京の刃

篠崎流

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剣鬼・Ⅰ

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3人‥に、琥珀を加えた旅の一同4人は、尾張へ西から東へ
もう外は冬の風である

大町で、一枚、其々羽織を一枚購入した後、宿を取ってちと早い昼飯を取った

「いやはや、京様に仕えると飯に苦労しませんなぁ」握りと味噌をガツガツ食いながら琥珀は言った

(調子のいい奴‥)と藍も千鶴も思ったがイチイチ口に出してもしょうがないので流した

琥珀は習った一つの特技「変装」を活かしていかにも普通の子な見姿にした。普通の剣術も出来、藍や千鶴と違い、「不殺」では無い為、京の使ってない腰の物、脇差をそのまま与えて自由にさせた

それでも琥珀には長いかもしれないが問題なく振り回せる為そのままにした、京自体も「活人」の技である為琥珀も配慮して手足等を斬って終わらす事を自ら誓った

「何時から「主」に成ったのか知らんがまあ、いいだろう」
「何を仰る、飯の面倒を見てくれる相手、路銀も出して頂けるこれ程良い主は主と呼ばせて貰いますわ」

どうも勝手に琥珀の中で決まっていたらしい

「というか遊んでいても困るのだが?」
「皆、稼いで今日に至っているのですが‥」
「藍殿も千鶴殿も厳しいですな、だがご安心をうちもちゃんと働きますぞ!」

「というかこれまでが‥ねぇ?」
「ただ付いて来ただけ、な、ような‥」
「まあ、いんじゃないか?そもそも13だしなぁ」
「何か琥珀に甘く有りません?京さん」
「いえ、まあ、子供なのは分かってますが」
「というかだな‥普通に荷物運びと行商だけで金が減らんのだが?」
「確かに」

「ふむ、ではどの様な仕事をお探しで?」
「住み込み、金持ちの依頼、移動の路銀がタダになる様な荷物運び、護衛の仕事だよ」
「成程!それは効率的ですね!分かりました、うちも探します!これだけ大きな街と成れば‥」

「ま、琥珀の言う事も尤もですね」
「では私も噂を当ってみます」

とそのまま藍と琥珀は部屋を出て行った

「ではわたくしは修練を‥」
「うむ、では偶に私も同行しよう」
「何か新しい技等あれば‥」
「そうだなぁ、分かった」京と千鶴も出かける事となった

宿から出、町を歩きながら練習できる場所を探した
どうも余り場所が無いらしく、聞いても。町の外に出ないと‥と言われるが、そのうち

「それならこの先に道場があるぞ?」
「番所の訓練場はどうだ?」色々言われるが

「一般に開放してるのでしょうか?」
「分からんが‥竹光と言えど抜く訳だしなぁ、いや、新しい技を教えるだけなら、木刀でもいいか‥」
「そうですね、興味がありますし行って見ましょうか」

と千鶴は乗り気である、やはり武芸に興が深い千鶴らしくもある

辿り着いたのはかなりデカイ道場と屋敷である、庭も広々、中では多くの門弟らが、汗を流し、竹刀打ちをしていた

栄えているなぁ、と思ったがそれもそのはず、看板を見て京は「こりゃいかん‥」思わず呟いた

「尾張柳生」の道場である
「帰るか‥」と回れ右しようとした京を掴んだ千鶴

「ちょ!?何ですか京さん!」
「あのな千鶴‥新陰流だぞ?ちょっと道場を貸してくれ等と言えるか??」
「道場の出入り口で何をもめてるんだ御主ら‥」
「あ‥」

立ち去る前に先に向こうの関係者に声を掛けられた、声を掛けた男と京はお互いを見て固まった、そして同時にまたも「あ‥」と言った

「お?お前京‥」
「たしか十倉、殿‥」

そう1人旅の頃、妙に気が合って一時一緒に居た「あの」慶次である

京と千鶴は中に通され、客間に座って茶を出された

「御主南に行ったんじゃないのか?」
「アホ、あれから何ヶ月たっとる?もう用を済ませて戻ってるわ」
「というかなんでここに居る」
「そりゃこっちのセリフだがな」
「ああ、そういや新陰流を学んだんだったな?」
「そうだよ、一応ここの古参だぜ?俺」
「世間は狭いな」
「だな」

「で?そちらの美女は誰だ?」
「は、始めまして、千鶴と申します」
「ふーん‥」と慶次は思いっきり値踏みする様に見た

「京の「コレ」か?」と小指を立てた

京は思いっきりお茶を吹き出し、対面に居た慶次に吹きかけた

「どわ!?何をするか?!」
「ふざけた事をぬかすな!無礼だろ!」
「まったく‥」とお互い身なりを整えた

「で?」
「ああ、旅の最中ここに来てね、千鶴が剣を振れる場所はないかと話しを聞きながら来たらここに‥」
「ほう、この美少女が剣をやるのか」
「はい、京さんの技を習いまして‥練習も欠かせないですし、新しい物も教えをと‥後出来れば、美少女は止めてくれませんか?」

「ハハハ、すまぬ、千鶴殿だったな」
「はい」
「まーそういう事なら庭でも予備場でも好きに使っていいぞ?ま、俺も見せてもらうがな?」
「お前な‥」

そこに関係者と思われる老人が現れ、声を掛けた

「面白そうな事を話しておるの?どちらさんかな?」
「おお!おじき殿、前に話した面白い技を使う剣士じゃよ」
「旅先で会ったという方か?」
「おうよ」

「これは始めまして、これの叔父で御座います」
「始めまして」京らも挨拶を返した

「それで実はだな」

そこで慶次は事情を話し、離れの別の予備道場に案内され
「自由につかってくだされ」と叔父に促された

「しかし、良いのですか?」
「慶次が友人を連れてくるのも珍しいが、京殿の剣法はそれより珍しいと言われてはの」とホホホと笑った

「なんだか上手く乗せられたなぁ」と思わなくも無いが

こうなれば仕方なく、気にせず千鶴に指導することにした、まあ、秘密剣法でもないし、という事である

「ただ、千鶴はまだ基礎を終えただけ、そこからの幾つかの技の指導になりますが」と前置きした後、腰の刀を双方抜いた

ありえない状態での指導だが見学した二人も驚かなかった、瞬時、竹光である事を見て取り、内容も把握したのだ

(成程‥真剣を使わない前提の技か‥)
(うむ、凄いだろ?)
(何故お前が偉そうにしてるんじゃ?)

お互い構えを片手半身にし切っ先を合わせる

「今日は、基礎打ちからの変化業、だ、前に出した足を外側にずらす」
「はい!」
「すると足の移動した方向に体が移動し易くなるそれに合わせて横移動と同時に基礎打ちだ」
「はい!」とやってみせる

体から遠い方にある足を完全べた足のまま、擦るように前後左右に移動、同時剣を振る

所謂、かわし、と攻撃を同時にやるものだが、珍しい物ではない、珍しいのは打ちである

まるで風を払う様に、無力で刀の重さだけで振っている様な物だ、これが素晴らしく軽く、早い

「よし、形はそれでいい、これは、どの剣術にも、舞踊でもある運足とあまり変わりがない千鶴なら直ぐ出来る」
「はい!」

「もう一つは「柄抜き」だ」
「柄抜き?」
「まあ、これは直ぐ出来る物では無い形だけ教える、一度だけ‥ゆっくりという訳にもいかぬから横から手元だけ見ておけ」
「あ、はい」

京は掌側を向けなるべく見える様に、出来る限りゆっくり剣を2度振った

「分かったか?」
「な、なんとか‥」
「当てるのは「指」とか「顔」とか限定だ」何しろ「すっぽ抜け」のまま斬るわけだからな」

「ただ、練習しろ、とは言えん」
「何故ですか?」
「まず、繰り返しすると掌を痛めるのと手首に負担が掛かる」
「成程、握りの手を斬りの途中に緩めてすっぽ抜け直前にする訳ですからね」

「そういう事だ、ただ、かなり距離が伸びる、前にも言ったが無理にやる必要は無い「持ち直し」で予めずらしてもいい、それでも相手は「見切り」が出来なくなる、刀の長さで見切りを行う様な達人には特に有効だ」
「柄が長いだけに相当な距離差が出来ますね、3寸~4寸」
「うむ、前と後ろを持つのではかなり差がある、それと関連した技でもあるがもう一つ「橋渡し」というのがあるが」
「どの様な技ですか?」

「技、という程の物じゃないさ、持ち手を右手から左手にするだけだ」
「あ‥分かりました。そこで持ち直し、を使うのですね」
「正解だ、だが、左手でも使えねばならん、これも今までの基本業を逆手で繰り返せば良い」

「なるほど‥右手から左手に剣を移動、その際持ち直しで握りの場所も前や後ろに変えるわけですか‥これは難しい‥」

実際千鶴も理屈は分かったのだが、やってみると思い通りにならず、刀も落としてしまう

体も右前構えから左前構え、右手で持つ刀を左手にスイッチ、前後左右への運足と、刀を掌の中で滑らしながらである

ボクシングで言えばスイッチという技術で、オーソドックスとサウスポーへの構えの変化業で、この際、刀を持ち換えて握りを前後にズラすと応じて射程距離が変わる

しかも当然、左手でも右持ちと同じく、ある程度使えなければならない、これは途轍もなく難しい

それだけに千鶴には面白くてしかたなく結局半刻と繰り返したがやはり左手で持ち替えて振るのは難しい

「右と同じだよ、左になっても置いておく感覚でいい」
「は、はい」
「まあ、練習次第だ、大抵の事は人間「慣れ」だよ」
「分かりました」
「では、ここまで」

そこで終了となった

「いやはや、貴重な技を見せてもらいました」
「だろう?」叔父と慶次は言って喜んだ

「活人剣、等と偉そうに言っても京殿の様に真剣すら使わないとい徹底振りもまずありませんからな」
「しかもそれ前提の技だ、俺達も学ぶべき所が多い」
「新陰流に言われると照れくさいな」
「いえいえ、また勉強したくあります、何時でもおいでください」

「とは言え、毎度毎度、場所を借りる訳にはいかぬな」
「宿に庭はないのか?」
「無い事も無いが、ちと狭い」
「ならうちの屋敷にくるか?まあまあ広いぞ?」
「いやそれは‥」
「お前ら2人くらい構わんぞ?独り身だしな」
「いや、後2人居るんでね」
「まじで?」
「うむ」

「いや、それでも別に構わんが、どうせ俺殆ど居ないからな、ついでに掃除と飯作ってくれると助かるな」
「つまりあれか?下働きのついでか」
「ハハハ、それで宿代はタダでどうだ?」
「乗った!」
「現金な奴だ‥」

叔父殿に礼を言って道場を出、一行は慶次の屋敷に案内された「まあまあ広いぞ?」と言った通り個人宅の独り身としてはかなり広い、2階の10部屋で、庭もあり20畳近い板間もあり、練習も出来る程である

ただ、たしかに荒れている感は強い、彼の見た目もそうだが、あまり綺麗にするタイプでは無さそうだ

「てか、金持ちかお前」
「親戚の譲り物だがな、他藩へ出向になったのでね」
「人住んでないと荒れるから、か」
「まあ、そうだ、と言っても‥」
「酷い惨状だな‥」
「俺も昼間は全く居ないからな、しかも1人だと掃除する先から埃がだな‥」

そこまで言って残り二人、荷物を抱えて藍と琥珀も現れる

「おお、御主らが京の‥コレか?」
「そういうのいいから‥どう見てもそんな歳じゃないだろ」

一行は「宜しくお願いします」と挨拶し、家に入った、居間で座って一応の事だけ説明する

「てきとーに片付けだけしてくれ、米やら食材やらは台所に置きっぱなしだ、井戸も裏手にある。後は好きに使ってくれ、俺は朝と夜だけ、ここで用意してくれると有り難い、それ以外は殆ど家におらぬ、んで‥」

と慶次は金を置いた

「食費だ適当に買い増ししてくれ」
「分かった」
「さて」
「炊事だが」
「うちにお任せを!」
「では私も」と藍と琥珀が言ったので金をそのまま渡した

「では掃除の類はこっちだな」
「わかりました」
「まあ、私は両方出来るが、何かあった時は代わろう」
「じゃ、俺は道場に戻るよ」
「ああ、すまんな何かと」
「いやいや、実に助かる、誰か家に居るのも有り難い」

「ま、盗難避けにはなるな」
「何か貴重品が?」
「ない!」

慶次が家を出た後、其々が仕事に取り掛かる

「炊事は私がやります、琥珀は町で遊び半分で情報収集を」

言って藍はこづかいを渡した

「かしこまりました!」
「こっちは掃除だな」
「はい」そして京と千鶴は掃除に取り掛かる

これが幾日か続いたある日

日が暮れる頃に琥珀と慶次が戻り一同は食卓を囲んだ

「なかなか美味いじゃないか」
「恐縮です」
「いやはや藍殿は何をやらせても天才で御座いますな!」
「何故かわざとらしいんですが‥」

「所で、何か面白い事はあったか?琥珀」
「ハ!京様、商人の荷の運びかなり大規模にあります、富豪の個人護衛も」
「なんか護衛ばっかだな?」
「ハ、実はですが‥最近この辺りはかなり物騒らしくあります」
「というと?」
「何でも、神出鬼没の辻斬りがあるらしいです、夜には出るな、という告知があちこちでされている様です」

「こんな大町でか‥」
「はい、それが出てから数ヶ月との事、今だ解決もされておらず、だそうで」
「慶次殿は知ってるのか?」
「ああ、俺らの所にも助っ人の要請があったなぁ」
「で?」
「幾人か見回りに、志願者から同行させていたが、まだ結果は出てない」

「相手は1人かね」
「らしくあります、が既に20人からやられて居る模様です」
「しかも、狙うのは腕の立つ連中ばかり、その意味庶民には害は無いのだがな」
「露骨に元剣士だな」

「そうだ、まあ、同心もかなり出てるらしいし、そのうち捕まるさ」
「しかしかなりやばい相手らしいです、賞金がかなり出るそうで」
「いくら?」
「20両」
「な?!ほんとに?」
「はい」

うーむ、と一同の興味を誘った様だ、食事を終え、茶を啜った所で慶次はそれに乗せてみる事にした

「なあ、京、それ手伝ってみるか?」と
「うん?まあ、金額は魅力ではあるが‥」
「しかし、それほどの相手と成ると厳しいのでは?」
「うーん、人数を掛ければいけるだろうが‥」
「そいつは難しいなあまり人数を掛けると向こうが出てこない」
「そうですね‥」

「慶次殿には妙案がおありか?」
「うむ、俺と京、で誘ってみてはどうかと」
「叔父殿はご存知なのか?」
「そこは明日聞いてみよう、ただ、柳生としては無視出来んとは思っているハズだ」
「分かった、明日いって見よう」
「おお、有り難い、御主が居ると心強い」
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