剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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北の獅子編

人事と地の利の差異

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そのまま三日目になるがロベールも前日の「事」があったために前線を自重したまま弟子や部下に前を任せた

アルベルトはこのままでは立場が無く、渋々金を出して「アグニ」に前を張らせ、その日の個人戦はアグニが受け持つのだが、相手の力量を測って「及ばない」と感じると付かず離れずの戦法、いけそうだと感じると前に出て剣を振るうと

「喧嘩十段」の武芸者らしくセコイ、嫌らしく相手をいなし続けて膠着前線を作ってその日も軍全体を接戦に意図してコントロールして凌いだ

そのまま休息、再編して翌日四日目に突入するが
ここで南、森の街にアリオスらが辿り着く

もしもの時の為に残した姫百合の軍は命令を守って徹底して防御して奇襲部隊を防ぎ止めた。数は奇襲部隊1200で姫百合の軍は2000であったが

その奇襲部隊は「元」森の街住人の志願兵、ロランが連れてきて登用したアラン、アレンの兄弟。剣聖の弟子ら、ソフィア、ウィグハルトの部隊であり、この場所での戦いに特別な思いもあって意思でも強く尋常じゃ無い武力と火力を持ち、数の不利を覆して突き崩していた

個人戦でも少なくともチカと接戦を繰り広げたソフィアらが相手であり姫百合が如何に才能があろうとも及ばず被弾して負傷、軍その物も半ば崩れかけていた

そこにアリオスがギリギリ間に合い

即座指示してキョウカを前に充て、自身の率いた軍を合流させてカバーした、この時点で敵を止める武芸者がキョウカしか居らず前に出てウィグハルトらと対峙するが「武」に余りにも差があり、10合合わせてキョウカは腹を横に斬られて敗北

致命傷に近かったのだが、そうなるとイリアも「戦うつもりもない」等と言っておれず、間に割り込みキョウカに神聖術で回復魔法と継続回復をかけて助け、自らも棒を持って立ち向かった

「なんというミスだ‥!」アリオスはそう自分に恨み節を言った「女人隊」を主軍に預けて来てしまったのだ

そうなると「武」の者に対峙出来る者がもはやイリアしか居らず、手元にあったスヴァートも30人しか居ないがそれをイリアの周囲に充て守らせるしかなかった

「だが、兵数は3倍居る」とし、アリオスは向こうがまともな集団でも無い事もあり

徹底して盾で防御専念させ、攻撃は弓だけで只管反撃という手段を取った

意外と言っては失礼だが、イリアは武芸者としても、これらの相手に引かなかった

自分が武芸で「草原の傭兵団の6人」の下っ端である事も理解して居た為、アリオスの配慮と戦術に合わせて敵の進軍を止める事に専念

無論彼女も遊んでいた訳でも無く「武」鍛錬を怠らず自らを引き上げたがそれでも今回に限っては相手が悪すぎる、故に

神聖術で自己の身体能力強化、防御向上、継続回復を全て使って自らを囮と盾として時間を稼ぎ続けた

それが分かったアリオスも間に合う訳が無いのだがわざとらしく、敵に聞こえるように指示を出す

「森街の守備兵も全部呼びなさい!2000は居ます」と

そこまで来て、ようやく向こうの奇襲部隊は東森の中にじょじょに引いて撤退した、大軍相手では流石にまずいと思ってくれたのだ

奇襲部隊が全部引いたのを確認して一応撃退
安堵してイリアもへたり込んだ

「死ぬかと思いましたわ‥」
「私もです‥」とアリオスも返した

「戦わせてすみません、私のミスです‥」
「いえ、これでも一応「元傭兵団の6人」ですから‥」
「ほんとに助かりました、キョウカさんも失う所でした‥ありがとう」
「キョウカさんも死なせたくないですし‥私‥」

そこでイリアは立って

「魔力には余裕があります、負傷者の治療に当たります」とそのまま怪我人を治療して回った

(ほんとに彼女が残ってくれて助かった‥)と思った、ヘタをしたらアリオスも死んでいたかも知れない程の事態だったのだ

アリオスは即、バラバラな部隊、軍の再編、森街周辺の防備体勢を整え封鎖の構えを取る

更に「いったいどこから出てきたのか?」の奇襲部隊の進軍ルートの調査に斥候を放ち、地形情報の収集を行わせる

全て整えた後、一連の事態を今だ街道前線で戦闘状態にあったロベールらに伝え、一旦収集を図った

ロベールらもアリオスの収集に反対しなかった

特にロベールは一連の戦争の中身と力量を測り。森街周辺での完全防備なら自分と、戦術の将が居れば十分同数で防げる
と、目算を立てて居たからである


ベルフ軍が戦争を収集して撤退する事を受け、ロランもアレクシアもロルトも合わせて撤退する事に反対しなかった

「森街の奪取、中央街道封鎖は後という事になるか」
「ええ、寧ろ、あそこを向こうに持たせた方が、将と兵を一定数北に釣っている事と同じ効果があります、また、無理攻めしても互角であるからに、こっちの被害も多いと思われます」
「同感だな、特に地の利は圧倒的にこっちにある。しかもここから砦までの距離が長い、向こうが再侵攻してきたとしてもかなりの兵と物資が必要だ、当面向こうも動けまい」

と其々見解を示して一連の「北伐開戦」は全て終結の運びとなった

「ただ、森街の元の住民、間の地域の二地域には我慢を強いる事になりますが‥」と

アレクシアは言ったが、剣聖らもそれらを理解しており、特に反対は出なかった

そもそもベルフ北軍は続けて居り、また、開戦となれば、また、避難となる、そこに「戻る」という人は居ない

間の二つの街に斥候隊と陣の代わりに滞在施設を簡易で作りこの周辺にダブルAらと防衛装備を固めて中段封鎖をしてオルレスク砦に司令部を移し、状況の変化に即応する態勢を整えた

北のとりあえずの終戦三日後。南のクルベル、トレバー砦の奪取の報の後

アリオスらの部下の怪我の回復したのと合わせて。集めた情報を軍議で披露した

「一見地図だけみると東西南を山、中央に平地の壷の中の様に閉鎖された中央地の様に見えますが、人や馬が通れる小さい道や、山道等が多く有るようです」
「そこから奇襲部隊を送ったか」
「はい、特に北連合は領土線に関係なく「道」が使える為、向こうは包囲戦や、後背襲撃がしやすい状況です」
「厄介だな、完全に向こうに地の利ありだな」

「左様です、となれば、ここで陛下の御意を守って中央街道の出口での防衛維持は寧ろ悪くありません」
「そうだな、ヘタに攻めて背後から敵が沸いてくるとなると軍を返して反転対処の連続になりかねん。或いは、数倍する戦力で、側面、後背への対処を十分に置いて尚且つ街道や要所を守らせ得る過大兵力を持って当るかだな」
「ご尤もです、そもそも、その「道」すらいくつあるのか把握しきれません」

「少なくとも、同兵力でのここでの防衛戦なら防ぐ事は可能だ現状それが尤も効率がいい」
「流石ロベールさんです、その通りです」
「で、陛下の指示は」
「変わりません、此処を維持せよ、との事です」

「ただ、アルベルトさんは「本国に戻れ」との事です」
「そうか、了解した」
「ではそういう事でとりあえず解散で」

アリオスも一連の事態でかなり疲れた。そもそも意に沿わない仕事でもあったからだ

森街の例によって作った安宿司令部に帰って「あ~」と椅子にもたれかかった。ほんとに心身ともに疲れていた様だ

「お疲れ様ですアリオスさん」とイリアはニッコリして言った

「ほんとに疲れますよ‥シャーロットさんと代わってくれないかなぁ、北方面なんて、私程度じゃ無理ですし」
「そうなんですか?」
「軍事の常識、て知ってます?、戦略の不利は戦術で覆せないてやつ」
「はい」
「北は戦略ミスでそもそも最初からどうしょうもない状況なんですよね。一方私は、どっちかっていうと戦略家です」
「戦う前に勝負を決めるってアレですね」

「そうです、で、シャーロットさんは、戦略も出来ますけど。どっちかと言うと戦術家。目の前の状況の変化への対処が抜群に上手いんです」
「ああ、なるほど、そういう事ですか、でも‥」
「ええ、本来覆せない戦略の不利、それでも戦術でひっくり返しうる天才戦術家。私はシャーロットさんをそう評価しています」
「もし、シャーロットさんとアリオスさんの人事が逆だったら‥」

「ええ、そういう事です、南も西ももう少しどうにかなってました、北も私の様に醜態を晒さず済んだ可能性が高い」
「醜態‥」
「です、部下を死なせかけ、撤退戦しか出来ず、自分も危なかった、ロベールさんらが居てこの有様です。自分でも嫌になるほど無能ですよ」
「そんな事は‥」

「それに、獅子の軍の軍師、アレとまともにやるにも戦略で負けている以上シャーロットさんのが適任でしょうね、最初から不利な状況をひっくり返したり、互角に持ち込むなんて歴史上稀な事態ですから、そもそも彼女は個人の武もエリザベートさんとやれるレベルですし」
「へぇ~‥」

「更に言うと人脈、カリスマ性、才能、劣勢程強い粘り、自己犠牲の精神も高く味方の負担を下げる為常に自分が陣頭に立ちます、家もお金持ちで、美人ですし、厳しくも優しいほんと完璧超人ですよ」
「後半は関係無いのでは‥」
「まあ、私と彼女は同じ師に学んだので、これ以上無くよく知ってるので、いわば兄弟弟子てやつです。そこでの先生の評価ですね」

「私は彼女に一度も勝ったと言える所は無かったですから、ただ、私の方が「先を見通せる」と評価だけ勝りましたけどね。それだけです、だからむしろ私はシャーロットさんを尊敬してるんですよ」
「そうだったんですか‥」
「彼女が上司だったらな~もっと楽だったのにな~と何時も思ってますよ」
「内政事務の負担も少なかったのにな~ですか」
「そうそう、まったくその通りです、もっと楽したいですよ色々と」

そこまで言い切って出されたコーヒーを啜った

「うーん‥やっぱり具申してみようかなぁ~、北に居ても今後の展開に関われないですし」しばらくアリオスはそのまま唸っていた

「このまま戦略で負けると、そのままズルズル行く事になるなぁ‥どうしたものか‥ウーム」

そのままイリアも彼の思考決定を待って黙った
暫くすると何か決めたらしく

「女人隊の誰か呼んでくれます?色々やってみる事にしましょう」
「了解です」返答してイリアは部屋を出た

「ま、とは言え‥陛下も、もうこっちの意見を聞いてくれないだろうし、勝手にやるしかないですね‥」
「あ~‥嫌だ、嫌だ」と1人になってもブツクサ続けていた

実際、その後「一応」として出した北方面の担当のアリオスとシャーロットの入れ替えの具申は、却下されて動けなくなった

そもそもベルフ軍の将の中ではシャーロットは新参者であり信頼度がアリオスとは比較に成らない「アリオスなら北をなんとかするだろう」という思い込みとある意味信頼されていた故でもあるが、それ自体アリオスには「目先の拘り」にしか見えなかった

自分でも評した通り基本的には彼は「戦略家」でありそれが優れていた皇帝への尊敬もあったのだが

此処へ来て、それが劣り始め、こちらの意見を無視してミスを重ねる様になった、皇帝への失望も出始めていた

個人的な好き嫌いでは無く、その「ミス」が国全体を損なうという将来に向けての展望での事である、アリオスは戦略家故、先の事がよく読めるそれだけに現状が彼には耐え難い程、歯がゆく、不愉快である

これなら、ロゼットやカリステアの方が余程「国主」として優秀である、二人は自分が未熟である事も自覚しているし、他者の意見を黙殺しないだろうし。早期に和平もしただろう自国の味方や配下も軽視しないだろう

彼に個人的な野心等殆ど無く、ただ、自分が生まれ育ったベルフという国が良くなればそれで良かった

「シャーロットさんが上司だったら」と言った通り

上が有能で国を繁栄させ得る人間なら誰の下に着いてもいいとすら思っていた、同時、これら発言から見るに、自身を高く評価しても居なかったのだ

そして彼はある意味最大の国士でもある、それ故、上に対して意見を言う事も憚らない、それが部下として尤も遣いにくくもある

何しろ「判断の誤りを許さない」のである、自分に厳しいが他者にもある意味厳しいのだ

だが、現状、北への担当が堅守された以上それを守って、その中で最善を尽くすしか無かった、所詮「一将」でしかないのだ

一方司令部をオルレスク砦に移した獅子の国一同は軍議を開く、今後の戦略は先の準備でほぼ決まっている事。大陸全体の戦略はエルメイア、マリアらとの協議が必要である為どちらも後で良いだろうとなった為

雑談反省会に近い会合だった

「とりあえず、こちらの、北連合の方針は余り変化がありません、向こうが進軍しいてこないなら、そのままで良いし、いざ、進軍してきても引き込んでから迎撃、側面、後方からの街道の寸断、補給の圧迫で抑え込めます」
「当初アレクシアの打った策と同じになるね」
「はい、規模と数を増やして同じ事をしても向こうが地形を把握し難い以上、続けて有効です、情報収集や斥候と言っても北側全土にそれを行うのは無茶ですから」
「自国領土や中立地ではないからね、まして間に人が居ない」
「左様です」

「了解した、当面はそれでいいとして、他になにかあるかい?どんな小さな事でもいい」
「強いて言えば、ラエルにもう少し、武芸者か兵、装備なんかも増やしたい所ですね」
「そうだな、本国も続けて兵力の増強、ま、無理して増やす程でもないけど」
「引き続き、志願兵を募集で宜しいでしょう、財政面も全く問題ありません」

「ダブルAとバート=ボンズが現状居るけど、どうしようか?」
「なら、私が行きます、向こうはロベールが残りましたし」
「うん、現状護衛官という立場に拘らず前に出たほうがいいね、チカが出てくれると助かる」
「了解です」
「人材もどんどん見出そう、皆も推薦等あれば頼む」
「了解」

「後は北は兎も角東辺りとの国とも渡りを付けよう、相互連携を拡大出来れば、全体戦略も更に向上出来る」
「お任せください、一度私も行って見ます」
「頼むアレクシア」
「それと全体の話になりますが西方面は少々人材の不足が見受けられますね」
「ああ、たしかに、西は二国だけだし、兵も金も相当あるけど、運用面で少し劣るかな、まあ、それでもマリアの手並みを見る限り、なんとかするんだろうけど」

「ええ、状況の変化によっては人材も送れる環境を構築しましょう、それと今回参加して頂いた銀の国の援軍のお二人も戻ったほうが宜しいかと」
「分かりました、そうします、と言っても我らもクリシュナの将ですけど」
「最前線での戦いの場を与えて頂き寧ろ感謝しています、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」

「他には?」
「今回の一連の開戦の感想ですが、ほぼこちらの予定通りに完遂しましたね」
「途中から大陸情勢が変化して一気に戦略的優勢になったからね」
「ただ、それを引いても接線でしたね」

「将の質も高いなぁ、アルベルトも面白い将だし。特にロベールが目立って凄い」
「ああ、俺ではアレは止めれん、現状チカ頼みだな」
「私でも「止める」以上は出来ませんですけど、ソフィアさんかウィグハルトさんならどうか、という感じですかね」

「ホホウ、なら次の機会があれば、ワシも同行させてもらおうかのう、力を見るなら目算出来ますぞ」
「先生‥」
「やめてください師匠‥」
「いい加減年寄り扱いはやめてくれんかのう‥まだまだ、そこいらの剣士には負けんぞ」
「いや、じじいだし‥」
「60過ぎでしょうが‥」

「無礼な弟子じゃな‥」
「自らじじい、と言いながら都合よく若返らないでください先生」
「ま、まあ、兎に角、全体の方針も決まった、後は各々、準備を整えてくれ」
「了解」
と、そこで一同解散となった

この場では「軍師」としてのアリオスへの言及は成されなかった、途中から戦略条件が変わり、打った手が機能しなかったゆえもありとても力を図り得る状況でも無かった為である

「相手の立場に立って考える」が特に上手いアレクシアにしても寧ろアリオスの、困難な状況での立ち回りでは善戦したという思いと同情の様な物があり明言を避けた

ただ、実際「アレクシア」対「アリオス」の策の基本方針は似た様な物であった

ベルフは攻めた後、情報工作を打って、擬態で引き、敵に攻めさせ、街道、地形、街等使い削り作戦を展開した後

状況が許せば、後背襲撃、伏兵等を使って後、兵力差が出来れば反撃を行うつもりだった

特に、ベルフ側には「スヴァート」がかなりの数があり「本来の隠密部隊」の特色を活かそうとも思っていた

が、初動からそれも仕掛けはしたのだが、ラドルでの伏兵、森街への側面、後背襲撃の例にもあるように

アリオスが「兵を伏せられるポイントを探す」という下準備の段階で、ことごとくアレクシアが斥候、伏兵などを逆にそのポイントに配置して潰した為、殆ど展開できなかった

アレクシアも敵に攻めさせ、野戦をしながら最終的には敵を全部引き込んで、砦で防備を行い、多重包囲作戦を行い、分断、孤立、連携を崩し、兵力差が出来れば反撃するつもりの基本方針で考えていた

双方共に北出口から砦までの。「縦に長い距離」を活かそうと考えていたが、「半分生きている」と言った通り。アレクシア側は打った手が状況が変わってもそのまま半分使えた訳でしかも「地の利」がある

とても対等条件での「策」の戦いにはならないのであった
、そもそも、アリオス側は壺の中から伏兵、工作部隊の展開
アレクシアはその外側からの伏兵の展開であり

それら、裏の策でも戦略条件と同じく「包囲」の優位性がアレクシア側にあった

だからこその「シャーロットさんと代わってくれないかなぁ」なのである

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