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初陣
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フォレスはカルディアのカハル北の山岳鉱山予定地に訪れていた、カルディアからの要請である
「まず、地図を見てくれ」
「ふむ」
カルディアは屋外のテーブルに地元地図を広げた
「ここは山岳の切れ目がある、無論移動出来る程ではないが」
「む?、丁度後ろに出られるのか」
「そうだ、距離も3キロちょいか」
「ほほう、ココを切り開いて「道」にしてしまおう、というつもりだな?」
「流石フォレス、話が早い」
「現地で見ると明白だ」
「丁度、北東、山と山の麓に近い物が交錯して低くなる、ここを直線に掘削を続ければロベルタの南、つまり後ろに出られる」
「そうだな、こっちからの援軍の最大の問題はこの山脈だ、時計回りに大きく迂回しないと行けない」
「ああ、そこで鉱山の開発のついでに裏口を作りたいと思ってね」
「必要なモノは?」
「技術だな、金はあるが、掘削道具は無理だ、提供してくれ」
「いいだろう、工作兵を追加する、カハルの街の軍事施設の建築も程々でいいだろう」
「ウチの街は元々宮殿デカイしそのまま駐留施設に出来る、そこまでデカイ施設を作る必要はないし」
「分った、こっちで使ってるモノの技術も伝えよう、技術者を送る」
「正直普通のやり方だと1キロ程度でも1年はかかるし」
「問題はどちらに敷くかだな」
「まあすこし蛇行した道になるが地上側でも問題はないな、測量してみたが、裏街道を上に敷設でも高低差はそこまで出ないし」
「そうだなぁ万単位の軍が通行する訳だし、多少面倒でも上のが安全かなぁ」
「ではその方向で計画しよう」
早速フォレスは当日には伝心で本国に告知する
「とは云え、それでもそこそこ時間は掛かるが、一応アタシのとこでも街人に金を撒いて人集める、多分年内でいけるかもしれん」
「わかった」
その後、カハル宮殿に一日滞在そこで今後について話した
「こういう流れは読めなかったなぁ」
「だな、オレも意外だったよ、一応バルクストの旧軍を吸収合併の形になったので戦力は向上したが‥」
「そうすると単身兵力は?二万六千か」
「ああ、でだ、カルディアならどうする?」
「今は動かないだろうな、あのバルクストの落ち方は不可解ではあるが」
「オレもそこは気になる」
「悪い偶然が重なったと云えなくも無いが、実際初代王と最後の王は高齢だし元々健康ではない、が、若い王子のは明らかに怪しい」
「だよなぁ」
「とは云え、調べる方法もなかろう、もう国自体無い訳だし、それに中央もやばい」
「だなぁ、このタイミングでの疫病も重なりすぎてるだろ」
「それはまあ、届かない所の話だし、仕方無いが」
「ウム、今後だな」
「アタシならどうせ崩れた均衡なら北に動いてもらうね」
「ふむ?オレは誘引策を考えるが」
「どっちでもいいと思うぞ?、バルクストの防波堤の役割が消えたなら寧ろ、攻めて来てくれた方が有り難い」
「んー、釣り戦法つっても今は掛からんだろうし」
「基本攻める状況に無いんだし、防御方針なら「待つ」しかないだろ、こっちから敢て戦力を出す必要も無いし、ただアンテナは張っていた方がいいが」
「そうだな、流れが変わりつつある、それと内部の整えだけは急いでおこう」
「後は軍備か、そこでアタシの方なんだが、元々騎馬軍だし、攻撃型、んでの割りに街自体防御系ではないんだが、どうしたもんかと」
「馬か‥いっそ、チャリオットでもやるか?」
「戦車軍か‥、出来なくは無いが‥コストがやばそう、そもそもそれも攻撃型だろう」
「ああ、いや、これは構想として元々あるんだが小型バリスタとかとくっつけたらどうかな、てのがあってな」
「ふむ?」
「ウチの弩より射程長くした大き目の固定砲台みたいのを合体させたらどうなんだろなて思った事はある」
「なるほど、どうせ元々馬車に近いからデカイ車台にしちゃえて事か」
「まあな、戦況によって換装して普通の輸送に使ってもいいし、自軍の後ろに置いてか陣の左右に置いて移動が簡単な砲台みたいにしようかな?みたいな」
「面白そうだな、ちょっと見てはみたいな」
「何れ、グランセルナの装備を送る事を考えて居るが‥まだ、そこまで出来ん」
「そうか」
「まあ、武装増やす意味だな。馬は余ってるんだろ?、それにうちらなら出来ると思う、どの地域も裕福だし」
「そうだなぁ‥10くらいなら、まあ、やってみるか、有効な兵装には違い無い‥」
「その程度なら問題ないさ、が、小回りが利かないのと平地の多いカハル周り限定だな、今の所カハルの危機と言えるのは南西橋からの侵入くらいだがそこを押える意味でも使いやすい」
「構想だけあるんで実験的にやってみる、で、基本方針は良いとして、全体戦略だが」
「大陸全体か?」
「ああ」
「まずはカルディアの意見を聞きたいね、オレはそれ程戦略眼がある訳ではないし」
「そうか?」
「なんといったらいいのか‥先のバルクスト周辺の流れを見てもそうだがオレは全部後手後手に回った、運よく上手く運んだだけの話で、読んで結果出した訳ではない。早い話、起こるべき事態に対して10用意してそれが嵌ってるだけで「読み」という面で優れている訳ではないんだ、それを実感してる」
「だからアタシの意見か」
「うむ」
「そうだなあ、材料が少ないのでアタシも何とも云えんが、何らかの謀とも思う所はある、北は兎も角、中央と南の一件はあまりにもタイミングがいい」
「うむ」
「裏があると、一割くらいは考えているが、おそらく、そう考えると、3手目があるはずだ」
「ふむ、中央で何かあるかな」
「バルクスト周辺ではもう勝手に動くだろう、均衡を崩した訳だし、私が謀を張る側の立場ならこの崩れをでかくするな」
「例えば?」
「憶測の域を出ないが、乱の拡大や騒乱を狙ってなら真っ先にペンタグラムを潰しに掛かるね、中央に居て、拡大を抑えているのは明らかにアレだ」
「確かに一番邪魔だな、で、三手目はどうする?」
「そこは色々だなぁ、中央の権威を貶めて誰も裁定を聞かなくするとか。具体的な手段は何とも云えん」
「確かに」
「が、我々にはそれを妨害する手段が無いなペンタグラムに繋がりが無い、寄付もしてないし、道もないだろう」
「ロッゼは多少あるだろうが‥アレも天魔戦争での「天」の側の一族らしいし、後はオレとカイルの個人的付き合いがあるくらいか‥」
「当面はお前の北からの攻勢の対処でいいと思う、近い所の話で言えばそれが一番確率高いし」
「確かに、それも含めてだが、やっておきたい事も一つ残っている」
「と言うからにはアタシに出来る事か?」
「そうだバルクストの東、ロンドギアとの外交を一つな」
「聞こう」
カハルから馬車に乗って戻る途中、そこの事をゆっくり考えた、フォレス自身の知識は外的要因によって得ているだけで彼自身は元々極端に頭が良いとか、才能があるという程ではない故に、カルディアの様な人物と話すのは発見があった
「この一連の流れは不可解」
その見解が得られたのは大きかった。彼は自身も言う通り「転ばぬ先の杖」で起こりうる10の可能性について、あくまで10の用意を整えて事前対処しているに過ぎない、予言の王等言われる程先読みが出来るような、特別の駿才ではない
だからこそ、他人の、もっと優れた人間の意見を聞くのを憚らない、そして、直ぐに「11個目」の対処にも当った
本国の庁舎に戻って直ぐ筆を取った、アリオローラの本店へ行って手紙を委託
「これを中央に届けてくれ、個人宛だが」
「お主も中央と繋がりを作るのか?」
「出来ればな、が、そいつは媚を売る事ではないな」
「それと、支店の類から情報を、あくまで商人という立場での一般的な数字でいい」
「直ぐ取れるが、しかし、どうするんじゃそんなもん」
「国の財政が分ればどこが伸びてどこが無理してるのかだいたい分るさ」
「ふむ‥そういう事か、面白そうじゃな、しかしカイル殿は出すのかの?」
「彼も学士だからな、それにそれだけで呼ぶ訳じゃないさ」
「ほう‥まあ、よかろう、分析が分ったら教えてくれ」
「ああ」
一週間後にはそのカイルともグランセルナの中央庁舎で会談である
「と、云う訳で今後の流れを読みたい、情報が欲しい」
カイルは即座に手持ちの荷物から、本と書類を差し出した
「ある程度の国家統計なら、10年ほど前からペンタグラムで取って出してますよ、どうぞ」
「構わんのか?」
「特に機密ではありませんよ、ペンタグラムも行政機関に違い無いですから誰でも本国では閲覧できますし、自分も常に持ち歩いて各地を回りながら修正等の業務をやってます」
「なるほど、では、借りていいか?」
「どうぞどうぞ。 ただ、あくまでウチに寄付のある国中心ですね」
「交流の関係か?」
「それもありますが、国の財政が悪い所から過大な寄付は受けない方針なので」
「なるほど」
フォレスはそのまま本を受け取って仕舞った
「んで、本題だが」
「手紙は読ませて貰いました、ですが、これを上層部に伝えても無駄かと、タイミング的にもそうですが、信じがたい話ですし、もう少し事が起こらないと信じないでしょう」
「教皇陛下には?」
「伝える事は出来ます、意見、謁見の類を拒否しないというルールもありますので、が、その後は?」
「最悪「象徴」の形は有った方がいい、オレ個人としてはペンタグラムの乱に対する有用性は高いと思っている」
「‥ペンタグラムは有用でしょうか?」
「有用だよ、戦の進行が遅いのは中立の立場の粘り強い交渉あっての事、その立場は重要だ、こういうバラバラな世界を纏めるには、連合、同盟、あるいは強力、公正なトップが要る、ペンタグラムは「公正」な機関に当る」
「確かに一理ありますね」
「が、オレにその力は無い 武王ではないし、聖者でもない、そう成ろうとも思わん」
「成る程、分りました、自分は何をすればいいんですか?」
「手紙を頼む、オレの個人的な意見として出す、教皇へ、だ」
「はい」
「が、次の動きが出てからだな、正直確証がある訳でもないし、国家間会議の議題にはしないほうがいい」
「とりあえず、教皇周辺に届ければいいんですね?」
「ああ」
「わかりました」
フォレストとカイルは「懸念」についても伝え、あくまで個人的な意見として手紙を託した、1時間後にはカイルもグランセルナを去り、中央へフォレスは早速カイルから借りた本とにらめっこである
「ふむ‥意外にペンタグラムへ寄付している国は多いな」
そこへ丁度ローラが訪問してグランセルナ周辺の情報を纏めた書類を差し出した
「それはなんじゃ?」
「ペンタグラムに寄付してる国の統計情報、今刷りあわせ中だ」
「何か分ったかの?」
「そうだな、どこも軍備に掛ける税収の割り合いが多い、人口比率も異常な所もあるな」
「ふむ、その意味では北3国もそうじゃろうな」
「バルクスト、ヘイルズ、ロドニか?」
「東のロンドギアは支店が無いから分らん、が、余り気にしなくていいと思う、元々守って防ぐ国じゃし輜重に問題がある、攻めには向かない国だ」
「成る程」
「その意味では南西地域も「国」が少ない、自分から攻めてくる事も無さそうじゃな、ま、支店と言っても連合とグランセルナ周囲だけじゃが」
「北の住民はどうなってる?」
「特にどうとも成っておらんが、少々税負担が重い、やはり軍備じゃろうな」
「徴兵は?」
「めだった動きは「まだ」無いようじゃが、やってはいる、これは元々だが」
「そうか、兎に角、感謝する」
「うむ、ではな」
ローラが去った後、「一応」の王座の間に向かって腰掛、そのまま資料を横のテーブルに置いて再び資料に目を通す、メリルが左横に付いてのスケジュールの確認である
「ご意見の類は今日は一件だけです、午後には軍の合同訓練の視察ですね」
「暇そうな一日だな、オレは忙しいが」
「資料ですね、お手伝いしましょうか?」
「そうだな、統計と分析の勉強になるしやるか?」
「はい」
「で?意見は?」
「東川地区での土の開墾が終わりましたのでノーブルミレットの作付けを始めたいとの事、先に植樹した果実類のがかなり好調なので馬、牛、豚、等も増やしたいそうです」
「分った、許可する、中央で余剰になってる物を回してやれ、予備費からも援助で」
「はい」
午後まで時間がある為そのままメリルに「統計学」の指導をしながらの各国の状況の整理である、14時には北官舎での軍錬の視察にでかけた
「特に問題ないみたいなだな」
「元々の軍としての錬度が高いからなぁ、バルクストは、けど、こっちの装備に戸惑ってはいる、それとやはり軍自体はアトロス殿とロバスト殿と私とクローゼで分けた方が良い気がする、大軍指揮ではこの四者が中心になるし、全軍数もアレだし」
「分った、そこはエミリアに任せる、旧バルクスト軍とも合わせてもう直ぐ3万を超えるし、5千ずつ軍指揮を分けよう戦場でもその方がよかろう」
「5千?」
「残りは派兵援護と予備兵に使うかな、残りはそのまま工作隊のトリスの所へ、東川族の屯田兵も送る、カルディアからの要請もあるし」
「分った」
そのまま軽く視察をした後「暇そうな一日」を終えたが
その五日後から次々事が起こる
中央、ペンタグラムからのまたしても書状が届き、目を通したフォレスも驚いた事態となった
「また国家間会議ですか?」
メリルもそう問うたが全く違う事態である
「いや、カイルに託した手紙を直接教皇がお読みになった、という事だ、中央や乱での出来事が謀である可能性を伝えたのだが、興味を持たれたという事だ」
「え?!」
そこでフォレスも一同にカルディアと話した内容を説明する
「では、どこかで3手目があると?」
「かもしれない、という注意喚起だったんだが‥真剣に取り合ってくれたようだな」
「どうしましょう‥」
「オレが行く訳にもいかんなぁ、ターニャと騎士団の者に任せよう、向こうに滞在して貰って事態が起こった場合の援護と上層部の護衛をさせる、ターニャなら学も剣もあるし、国家間会議があってもそのまま座らせておける」
「なるほど」
そこでターニャに事態を伝え
騎士団の精鋭10人と即日ペンタグラムに向かう事と成った
そして更に翌日には北のヘイルズからの使者である、謁見の間で迎えたが驚くべき内容であった
「我国はグランセルナ政府に旧バルクストの逃れた王家一族の引渡しを要求する」であった
無論フォレスはその場で
「旧王家の一族は既にグランセルナの住民として移住されているし王族という立場を捨てている、それに女子しか居らぬし、王家の復興も望んでいない」と返して断ったが
「当人が望む望まぬに限らず、担ぎ出される事もありましょう、我々はその懸念があります、重ねて、引渡しを要求します」
「軍も当方の一軍と成っている、流民も既に移住と成っている、我が国の領民である以上その要求は受けない」
「その場合、こちらと事を構える事になりますが宜しいのですか?」
「ヘイルズが戦をしたいのはよく伝わった、返事は変わらん」
「グランセルナの兵力で我らに勝てるとお思いか?」
「兵の数で戦が決まるならもうとっくにバルクストが南の覇者になっているだろうよ」
「分りました、そう伝えます」
「そもそも、オレを頼って逃れて来た者を斬り捨ててはオレの評判が落ちる、交渉や外交というわりにこちらに土産すらない菓子折りくらい持って出直してまいれ」
そうしてフォレスはその場で追い返した
参列して聞いていたエミリア辺りも怒ったが
「何だアレは?脅迫しに来たのか?」
「戦の準備は整った、という事だろうな、このタイミングで引渡し要求自体意味不明だし」
「?」
「この交渉のうんぬんに関わらず、こっちに攻める口実が欲しいというだけだ」
「ふむ?」
「オレが受け入れてバルクストの者を差し出せばオレの評価を落とす、断れば攻める口実にする、それだけだな」
「また、せこい真似を‥」
「舐められている、のだろうな、間抜けな事だ、どっちにしろ、出方を探るには丁度いい」
「逆に向こうの意思は分ったな」
「そうだな、二国ある事で一気にと考えているのだろう、実際かなり軍備に金と人を使っているようだし」
「なら、こちらも準備を整えるまでだな」
「そうだな、が、直ぐに、という訳でもない、向こうも色々仕掛けてくるかもしれんし、大体、ウチは防いで守るだけでも勝てる準備は二年前からしている、慌てる事はないさ」
「だな」
「兎に角、エミリアはアトロスらとも話し合っておいてくれ」
「了解した」
云ってフォレスは王座にもたれて目を閉じたままだった、当日の夕方にはエミリアとバルクストの面々と会談と成ったが、アトロスやアドニスとの見解も一致していた
「せこい脅しですねぇ」
「が、陛下がお断りに成ったのは懸命だ受けようが断ろうが向こうは戦を仕掛けるのは規定路線だ」
「で、司令、いざ戦うとなれば、ですが?」
「基本的なやり方は変わらんよ、守って防ぐで撃退できると考えている様だ、その準備は二年前から整えていると云っている」
「なるほど、とりあえず我々は準備を、ですね」
「お主らも意見があったら単身でも行っていいんだぞ、フォレスはどんな意見も聞く」
「なるほど、そうさせてもらいましょう」
その日のうちにアトロスらもフォレスとの会談を持った
「具体的に打つ手ですが」
「特に無いな、というより、向こうから攻めてくるのは寧ろ有り難いくらいだからな」
「ふむ、確かに装備は独特ですが」
「やってみれば分かるさ、おそらく現状でウチとまともに戦える相手はそう居ない、基本引き込み作戦になる」
「‥施設と距離を使った防御戦ですね」
「そうだ、相手の動きは逐次監視させている、それに一度相手に打撃を打ち返せば、以降は戦う必要もないし」
「どういう事でしょう?」
「これを見てくれ」
「これは‥」
「相手の、ヘイルズ所有国の財政状況だ、向こうは軍備に4割近い財政と、全体人口の10%も兵に使ってる。これでは維持継続は難しい、一戦して落とせなければ、あるいは長期戦になったら回復まで時間がかかる」
「成る程‥そして、一戦凌げれば周りからの圧力がある、ですね」
「故に、防御側ではあるが、兵糧攻めをする、色々な意味でな、まだあるかどうかも分らんが、戦に関しては心配はしてない」
「では我々も防衛参加でしょうか」
「一応既に作戦は展開している、具体的な戦場策は向こうが動いてからだな、貴官らはその準備だけでいい今回はだが」
「というと?」
「まだ、どうなるかまでは読めないが、作戦は略出来てる、貴官らにも前線で見せて貰う、相手はバルクストからもかなり無理に徴兵している、おそらく、それが役に立つ」
「寝返りの類ですか」
「嘗ての王国の主将がこちらで力を振るうという現状に旧バルクストの人民はどう思うか?という事だ、おそらく、止めの一撃の際に動いてもらう」
「成る程、かしこまりました」
更に3日後には、第二回の「脅し」の使者である
「決断の方向性は決まりましたか陛下」
「態々前の使者が戻る前に次とは随分計画的な外交だな、相手の決定の内容は関係ないと見える」
「‥その様な事はありません」
「今の現状でグランセルナと戦う事はソチラの利益にならない事は理解しているのか?」
「ええ、圧倒的優勢は見えていますから」
「連合国である事を忘れてはいまいか」
「こちらとて同盟はあります」
「共闘してくれるならそうだろうな」
「一度共闘しております」
「次も期待出来る程の国なのかねぇ、まあ、オレの知った事ではないが」
「引渡しには応じないという事で宜しいですか」
「引渡しに応じても戦するのは変わらんのだろう?なら無意味だな」
「後悔されますぞ?」
そう残して二回目の使者も去った
「態々忠告したのになぁ‥」
「使者にそこまで深い交渉は出来まい、それに向こうは結論ありきだろうし」
「だな」
そうフォレスとエミリアで交わした直後伝心が入る、カルディアからだった
「一応こちらに呼んで、交渉しているが、餌がもう少し欲しい、あちらも水稲をやりたいらしい」
「分った、自由にしていい、それとコッチは思いのほか事が進んでいる、決定的な一撃として援軍も出すと云っていい」
「急ぎか?」
「北のヘイルズから二回脅迫があった」
「了解した、直ぐに纏める」
「頼む」
それが、12個目の転ばぬ先の杖、でカルディアに頼んだもう一つの事であった、すぐさまフォレスは軍司令室に向かいアトロスら旧バルクストの将を集めた
「アトロスとアドニスはカルディアの所へ行ってくれ任せた軍全部で」
「え?!」と一斉に返された
「今、北との戦争の気運が高まっているのにですか?!」
「この際だから貴官らには故郷を奪還してもらう」
「は!?」
フォレスはニンマリ笑って「策」を説明した
それを聞いて反対が出る訳は無い、特にアトロスらは
「そうなると、グランセルナ本国は?」
「俺らだけで大丈夫だよ、ここは恐ろしく固い、向こうが遊んでる間にびっくりさせてやろう」
「わ、わかりました必ず成功させます!」
「気張らなくいいさ、カハルとの共同戦線になる頼むぞ」
「はは!」
そうしてアトロスとアドニスは即日全軍で東へ
フォレスは騎士団とエミリアにも策を説明して準備と成った
「と、云う訳でオレらの方針は同じだ、向こうを引き込んでこちらに縛り付ける、クローゼとロバスト中将は手持ち軍で中央の街東西で待機防衛、エミリアは本軍だがテラと共に遊撃軍をやってもらう、全体指揮というか指示はそのままオレがやる」
「分った」
「司令が防衛じゃないんですか」
「エミリアは武力が一番だからな、細かい指揮はそこまで得意じゃない、まあ、コレ自体囮だし、基本的な作戦さえ守ればいい、負けない作戦は作ってある」
「私としても過去軍を率いて負けた事がある、後ろで全体指揮をフォレスがやってくれるのは楽でいい」
「そういうこっちゃテラも武力を活かせるしな、ただ、勝ちすぎても困るので、作戦だけは守ってくれよ」
「は、はい」
「それからヴァイオレット准将に三千預ける、領土北東のブラセア湖畔の街へ、ヘイルズの後ろから来るロドニと街道を封鎖して戻れ無くする、罠も伏兵掛ける場所も用意してある、タイミングは告知する」
「はっ、お任せください」
「南東部族の長ドネツクの親父さんも呼ぶので街道、敵後衛の分断挟撃になる」
「はっ!」
「それとマギを呼んでくれ、親父さんの所へ、策をお願いする」
「了解です」
「そんでローラとアノミアもオレの私室に」
「はっ」
と、指示したが何故か3人とも同時に来た
「おうさま!私も戦います!」
「まだ、早いから‥」
「ではお傍に!」
「親父さんに聞いていいって云ったらね?これ、手紙」
「わ、わかりました!」
とまずマギは書状を携え、すっ飛んで行った
「もてもてじゃな」
「子供には何故か好かれるんでね」
「ほんで私だが?」
「ローラもカルディアの所へ、終戦後即店の展開が出来るぞ、それと、オレからの紹介状、アチラさんは食料関係に不安がある様だ」
「分った」
「んで、アノミアは」
「監視だな」
「ああ、んで、イザ始まったらオレの傍に、先行軍の指揮というか指示もするんでね」
「ふむ、その後は中央の防衛にも加わる、か」
「それで良いと思う、兎角今回は向こうの動きが逐一欲しい、それ中心かなぁ」
「分った」
こうして全ての「事前策」を整えた
後はヘイルズが動くだけ、と成ったが実際動き出したのは一週間後である、それ自体、願ったり適ったりではあったが
理由は単純、グランセルナとの交渉の内容を周知させる為に宣伝をうって、旧バルクストの王家一族の引渡しを巡っての戦争の正当化を周辺国に見せた事である、ヘイルズからしてグランセルナを「戦争罪人を庇う連中」と位置づけをしたためだ
フォレスはアノミアからの報告を受けて全軍への作戦開始を告げた
「敵の総数四万、ヘイルズ本国から二万、合流した後バルクストからも二万出陣」
「後ろのロドニは?」
「五千程度、一日ズレだな、あまりやる気があるとも思えんな」
「ま、前回の協力戦の後も礼の類は出てないらしいしな」
「どっちも利用する事しかないという訳か」
「バルクストの守備兵は?」
「3千だな」
「ふむ、こっちの中央までは早くて五日くらいか、よし、オレらも出るぞ!」
「おおお!」
グランセルナは現時点で中央に一万八千
エミリアを主将に八千率いて北へ出撃、後列に100程度のフォレス直属隊と千の工作隊を伴なってである
三日後、領土境界線からグランセルナ中央との中間点辺りで開戦と成った、街道の平地での対峙、が、四万対九千である
「作戦通りやればいい、無理はするな」
との指示あってグランセルナ軍は最初から防御戦であった、そもそも数が違う上にまともにぶつかる判断はない
双方四角陣のまま激突するが、即座にグランセルナ側は後退防衛戦を行った、相手からすれば当然だろうという思いである元々の兵力が違い過ぎる
が、この防御戦は圧倒的数の差をモノともせず、グランセルナ軍は全て防ぎきった
ここで活躍したのが「盾兵」と「藤甲兵」弓や騎馬の突撃を横一線の様な盾部隊が前に出て防ぎ、歩兵での乱戦でも藤甲兵は数負けにも関わらず殆ど被弾せず打ち返してくる
思わず敵将も「何だあの奇兵は!?」と叫ぶ、見た目は貧弱な木材武装兵なのだが兎に角固い、どうしてそうなっているのか分らない相手からすれば不思議としか言いようが無い
およそ二時間の下がり防衛で味方側、グランセルナ軍もここで初めて確信を得た、彼らも木材兵だけに半信半疑だったが、あまりにも固く、強い武装だと意気が上がった
「良し!後退するぞ!弩兵!」
エミリアは前線で指示して一気に馬を返す、逃げる相手を追いかけようと敵前線も前に出るがその瞬間天から矢が降り注ぎ、あっという間に500もの死傷者を出し、追撃が止められる
「無意味に追うな!」と敵将も指示を出し
悠々と下がる敵を見送るしかなかった
何しろ、敵軍の最後尾から撃って来たのだ、とんでもない射手、しかも飛んでくる矢の数がスコールにでも襲われたかという程の量、射程と数が尋常ではない上に盾でも防ぎきれない程の威力があった
そして全く同じ展開で翌日、二度目の街道戦が行われる。グランセルナ軍の武装を見せ付けられヘイルズも防御戦にならざる得ない
双方軍、消極的なまま打ち合いと成ったがまたも二時間の戦闘の後、エミリアは引いて後退して終える
「まるで自分が過去にやられた時とあべこべだな」
「が、作戦だと分っても問題ない、そもそも向こうに選択肢が無い」
「ああ‥こっちを落とすのが役目だからか」
「上からの命令があるからな、それでも尚引く程の相手ならやばいが、そこまででは無かったようだな」
つまるところフォレスの「守って防ぐ」狙いはそこにある、相手の選択肢をそれしか取りようが無い状態に追い込む事、だから最初からそういう形を目指した。
領内首都からの十字街道も通常のモノと違い大軍通行が可能な程道幅も広く、石畳みにし、北は特に緑化を急いで林や森や丘を作り、策の展開を可能な土台を作り、偽装した軍事滞在施設や地下に補給施設などもルートに用意してある、要するに「攻められた」際に軍展開を容易にし、間で迎撃、策を展開する余地を最初から用意してあるのである
そして更に翌日、三日目、首都の街を背後にしての最終防衛戦である、ここまでくれば後は街になだれ込めば終りと考えヘイルズの将は一気に攻勢に出た、正面に立ちはだかるグランセルナ軍を中央突破で叩きのめしに掛かる
グランセルナ主軍は円陣を敷いて盾と弓で分業を行い、出てくる相手を手前から、徹底して撃ち足止めしながら下がり迎撃、街の正面入り口まで下がって少しづつ味方を街内に撤退させた
左右に官舎の壁を置き入り口を封鎖する様に半月陣に防御線を敷いた
そしてエミリアも殿を務め敵を止める
もう敵も決したと思った、城下門に等しい場所だ、街になだれ込めば決着と誰もが思った、が、それが果される事は無かった
敵軍が全軍入り口に殺到した所で、左右壁の様に並べられる3階建て官舎の、屋上と窓が開き左右から一斉に矢が打ち込まれる、壁であり、官舎であり、射台でもある「石家」から
予想外過ぎる反撃で正面に殺到していた敵軍は
僅か30分で1000近く射殺される
ここで軍将も判断に迷った。向こうは城門すらない街の正面入り口、ここを抜ければという判断と思いがあった、数ではまだこちらは3万弱は居るし、後ろにはまだ援軍が来る、それが判断を誤らせた、しつこく「落とす」事を行ったのである
「城壁でも無い!ただの家だ!破壊しろ!」と
が、その対策すらしてある「家」だ、火矢も丸太打ちもまるで通じず、窓も外側は片手が出せる程度の狭さ、屋上に矢を放り込んでも盾との連携で跳ね返る、殆ど何も出来ず更に30分で被害を倍化させただけだった
「よし!狼煙を上げろ!」
フォレスの指示で「次」の策が動く
左右の官舎の窓が封鎖され、円型の街の左から回ったクローゼの別軍二千と、ロバスト中将の二千が敵左右横から急襲
エミリアの正面軍も反転して入り口から出撃である、既に兵力で互角近くに成っていた、敵将も迎撃しながら後退の指示を出した
「後ろから来るロドニの援軍と合流する!防御しつつ後退!」
その判断自体遅い
この命令の前に既に後ろから来る味方援軍は敗退していたのである、どうにか円陣を敷きながら下がり防衛を続けて凌いだが驚愕の伝令が舞い込む
「ロ、ロドニの援軍は後方一日の所で罠と伏兵に襲われ既に敗退!撤退したと!‥」
「何!?」
そしてこの報はフォレスにも伝わる
「親父さんとヴァイオレット准将が相手の後ろを取ったぞ、追撃戦だ!」
「おー!!」
と一斉突撃である
「エミリア!テラ!騎馬隊の出番だ!」
「応!」
正面主軍からエミリアの騎馬軍の出撃、右からテラの遊撃隊の出撃である敵は円陣のまま半日防衛したが、夕方にはロドニ軍を破った親父さんドネツクの騎馬軍も相手の後方街道北から現れ、完全に四方包囲戦の形と成った
しかも帰りのルートもヴァイオレットらが街道を封鎖、もはや撤退すら出来ず、一時間で残り兵も撃滅される、敵将を捕らえ、残った敵7000も降伏の完全勝利と成った
そしてそれだけではない
報告を本国で受けたヘイルズの国王も驚愕しか無かった、グランセルナに敗退の報とほぼ同時
「バルクストに東から敵が侵攻!既に敗退したと!‥」
「東!?ロンドギアか!?」
「いえ!グランセルナ連合の東、カハルからの侵攻です!ロンドギア領内の街道を通ってのモノと‥」
「通過許可を出したのか‥」
「そのようです!敵軍は一万六千!守備軍は即日敗戦し、バルクストも占拠されたと」
あまりの出来事にヘイルズの王も王座に崩れ落ちるように座って動けなかった、3万もの兵を失い、折角押えたバルクストも奪われたのである、当然であろう
そして問題なのはその後、
それも間を置かずに直ぐに現実の物と成った、捕われた捕虜、軍将と兵の捕虜返還の金銭交換の要求、敗戦賠償と合わせて通知されたのが五日後
捕われた兵の内半数、グランセルナとバルクストの両国捕虜、四千が即日相手国に臣従、協力関係にあったロドニからも同盟が破棄され、こちらからも兵を失った事への、半分脅迫の賠償請求があった
そして大勝利に終ったグランセルナ連合、フォレスの策はこうだった
グランセルナ本国へ攻め込む相手主力を引きながら首都中央砦前まで引き込みつつ、妨害と戦闘を繰り返しながら後退して最終決戦を行う
元々防いで守る武装と準備がある為十分止められる計算があった、布告から開戦、本土戦の稼いだ五日の間に事前交渉していた東のロンドギアの街道を通って、カハルから手薄なバルクストをカルディア&アトロスらで襲撃奪還
引き込んだ相手と同盟国ロドニの援軍の背後を東部族の長ドネツクと予め配した伏兵千、ヴァイオレット准将が分断撃滅の後、ヘイルズ本軍を挟撃
仮に接敵戦闘面で上手く行かなくても引いてグランセルナ本国まで下がってもいい、グランセルナとバルクストの距離の長さがある為、各地に配した横からの伏兵、ヴァイオレット、ドネツク、カルディア、アトロスの軍の何れかの来援か、街道封鎖、バルクストの奪取が間に合えば何れにしろ超大規模な包囲戦になり、相手は後退以外手が無くなるからだ
簡単に言えば全体盤面ではこうなる、余程圧倒的に歩兵負けしない限り負けようがない作戦と状況を作った。北から南への長い距離を活かした多重分断作戦である
バルクスト本国 ←カハル・アトロス軍
←ヴァイオレット軍
ロドニ軍 ←ドネツク軍
クローゼ軍→ ヘイルズ軍 ←ロバスト軍
エミリア本軍↓
無論そこまで上手く行くとは思わなかったが幸運、いや、相手の油断があった
1、元々早めにやっていたロンドギアとの街道通過交渉が比較的、スムーズであった事、その情報の封鎖が完璧だった事
2.バルクスト国の守備兵が三千しか居なかった事で略無戦闘で即日奪還が成功した事
3、ドネツクの後背襲撃が早く、同盟国のロドニがヘイルズと共闘する意識が薄かったことである
何れもヘイルズの王が「余裕の戦」と油断していた事にある
「勝ち前提」の仕掛けが交渉を含め全て裏目に回った、そして最も恐るべき結果は軍の被弾率である
グランセルナ連合3% ヘイルズ、ロドニ連合 85%
というとんでもない防御力・戦火差である
終戦から暫くは大騒ぎだった、戦勝パーティーもそうだったし、この「策」の見事さが南方周辺国に瞬く間に伝わったのだ
そしてロンドギアの領内街道通過許可と連合に売った恩の恩恵がでかかった、元々領土と人口の割り、食料の安定感が薄く、軍備の強化がし難い状況と、この国には「護将」が居る為攻める方針は無い
連合の後ろ盾と新種の農作物の援助が同時得られたのである
、終戦翌日の朝には既に、ヘッジホッグの商人隊ボスのローラがフォレス王の紹介状を携え面会し、水稲の種を置いていって約束を果し、支店の展開を持ちかけられ直ぐに許可を出した
交渉時の約束事には無かったのだが「恩賞」と「礼」でグランセルナから三日後には金塊類が献上された上に書状も添えられた
「ロンドギア苦境の際は援護致す、礼には礼を持って当る」と宣誓されていたのである
この時点でロンドギアの若き王は確信したのである、グランセルナは敵にする相手ではない、と
本来、策を弄するなら連合が街道通過を許可しつつ、横を突く事も、ヘイルズにバラして逆に恩を売る事も連合に手傷を負わせる事も出来た、それをしなかった事が正しい判断であったという「確信」である
単に今回の一件で自分の国に得があったという事ではない、これ程の大作戦と策が打て、戦後処理の見事さを打ち出せる君主と配下が居るという事がだ
ただ、戦後処理で見当違いもフォレスには一つあった、奪還したバルクストをそのまま旧王家と軍に託そうと考えて姫やアトロスらと話したが拒否された事だ
「王家という立場は捨てていますし、わたくしらはその器量があるとは、思っていません」
そうハッキリ返され、結局そのままフォレス王の領地とするしかなかった、それが一番悩みの種と云えなくも無かった
本国、グランセルナをそのまま騎士団と行政官に一時任せて、自身はメリル、アノミア、エミリアらとバルクストの一時統治に向かった
「ここって案外守り難いんだよね‥」と玉座でグチった
「東はもう問題無いでしょうが、北二国ですね」
「そうだな、まぁ‥ヘイルズは暫く大人しくしてるだろうが‥」
「内政も軍備もどうにかせんとなぁ‥」
「エミリアの云う通りではある、特にヘイルズの前支配者が数字を見る限り、アホ治世をしとる植民地じゃねーから!てくらい徴兵したからなぁ、ここから兵を募集するのは無理だろう‥」
「フォレスの支配地ではあるから南から持ってくるのは問題なかろう、それにアトロスらが居るし向こうの捕虜も大分こちらに加わった」
「そうだな、軍はとりあえずあっちに任せるか‥元々の自国だし」
「私はどうする?」
「暫くは北に睨みを利かせる意味で居てくれ、防備と内政を整えたらアトロスに任せていい」
「分った、では軍の方へ行っておく」
「頼むエミリア」
フォレスはそのまま王座で何時ものポーズだった
暫くした後、起きてメリルに当面の事を伝えた
「とりあえず、減税と、志願兵だけ募集、本国から屯田兵を二千程頼む、南領土境界線の関所を増強とついでに滞在施設を作る、ここと本国の距離の問題をどうにかしないとな」
「はい王様」
「見たところ、王城と城下街門は固いが、守りの意味では普通だなぁ」
「そうですねぇ、周りは平地ですし、それだけに何か作るというのは出来そうですが」
「うーん‥まだ、連合の後ろの整いが出来てないしなぁあまり過大な事は出来んし、オレらがこっちの統治にずっと居るのも問題だ、かと云って敵さんが動けないのも何時まで続くか」
「統計上ロドニはそこまで無理して軍備はしてないので動こうと思えば動けますね」
「うーん、インファルとターニャが居ないのはキツイな」
「では探しては如何ですか?」
「代理統治や委任できる内政官の類か?」
「ええ」
「何れにしろ必要だが直ぐには無理だな‥ティア辺りなら、文武の能力も知性もかなり高いからいけるかもしれんが」
「では、やらせてみても宜しいのでは?」
「エルフをか?」
「人魔と違って、元々の印象は宜しいかと、高貴で知性と良識が高いという絶対的価値観がありますし」
「云われてみればそうだが‥‥お試しでやってみるというモノでも無いような‥」
「当面は王様がここに居る訳ですし、幾つか任せながら様子見では?」
「そうだなぁ‥元々エルフ集落の統制をしていた訳だし‥やってみるか」
そう決められ「ためしに」で初めて見たのだが一週間で殆ど問題は出なかった
「高貴で知性と良識が高い」というのも本来は誤解でありエルフと言っても千差万別であるが、ティアに至ってはその誤解が誤解では無かったのである、少々口が悪いのと自己と他者に厳しい面はあるが
「どっちかっていうと軍人ぽいが‥」
「うちの軍部の連中よりお堅い」
「少なくともアドニスよりは統制力はあるだろ」
というのが軍部、エミリア、アトロスらの感想だったそして
「内政の判断力と公正さはかなり高いな」
「ですねぇ‥このまま城主にしても問題無いのでは?」
というのがフォレスとメリルの意見である、結局、内政の基本方針、減税と過度な徴兵はしない、後方の軍事施設の建築の方針だけ決めて実行した後
ティアにバルクストの統治を任せる事になった、主軍の統制をアトロスとロバストがそのままやり、城周りの警備、近衛隊に元々やっていたアドニスとヴァイオレットが付いた
というのもフォレスの場合、大御所としてグランセルナに居た方が良いという点、何しろ金、物、人、の増強が容易く、最大キャパシティが非常に高く過大な軍力を置く必要が無い
その為内政直轄地とした場合、後ろから兵糧、資金、兵が湧いてくるという、本国で有りながら後方支援国という基本的な戦略的優位性がある為である
もう一つ今回の戦いで得た物があった、今回伏兵の任と後背襲撃を成功させたドネツクの速さと強さと軍の単体武力である、相手ロドニの援軍が脆い、包囲戦というのもあるが数は互角近くで1時間で撃滅するほどの火力を見せた
そして娘のマギが矛を担いで、武装したまま中央砦に戻ってフォレスを迎えて云った
「おうさま!私もいっぱい倒しました!」だった
どうやらそのままドネツクの親父の軍に参加して戦ったらしい、しかも単身20人も倒したそうだ、そんで
「もう子供とは言わせません!戦います!」となる
(また、あのおっさん余計な事を‥)
とフォレスも思ったがこうなると拒否も出来ない
というかサーチでの武力順位付け自体、既に最初からテラといい勝負くらいの素養はあった訳で
「ま、当人がそれ希望ならいいだろう」とマギも騎士団に預けた
一応14歳には成っていたので後々の経験を積ませる意味合いで、そしてクローゼもテラも腕組んで唸った
「騎士団はとりあえず団体じゃないんだけど‥」
「でも陛下の人事の判断が誤ってた事もないよね?武力ではボクといい勝負て云ってたし」
「‥そう云われると否定しようも無いな、兎に角、使ってみよう」
つまりターニャの時と同じ流れである
そして「陛下の判断」が誤っていなかったのである
あっという間に騎士団のマスコットになった。素直、元気、小さい、可愛いのもあるが単騎武力が特に大きいが軍的には使い難い何しろ軍錬でも敵を見つけると
「いたぞー!!」で、突っ込んでいく傾向が強い、が
兎に角、騎馬単騎で誰にも負けない、包囲されようが、盾を並べられようが、弓を撃たれようが、全て叩き潰して前進していく正直見ていたクローゼもテラも唖然だった
「猪突とは聞いていたけど、猪ではないね」
「と言うか、竜巻みたいだな」
軍の少数模擬戦でもマギが居る方が勝つ、という程少数だと強い、単なる突撃武力でなく、彼女の突進はそこに楔を打つ形である、そこから周囲を巻き込んでなぎ倒していくので
便乗してもしなくても相手集団を引きつけて崩す効果が非常に高かった、かと言ってまるで命令無視という訳でもなく普段は温厚だしちゃんと言う事を聞く
どうやら彼女の突撃は独特の「勘」があって崩せるポイントを見抜いてやっているのだと分るのはかなり後の話である
「まず、地図を見てくれ」
「ふむ」
カルディアは屋外のテーブルに地元地図を広げた
「ここは山岳の切れ目がある、無論移動出来る程ではないが」
「む?、丁度後ろに出られるのか」
「そうだ、距離も3キロちょいか」
「ほほう、ココを切り開いて「道」にしてしまおう、というつもりだな?」
「流石フォレス、話が早い」
「現地で見ると明白だ」
「丁度、北東、山と山の麓に近い物が交錯して低くなる、ここを直線に掘削を続ければロベルタの南、つまり後ろに出られる」
「そうだな、こっちからの援軍の最大の問題はこの山脈だ、時計回りに大きく迂回しないと行けない」
「ああ、そこで鉱山の開発のついでに裏口を作りたいと思ってね」
「必要なモノは?」
「技術だな、金はあるが、掘削道具は無理だ、提供してくれ」
「いいだろう、工作兵を追加する、カハルの街の軍事施設の建築も程々でいいだろう」
「ウチの街は元々宮殿デカイしそのまま駐留施設に出来る、そこまでデカイ施設を作る必要はないし」
「分った、こっちで使ってるモノの技術も伝えよう、技術者を送る」
「正直普通のやり方だと1キロ程度でも1年はかかるし」
「問題はどちらに敷くかだな」
「まあすこし蛇行した道になるが地上側でも問題はないな、測量してみたが、裏街道を上に敷設でも高低差はそこまで出ないし」
「そうだなぁ万単位の軍が通行する訳だし、多少面倒でも上のが安全かなぁ」
「ではその方向で計画しよう」
早速フォレスは当日には伝心で本国に告知する
「とは云え、それでもそこそこ時間は掛かるが、一応アタシのとこでも街人に金を撒いて人集める、多分年内でいけるかもしれん」
「わかった」
その後、カハル宮殿に一日滞在そこで今後について話した
「こういう流れは読めなかったなぁ」
「だな、オレも意外だったよ、一応バルクストの旧軍を吸収合併の形になったので戦力は向上したが‥」
「そうすると単身兵力は?二万六千か」
「ああ、でだ、カルディアならどうする?」
「今は動かないだろうな、あのバルクストの落ち方は不可解ではあるが」
「オレもそこは気になる」
「悪い偶然が重なったと云えなくも無いが、実際初代王と最後の王は高齢だし元々健康ではない、が、若い王子のは明らかに怪しい」
「だよなぁ」
「とは云え、調べる方法もなかろう、もう国自体無い訳だし、それに中央もやばい」
「だなぁ、このタイミングでの疫病も重なりすぎてるだろ」
「それはまあ、届かない所の話だし、仕方無いが」
「ウム、今後だな」
「アタシならどうせ崩れた均衡なら北に動いてもらうね」
「ふむ?オレは誘引策を考えるが」
「どっちでもいいと思うぞ?、バルクストの防波堤の役割が消えたなら寧ろ、攻めて来てくれた方が有り難い」
「んー、釣り戦法つっても今は掛からんだろうし」
「基本攻める状況に無いんだし、防御方針なら「待つ」しかないだろ、こっちから敢て戦力を出す必要も無いし、ただアンテナは張っていた方がいいが」
「そうだな、流れが変わりつつある、それと内部の整えだけは急いでおこう」
「後は軍備か、そこでアタシの方なんだが、元々騎馬軍だし、攻撃型、んでの割りに街自体防御系ではないんだが、どうしたもんかと」
「馬か‥いっそ、チャリオットでもやるか?」
「戦車軍か‥、出来なくは無いが‥コストがやばそう、そもそもそれも攻撃型だろう」
「ああ、いや、これは構想として元々あるんだが小型バリスタとかとくっつけたらどうかな、てのがあってな」
「ふむ?」
「ウチの弩より射程長くした大き目の固定砲台みたいのを合体させたらどうなんだろなて思った事はある」
「なるほど、どうせ元々馬車に近いからデカイ車台にしちゃえて事か」
「まあな、戦況によって換装して普通の輸送に使ってもいいし、自軍の後ろに置いてか陣の左右に置いて移動が簡単な砲台みたいにしようかな?みたいな」
「面白そうだな、ちょっと見てはみたいな」
「何れ、グランセルナの装備を送る事を考えて居るが‥まだ、そこまで出来ん」
「そうか」
「まあ、武装増やす意味だな。馬は余ってるんだろ?、それにうちらなら出来ると思う、どの地域も裕福だし」
「そうだなぁ‥10くらいなら、まあ、やってみるか、有効な兵装には違い無い‥」
「その程度なら問題ないさ、が、小回りが利かないのと平地の多いカハル周り限定だな、今の所カハルの危機と言えるのは南西橋からの侵入くらいだがそこを押える意味でも使いやすい」
「構想だけあるんで実験的にやってみる、で、基本方針は良いとして、全体戦略だが」
「大陸全体か?」
「ああ」
「まずはカルディアの意見を聞きたいね、オレはそれ程戦略眼がある訳ではないし」
「そうか?」
「なんといったらいいのか‥先のバルクスト周辺の流れを見てもそうだがオレは全部後手後手に回った、運よく上手く運んだだけの話で、読んで結果出した訳ではない。早い話、起こるべき事態に対して10用意してそれが嵌ってるだけで「読み」という面で優れている訳ではないんだ、それを実感してる」
「だからアタシの意見か」
「うむ」
「そうだなあ、材料が少ないのでアタシも何とも云えんが、何らかの謀とも思う所はある、北は兎も角、中央と南の一件はあまりにもタイミングがいい」
「うむ」
「裏があると、一割くらいは考えているが、おそらく、そう考えると、3手目があるはずだ」
「ふむ、中央で何かあるかな」
「バルクスト周辺ではもう勝手に動くだろう、均衡を崩した訳だし、私が謀を張る側の立場ならこの崩れをでかくするな」
「例えば?」
「憶測の域を出ないが、乱の拡大や騒乱を狙ってなら真っ先にペンタグラムを潰しに掛かるね、中央に居て、拡大を抑えているのは明らかにアレだ」
「確かに一番邪魔だな、で、三手目はどうする?」
「そこは色々だなぁ、中央の権威を貶めて誰も裁定を聞かなくするとか。具体的な手段は何とも云えん」
「確かに」
「が、我々にはそれを妨害する手段が無いなペンタグラムに繋がりが無い、寄付もしてないし、道もないだろう」
「ロッゼは多少あるだろうが‥アレも天魔戦争での「天」の側の一族らしいし、後はオレとカイルの個人的付き合いがあるくらいか‥」
「当面はお前の北からの攻勢の対処でいいと思う、近い所の話で言えばそれが一番確率高いし」
「確かに、それも含めてだが、やっておきたい事も一つ残っている」
「と言うからにはアタシに出来る事か?」
「そうだバルクストの東、ロンドギアとの外交を一つな」
「聞こう」
カハルから馬車に乗って戻る途中、そこの事をゆっくり考えた、フォレス自身の知識は外的要因によって得ているだけで彼自身は元々極端に頭が良いとか、才能があるという程ではない故に、カルディアの様な人物と話すのは発見があった
「この一連の流れは不可解」
その見解が得られたのは大きかった。彼は自身も言う通り「転ばぬ先の杖」で起こりうる10の可能性について、あくまで10の用意を整えて事前対処しているに過ぎない、予言の王等言われる程先読みが出来るような、特別の駿才ではない
だからこそ、他人の、もっと優れた人間の意見を聞くのを憚らない、そして、直ぐに「11個目」の対処にも当った
本国の庁舎に戻って直ぐ筆を取った、アリオローラの本店へ行って手紙を委託
「これを中央に届けてくれ、個人宛だが」
「お主も中央と繋がりを作るのか?」
「出来ればな、が、そいつは媚を売る事ではないな」
「それと、支店の類から情報を、あくまで商人という立場での一般的な数字でいい」
「直ぐ取れるが、しかし、どうするんじゃそんなもん」
「国の財政が分ればどこが伸びてどこが無理してるのかだいたい分るさ」
「ふむ‥そういう事か、面白そうじゃな、しかしカイル殿は出すのかの?」
「彼も学士だからな、それにそれだけで呼ぶ訳じゃないさ」
「ほう‥まあ、よかろう、分析が分ったら教えてくれ」
「ああ」
一週間後にはそのカイルともグランセルナの中央庁舎で会談である
「と、云う訳で今後の流れを読みたい、情報が欲しい」
カイルは即座に手持ちの荷物から、本と書類を差し出した
「ある程度の国家統計なら、10年ほど前からペンタグラムで取って出してますよ、どうぞ」
「構わんのか?」
「特に機密ではありませんよ、ペンタグラムも行政機関に違い無いですから誰でも本国では閲覧できますし、自分も常に持ち歩いて各地を回りながら修正等の業務をやってます」
「なるほど、では、借りていいか?」
「どうぞどうぞ。 ただ、あくまでウチに寄付のある国中心ですね」
「交流の関係か?」
「それもありますが、国の財政が悪い所から過大な寄付は受けない方針なので」
「なるほど」
フォレスはそのまま本を受け取って仕舞った
「んで、本題だが」
「手紙は読ませて貰いました、ですが、これを上層部に伝えても無駄かと、タイミング的にもそうですが、信じがたい話ですし、もう少し事が起こらないと信じないでしょう」
「教皇陛下には?」
「伝える事は出来ます、意見、謁見の類を拒否しないというルールもありますので、が、その後は?」
「最悪「象徴」の形は有った方がいい、オレ個人としてはペンタグラムの乱に対する有用性は高いと思っている」
「‥ペンタグラムは有用でしょうか?」
「有用だよ、戦の進行が遅いのは中立の立場の粘り強い交渉あっての事、その立場は重要だ、こういうバラバラな世界を纏めるには、連合、同盟、あるいは強力、公正なトップが要る、ペンタグラムは「公正」な機関に当る」
「確かに一理ありますね」
「が、オレにその力は無い 武王ではないし、聖者でもない、そう成ろうとも思わん」
「成る程、分りました、自分は何をすればいいんですか?」
「手紙を頼む、オレの個人的な意見として出す、教皇へ、だ」
「はい」
「が、次の動きが出てからだな、正直確証がある訳でもないし、国家間会議の議題にはしないほうがいい」
「とりあえず、教皇周辺に届ければいいんですね?」
「ああ」
「わかりました」
フォレストとカイルは「懸念」についても伝え、あくまで個人的な意見として手紙を託した、1時間後にはカイルもグランセルナを去り、中央へフォレスは早速カイルから借りた本とにらめっこである
「ふむ‥意外にペンタグラムへ寄付している国は多いな」
そこへ丁度ローラが訪問してグランセルナ周辺の情報を纏めた書類を差し出した
「それはなんじゃ?」
「ペンタグラムに寄付してる国の統計情報、今刷りあわせ中だ」
「何か分ったかの?」
「そうだな、どこも軍備に掛ける税収の割り合いが多い、人口比率も異常な所もあるな」
「ふむ、その意味では北3国もそうじゃろうな」
「バルクスト、ヘイルズ、ロドニか?」
「東のロンドギアは支店が無いから分らん、が、余り気にしなくていいと思う、元々守って防ぐ国じゃし輜重に問題がある、攻めには向かない国だ」
「成る程」
「その意味では南西地域も「国」が少ない、自分から攻めてくる事も無さそうじゃな、ま、支店と言っても連合とグランセルナ周囲だけじゃが」
「北の住民はどうなってる?」
「特にどうとも成っておらんが、少々税負担が重い、やはり軍備じゃろうな」
「徴兵は?」
「めだった動きは「まだ」無いようじゃが、やってはいる、これは元々だが」
「そうか、兎に角、感謝する」
「うむ、ではな」
ローラが去った後、「一応」の王座の間に向かって腰掛、そのまま資料を横のテーブルに置いて再び資料に目を通す、メリルが左横に付いてのスケジュールの確認である
「ご意見の類は今日は一件だけです、午後には軍の合同訓練の視察ですね」
「暇そうな一日だな、オレは忙しいが」
「資料ですね、お手伝いしましょうか?」
「そうだな、統計と分析の勉強になるしやるか?」
「はい」
「で?意見は?」
「東川地区での土の開墾が終わりましたのでノーブルミレットの作付けを始めたいとの事、先に植樹した果実類のがかなり好調なので馬、牛、豚、等も増やしたいそうです」
「分った、許可する、中央で余剰になってる物を回してやれ、予備費からも援助で」
「はい」
午後まで時間がある為そのままメリルに「統計学」の指導をしながらの各国の状況の整理である、14時には北官舎での軍錬の視察にでかけた
「特に問題ないみたいなだな」
「元々の軍としての錬度が高いからなぁ、バルクストは、けど、こっちの装備に戸惑ってはいる、それとやはり軍自体はアトロス殿とロバスト殿と私とクローゼで分けた方が良い気がする、大軍指揮ではこの四者が中心になるし、全軍数もアレだし」
「分った、そこはエミリアに任せる、旧バルクスト軍とも合わせてもう直ぐ3万を超えるし、5千ずつ軍指揮を分けよう戦場でもその方がよかろう」
「5千?」
「残りは派兵援護と予備兵に使うかな、残りはそのまま工作隊のトリスの所へ、東川族の屯田兵も送る、カルディアからの要請もあるし」
「分った」
そのまま軽く視察をした後「暇そうな一日」を終えたが
その五日後から次々事が起こる
中央、ペンタグラムからのまたしても書状が届き、目を通したフォレスも驚いた事態となった
「また国家間会議ですか?」
メリルもそう問うたが全く違う事態である
「いや、カイルに託した手紙を直接教皇がお読みになった、という事だ、中央や乱での出来事が謀である可能性を伝えたのだが、興味を持たれたという事だ」
「え?!」
そこでフォレスも一同にカルディアと話した内容を説明する
「では、どこかで3手目があると?」
「かもしれない、という注意喚起だったんだが‥真剣に取り合ってくれたようだな」
「どうしましょう‥」
「オレが行く訳にもいかんなぁ、ターニャと騎士団の者に任せよう、向こうに滞在して貰って事態が起こった場合の援護と上層部の護衛をさせる、ターニャなら学も剣もあるし、国家間会議があってもそのまま座らせておける」
「なるほど」
そこでターニャに事態を伝え
騎士団の精鋭10人と即日ペンタグラムに向かう事と成った
そして更に翌日には北のヘイルズからの使者である、謁見の間で迎えたが驚くべき内容であった
「我国はグランセルナ政府に旧バルクストの逃れた王家一族の引渡しを要求する」であった
無論フォレスはその場で
「旧王家の一族は既にグランセルナの住民として移住されているし王族という立場を捨てている、それに女子しか居らぬし、王家の復興も望んでいない」と返して断ったが
「当人が望む望まぬに限らず、担ぎ出される事もありましょう、我々はその懸念があります、重ねて、引渡しを要求します」
「軍も当方の一軍と成っている、流民も既に移住と成っている、我が国の領民である以上その要求は受けない」
「その場合、こちらと事を構える事になりますが宜しいのですか?」
「ヘイルズが戦をしたいのはよく伝わった、返事は変わらん」
「グランセルナの兵力で我らに勝てるとお思いか?」
「兵の数で戦が決まるならもうとっくにバルクストが南の覇者になっているだろうよ」
「分りました、そう伝えます」
「そもそも、オレを頼って逃れて来た者を斬り捨ててはオレの評判が落ちる、交渉や外交というわりにこちらに土産すらない菓子折りくらい持って出直してまいれ」
そうしてフォレスはその場で追い返した
参列して聞いていたエミリア辺りも怒ったが
「何だアレは?脅迫しに来たのか?」
「戦の準備は整った、という事だろうな、このタイミングで引渡し要求自体意味不明だし」
「?」
「この交渉のうんぬんに関わらず、こっちに攻める口実が欲しいというだけだ」
「ふむ?」
「オレが受け入れてバルクストの者を差し出せばオレの評価を落とす、断れば攻める口実にする、それだけだな」
「また、せこい真似を‥」
「舐められている、のだろうな、間抜けな事だ、どっちにしろ、出方を探るには丁度いい」
「逆に向こうの意思は分ったな」
「そうだな、二国ある事で一気にと考えているのだろう、実際かなり軍備に金と人を使っているようだし」
「なら、こちらも準備を整えるまでだな」
「そうだな、が、直ぐに、という訳でもない、向こうも色々仕掛けてくるかもしれんし、大体、ウチは防いで守るだけでも勝てる準備は二年前からしている、慌てる事はないさ」
「だな」
「兎に角、エミリアはアトロスらとも話し合っておいてくれ」
「了解した」
云ってフォレスは王座にもたれて目を閉じたままだった、当日の夕方にはエミリアとバルクストの面々と会談と成ったが、アトロスやアドニスとの見解も一致していた
「せこい脅しですねぇ」
「が、陛下がお断りに成ったのは懸命だ受けようが断ろうが向こうは戦を仕掛けるのは規定路線だ」
「で、司令、いざ戦うとなれば、ですが?」
「基本的なやり方は変わらんよ、守って防ぐで撃退できると考えている様だ、その準備は二年前から整えていると云っている」
「なるほど、とりあえず我々は準備を、ですね」
「お主らも意見があったら単身でも行っていいんだぞ、フォレスはどんな意見も聞く」
「なるほど、そうさせてもらいましょう」
その日のうちにアトロスらもフォレスとの会談を持った
「具体的に打つ手ですが」
「特に無いな、というより、向こうから攻めてくるのは寧ろ有り難いくらいだからな」
「ふむ、確かに装備は独特ですが」
「やってみれば分かるさ、おそらく現状でウチとまともに戦える相手はそう居ない、基本引き込み作戦になる」
「‥施設と距離を使った防御戦ですね」
「そうだ、相手の動きは逐次監視させている、それに一度相手に打撃を打ち返せば、以降は戦う必要もないし」
「どういう事でしょう?」
「これを見てくれ」
「これは‥」
「相手の、ヘイルズ所有国の財政状況だ、向こうは軍備に4割近い財政と、全体人口の10%も兵に使ってる。これでは維持継続は難しい、一戦して落とせなければ、あるいは長期戦になったら回復まで時間がかかる」
「成る程‥そして、一戦凌げれば周りからの圧力がある、ですね」
「故に、防御側ではあるが、兵糧攻めをする、色々な意味でな、まだあるかどうかも分らんが、戦に関しては心配はしてない」
「では我々も防衛参加でしょうか」
「一応既に作戦は展開している、具体的な戦場策は向こうが動いてからだな、貴官らはその準備だけでいい今回はだが」
「というと?」
「まだ、どうなるかまでは読めないが、作戦は略出来てる、貴官らにも前線で見せて貰う、相手はバルクストからもかなり無理に徴兵している、おそらく、それが役に立つ」
「寝返りの類ですか」
「嘗ての王国の主将がこちらで力を振るうという現状に旧バルクストの人民はどう思うか?という事だ、おそらく、止めの一撃の際に動いてもらう」
「成る程、かしこまりました」
更に3日後には、第二回の「脅し」の使者である
「決断の方向性は決まりましたか陛下」
「態々前の使者が戻る前に次とは随分計画的な外交だな、相手の決定の内容は関係ないと見える」
「‥その様な事はありません」
「今の現状でグランセルナと戦う事はソチラの利益にならない事は理解しているのか?」
「ええ、圧倒的優勢は見えていますから」
「連合国である事を忘れてはいまいか」
「こちらとて同盟はあります」
「共闘してくれるならそうだろうな」
「一度共闘しております」
「次も期待出来る程の国なのかねぇ、まあ、オレの知った事ではないが」
「引渡しには応じないという事で宜しいですか」
「引渡しに応じても戦するのは変わらんのだろう?なら無意味だな」
「後悔されますぞ?」
そう残して二回目の使者も去った
「態々忠告したのになぁ‥」
「使者にそこまで深い交渉は出来まい、それに向こうは結論ありきだろうし」
「だな」
そうフォレスとエミリアで交わした直後伝心が入る、カルディアからだった
「一応こちらに呼んで、交渉しているが、餌がもう少し欲しい、あちらも水稲をやりたいらしい」
「分った、自由にしていい、それとコッチは思いのほか事が進んでいる、決定的な一撃として援軍も出すと云っていい」
「急ぎか?」
「北のヘイルズから二回脅迫があった」
「了解した、直ぐに纏める」
「頼む」
それが、12個目の転ばぬ先の杖、でカルディアに頼んだもう一つの事であった、すぐさまフォレスは軍司令室に向かいアトロスら旧バルクストの将を集めた
「アトロスとアドニスはカルディアの所へ行ってくれ任せた軍全部で」
「え?!」と一斉に返された
「今、北との戦争の気運が高まっているのにですか?!」
「この際だから貴官らには故郷を奪還してもらう」
「は!?」
フォレスはニンマリ笑って「策」を説明した
それを聞いて反対が出る訳は無い、特にアトロスらは
「そうなると、グランセルナ本国は?」
「俺らだけで大丈夫だよ、ここは恐ろしく固い、向こうが遊んでる間にびっくりさせてやろう」
「わ、わかりました必ず成功させます!」
「気張らなくいいさ、カハルとの共同戦線になる頼むぞ」
「はは!」
そうしてアトロスとアドニスは即日全軍で東へ
フォレスは騎士団とエミリアにも策を説明して準備と成った
「と、云う訳でオレらの方針は同じだ、向こうを引き込んでこちらに縛り付ける、クローゼとロバスト中将は手持ち軍で中央の街東西で待機防衛、エミリアは本軍だがテラと共に遊撃軍をやってもらう、全体指揮というか指示はそのままオレがやる」
「分った」
「司令が防衛じゃないんですか」
「エミリアは武力が一番だからな、細かい指揮はそこまで得意じゃない、まあ、コレ自体囮だし、基本的な作戦さえ守ればいい、負けない作戦は作ってある」
「私としても過去軍を率いて負けた事がある、後ろで全体指揮をフォレスがやってくれるのは楽でいい」
「そういうこっちゃテラも武力を活かせるしな、ただ、勝ちすぎても困るので、作戦だけは守ってくれよ」
「は、はい」
「それからヴァイオレット准将に三千預ける、領土北東のブラセア湖畔の街へ、ヘイルズの後ろから来るロドニと街道を封鎖して戻れ無くする、罠も伏兵掛ける場所も用意してある、タイミングは告知する」
「はっ、お任せください」
「南東部族の長ドネツクの親父さんも呼ぶので街道、敵後衛の分断挟撃になる」
「はっ!」
「それとマギを呼んでくれ、親父さんの所へ、策をお願いする」
「了解です」
「そんでローラとアノミアもオレの私室に」
「はっ」
と、指示したが何故か3人とも同時に来た
「おうさま!私も戦います!」
「まだ、早いから‥」
「ではお傍に!」
「親父さんに聞いていいって云ったらね?これ、手紙」
「わ、わかりました!」
とまずマギは書状を携え、すっ飛んで行った
「もてもてじゃな」
「子供には何故か好かれるんでね」
「ほんで私だが?」
「ローラもカルディアの所へ、終戦後即店の展開が出来るぞ、それと、オレからの紹介状、アチラさんは食料関係に不安がある様だ」
「分った」
「んで、アノミアは」
「監視だな」
「ああ、んで、イザ始まったらオレの傍に、先行軍の指揮というか指示もするんでね」
「ふむ、その後は中央の防衛にも加わる、か」
「それで良いと思う、兎角今回は向こうの動きが逐一欲しい、それ中心かなぁ」
「分った」
こうして全ての「事前策」を整えた
後はヘイルズが動くだけ、と成ったが実際動き出したのは一週間後である、それ自体、願ったり適ったりではあったが
理由は単純、グランセルナとの交渉の内容を周知させる為に宣伝をうって、旧バルクストの王家一族の引渡しを巡っての戦争の正当化を周辺国に見せた事である、ヘイルズからしてグランセルナを「戦争罪人を庇う連中」と位置づけをしたためだ
フォレスはアノミアからの報告を受けて全軍への作戦開始を告げた
「敵の総数四万、ヘイルズ本国から二万、合流した後バルクストからも二万出陣」
「後ろのロドニは?」
「五千程度、一日ズレだな、あまりやる気があるとも思えんな」
「ま、前回の協力戦の後も礼の類は出てないらしいしな」
「どっちも利用する事しかないという訳か」
「バルクストの守備兵は?」
「3千だな」
「ふむ、こっちの中央までは早くて五日くらいか、よし、オレらも出るぞ!」
「おおお!」
グランセルナは現時点で中央に一万八千
エミリアを主将に八千率いて北へ出撃、後列に100程度のフォレス直属隊と千の工作隊を伴なってである
三日後、領土境界線からグランセルナ中央との中間点辺りで開戦と成った、街道の平地での対峙、が、四万対九千である
「作戦通りやればいい、無理はするな」
との指示あってグランセルナ軍は最初から防御戦であった、そもそも数が違う上にまともにぶつかる判断はない
双方四角陣のまま激突するが、即座にグランセルナ側は後退防衛戦を行った、相手からすれば当然だろうという思いである元々の兵力が違い過ぎる
が、この防御戦は圧倒的数の差をモノともせず、グランセルナ軍は全て防ぎきった
ここで活躍したのが「盾兵」と「藤甲兵」弓や騎馬の突撃を横一線の様な盾部隊が前に出て防ぎ、歩兵での乱戦でも藤甲兵は数負けにも関わらず殆ど被弾せず打ち返してくる
思わず敵将も「何だあの奇兵は!?」と叫ぶ、見た目は貧弱な木材武装兵なのだが兎に角固い、どうしてそうなっているのか分らない相手からすれば不思議としか言いようが無い
およそ二時間の下がり防衛で味方側、グランセルナ軍もここで初めて確信を得た、彼らも木材兵だけに半信半疑だったが、あまりにも固く、強い武装だと意気が上がった
「良し!後退するぞ!弩兵!」
エミリアは前線で指示して一気に馬を返す、逃げる相手を追いかけようと敵前線も前に出るがその瞬間天から矢が降り注ぎ、あっという間に500もの死傷者を出し、追撃が止められる
「無意味に追うな!」と敵将も指示を出し
悠々と下がる敵を見送るしかなかった
何しろ、敵軍の最後尾から撃って来たのだ、とんでもない射手、しかも飛んでくる矢の数がスコールにでも襲われたかという程の量、射程と数が尋常ではない上に盾でも防ぎきれない程の威力があった
そして全く同じ展開で翌日、二度目の街道戦が行われる。グランセルナ軍の武装を見せ付けられヘイルズも防御戦にならざる得ない
双方軍、消極的なまま打ち合いと成ったがまたも二時間の戦闘の後、エミリアは引いて後退して終える
「まるで自分が過去にやられた時とあべこべだな」
「が、作戦だと分っても問題ない、そもそも向こうに選択肢が無い」
「ああ‥こっちを落とすのが役目だからか」
「上からの命令があるからな、それでも尚引く程の相手ならやばいが、そこまででは無かったようだな」
つまるところフォレスの「守って防ぐ」狙いはそこにある、相手の選択肢をそれしか取りようが無い状態に追い込む事、だから最初からそういう形を目指した。
領内首都からの十字街道も通常のモノと違い大軍通行が可能な程道幅も広く、石畳みにし、北は特に緑化を急いで林や森や丘を作り、策の展開を可能な土台を作り、偽装した軍事滞在施設や地下に補給施設などもルートに用意してある、要するに「攻められた」際に軍展開を容易にし、間で迎撃、策を展開する余地を最初から用意してあるのである
そして更に翌日、三日目、首都の街を背後にしての最終防衛戦である、ここまでくれば後は街になだれ込めば終りと考えヘイルズの将は一気に攻勢に出た、正面に立ちはだかるグランセルナ軍を中央突破で叩きのめしに掛かる
グランセルナ主軍は円陣を敷いて盾と弓で分業を行い、出てくる相手を手前から、徹底して撃ち足止めしながら下がり迎撃、街の正面入り口まで下がって少しづつ味方を街内に撤退させた
左右に官舎の壁を置き入り口を封鎖する様に半月陣に防御線を敷いた
そしてエミリアも殿を務め敵を止める
もう敵も決したと思った、城下門に等しい場所だ、街になだれ込めば決着と誰もが思った、が、それが果される事は無かった
敵軍が全軍入り口に殺到した所で、左右壁の様に並べられる3階建て官舎の、屋上と窓が開き左右から一斉に矢が打ち込まれる、壁であり、官舎であり、射台でもある「石家」から
予想外過ぎる反撃で正面に殺到していた敵軍は
僅か30分で1000近く射殺される
ここで軍将も判断に迷った。向こうは城門すらない街の正面入り口、ここを抜ければという判断と思いがあった、数ではまだこちらは3万弱は居るし、後ろにはまだ援軍が来る、それが判断を誤らせた、しつこく「落とす」事を行ったのである
「城壁でも無い!ただの家だ!破壊しろ!」と
が、その対策すらしてある「家」だ、火矢も丸太打ちもまるで通じず、窓も外側は片手が出せる程度の狭さ、屋上に矢を放り込んでも盾との連携で跳ね返る、殆ど何も出来ず更に30分で被害を倍化させただけだった
「よし!狼煙を上げろ!」
フォレスの指示で「次」の策が動く
左右の官舎の窓が封鎖され、円型の街の左から回ったクローゼの別軍二千と、ロバスト中将の二千が敵左右横から急襲
エミリアの正面軍も反転して入り口から出撃である、既に兵力で互角近くに成っていた、敵将も迎撃しながら後退の指示を出した
「後ろから来るロドニの援軍と合流する!防御しつつ後退!」
その判断自体遅い
この命令の前に既に後ろから来る味方援軍は敗退していたのである、どうにか円陣を敷きながら下がり防衛を続けて凌いだが驚愕の伝令が舞い込む
「ロ、ロドニの援軍は後方一日の所で罠と伏兵に襲われ既に敗退!撤退したと!‥」
「何!?」
そしてこの報はフォレスにも伝わる
「親父さんとヴァイオレット准将が相手の後ろを取ったぞ、追撃戦だ!」
「おー!!」
と一斉突撃である
「エミリア!テラ!騎馬隊の出番だ!」
「応!」
正面主軍からエミリアの騎馬軍の出撃、右からテラの遊撃隊の出撃である敵は円陣のまま半日防衛したが、夕方にはロドニ軍を破った親父さんドネツクの騎馬軍も相手の後方街道北から現れ、完全に四方包囲戦の形と成った
しかも帰りのルートもヴァイオレットらが街道を封鎖、もはや撤退すら出来ず、一時間で残り兵も撃滅される、敵将を捕らえ、残った敵7000も降伏の完全勝利と成った
そしてそれだけではない
報告を本国で受けたヘイルズの国王も驚愕しか無かった、グランセルナに敗退の報とほぼ同時
「バルクストに東から敵が侵攻!既に敗退したと!‥」
「東!?ロンドギアか!?」
「いえ!グランセルナ連合の東、カハルからの侵攻です!ロンドギア領内の街道を通ってのモノと‥」
「通過許可を出したのか‥」
「そのようです!敵軍は一万六千!守備軍は即日敗戦し、バルクストも占拠されたと」
あまりの出来事にヘイルズの王も王座に崩れ落ちるように座って動けなかった、3万もの兵を失い、折角押えたバルクストも奪われたのである、当然であろう
そして問題なのはその後、
それも間を置かずに直ぐに現実の物と成った、捕われた捕虜、軍将と兵の捕虜返還の金銭交換の要求、敗戦賠償と合わせて通知されたのが五日後
捕われた兵の内半数、グランセルナとバルクストの両国捕虜、四千が即日相手国に臣従、協力関係にあったロドニからも同盟が破棄され、こちらからも兵を失った事への、半分脅迫の賠償請求があった
そして大勝利に終ったグランセルナ連合、フォレスの策はこうだった
グランセルナ本国へ攻め込む相手主力を引きながら首都中央砦前まで引き込みつつ、妨害と戦闘を繰り返しながら後退して最終決戦を行う
元々防いで守る武装と準備がある為十分止められる計算があった、布告から開戦、本土戦の稼いだ五日の間に事前交渉していた東のロンドギアの街道を通って、カハルから手薄なバルクストをカルディア&アトロスらで襲撃奪還
引き込んだ相手と同盟国ロドニの援軍の背後を東部族の長ドネツクと予め配した伏兵千、ヴァイオレット准将が分断撃滅の後、ヘイルズ本軍を挟撃
仮に接敵戦闘面で上手く行かなくても引いてグランセルナ本国まで下がってもいい、グランセルナとバルクストの距離の長さがある為、各地に配した横からの伏兵、ヴァイオレット、ドネツク、カルディア、アトロスの軍の何れかの来援か、街道封鎖、バルクストの奪取が間に合えば何れにしろ超大規模な包囲戦になり、相手は後退以外手が無くなるからだ
簡単に言えば全体盤面ではこうなる、余程圧倒的に歩兵負けしない限り負けようがない作戦と状況を作った。北から南への長い距離を活かした多重分断作戦である
バルクスト本国 ←カハル・アトロス軍
←ヴァイオレット軍
ロドニ軍 ←ドネツク軍
クローゼ軍→ ヘイルズ軍 ←ロバスト軍
エミリア本軍↓
無論そこまで上手く行くとは思わなかったが幸運、いや、相手の油断があった
1、元々早めにやっていたロンドギアとの街道通過交渉が比較的、スムーズであった事、その情報の封鎖が完璧だった事
2.バルクスト国の守備兵が三千しか居なかった事で略無戦闘で即日奪還が成功した事
3、ドネツクの後背襲撃が早く、同盟国のロドニがヘイルズと共闘する意識が薄かったことである
何れもヘイルズの王が「余裕の戦」と油断していた事にある
「勝ち前提」の仕掛けが交渉を含め全て裏目に回った、そして最も恐るべき結果は軍の被弾率である
グランセルナ連合3% ヘイルズ、ロドニ連合 85%
というとんでもない防御力・戦火差である
終戦から暫くは大騒ぎだった、戦勝パーティーもそうだったし、この「策」の見事さが南方周辺国に瞬く間に伝わったのだ
そしてロンドギアの領内街道通過許可と連合に売った恩の恩恵がでかかった、元々領土と人口の割り、食料の安定感が薄く、軍備の強化がし難い状況と、この国には「護将」が居る為攻める方針は無い
連合の後ろ盾と新種の農作物の援助が同時得られたのである
、終戦翌日の朝には既に、ヘッジホッグの商人隊ボスのローラがフォレス王の紹介状を携え面会し、水稲の種を置いていって約束を果し、支店の展開を持ちかけられ直ぐに許可を出した
交渉時の約束事には無かったのだが「恩賞」と「礼」でグランセルナから三日後には金塊類が献上された上に書状も添えられた
「ロンドギア苦境の際は援護致す、礼には礼を持って当る」と宣誓されていたのである
この時点でロンドギアの若き王は確信したのである、グランセルナは敵にする相手ではない、と
本来、策を弄するなら連合が街道通過を許可しつつ、横を突く事も、ヘイルズにバラして逆に恩を売る事も連合に手傷を負わせる事も出来た、それをしなかった事が正しい判断であったという「確信」である
単に今回の一件で自分の国に得があったという事ではない、これ程の大作戦と策が打て、戦後処理の見事さを打ち出せる君主と配下が居るという事がだ
ただ、戦後処理で見当違いもフォレスには一つあった、奪還したバルクストをそのまま旧王家と軍に託そうと考えて姫やアトロスらと話したが拒否された事だ
「王家という立場は捨てていますし、わたくしらはその器量があるとは、思っていません」
そうハッキリ返され、結局そのままフォレス王の領地とするしかなかった、それが一番悩みの種と云えなくも無かった
本国、グランセルナをそのまま騎士団と行政官に一時任せて、自身はメリル、アノミア、エミリアらとバルクストの一時統治に向かった
「ここって案外守り難いんだよね‥」と玉座でグチった
「東はもう問題無いでしょうが、北二国ですね」
「そうだな、まぁ‥ヘイルズは暫く大人しくしてるだろうが‥」
「内政も軍備もどうにかせんとなぁ‥」
「エミリアの云う通りではある、特にヘイルズの前支配者が数字を見る限り、アホ治世をしとる植民地じゃねーから!てくらい徴兵したからなぁ、ここから兵を募集するのは無理だろう‥」
「フォレスの支配地ではあるから南から持ってくるのは問題なかろう、それにアトロスらが居るし向こうの捕虜も大分こちらに加わった」
「そうだな、軍はとりあえずあっちに任せるか‥元々の自国だし」
「私はどうする?」
「暫くは北に睨みを利かせる意味で居てくれ、防備と内政を整えたらアトロスに任せていい」
「分った、では軍の方へ行っておく」
「頼むエミリア」
フォレスはそのまま王座で何時ものポーズだった
暫くした後、起きてメリルに当面の事を伝えた
「とりあえず、減税と、志願兵だけ募集、本国から屯田兵を二千程頼む、南領土境界線の関所を増強とついでに滞在施設を作る、ここと本国の距離の問題をどうにかしないとな」
「はい王様」
「見たところ、王城と城下街門は固いが、守りの意味では普通だなぁ」
「そうですねぇ、周りは平地ですし、それだけに何か作るというのは出来そうですが」
「うーん‥まだ、連合の後ろの整いが出来てないしなぁあまり過大な事は出来んし、オレらがこっちの統治にずっと居るのも問題だ、かと云って敵さんが動けないのも何時まで続くか」
「統計上ロドニはそこまで無理して軍備はしてないので動こうと思えば動けますね」
「うーん、インファルとターニャが居ないのはキツイな」
「では探しては如何ですか?」
「代理統治や委任できる内政官の類か?」
「ええ」
「何れにしろ必要だが直ぐには無理だな‥ティア辺りなら、文武の能力も知性もかなり高いからいけるかもしれんが」
「では、やらせてみても宜しいのでは?」
「エルフをか?」
「人魔と違って、元々の印象は宜しいかと、高貴で知性と良識が高いという絶対的価値観がありますし」
「云われてみればそうだが‥‥お試しでやってみるというモノでも無いような‥」
「当面は王様がここに居る訳ですし、幾つか任せながら様子見では?」
「そうだなぁ‥元々エルフ集落の統制をしていた訳だし‥やってみるか」
そう決められ「ためしに」で初めて見たのだが一週間で殆ど問題は出なかった
「高貴で知性と良識が高い」というのも本来は誤解でありエルフと言っても千差万別であるが、ティアに至ってはその誤解が誤解では無かったのである、少々口が悪いのと自己と他者に厳しい面はあるが
「どっちかっていうと軍人ぽいが‥」
「うちの軍部の連中よりお堅い」
「少なくともアドニスよりは統制力はあるだろ」
というのが軍部、エミリア、アトロスらの感想だったそして
「内政の判断力と公正さはかなり高いな」
「ですねぇ‥このまま城主にしても問題無いのでは?」
というのがフォレスとメリルの意見である、結局、内政の基本方針、減税と過度な徴兵はしない、後方の軍事施設の建築の方針だけ決めて実行した後
ティアにバルクストの統治を任せる事になった、主軍の統制をアトロスとロバストがそのままやり、城周りの警備、近衛隊に元々やっていたアドニスとヴァイオレットが付いた
というのもフォレスの場合、大御所としてグランセルナに居た方が良いという点、何しろ金、物、人、の増強が容易く、最大キャパシティが非常に高く過大な軍力を置く必要が無い
その為内政直轄地とした場合、後ろから兵糧、資金、兵が湧いてくるという、本国で有りながら後方支援国という基本的な戦略的優位性がある為である
もう一つ今回の戦いで得た物があった、今回伏兵の任と後背襲撃を成功させたドネツクの速さと強さと軍の単体武力である、相手ロドニの援軍が脆い、包囲戦というのもあるが数は互角近くで1時間で撃滅するほどの火力を見せた
そして娘のマギが矛を担いで、武装したまま中央砦に戻ってフォレスを迎えて云った
「おうさま!私もいっぱい倒しました!」だった
どうやらそのままドネツクの親父の軍に参加して戦ったらしい、しかも単身20人も倒したそうだ、そんで
「もう子供とは言わせません!戦います!」となる
(また、あのおっさん余計な事を‥)
とフォレスも思ったがこうなると拒否も出来ない
というかサーチでの武力順位付け自体、既に最初からテラといい勝負くらいの素養はあった訳で
「ま、当人がそれ希望ならいいだろう」とマギも騎士団に預けた
一応14歳には成っていたので後々の経験を積ませる意味合いで、そしてクローゼもテラも腕組んで唸った
「騎士団はとりあえず団体じゃないんだけど‥」
「でも陛下の人事の判断が誤ってた事もないよね?武力ではボクといい勝負て云ってたし」
「‥そう云われると否定しようも無いな、兎に角、使ってみよう」
つまりターニャの時と同じ流れである
そして「陛下の判断」が誤っていなかったのである
あっという間に騎士団のマスコットになった。素直、元気、小さい、可愛いのもあるが単騎武力が特に大きいが軍的には使い難い何しろ軍錬でも敵を見つけると
「いたぞー!!」で、突っ込んでいく傾向が強い、が
兎に角、騎馬単騎で誰にも負けない、包囲されようが、盾を並べられようが、弓を撃たれようが、全て叩き潰して前進していく正直見ていたクローゼもテラも唖然だった
「猪突とは聞いていたけど、猪ではないね」
「と言うか、竜巻みたいだな」
軍の少数模擬戦でもマギが居る方が勝つ、という程少数だと強い、単なる突撃武力でなく、彼女の突進はそこに楔を打つ形である、そこから周囲を巻き込んでなぎ倒していくので
便乗してもしなくても相手集団を引きつけて崩す効果が非常に高かった、かと言ってまるで命令無視という訳でもなく普段は温厚だしちゃんと言う事を聞く
どうやら彼女の突撃は独特の「勘」があって崩せるポイントを見抜いてやっているのだと分るのはかなり後の話である
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