境界線の知識者

篠崎流

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森の守護者

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二日後にはロードランドから更に南東に向かう

ヘッジホッグは10台連結の荷馬車移動集団で規模はかなりの物だ、交易が主流で荷馬車は荷物で一杯だ、しかも人数も極端に少なくローラと小隊員5人だけ、護衛と雑用にエルザだけだ

この騒乱の時代でよくこの構成でやれているな、と云わざる得ない

「ロードランドの南東と言うと小国が多いな」
「そうじゃな、常に小競り合いのある地方じゃが、それだけに物が売れる」
「だろうな」
「たた、間のいくつかの国は素通りする、最南東の「石の国」に行く、特に生産品が少なく、金があるのでね」
「つまり、宝石や鉱石か」
「さすが術士じゃな、其の通りだ、平地が少なく丘、山、石ばかりじゃ、それだけに出土品が多く、金は皆あるが、逆に食料や畜産がやり難いので慢性的なモノ不足にある」
「ふっかけても売れる、て事だな」
「うむ、しかも周辺地域との小競り合いが多い」

ローラも説明してフフフといやらしい笑みを見せた、ただ、目的の地に入るまでかなりの時間が掛かった

この馬車隊は連結移動なので安定感はあるし、かなり大量に物を積めるが反面移動が遅い、徒歩より多少早いだろうという速度の問題

それとこの地の荒れ様、街道から国を跨ぐのに審査や関所が多く、イチイチ確認の為に止められるという事だ

結局石の国に辿り着いたのは15日後だった

石の国の関所はフリーパス、顔パスに近く歓迎されて通された、そしてアリオローラの知名度の高さである

ヘッジホッグは各地を回り多くの物品集め素早い応対で兎に角名前だけは有名だ、元々彼女は金持ちの家の娘で父親も商人隊、それを譲り受けて今の地位にある

世の中の流れを読む力があり、頭もいい、この年齢にして一財産築いた名士と言ってよかった

そしてこの地の条件を周知して以下の方法を取った、連結した馬車を離し各地に分散される、それぞれが其々の地で更に物品を買い付ける

本体は石の国でとりあえず持ってきた商品を売りまくり分散した地の荷馬車を交換で入れ替わり石の国に集め、商品を絶やさず商売を続けた

これで10日後に再び商隊に合流して連結部隊となった頃には金券500枚も集める事と成った笑いが止まらない程の収益である

が、彼女の場合、殆ど商売は趣味に近い、元々金持ちであるし、金に執着している訳ではない、そして目的はフォレスに近かった、つまり定住地を作って支店の展開である

この一連のやり口を見ても移動をしまくるよりも各地に店が有った方がいい、なにしろ商品に対する応対と効率性が違うという事だ

「さて、売る物も無くなった事じゃし、後は遊びにでも行くか」だった
「遊び?」
「ここから南にはまだ行ったことがない、どうせ売る物も無いし、まあ、情報だけはあるんだが」
「どういう所なんだ?」
「自然が多く豊かな地方らしいの」

そんな経緯で更に南方に向かう
一週間後にはそこへ辿り着く

街道を南進してそのまま大きな城下に、がそこで入国にもめる衛兵に止められたのである

やむなく街の外で小隊ごと野営と成った、元々移動式住居も兼ねているのでそこは大した問題ではないが

しょうがないのでメンバーとエミリア、ターニャを馬車隊に護衛に残し情報収集に当る、ローラだけ適当な安宿を取ったが
「おいエルザ、情報を集めて来い」と指示してエルザがすっ飛んでいった

「オレも一回りしてこよう」そしてフォレスも街を回った

夕方には3人集まっての伝達会合である

「なんか結構カチカチの国だな、軍も多いし、統制が厳しい」
「どこと争っているという事も無いみたいですが、警戒はしているみたいです!」
「ふむう」
「んで、どうもこの辺りは賊の集団が出るそうだな」
「それであの対応か」
「街はどうだ?」
「ハイ!賑わってますね、物も人も多いし、貧富の差は小さいです、先行情報の通りの安定した国ですね」
「それとオレが裏から調べたんだが、ここには軍にこれと言った人材が少ない、徴兵の類も志願だけで無く、募集も掛けているなぁ」
「将が居なきゃ数で、じゃな」
「既に総軍は6万を超えてる、石の国周辺地域より既に多い」
「ただ、其の割りインフレ感は無いですね、かなり安定してます、周辺に自然が多いですし様々実りや原材料に事欠きませんです」
「うーーむ‥あまり長居したくないのう‥戦争の気運が高い」
「同感だな」

「さっさと物だけ調達して移動しよう、南の情報はあるか?」
「はい!」
「なら、オレは向こうに戻らせて貰う、何しろ外だしな、賊の類が出ても困る」
「すまんな」

準備といっても大して無く、食料の調達とある程度どこでも需要のありそうな物の買い付けた

翌日からローラら専門家が様々な店を回って交渉し、物品の売買を行う、そこは慣れた物で一日で大方の準備を整える、ここに留まる理由も無くさっさと南へ移動した

そこから南は小国が多い、争っている訳ではないが外敵の脅威が其々ある為不安の多い土地だ

「事前情報と大分違うのう」
「ま、今は全国で覇権を争うような時期だからな、古い情報はアテにならん」
「支配者もコロコロ変わるしの」

そしてその地方もさっさと抜ける、次の国までの距離が長い上に街道が整備されていない、道自体も途中でアチコチに分岐している

一応地図はあるのだがそれもあってるのかどうか不安になってくる程だ、5日過ぎても街や村無く、只管南に向かうしかなかった
「未開の地に等しいな‥」

街道の途中にある森の道で野営して言った

「迷ったんじゃないだろうな?」
「まあ、道はあるのだし、何れどこかに辿り着くだろう」

とフォレスは涼しい顔だった

「相変わらず動じない奴だな」
「未開の地なら未開の地でもいいしな、寧ろ余計な争いの種が少なかろう」
「まあ、確かに」

夜の21時くらいだろうか、皆適当に食事をとって休もうかという時間だ、そこでフォレスとエルザが同時に気がついた、エルザは飛び上がって叫んだ

「皆!馬車に入って!何かいるです!」

え、と思って非戦闘員は全員馬車に入って身を潜めた

「まじぃな‥かなりの数だぞ‥」

フォレスの言にエミリアも構えて剣を抜いた、こちらは迎撃するのは3人だ

そして外で構えた3人の前、足元にヒュという風切り音と共に矢が突き刺さった

ほぼ同時に一同を囲んだ連中が姿を現す
既に周囲を囲まれていた、そして人数も50人は下らない

「これは‥」とエルザもエミリアも呟いた

が、フォレスは見解が違っていた様だ、二人を制して一人前に出る

「落ち着け、俺達は旅の者だ、お前たちに危害を加える者ではない、代表者と話をしたい」

そう相手集団に向けて云った
向こうの集団の後ろ、森奥から答えて女性が現れる、味方に武器を納める様命じてフォレスの前まで歩み出た

「始めまして、森の守護者よ、オレはフォレストだ」
「フォレスト‥森? フ‥私はティアだ、話というならそれに勝るモノはない応じよう」

彼女は透き通る様な白い肌と金髪を持った切れ長の涼やかな眼を持った、美女だった、そして異常に尖った長い耳の

「まさか‥人魔?」

エミリアは云ったがフォレスは否定した

「いいや、エルフ系だ、ここはエルフの森らしい」

それ自体驚きだ、まず存在は知っているが、会う事も見る事もない、天魔人の境界の曖昧さ残るこの時代でも既に見る事はない

本来エルフは争いを好まない、だから「話を」と云えば通じると即座に理解した、だからそう投げかけた

「オレ達は南へ向かう途中だった、街道を南進していたのだが、どうやら迷ったらしい」
「その馬車は?」
「移動する商人、と言った所か皆民間人だ」
「よかろう、一応確認されてもらう」

そうして相手は馬車内を見て周り確認、それが間違いで無い事を確かめて両者共に落ち着いた

「確かに、ここは偶に人が迷って来る、集団では初めてだが、可笑しな事ではないな」
「ああ、ここは正規の街道ではないのか?」
「そうだ、残念ながらな、一つ前の分かれ道で左に折れろ、この先は人間の来る所ではない」
「何がある?この先」
「何も無い、道も途中で終る、一応森は抜けられるが、その先は天魔戦争の地だ、廃墟と荒野と砂漠、くらいだろう」
「分った、騒がせたな、戻るとしよう」
「そうしてもらおう」

と会話を切って戻ろうとした、がそこでティアに止められる

「まて‥」
「何だ??」
「お前術士なのか?魔石を着けている様だが」
「そうだが‥」
「どのような系統の術を使う?」
「大抵、何でも」
「何でも?」
「どうかしたのか?」

そこでティアは考え込んだ、そして

「お主、我等と共に来てくれないか?」
「どういう事だ?」
「うむ‥実は、呪いで困った事になっている、我々は風や水を使うが系統違いで対処出来る者が居ない、何でもというなら手を貸して欲しい」
「ふむ」と云われたフォレスも考えた

「別に構わんが‥こちらの仲間は?」
「馬車は入れんな、そもそも馬が入れん」
「ううむ‥」

そこでフォレスは仲間と相談。そしてティアにも条件を伝えた「その程度なら問題ない」と同意し、そのまま案内した

馬車はそのまま、隊のメンツはそのまま待って、フォレスら3人が行くという条件で応じる事となった

エルフの集落は森にはあるがそもそも結界があり、案内されないと辿り着けない、その為同行して行く事になる、が、間の道自体自動の転移の様な物だ、どこをどう通っているのかすら分らない

集落に出たのは一時間後
そこで家を与えられ、明日という事になった

「迂闊に動くなよ?ほんとに迷う、そうなるとコッチでも探せん」
「分った」
「それにしても‥まさかエルフとは‥」
「ま、彼らは穏健な者だ、めったな事にはならんよ」
「ふむ」
「そもそも人と関わるというのも珍しい、何か余程の事情があるのだろう」
「しかし、呪いとはなんだろうな」
「まあ、それはいいさ、どうせ用があるのはオレだけだ」

そして翌日朝にはティアに起こされ、一同は後に付いた、向かったのは長の家。そこで入る扉の前で事情を聞いた

「長と世話をしていた娘が高熱を出して倒れた、その後体調が戻らず、寝たきりになっている、もう十日になるか‥」
「二人だけか?」
「ああ」

そこで既に予感があった、その為フォレスは仲間を外に待たせ、自分とティアだけで見る事にした

背負い袋から道具を出し早速調べる、手持ちの大きな魔石と、片眼鏡を交換しながら魔法を掛ける、10分してフォレスは決定付けた、道具をしまって告げた

「こりゃ呪いじゃねぇ、病だ」

云われたティアも「は?」としか云えなかった

「馬鹿な!我々が病にかかるなどあり得ん!」
「怒鳴ってもしょうがないだろ‥実際外部干渉の類は無いし、魔力すら無い」
「ほんとにちゃんと調べたんだろうな?」
「まあ、そういうのも判るが、そもそもエルフは病や毒に掛かるというもありえんしなぁ」

そうエルフは精霊の申し子の様な存在だ、毒やら病などかかる例など殆どない、それほど強い抵抗力を生まれつき持っている

「が、絶対かからないという訳じゃない、それに病気というのは変化するし抵抗力があっても、それを上回る力があるなら掛かる」
「‥では、どうする?」
「うーん‥世話人の娘も掛かっていると成ると、伝染病だろうなぁ‥倒れてから10日間の間、接触した者は?」
「私もだが‥多くの者が見舞いや、治療や‥」
「接触感染だろうなぁ、それも定かじゃないが、間接でも伝染するとなるともう終ってるな」
「間接?」
「空気感染、同じ空気吸うだけで拡散する場合、うつる場合だと、全滅確定だ」
「!?!」

「そ、そうだったら、どういう対処になる?‥」
「村ごと焼く、それで封じ込める」
「じ、冗談じゃないぞ!!」
「まあ、落ち着け‥オレも保菌者かもしれんのだ、他人事ではない」
「ぐ!‥す、すまん‥」
「とりあえず、ここから、集落から誰も出すな、そこから感染しかねない」
「わかった‥」
「水源があるならそれに浄化を掛けろ、食い物もだ、ただ、広がりから見て、可能性はそう高くない」
「了解した、私もここを出ない方がいいんだな?」
「告知するくらいはいいだろう、どうせ空気感染ならもう全員アウトだと思うし」
「どの道、最悪の可能性、だったらもう意味は無いな‥」
「そうだな」

そこでティアは人を呼んで事態を告知、フォレスの仲間らも家に戻された、そしてフォレスはそのまま仰向けにゴロンと寝た

「おい、のん気に寝てる場合なのか?」
「うるせー、調べ物だ、静かにしてろ」

そう返されティアも正座して黙って待った

(寝ながら調べ物て‥)

一時間程してフォレスは起きて、今度は手持ちの荷物から自作の辞書のような本をだして、ペラペラめくる、そして決定付けた

「トゥードバレムの熱病だな」

突然云われてティアも「え!!?」と聞き返した

「風邪に似た症状だが、内臓の疲弊と高熱が続き意識不明になる、そのまま一月程で大抵死ぬ、伝染熱病だなぁ、かなり強力な、ただ空気感染は無いだろう、原因はおそらく水かな、原因微生物が体内に入って様々な症状を起こす」
「聞いた事ないが‥」
「だろうな、起きたのは今の歴史書の前の話だ」
「ちょっと待て‥何でそんなモノを知っている‥お前、人間なのか?」
「まあ、教えてもいいけど、一応内緒だぞ?」
「あ、ああ、判った‥」
「長老にもだぞ?」
「わ、わかった、一生だれにも言わない!」

そして耳打ちして事情を明かした、一言だけの説明だがティアには理解出来た

「な!?‥」
「やっぱり知ってたか」
「それは、まあ、しかし人間がそれを持つ等聞いた事もないぞ‥」
「まあ、不幸な事故だよ、偶然それを継いじまった、他に誰も居なかった、とも云うが」
「成るほどな‥」
「ま、それ以上の詮索は無しだ、それに今はすべき事がある」
「そうだな」

「とりあえず‥」とフォレスはメモに走り書きし、それを差し出しティアに預けた

「これを揃えてくれ」
「なんだこれは?」
「薬を作る」
「で、出来るのか!?」
「ああ、これで治った例がある。多分効くだろ」

そしてティアに告知され、集落の者で材料を集める、殆ど森で採れるモノだ当日には用意されて届けられた

そして薬の作成

なんの事は無い、集めた数種の実を煎じて飲み薬にすればいいだけだ。30分も掛からずそれは完成する

一応既に患者に接触している、自分とティアも飲んだ
信じられないくらい不味かった

翌日には薬を飲ませた二人、長老と娘も次第に回復する事となった、ただ、寝たきりだったのと消耗が激しいので一応治癒魔法も掛けておいた

夕方にはフォレスらも帰る事と成る
集落の住民総出で送られ、去った

「症状が今後出たら同じ物を作って飲ませればいい、正直誰に感染してるか分らん、口に入れる物は浄化か煮沸をしろ、おそらく、水だろう」
「分りました、本当にお世話になりました」

が一同が戻って馬車に乗り込んだ所で

「おい」
「なんだ?」
「何故お前まで馬車に乗ってる」
「恩義には恩義で返す、私はそれを果す、お前の為に全てを捧げる」

要するにティアも強引についてくる事になった

「それはいいんだが、目立つと思うが‥」
「同感じゃな」

エミリアもローラも尤もな事を言った

「まあ、耳だけ隠しときゃ問題ないだろ‥ティアはそれでいいか?」
「別に不自由は無い、構わん」

そうしてまた南に向かったのである

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