同感だね」

フォレスはそのまま帰り掛けに護衛に付いたエルザやアノミアと共に南に二つある領土内の街も回った。

街道上にある為交易の要所でもあり「商」の意味では非常に潤った土地と国である、逆に言えばどちらの街も守り難い側面がある

何しろ侵攻ルート上にそのまま守らなければ成らない街があり、かなり戦力を注ぎ込まなければ成らない上に先読み、早い段階での援軍が必要になる

もう一つが其々の街に一定の守備軍が必要という事だ、兵力分断を自ら、常時やっているようなもので、少なくとも敵の1,5倍くらいは全体兵力が無いと話に成らない、まして砦や城でも無く、防衛施設しては貧弱だ

にも関わらず兵糧の問題からロンドギアの全体兵力は一万二千程度で、その時点で周囲国の半数程度しか居ないのである

「これは、オレが君主だったら禿げる地勢だ」
「だろうな、ここまで守り難い土地も珍しい」
「それだけに、ウチと組むというのはまっとうな戦略か」
「ですねぇ、これで敵は北側だけになりましたし」
「さて、折角だから地元産の料理でも食って帰るか」
「いいね」
「やったです!」

手近な宿を取った後、三人は酒場で酒と地元料理を楽しんだ

フォレスらが飯を食っている頃中央でもターニャらが中央の上層部と会食していた、宗教国の側面もあるが、別段料理が精進料理という事でもない、普通に王族に出される様な豪華なモノだった

ターニャはその立場にあって、教皇にも呼ばれて話す様になり比較的穏やかに馴染んでいた

彼女の生い立ちとフォレスの養子となった経緯、神格者としても多く持つ特殊能力、当人の裏表の無い性格からペンタグラムでも多くの人に信認されていたのである

国家間会議の類もあったのだが、有効な方向性や決定は未だ成されていない、実質、実働部隊でもある外交摂政も、既に余り効果は無かった、過去、フォレストが訪問した際云った
「ペンタグラムの内側で何も知らずに過ごすのだろう」という展開

住民の見ざる云わざる聞かざるの空気が既に成されていたとも言える

教皇はこの時14に成っており自身も外に見せている「暗愚」の傾向とは逆ではあった、身近に居て彼と交わしたターニャにはそれが分った

ただ、彼自身、何かを成す立場に無かった。教皇としての象徴の立場、これを崩す事も出来なかった、それを崩す、イコールペンタグラムの立場自体危うくするモノだとも分っての事だ

そして国家間会議での連合についての話題もあり、先の開戦の余りにも見事な策から、感嘆の声もあった、単に良い作戦だったというだけでなく、連合他国と連携したかなりの大戦略作戦であるという所が大きい、集団というのは大きい程連携するのが難しいからだ、これを完璧に連携した勝ったのだから。無論面白く無い各国代表者も居ただろう

が、基本的に代表者として出ているターニャの「ご贔屓」具合あって、追求されることも無く皮肉の類も浴びせられなかった

「面白く無い」の代表者の一角は勿論、中央の強国と北で3国を押えたゼハト、嘗てエミリアの故郷ベリオールを滅ぼした国の重臣である

「今回の会議も暇だったな」

そう客室の応接セットに座って天を仰いで退屈そうにしていたアデルである

「ここに来ても面白くは無いでしょう」
「だね、強いて言えば例の予言の王の娘くらいかな」
「なにやら教皇とも仲良くなったみたいですが‥」
「まさかこういう手段で来るとはね、意外だった」
「神格者との事ですが?どうなんでしょう?」
「事実らしいよ、サーチ術の使える連中が調べてたみたいだし、例の疫病騒ぎでも症状の重い者を「手」で治したとも噂されている」
「それはまた、やっかいな事で‥」
「ある意味、教皇様より神格者に相応しいね、何の力も見せれない偽者より効果がある」
「そういうものでしょうか?」
「見える、というのは決定的に強いよ、論や弁舌より説得力がある百聞は一見にしかず、て云うだろ?奇跡の力を見せられては崇められるのは当然だ、何しろ「事実」なんだからね」

「では、どうします?」
「別にどうもしないよ、ほっとけば何れ居なくなるだろうし、予言の王の娘だからね、ただ‥、南の事も意外ではあった」
「ご尤もですね」
「ま、僕らだけじゃもうどうしょうも無いな。さっさと帰ろう」
「了解です」

フォレスらは観光の後、カハルやバルクストへ、終戦から一月だが、人事を定めて、南関所と滞在施設の建築も順調だった

基本的にティアの統治は至極まともで隙が無く「維持管理」という意味ではキッチリしていた

軍備についてもアトロス、ロバスト両将らが居る事も大きく、自身の当初の軍8000から、単身でも一万まで志願だけで集めて、とりあえずの軍力を整えた

ここでエミリアもフォレスが戻るついでにグランセルナ本国へ戻る事と成った、バルクスト単身兵力ではまだまだ少ないが後方にある滞在施設さえ整えば、中継援軍派兵施設となり、大軍が置いて置ける為それ待ちという方針である

更に一ヶ月後にはグランセルナ北砦が滞在施設としての官舎が、とりあえず完成した為、ここへの駐留軍の選抜を進める事と成った

「セメント、の楽な所は建築の早さだな」
「同感です、砦の方はまだこれからですが、官舎は完成しているので選任ですが」
「北二国は当分は大人しいでしょうがまだまだ軍力はある、ロドニに二万五千、ヘイルズもまだ一万程あります、バルクストは一万ですから、こちらも一万は送らないとまずいですね」
「それとロンドギアの事もあるしね」
「クローゼとテラの云う通りだ、が、こちらもアチコチ人を回しているので少々人選に困るな」
「そうですねぇ‥手元に騎士団とエミリア司令だけに成りますし‥」
「バルクストを取る予定じゃ無かったからなぁ~」

「先の戦闘からの捕虜でこちらに4千程上積みされて数は強化されましたが、本国側の指揮官不足の面が、それに錬度の面でまだ直軍には出来ません、一時休暇を出してますし」
「軍師の類もそうですね」
「困った‥また、探すしかないか‥」
「当面は情勢が動くとは考え難いですからねぇ、時間はあると思いますが‥」
「親父さんも現地から引くとまずいし、カルディアも統治者だからな、統一国家で無い事の問題は実際あるよなぁ‥」
「とりあえず、でいいなら自分が行きましょう、一応指揮官職でもありますし」
「そうだな、クローゼに任せよう」
「はっ」

とりあえず人事で決定され、現地の屯田兵と本国から8千出して北領土線の駐留軍を一万にどうにか整える形と成った

当面動きは無いと思われたのでそれでも問題は無いだろうとされた、その間、散々考えた挙句其々の地域の王にも相談したが、南東部族から親父さんの一声で幾人か候補が挙がった、というより「また」娘を宛がわれた

中央官舎の謁見の間で当人が訪問して笑いながら置いてった

「ウチの次女だ!陛下の「バランスの良い武将を寄こせ」という贅沢な注文にも答えられるぜ!」

などと言って紹介される

「リコです、宜しく陛下」と当人も挨拶した

「親父さん、何人子供居るんだ?‥」
「息子二人と娘四人だ」
「それはまた‥」
「リコは20歳だ、冷静で指揮官にはぴったりだぜ?それと早く子供こさえてくれよな?」

と念を押された、どうもこの子も献上扱いらしい、周りにいた一同も思わず目が点である

「と、とりあえず感謝するよ、何人も妻を取る趣味は無いが」
「何云ってんだい?!、オレなんか五人いるぜ?!」
「マジデ?」
「おうよ!」

と、笑いながらおっさんは帰った

「とりあえずサーチだな‥リコ、オレの部屋に」
「主様、気が早いぞ、まだ昼間だ子作りの時間ではない」
「そーじゃないから‥」

そしてサーチの結果親父さんの言う通りだった

「青と赤が均等、昔で言う「豪胆」だな勇と智のバランスが良い確かに将軍、提督向きだ、武力も結構あるし、猪突でも無いからいけそうだ」
「で?どうするんだ?」
「直ぐにどうこうではないな、とりあえずエミリアに任せる、マギとセットで使えば良い感じに押えられるかも?」
「分った」

とエミリアも返して応じたが傍に居てずっとジト目だった

「なんだ?」
「結局貰うのか?この子「も」」
「おい、勘違いするな‥人材の面でだな‥」
「ふーん、ま、確かにこの子もいい女だしなぁ」

リコは緑掛かった黒髪ショートで背が高い、顔も中の上だし、何よりかなりグラマーだ、エミリアがジト目を向けるのもしょうがないと云えなくも無い

「オレを何だと思っているのか‥」
「何か知らんけどムカツク」
「酷い言いがかりだ」

ただ、エミリアの下で使ってみると比較的馴染むのが早かった、基本マジメ、リコもマギもよく言う事を聞くのと、武もかなりのモノだ

特にリコは軍錬の基礎と指揮がソツが無く、冷静沈着で指示が的確だった、所謂統率力があるというやつだ

姉妹なのでセットで、とテキトーに云ってたフォレスの意見も妥当だった、マギの猪突具合もリコが居ると緩和される為である

「結構楽だな」
「そうだろう」
「ただ‥流石に大軍を任せるのはなぁ‥」
「いんや、基本あの子らは首都、というかオレの下で使う」
「ジー‥」
「いやね‥基本離して使うと、嫌がるしさ「何故ですか王様!」て云われるし」
「まあ、確かに一応嫁候補な訳だし、ドネツクのおっさんも機嫌を損ねるかも知れんな」
「そういう事だ、首都周辺軍とかで指揮の類をやってもらってその上で、オレが付けば云う事聞くだろうし」
「なるほど」

「んで、そうなった場合騎士団が空に成っても良いわけで。まあ、ターニャが居れば、お前と二大主軍の構想もあったんだが」
「予想外にアチコチ派遣の事態になったからな」
「うむ、非常に困った事に」
「ターニャは呼び戻していいんじゃないか?ペンタグラムに置いておいても無駄だろうに」
「正直、ウチの事を考えるとそれはある、騎士団の3人が別軍なのも能力が発揮出来ないしな、クローゼは単身でも万能だからいいが、トリスとテラは偏ってる」
「そうだな、テラは武寄りだし、大軍指揮には向いてない、それほど戦術は出来ないし、トリスは智寄りで指揮も武もそこそこだからいいが、反面柔軟性に欠ける」
「そういうこっちゃ、クローゼを軍将、トリスが参謀、テラが前線指揮というのが一つの軍としては最高の連携と言える訳だ」
「たしかに」

「バラバラ派遣なのも実際はしょうがなくてやってる所がある、ターニャに城主と滞在軍の両方をやってもらうとか色々パターンもあるし」
「多分ウチでは一番の万能将になり得るからな」
「そうなんだよね」
「ペンタグラムに置く理由があるのか?」
「色々な‥神格者でもあるし、姫だし、護衛にも成る、会議で一番他所から追求されにくいというのもある」
「ふむー」
「それとカルディアとも話したのだが、中央で「何か」が有った場合教皇を助ける意味合いだな、護衛でもターニャ一人で2,300は撃退できそうだし」
「そうか?」
「いやほら、ソウルオブリメンバーあるし」
「あー‥、自分が行くのが嫌だから出してた訳じゃないのか」
「そらそうよ。」

「しかし、いつか起こるかもしれない「何か」では抽象的過ぎるしずっと向こうに置くのはなぁ」
「まあ、色々構想はあった、てだけだがな、今はまた別の考えにもなってるし」
「そうなんか?」
「ああ、グラセルナ防衛戦で多重包囲戦やったろ?」
「うむ?」
「あんな感じで多すぎない小・中軍を其々の将に与えて、細かく動かして色んな策を重ねて使うとか有効だとも分かったしな」
「なるほど、それはそれで面白そうだな」
「とは言え、それも現状だと難しいが。同じ戦場に集結して戦うという状況があまりないし」
「各地に将を置いて派兵中心になってるしな」

そういった流れから、フォレスも散々迷った挙句、領地から個人武力のある者を交換でペンタグラムに送りつつ国家間会議に参加、まだ時間的に余裕はあると考え更に人材の収集に当った

無論それだけでは無く、すべき事が多い、色々な構想がフォレスにはあっただけに、任せられる人間や其々優秀な配下に補佐も必要である、特に「内治」の問題

どちらかと云えば「武」に偏った人材が多く、軍に置いても軍師、参謀で其々の将に付けられる者が極端に少ない面である、まあ将官其々が能力的にバランスはよく、個で前も後ろも出来るような人材は多いのでそこまで問題ではないが

連合の将官範囲、要するに能力、階級か立場の面で、一万前後の指揮可能な人材に限っても、アトロスとロバスト、クローゼ、エミリア、連合他国で言えばカルディア、南東部族長のドネツク、ロベルタでは主軍大将のベッケルスなど、知勇兼備な将官は多い方だろう

もう一つが中央の「不可解」がどうしても軽視する気になれずペンタグラムをまるっきり放置も出来なかった

本来他国の事であり、第三者から見れば、人材を出して補佐する意味合いも無いのだが、フォレスの個人的な拘りからそこは切り離せなかった

フォレス自身は午前中は城の謁見や内政の指示、午後は街や公共施設を回ってサーチというのを繰り返し行った

元々中央で働いていた旧バルクスト王家の姫のオルガも知性と良識が高いという事で、そのまま一行政官から、侍従に任命して閣僚に据え

もう一人は偶然だったのだが
元々やろうと思っていた所謂「医療隊」の神聖術士から、やけに魔力許容量が多い少女が居た為、詳しく調べて文武にバランスが良かった為、医療隊と兼任で騎士団の補佐に充てた

意外な事に地元だけでもかなり人材は居たのだが、殆どの場合「今の仕事が好きだから」という理由で断られる事が多いが、とりあえず「武」に偏り気味な人事は次第に解消されていった

無論それだけで無く「後」の事を考えて様々な手を打った、学校と図書館の拡大、志願制人材部署も作った「軍」の志願制度を「政」でもやってみようという試みである

今やってるフォレス頼みな人材収集をそこに移そうと考えた、所謂、高精度人材紹介所の様な物で、簡易なモノ、道具さえあれば別に術士である必要も無い、その道具は元々フォレスが所持している

早速昇格させたオルガを責任者に充て道具の使い方だけ説明して、これという人材を各部署に報告するという業務を任せた、と言っても「眼鏡の使い方」と「色の意味」だけだが

ちなみにこの「人材部」は中央官舎と街の間に用意されたが意外と好評を博した、自分が何に向いてるか知りたがる一般の領民も結構来る様になった為である

「戦術家の将、も本来なら欲しいが」
「そう贅沢も云えんな」

会議で、無く、フォレスの私室にエミリアらが来ての雑談である

「あの‥」
「なんだ?メリル」
「軍師や参謀、策、作戦の立案をする官は育成出来ないのですか?」
「難しいな‥」
「戦略戦術学科にそれなりに生徒が居ますがそこから登用というのは?」
「単に軍師と言っても実は色々タイプがある、学科の成績が良くても戦場では使えない場合もある、ウチでは基礎は教えているがモノに成るかどうかは実地でしかワカランのよね」
「そうだな、学問として出来ても現実ではダメなパターンもあるな、私が言う事でもないが」
「まあそうな、個人、将としては強いが策に掛かり易いとか、挑発に乗り易いとかだと基本通用しない事もあるしな」
「うむ」

「その事なんですが、卒業生の中でそのまま軍に入っている人がそこそこ居るのですが、それらの人を使ってみてはどうでしょう」
「そうだな、実地で、というなら軍錬の際、模擬戦なんかも入れてもいいだろう、紅白戦とか」

そう言われてフォレスも考え込んだ

「一理あるな‥やってみよう、何人くらい居るんだ?」
「5人かと」
「ではエミリアに任せる」
「ああ、準備する、全軍演習でいいんだな?」

グランセルナ軍では「軍錬」は3つある

一つが剣錬 刃引きした模擬刀での武装しての一対一の練習試合

2に武装錬 部隊ごとにその武器を与えて実際使ってみる事と基礎知識、弓なら射撃訓練、馬なら操作、槍なら振り方、後方支援なら荷の効率的な移動、等である

3、に全体模擬戦 実際の戦争と同じくフル武装で武器だけ木材武器を使って実際に打ち合う、枯れ木枝の弓や槍、騎馬、後方支援等も用意されての完全実地訓練である

特に3はグランセルナにしか採用されていない独特のモノで
略、実際の戦争と同じである

細かくルールが決められており、胸鎧以外の打撃の禁止、兜の上に羽が付けられ、それを落とされても死亡扱い、個人戦で敗戦したものから退場、本陣の旗を落とすか、半数を失った方が負け、軍を二分しての紅白戦である

この全体錬の採用あってグランセルナ軍は実戦闘が少ないにも関わらず非常に連携力が高く、強軍と言える集団力がある

その為、この全体錬を使ってそのまま戦略戦術試験を行ってもほぼ戦場と同じ結果が出る、と考えられ今回、選抜試験と全体錬が同時に行われる事となった

全体錬自体はそれ程頻繁に無いのだが、1日置きに1戦、通常の平地軍錬以外にも人魔の森や中央街を背後した決戦方式や、周囲山岳や街道を使った、遭遇戦等様々なシチュエーション

軍自体も1~5千に分けて通常の訓練に混ぜてなるべく普段通りに候補者にも告知せず行われた

その中でエミリアの周囲軍官が選んだのが20歳の青年、小隊隊長で大尉の シルバ=カーロン。戦略戦術以外も統率、剣や騎馬が出来、軍官からのウケが良いというのがあった

数回の見学の中でフォレスとメリルが選んだのが17歳の少女で、現在後方支援部隊の少尉ハーベスト=ベルセニス=アルデバイン

正直かなり好対照の選抜だった

シルバは見た目も精悍でオーラがあり、ハーベストは見た目からオドオドして文学少女な感じで軍人には見えない

中央の軍令会議でもエミリアも首を捻らざる得ない、もちろん軍の高官もである

「何でその子なんだ??」 「前線向きではありませんが‥」と各員疑問を呈した

フォレスとメリルの見解はほぼ一致していた

「恐ろしく隙の無い指揮をしますね」
「一番敵にするとめんどくさいから」だった
「そーなのか??」
「陛下の人選に異議はありませんが‥、正直申し上げて軍では後ろに置くしか無い士官ですが?」

そう言われてフォレスも資料をペラペラめくった

「ふむ、剣も弓もダメだし、馬錬でも最下位か。上司の評価も極めて宜しくないな、それで後ろに置いとかれてるのか」
「はい‥、その様な者を参謀や軍師や指揮官に使うのは流石に‥」
「いや、採用しろとは言ってない、そちらが軍で選抜したのならシルバをそのまま昇格させればいい、ただ、ハーベストはオレが使うと云うだけだ」
「名前が珍しいから、とかじゃないだろうな?」
「んな訳ない、サーチもしてない」
「ええ、指揮を見れば分りますあの軍錬の規模だと微妙に感じるかも知れませんが大軍であればある程、強いと思います」
「ふーん‥まあ、フォレスとメリルがそう云うならそっちに回そう」
「ああ、主軍に迷惑を掛けるつもりもないよ」

「では、陛下らはシルバをどう見ていますか?」
「どうだろ?どっちかって云うと「前線将」向きじゃね?」
「ですねぇ、自身が剣馬に優れているし、指揮自体もイケイケと言うか、誰かに付いて、参謀とか軍師とかは向いてないと思います」
「メリルの見解に同意する、状況の変化の対応力は疑問がある人の下に付ける人材ではないな」
「ふむ‥」

「が、軍側で選んだのならそれはそれで良いと思うぞ?優秀は優秀だろう」
「分りました、では、シルバは本軍につけます」
「それでいい」
「で、ハーベスト少尉は?」
「んー‥オレの直軍にそのまま転属で、まだ、オレの直軍は500くらいだし、直ぐ使う訳じゃないから、入れてから気長に育成するさ」
「分りました」

そして選抜された、シルバとハーベストを呼んで内容と結果が告知される

「あれは試験だったのですか‥」
「ええ??私が陛下の直軍!?」

が、其々の反応である

シルバはグランセルナの主軍分隊などの指揮担当を、ハーベストはフォレスの直軍文武官にと成った、この人事自体、軍の中では異論も出た

シルバは元々剣武に優れて居たので何れそうなるだろうなと思われていたのでそれ程異論は無いのだが、ハーベストに限っては軍ではおちこぼれ扱いだったので、流石に無いだろうという声もあった

ただ、陛下直軍と云えば、殆ど動く事の無い軍、総大将警護隊に近かかったのと数自体も少ないし、精兵でもなく、おそらく本国に攻められた場合以外では出番は無いとも思われていたので「陛下の個人的な選任」と流された

が、フォレスの選任が外れた事もないし、メリルも同意した事でハーベストの低い評価も見直される事には成った

早速軍令会議ではシルバにカハルへの派遣軍を任せようという意見が相次いで特に反対も無く決定される

フォレスもエミリアもトリスは補佐としても優秀だったので、本国付近で使いたいのもあって承認して、トリスとシルバを入れ替える事になった

早い話この選任は軍側の意向に近い物である。剣武に優れた若い隊長を早く出世させ、一軍を率いさせて結果を出させようと意図したものだ、主軍の軍官からすればいわゆる「可愛くて仕方無い秘蔵っ子」に等しい

特にカハル滞在軍はロベルタやロンドギアから近く、援軍軍としては最も使われる可能性が高い、直ぐに二千の兵団を与えられ、カハルに出発した

一方のハーベストはフォレスの軍、メンツに紹介された後、意見をすり合わせた

「オレの直軍だが、どういう構成にしたい?」
「ど、どの辺りまで増やしますか?」
「とりあえず三千くらいだろうな、どうせ首都に置いておいてもあまり用が無いので、やはり援軍派兵もやるつもりだ、その際代理指揮もお前に任せる、やりやすい構成にしていい」
「で、では、え~と、直属軍ですが派兵、援軍ですし、速度と距離重視で、藤甲兵と弓騎馬中心で陛下の戦場での護衛と劣勢守備に剣盾が2割くらい居れば十分かと~‥」

と自信なさそーに進言した

フォレスもそれでいいよ、と全部任せた。そもそも前線に行く軍でもないし、この直属軍はフォレスが指揮する以上参謀やら軍師が必要でもなく、経験を積ませる意味でも全委任にしただけでもあるが

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本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月
ファンタジー
「もううんざりだ。俺は軍を抜ける。王国なぞ知ったことか!」 「ふん、無駄飯食らいの給料泥棒なぞこっちから願い下げだ! さっさと出て行け!」  ブラックすぎる王国軍の対応に嫌気が差した俺は軍部トップや、貴族のお歴々の面々に中指を立てて自主脱退を申し出た。  ラスト家は親子三代にわたり召喚士としてテイル王国軍を支えてきた一家であり、クロード・ラストは三代目である。  テイル王国はモンスターを軍に導入する事で、世界でも比類なき軍事力を手に入れていた。  軍部で使役されているモンスターはラスト家が召喚してきたモンスター。  その事実は長い年月の中で隠匿され、真実を知るものはごく少数であり、お偉方はそれを知らない。   「本当にいいんですね? 俺がいなくなったら、王国は終わりですが」 「虚勢はそれだけかね召喚士君。今やテイル王国は大陸一、軍を抜けるとなればむろん爵位も剥奪させてもらう」  最後通告を無視されたクロードは全ての仕事をほっぽり出し、魔界との境界近くにある田舎で暮らす事に決めた。  しかし軍部の機密保持のため、暗殺者に狙われて瀕死の重症を負ってしまう。  その時、一命を取り留めたクロードに前世の記憶が蘇り、前世もまたブラック企業に在籍し過労で命を落とした経緯を思い出す。 「貴様、ウチで働かんか」 「はい?」  魔界の境界で魔王軍にスカウトされたクロードは、ホワイトな環境に驚きながらも着々と地位を築き上げていく。  一方、クロードが抜けた穴は大きく、軍部にいたモンスター達が全て消失、兵士達が相次いで脱退するという事態になったテイル王国はクロードを探し、帰ってきてくれと懇願するが--。 「俺もう魔王軍と契約してるんで無理」  クロードは自業自得な王国を身限り、自分を正しく評価してくれる魔王軍を選び、魔王の覇道に手を貸すのだった。  これは虐げられ続けた影の大黒柱の転職活動記録と、世界を巻き込んだ騒乱の物語である。

ぼくは帰って来た男

東坂臨里
ファンタジー
 あっちにとっては→必要な召喚 =≒≠ こっちにしたら→いきなりの神隠し そんな召喚から帰って来た元勇者の六歳児とみんなの 召喚と転移と神隠しと それからやり直しの話

ダンジョンが出現して世界が変わっても、俺は準備万端で世界を生き抜く

ごま塩風味
ファンタジー
人間不信になり。 人里離れた温泉旅館を買い取り。 宝くじで当たったお金でスローライフを送るつもりがダンジョンを見付けてしまう、しかし主人公はしらなかった。 世界中にダンジョンが出現して要る事を、そして近いうちに世界がモンスターで溢れる事を、しかし主人公は知ってしまった。 だが主人公はボッチで誰にも告げず。 主人公は一人でサバイバルをしようと決意する中、人と出会い。 宝くじのお金を使い着々と準備をしていく。 主人公は生き残れるのか。 主人公は誰も助け無いのか。世界がモンスターで溢れる世界はどうなるのか。 タイトルを変更しました

聖騎士殺しの異世界珍道記〜奴隷を買ったらお姫様だった件〜

KeyBow
ファンタジー
 彼には秘密がある。殺した奴のスキルを奪うスキル食いのギフトを持っているのだ。最初に一つ奪うまではハードルが高いが、そこからはそれを駆使して相手を上回れる可能性を秘めた超チートだ。  戦闘奴隷として死に戦に投入されるも、片手を失いつつ見事に敵将を討ち、その功績から奴隷解放された。  しかし左手を喪い、世話をさせるのに男の子だと思った奴隷を買う。しかし実は女の子だった。また、追加で買った奴隷は殺した聖騎士の婚約者だった・・・  

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