剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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傭兵団編

奪還

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フラウベルトの侵攻を受けたクルベルのシャーロットはその構成を知り出撃を指示、手持ちの軍勢が三千しか居ないが、それでも出ざる得ない

「向こうも投石器を用意したなら、こちらも野戦を挑むしかない」という当然の選択でもある。

が、同時に数の上で二倍差の野戦でも「自分なら防御くらいは出来る」そういう自信と同時に「相手には戦術を打てる軍師が居ない」その二点の要素があり時間稼ぎならやれるのではという思い込みがあった

手持ちの軍勢全てを持って出撃、最速2日で南の自治区テイブ領に進軍してフラウベルトの主力軍と対峙する

この際、自軍にはさっそく呼びつけたローザを補佐にジャスリン=ビショップも騎馬隊500を与え前線配置する

彼女は元々軍人としての経験も高く即戦力としても期待出来た故である

「来たばかりで申し訳ないけど、遊ばせておく余裕は無いわ」
「了解しております」
「大軍相手こそ武人の本懐、まかせてください」

とローザもジャスリンもシャーロットの選択を否定しなかった

この「テイブ開戦」はフラウベルト側突形陣、シャーロット側縦列陣編成でぶつかる。しかしながら数の上で6千対3千故、圧倒的にシャーロット軍が不利である

そのため自軍の編成を。騎馬、重装兵、弓、と100名単位で分け、移動、遠距離、防御力を後方陣と前線陣でフル稼働交代させながら戦線の維持を図った

現状、唯一上回っているのがベルフ側は「装備」と「戦術」のみであり優位な点を徹底して活かす戦法を使った

更にジャスリンの騎馬隊は機動力と武力が抜きん出ている為、左右両翼からフラウベルト側主軍の陣形、先端部への移動と横突撃を繰り返しフラウベルト側に崩すキッカケを与えないよう工夫される

突形陣で突破を図るフラウベルト軍に対してその、突破の機会を終始与えず、5時間一進一退の攻防を繰り広げた

ライティスの矛はこれに対応する為無論ジャスリンに当たるが、エリザベートの百人騎馬と違い

「突破」を図る意図が向こうに無く、いざ当たってもジャスリンは無意味に一騎打ちをせず即引き。下がってはまた別のポイントから突撃するという戦法を繰り返した為相手を叩く事は無かった

一方、東側で敵と対峙したカリス王子の軍はシャーロットの報を受け一つ判断を誤った

「シャーロットが二倍の敵と当たったなら、数で有利なこっちは早く目前の敵を叩いて南の援軍にいかねば」

そう思って前進攻撃を図った事だ

ショットとキャシーの軍はそもそも「敵を釣る」のが目的でありそれに付き合う必要が初めから無かった。故に相手が押す分引けばいいだけである

押す敵に対して、機械弓をパラパラと遠距離から合わせ撃ち下がり続ける二軍に対し

「これ幸い」と押し捲る前線のロズエルの三姉妹の構図が出来上がってしまっていた

カリスとシャーロットの師弟、姉弟の親密な関係がその判断を誤らせ。そのままズルズル東へ引き込まれクルベルからどんどん離れていく結果となる

更に南側はシャーロット自身が最前線対応しなければならない程ギリギリの戦いであり、東の状況に介入、情報集積出来る「余裕」が無かった点もある

どうにか一日目を凌ぎ微妙に下がりつつ休息と再編をしながら二日目の開戦に持ち込む

この時点で南戦力差は フラウベルト5700 シャーロット2800と互角に渡り合ったのは脅威の結果と言える

「流石シャーロット=バルテルスだな」そうフラウベルト側も言わざる得なかった。だが一方シャーロットは簡易軍議の場で

「このまま下がり迎撃を続けて援軍を待つしかない」と見解を示し只管耐える以外の方策が無い事も一同に伝える

二日目の開戦もほぼ同じ戦いだったがズルズル下がり続けるシャーロット軍はテイブとクルベルの領土境界線付近まで引く事となった

過去の戦闘からも分かる通り。クルベル南は丘、森、川に囲まれ、街道以外での軍展開が出来ず狭い通路での戦いになる


それを知っての後退戦法である。シャーロットにとっても「時間を稼ぐ」が目的でもありこの戦場はうってつけでもあった。

ただ、本来兵力と人材に余裕があれば「策」や「罠」を仕掛ける余地がある地形だが、現状全戦力を持ってどうにか互角であり、それをやる余裕はほぼ無かった

お互い縦長の縦列陣で只管打ち合うが。しかしここで「予め用意して来た者とそうで無い者」の差が出始める

まず、フラウベルト側はアンジェの指示で、ライティスの矛、フリット、グレイらと共に最前線配置し押し。陣の中段から機械弓をあるだけ出し打ちかけてきたのである

こうなると途端に不利になる為、シャーロットはそれを使わせない方策を戦術レベルで実行する

シャーロットとジャスリンが部隊を分けて指揮を担当し、交互に突撃、最前線に立ち槍を振るって間断ない前進と後退を高速で行いつつ逆反撃、的を絞らせず、混戦を意図して作り出し弓を撃てない様に図った

それに対してライティスの矛はフリット、グレイが対応するが前線を崩さぬ様、防ぎ止めるのが精一杯でもあった

それほどシャーロットとジャスリンの反撃火力は高く、また、武力で圧倒的であり、そうせざる得なかった現状もあった

本来ならカミュやライナが対応するべきだが、この際、最後衛に控える聖女の護衛に交代で置かれた為前線への配置が成されなかった為もあった

これはマリアの指示でもあり、それを無視する事が出来ない為でもある

それでも一時、膠着したが数と交代人員の差が出て三日目昼にはシャーロット軍は後退する事になった

ここで両軍睨みあいのまま一旦軍を後退させ、相互に休息、再編がなされ四日目に突入する事になるが、簡易軍議の場でシャーロットの元にアリオスがスエズに残した「スヴァート」の隊長八重が来援する

人数は現状100であり、その事を伝えたが、シャーロット自身はそれをどう使うかに迷いがあった

「御呼びと聞き参上しましたが‥」そう八重に声を掛けられたが
「100名‥か‥」

そう言った通り、まだ創設から日が浅くアリオス独自に揃えた部隊でもあり、数はそれほど揃えられなかった。それと同時にシャーロットの中で幾つかある選択肢の内一つに自身もやるべきでは無い選択があり、それを迷っての事だ。

だが、この様な現状で一発逆転を図るには、それを選択せざる得ない状況なのも理解していた、故に、こう問うた

「‥聖女を、狩れるかしら‥」と
「ご命令とあらば、やってみますが」

そう八重に返され、そこでも迷った。が

「無謀且つ卑劣な手ね‥成功率は」
「戦場では難しくあります、やるなら半日耐え夜を待ち、且つ、森や丘のあるこの地域での戦線維持が必須であります、それでも分は悪い賭けでしょうか」

ここでローザが僅かな時間の隙からカリス軍、王子の現状とベルフ本国側の情報を持ってくる、それをシャーロットは受け更に迷う、ギリギリの切羽詰った判断を迫られた中、アリオスがあの日、訪問して言った事を思い出す

「コンスタンティ先生ならなんとアドバイスするか、か‥」

そう呟いた後、シャーロットは考え、最悪の選択を除外するそして八重に伝えた

「半数を王子に付けて、何があってもクルベルまで三姉妹と王子を無理やりでも撤退させて‥引いたらクルベル城内の支援を‥」そう告げた

「ハ‥かしこまりました、残りは?」
「ここで使う、指揮権を譲って頂戴」
「了解です」

八重は命令には一切疑問も持たず、逆らいもせず、それを即時実行する為に動いた、そういう教育を受けた者だからだ

シャーロットの命令は正しい判断だったのか、それは彼女自身にもあったが、同時に確信に近い「正しい」だと自分の中にあった

「為政者や権力者は何時も、物の数や目先の事を優先し「それが絶対正しい」と言い間違った事で民衆を扇動する、その結果は大抵全員不幸に成る。これは歴史と確率が証明している「正義」とやらがどれ程、人を殺してきたのか考えろ、お前達が私に学び、何れどのような立場の人間になるかは分からない。だが、これだけは覚えておいて欲しい 目先の事に拘るな、大局を見よ。今お前達の下に居る者にとって何が幸せなのか何が、国を良くするのか、その者の立場に成って考えよ」

「人の世に争いは絶えないかもしれない。が、戦って勝つ事が重要なのか?それで人を死なせるが目的なのか?戦略や戦術を学ぶのは良い、だが、それは相手を大量虐殺する手段ではない」

そう、アリオスとシャーロットの共通の師、コンスタンティ先生は言っていた、それを思い出しつつ、それに沿う選択をシャーロットはしたのだ

「ならせめて、自分の下に居る者の犠牲者を減らすべきハズ」それがシャーロットの選択だった


そこからの戦いは、送られてきた「スヴァート」も全名使い徹底して防御と後退、遠距離反撃を使い、下がった

無論、シャーロット自らの思考の変化もあったが全体の現状を知り、総合的判断からこの様な選択。つまり「戦術思考」から「戦略思考」に「勝つ事」から「負けない事」に変わったという意味もある

まず、同時期、ベルフ西軍にも銀の国からの攻勢がありクロスランド周辺の兵力を集めた点。更にマリア軍と対した西軍の劣勢、故に南への援軍が極めて小規模になるだろうという予想

更にクルベル東への対応に出撃したカリス軍、の見せ掛けの優勢、これは明らかに誘う意図であり、ヘタに進ませると罠に嵌る恐れ、そうなると王子その物を失いかねない現状 同時に西軍も敗退すれば姫も失いかねない点

となれば、ここをシャーロットが無理に死守しても犠牲が大きく後日の再戦など、望むべくも無くなるのは目に見えていた

更に「スヴァート」を全名使って聖女をよしんば暗殺出来たとしても、マリアが副盟主に居る以上、全体への戦略的優位や、連合の瓦解も得られない

成功させるなら「大陸連合」となる前が最後のタイミングであったはずである

更にアリオスが西も南も居ない以上、この方面を戦略的に支えるのは自分しか代理が出来ず自分が今決死で戦い死ぬ意味も薄かった

そうなれば、被害を最小に防ぎ、クルベルを譲っても後退して次に備えるのが最善であると戦略的判断を下したのである

その後退戦は三日に及び自らの軍もクルベル城内に撤退し東のカリス軍も城内撤退させ、篭城戦の準備を行った

全軍撤退させた後、シャーロットは更に簡易軍議の場で

「全軍撤退してスエズに下がる事を前提とした戦いを行う」事を皆に伝える無論

「クルベルを捨てるのを前提で戦うだと!」とロズエルの三姉妹辺りは怒ったが

「今この全体の現状でクルベルだけ守っても殆ど意味が無い、まして王子も姫も殺す気か?」

と逆にシャーロットに問われ、一同は沈黙するしか無かった

「分かった‥で、撤退前提の戦いとは何だ?」
「向こうには攻城兵器がある。ただ篭城戦しても意味がないわ、そこで‥」と作戦を伝えた

「また、せこい嫌がらせを‥」
「今出来るのはそれしかないわ、援軍待ちでもどうせ1千も来ないのだし、それに、この作戦は結構繊細で難しいわよ?」

「たしかに、僕らの出来る事は少ないね、それに西にも早く行ってあげないとロゼットやエリザベートも危ない」
「左様です王子、故に王子には先に西の援軍に行ってもらいたい」
「いいのかい?ここもギリギリではないか?」

「構いません、城戦でこの作戦なら人数は要りませんし、わたくしの軍だけでどうとでも成ります、ただ、ロズエルの3人はこちらへ、代わりに八重と「スヴァート」の50名を着けます、最速で戻って西の維持をスエズからなら近いです」
「分かった、ではそうしよう」
「それと、王子は西に向かう事を早馬を出して西軍に伝えてください足の速い部隊から先に、少数でも向かわせてください、王子の援軍ありと成れば、向こうにも戦いようはありますし、マリアもそれで引くかも知れません」
「了解した、では、早速動くよ」

そこで時間が少ない事を一同に周知させ最速での行動が求められ、準備を行う。まず、カリスの軍から早速、早馬と鳥を使った伝令が飛ぶ

即時カリス軍の残り3200を細かく数百に分け、機動と輸送の部隊で編成し即西軍、クロスランド周辺に出立させ、王子らも出る

シャーロット側は城壁に人を配置せず内部への兵を配置し、東と南門周辺だけ守らせる

その際、重装備兵やスヴァートの部隊等も防御装備に徹底し城下に配置

同時に余った殆ど8割の兵2000にあらゆる物資や装備の総撤収の準備を行わせる

ベルフ軍の不可解な撤退にフラウベルト側も不自然に感じたが、その意図は明確でありアンジェにはそれが分かった

「どういう事かしら?」という聖女の問いに
「恐らくクルベルからの撤退でしょう」とアンジェは返しそれを示した
「しかし、一戦も篭城戦をせずに撤退というのは」そう主軍の大将も問うが

「‥分かりませんが、私がシャーロットなら、タダでは城を譲らないでしょう‥」
「と言うと?」
「どうせ撤退するなら、城なり城下街なりを破壊か、焼くか所謂空城の計か焦土策、どちらか取る可能性もあります」
「それは‥させられませんね‥」
「そこまであのシャーロットがするとは思えませんが注意はしたほうが宜しいかと、とりあえず、投石と弓で様子を見ましょう」

との見解に、東と南城門側に伝え、遠距離からの門への攻撃を指示し攻城戦が開始される。アンジェの見解は半分当たりで半分ハズレでもあった

シャーロットは当初、門への防御配慮を行ったが1日の時間稼ぎの後、門の防衛を放棄して兵を引かせる

無人の門を突破したフラウベルト側は城下街になだれ込んだが門周辺の街はほぼ無人、ベルフ軍は街の中央に集結して防衛戦を展開して戦闘に突入となる

非戦闘員を城に非難させた後シャーロットらは反撃を城下で行った「ここが最後の防衛戦です、ここなら街道より更に狭く兵力差は出ません」と一斉反撃を試みる

こうなると攻城兵器や大型の機械弓など使いようも無く歩兵での打ち合いになる

更にシャーロット自身、ロズエルの3姉妹、ジャスリンの個々の武力と重装備兵の力の発揮為所と成る

両軍共に武者の出番でもあり、その私兵、個人戦は苛烈だった、こうなればカミュもライナも出て最前線で戦うが明確な意思を持ったベルフ側は強かった

そもそもここでも「負けない」事を目的にしていた為連合側の攻勢を凌いで見せた

個々の武は勿論だが、重装兵を交互に押したて、味方に被害を出させず、更に一日稼いで、スエズ側、つまり北門へジリジリと下がりつつの撤退防御戦を繰り広げた

後、少しづつ、疲弊した兵と将をスヴァートに援護させ、スエズに離脱撤退させ最後にはシャーロット自身も撤退し果せた

それら全てが終わったのを確認した後連合側、フラウベルトは城を奪還。クルベル奪還作戦は一応の終了をみた

結局ベルフ側は50人に満たない死者被害、物資の総引き揚げ、追撃もさせず、城門、城下内戦闘を行った為クルベル施設の破壊はあったが。クルベルの非戦闘員の被害は0でこの城内戦闘を全て成し遂げた

アンジェもフリット、グレイもこれには敵ながらあっぱれと言うしかなかった

「東街道の遭遇戦もそうでしたが、ここまで守勢に強い将は極めて稀ですね‥」
「ああ、ある意味教科書になる将だろうな」
「敵であるのが残念ですね‥」
「同感だ」

「しかもありゃ、ベルフらしからぬ「知将」でもあるな、なんというか‥」
「そうだな、味方の被害を極力避ける戦術、戦略を取る、単なる将で収まる人物ではないな」

そう三者が言った通り、大規模戦争であったにも関わらず一連の開戦からの両軍被害は

連合側、死傷者1100 ベルフ側、1285 と少なかった

「とりあえず、城内の維持、再編、物資を本国から持ってきて維持に努めましょう」
「スエズはどうする?」
「ここを維持して他の南方面侵攻を抑えるのが先決と思います、それにこちらも余り余力がありません」
「了解した」

「とりあえず」ではあるが、ベルフに対して反撃侵攻を行い領土奪還に成功した初の例であり、それは驚異的成果であったと言ってよかった。南連合側はその結果に皆喜び賞賛し称えた

また、クルベルの奪還は、南への街道交差地点でもあり、実質ベルフの南侵攻への封鎖に近い結果でもあり同時に安堵も得た

南方は小国が多く、一度侵攻を受け被害を出すと立ち直りに非常に時間がかかる故防御壁としても貴重な場所であった

フリットら、ライティスの矛にとっても、過去防衛戦に参加して守れなかった場所であり感慨深い場所でもあった

「まさか、ここを奪還する日が来ようとはな‥」
「しかも俺達がな」

とフリットとグレイは続けて言った、およそ3年ぶりの凱旋である

一方、スエズに撤退したシャーロットは連戦に次ぐ連戦だが休んでは居られない、まず、状況を西軍に伝える伝書を送り、大規模な援軍の用意を始める

スエズ自体には防御兵や治安維持軍が元々700ほど居る為自軍とあわせて再編、それら情報をあえて敵側に流した。西軍と対していたマリア軍は後退と前進を繰り返し、嫌がらせの攻めを続けていた

デルタ砦開戦は既に15日も続いていたが、マリアは無理攻めはせず、ベルフ西軍も守勢に徹して動かなかった為、膠着が続いていた

そこで両軍はお互い南の報せを受けまず軍議を開く、ベルフ側は援軍の報を受け、砦に総撤退大規模援軍のアテがあるなら、篭城しても良かった故だ

マリア軍は幾つかの理由で軍を引く決定をする。その軍議の場で行われたやり取りは以下である

「総撤退ですか?」
「うむ、クルベルを落としたらしいからの、敵も十分削ったし、もうよいじゃろう」
「デルタ砦はそのままに?」
「うむ、あそこを落としてもクロスランドに近いし、むしろ維持が大変じゃ、そもそも、篭ってる相手をどうにかするのは面倒じゃし、面白くない」
「なるほど」

「それに、シャーロットも王子も全軍被害は2割以下で留めクルベルを放棄して西への援軍に来るとの報があった、ここで、わらわだけが、無理して戦っても被害が多い向こうの西軍半数削ったのだし、成果は上々じゃろう」
「そうですな、今後は北と南の事もありますし、そうしても宜しいでしょう」
「その通りじゃ、一応反撃作戦は成功したが、向こうの侵攻が止まった訳ではない。わらわの国は特に周辺への派兵の面で本国にあった方が良い。まあ、本心を言えば、南西へのルート確保に帰りがけにでもクロスランド南西地域を落としたい所じゃが、現状はそうもいくまい」

「了解です、では本国への総撤退という事で宜しいですかな」
「うむ、ワールトールとクリシュナへも告知を頼む」
「かしこまりました」

このデルタ砦開戦は「半数削った」と言った通り

ベルフ軍終戦時兵力 3300 マリア軍 6200と一方的にマリア軍が優勢のまま終戦と成り、マリア軍は本国へ撤退

エリザベートは一時砦に残り、ロゼットはクロスランドまで撤退の運びとなった。ベルフ側からしてみれば「正直助かった」としか言い様が無かった

シャーロットは西と南の戦力の再編を指示。王子と自分の軍の再集結、再編し、双方3千の二軍を作る

これを其々スエズからクロスランドの援軍派兵軍と防衛に置き即応体制を整えつつ。本国から送られた兵1千を二分して両二国の専属防衛軍に充てた

更に人材の収集の為、兵、個人の名士等独自に与えられている人事権の自由を使って広く募集した

ただ、兵は金である程度臨時募集して集まったが人材はそう簡単にはいかなかったので

「例のリストから、使えそうなのは‥そうね、ラファエルを呼んで頂戴」
「はい」
「それと陛下に書状を、ラファエルに軍を与えたい、本国から兵の捻出も出来れば頼みたい数は1千でいい」
「了解です」
とローザはシャーロットの意向に即応して動いた


双方一段落した後。マリアとエルメイア両陣営はクルベルと銀の国で再び鏡を通して大規模軍議を開く。今後の方針の決定が必要であるからだ

「お疲れ様です皆さん」
「うむ、まあまあの結果じゃな」
「はい、それで、今後の方針ですが‥」

「そうじゃのう‥西も南も動きが無くなるじゃろうし。とりあえず南方連合側はクルベルに攻めた軍勢はそのままそこの維持でよかろう」
「いいんでしょうか」

「スカイフェルトとカサフは引き続き軍備の再編。今まで出していたフラウベルトからの援護を、クルベルから出すという事で当面問題ない、そもそもクルベルからのが近いし防御力はクルベルは高い」

「ベルフは今だ北攻めで兵力を集中しておりますが、これはまだチャンスと言えませんか?」
「うむ、わらわの軍はほぼ健在だし、やるとしたらこっちから突く、フラウベルト側からは本気攻めは必要ないじゃろう、精々囮くらいかの」
「はい」

「で、じゃ、わらわは再編が終わったら南西地域と西地域の繋がりの邪魔をしておる、ベルフの南西支配地トレバー砦を落とす、銀の国と南西地を繋ぐ街道に横たわっておるゆえ、あそこを奪取すれば陸路が使える」
「なるほど‥」
「そこでそちらからキャシー殿をクリシュナ側に戻しクリシュナと共同で北進トレバー砦を攻めて貰う、同時わらわが南進して挟み撃ちの形で速攻で落とす」

「応!まかしとけ!」
「まあ、気負う必要は無い、どうせベルフは戦わんじゃろうし」
「へ?そうなのか?」

「あそこを無理に維持する必要も余裕も無いからの。はっきり言って砦としては固いが、人口も商業的意味も少ないからの、ついでにこの攻めにわらわは8000程出すしな」
「8000‥」
「向こうの守備軍の、5倍強わらわの軍とクリシュナと合わせて1万くらいになる。となれば無駄に戦って兵を失うより放棄した方が兵だけは西軍に使えるからの」

「今までベルフがやってきた事を逆にやろうというのですな」
「左様、が、兵の無駄死には出ぬ。向こうの西軍の実質的司令官は形はどうあれシャーロットが仕切る事になるじゃろうし、あれなら、戦力の維持を最優先するじゃろ。妙な話と思うかも知れんが、優秀であればあるほどその行動に一定の信頼性がある、これ以上皇帝が暴走しなければ、の話じゃが」

「たしかにその可能性が無いとは言えませんね‥それに怒ってシャーロットを外したりするかも」
「まあ、そうなれば寧ろこっちには有難いがな」
「同感です‥シャーロットの名将振りはこちらは嫌と言うほど体感しましたし」

「とにかく今南方側は兵と装備の充実、可能であれば人材も増やせ、それだけの土壌はある。南を封鎖出来た事でその余裕も生まれるじゃろ。それとショットはそのまま銀の軍と共に南方で自由遊撃の立場を続けろ」
「わかった」

「ところで北側の情勢はどうなっておりましょう?」
「うむ、北側ベルフ侵攻は獅子の国と中央街道出口の中間のなんと言ったか‥オルレスク砦で止まっておる。ま、伊達に獅子の国等と呼ばれておらんな、それに、アリオスの知略に対応出来る軍師も居るようじゃしlいずれにしろ援軍の追加は必要だろうが」

「ほう、あのアリオスと知略で戦える軍師とは‥」
「うむ、今の所ベルフ側北伐をなんとか撃退しておるそうじゃ。たしか宮廷魔術士で、若い娘じゃ。アレクシアという」
「それは頼もしい限りですな」
「だが、ベルフの北軍とも兵力が拮抗しておる、北連合は全部合わせて一万八千 ベルフは2万程投入しておるそうだ、ま、中央街道を通ったのは間違いじゃがな」
「それは?」
「あそこは細い山道しかも高低差が激しく、移動の足も鈍くなる、もしもの事態に対応して兵を送るにも時間が掛かりすぎる」

「アリオスやロベールが召還されて北に出るまで、1ヶ月以上掛かっておりますからな」
「そうじゃ、わらわなら南を全部押さえてから北を考えるがな。ま、これも戦略ミスじゃ、というより、変な拘りを持って全体を蔑ろにしておるようにも見えるのう」
「たしかに」

「兎に角おぬしら南側はしばらく安定するじゃろ戦力の増強、人材の収集、内治の安定を進めよ、特にライティスの矛はもっと増強したほうが良いその部隊は個々の武を重視する、常に最前線に居る性質上。選抜せずとも自然と名士が出る土台もある、期待しておるぞ」
「は、ハ!」

「それとフラウベルトは学術都市でもある、積極的に人材を集め召し上げよ、有能なものを雇うのに方法、手段、金銭の出し惜しみをするな」
「はい」
「余計なお世話かもしれんが、言っておく。世の中で起こる物事はその9割は「人」が起こす結果じゃ、だからどこどこの家とか、名前とか、性別や年齢で区切るな。何でもそうだが、「優秀な者」を多く集めたほうが全てにおいて有利じゃ心して物事に当たれ」

「マリア陛下の金言、有難く」
「うむ、では、わらわは次の準備があるでな。失礼する」

マリアはそう言って王座から立ち鏡の前から姿を消した

「とは言え具体的にどうされますかな」軍官が問う
「私はフラウベルトに戻った方が宜しいでしょうね、それとアンジェも、政治的な事、内政的な事となればあちらのが都合が良いでしょう」
「主軍5千とフリットさんグレイさんと矛はクルベルでの防衛、でしょうか」
「それでいいと思います」

「カミュさんとライナさんは‥」
「わたくしの護衛に着けよ、とのマリア様からのお達しもそのままですし、フラウベルトに戻りましょう」
「分かったわ」
「了解です」

「それとショットさんはフラウベルトまで護衛を」
「その後は?」
「カサフなら軍を置けますし南方地域の中間点ですからそこに滞在してもらいましょう」
「分かった」
「では皆さんそれぞれの仕事をこなしましょう」
「はい」

そこで一同は解散となり、ショットの軍と共に聖女らはフラウベルトへ戻り、フラウベルト主軍と矛はクルベル防備、キャシーらは一旦南西地域へ出立した

27日後、マリアは宣言どおりトレバー砦を奪取。そして予想通り、ベルフ側は一戦もせず砦を放棄して西軍本陣へ撤退す

先に語られた通り、戦略的に重要な場所である事を理解はしていたがシャーロットは防衛、援軍は出さなかった数の差があり過ぎる為である

トレバー砦は大陸西海沿いの街道を南北に繋ぐ道で、ここを抑える事でベルフの南西侵攻を防ぐ意味合いがあり尚且つここを連合側が押さえた事で、大陸連合の東西南北に「陸路」の道が全て繋がる事となった

極めて重要な砦である為、その防衛にはクリシュナが将1と兵1千で維持を努める事となったが、将はともかく兵が不足しているので、銀の国から兵を1千預け

キャシーと軍をクリシュナに置きどの方面にも援軍として向かえる様に即応体勢が取られた

こうして、大陸連合、南と西は、反撃の機会を伺い事が起こった場合に、対応出来る体勢を整えつつあった

反転攻勢の日は近いという認識が皆には確実にあった、大陸戦争七年目に成ろうかという時であった

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