八法の拳

篠崎流

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螺旋

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3月 

八陣一同は有馬グループ保有の大ホテルのイベント会場に来ていた「おめでとー!」と一斉に声が挙がる

有馬与と織田義春の身内関係者だけ集めての結婚式である。お互い立場があるという事、知名度が高いという事。そこで公開型にするとメディアが集まる混乱が考えられる為この様な手段で行われた

とはいえ、式という程大それたモノでもない、立食パーティーに近い、関係者と言っても結構な大人数だが

「おめでとう」と皆其々与に祝福の声を掛ける
「おめでとアタエ!イキオクレ卒業デスネ!」
「ケンカ売ってるのかお前は!」

与28歳、織田33歳で、どちらも比較的外見も宜しい、割りあいお似合いともいえた

何しろ、立場は兎も角、与の性格に引かない男というのがマズ珍しい彼女の父も母もガチ泣きだった

「まさかあれが嫁にいけるとは‥」とかなり両親ながら失礼な見解を示した

「でもまあ、良かったですねぇ、正直私も心配してました」
「だよねー、ボクもそう思ってた」
「わたくしもです‥」

どうやらみやびも葉月も萌も同じ見解だったようだ

「あんたら揃いも揃って‥」

ただ、この夫婦はその後も上手く行った、織田は温厚だし寛容だったし頭がキレる、与のクセの強さをダンナが包む緩和剤になるという聊か変わったパートナーではあったが

そしてこの時期は結構バタバタしていた
陣も卒業から、エスカレーターではないのだが附属大への進学へとなる

一応入試はあるのだが、基礎学問を見るという程度で落ちる奴はほぼ居ないが

「え?医学部なの?!」
「一応な」
「まためんどくさそうな‥」

というのも陣はみやびに習ったという訳ではないがこう考えていた

「壊す知識と技術の分、治す方も学ぼうと思っただけさ。別に医者になる、という訳じゃないけど」

実際八陣の「与命」には薬学や民間療法、東洋医術の様な物もあるマッサージや針、気功だ、故に、どうせ大学に行くなら、という理由で決めた

「ふつーに行けちゃうのが陣兄とみやび姉なんだよねぇ‥」
というのが葉月評である

そして葉月やアニタ、ロニーも絶好調だった
国内での知名度と人気は不動のものであるし、団体も最高潮から安定

其々様々な仕事が舞い込み、収入的な意味でもかなりのものと言える、特にロニーは与のバックアップあって欧州に居た時とは比べ物にならない程稼げた

元々モデル並みの外見から写真集の類は出していたのが日本でブレイクする、アニタの日本語アニメ授業のお陰で語学も問題なくなってきており雑誌のインタビュー等に単独でよく顔を出すようになる

特にプロレスの事以外でも彼女の生活ストイックさとバランスの良さ等、徹底した独自の自己管理法等で美容関係からも引っ張りだこだった

八陣一門は嘗ての「おぬし達の為」という言葉通りあらゆる面で良い流れに向いていた

無論道場の方も充実していた

「それでは八陣、八拳「螺旋」の指導を始めます」
「ヨロシクオネガイシマース」

夕方の道場に全員集まった

というのも先の冬智のアドバイスからロニーに打撃術を教えても伸びるという事、そして「破壊力自体はそれほど出ないだろう」という点からついでに一同に指導となった

「螺旋というのは元々が「棍」を主体とした武器術ですね、従って皆さんには余り用は無いかもしれません」
「では何故これをロニーに?」
「はい、螺旋はその名の通り、螺旋打ち、を武器でも徒手でもやる為、そう名がついてます。そしてこの技術は「打撃力」に恵まれない、体格、資質の人でも十分な威力を出す技法があります」
「成る程」
「今で言うコークスクリューブローですね」
「当てた瞬間ねじ込んで打つアレだな」

「ええ、かなり貫通力が出ると思います、そして「螺旋」の武器術たる思想の原点は「弱い者が短期間で強く成る事」です、そして落ちているモノを拾って活かす事です」
「?」
「つまり落ちているモノ、と言っても都合よく手ごろな棒などありませんから、貧弱な武器、例えば枝とか物干し竿とか竹みたいな頑丈でない物でも威力を出す、という事に着眼されています」
「ほう、それがスクリュー打ち、か」
「ええ、徒手でも基本同じ打ち方をします、突き、蹴りがありますね、当る瞬間捻り打ち込む。まあ、それほど難しい物ではありません。そして「鍛えていない体でも凶器足りえる」という思想です」
「へー」
「それと、修練、いわゆる外功をしていない手足での打撃前提と成りますので基本は手業、掌打ですね」
「ナルホド」

「そういう訳ですので用意したミットを持って組んで練習してください」
「はい」

そして北条には陣が付いて早々にミットをはめてよし来い、と構えた

「陣はやらんのか?」
「もう習得済み」
「成るほど」
「えーと、北条君は感じを掴む程度でいいです」
「んん?」
「貴方の今の形を崩しかねませんので、一応こういう技がある、という程度でいいです」
「成る程」

「というか何時もの調子で個人錬するとこれは肩肘を悪くしかねない、難しい技じゃないから何時もの何千本とかいらないからな」
「ああ、そういう事か‥」
「内側に思いっきりねじ込むからな、いわゆる野球の変化球病みたいのに成りかねん」
「分った、気をつけよう」
「棍を持った状態でも基本同じです、ですから手業である程度使えれば同じ感覚でいけます」

それぞれ練習を繰り返した
30分程繰り返した後、休憩を指示して「次」に入る

「さて、次は「多段掌」という技です、同じく掌打です。これは現代格闘技では存在しませんのでちょっと難しいですね」
「簡単に言うと振動打だな、一回の手の振りで打撃ポイントに複数回掌打を打ち込む」
「単なる片手連打とは違うのか?」
「はい、押しのみで引きがありません、例えば、通常の片足立ち蹴り連打等は蹴ったあと膝を畳んで引きまた蹴るで連打しますが、これにはありません」
「それどうやって蹴るんだ‥」
「コツだけ云うと一回目の蹴りを当てて、当たった反動の戻りを使って引かずに打ったり、そのまま体を預けて体重を乗せる感じかなぁ」
「それを突きでやればいいんだな」
「ああ」

実際試しに素振りしてやってみるがこれは難しい

「まあ、慣れだよね」
「ウーン‥」とアニタもロニーもこれは中々出来ない
「しかしコレどこで使うんだ??」
「まあ、実際殆どいらないよね」
「ですねぇ、一応他の技と合わせる複合前提ですし。ただ、相手の目先のスェーバックに当てる効果とか棍では結構使うんですけど、実質手業としての使い道は余りないですね」
「ああ、そうか、槍とか棒なら使えそうだな」

「そうですね、手だと微妙ですが、武器持ちだと二撃目等を投げつける勢いで手の中で滑らしたり、一撃目の後。槍を引っ込めず別の所にずらして連打したり出来ます。ただ、蹴りの場合、フェイントにはなりますね」
「出しておいて途中で軌道を変えるとかか」
「撃ちながらやるのでそこは有効ですね、これも「こういう技がある」という程度でいいと思います」
「デモワタシは元々掌底だから、ラセンの方は使えるね。結構いいかもしれない」
「ええ、父のアドバイスによればロニーさんは破壊力がある方ではないので、それを補うつもりでやってください」
「OK」

「ところで複合前提とは?」
「そうだな、オレなら1の当て、二の掴みとかに変化させたり、あるいはそのまま鉄槌を食らわせても良い」
「なるほどな、そう考えると色々応用が利く訳か」

そして元が棒術である事も考慮して一応軽く棒術の基礎も一同でやった

とは云え、螺旋、多段が全ての技に転用が出来る為、また、そこが秘術であるので、後は普通の棒術ではあったが

もう一つ、問題は現代ではほぼ使い道がないという事。野戦、大昔ならどこでも枝だの棒らしきものはあるかもしれないが街の中にそんなものは早々ない

石や砂でもそうだろう。故に自分で予めなんらかの武器を用意して保有している。あるいは相手から奪い取る、くらいしか使う機会は無い

本来の武器術としての形では実質形骸化している流派とも云えるが徒手技と複合技としての有用性は高い

特に手業の面で非力な者、女子供が使うには有効、何しろ外功が要らない、効果は過去に葉月VS坂田戦で実証済みである

現在では父、冬智が新たに加えた「対、拳銃、ナイフ術」のほうが現代的といえば現代的ではあるが、それも現実には使う機会は余り無い、ここは日本である

無論この術は、陣もみやびも習得済みであるが「実際は使わないよね」と両者共思っていた


4月

みやびは一人「お前がやらなきゃ無理だ」と云われた挨拶回り最後の一軒に向った、高級住宅街の一際大きい屋敷で当事者に面会、客間に通されあっさりとした会談を行った

「九重の新たな長の一人に抜擢されましたみやびで御座います、よろしくお願いします」
「よく知っております、こちらこそ」

挨拶を返したのは老婦人、気品と優しい笑みが印象に強い女性である

「公的な面で多くのサポートを頂きまして」
「いいえ‥、大昔からの約束事ですから、みやびさんが礼をする必要もありませんよ」
「今後とも宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ」
「所で八陣には珍しく外部から多くの弟子を取っている様ですね」

「ええ、この世代は不思議と優秀な者が沢山でましたから、一家にも周りにも」
「その様ですね、弟さん妹さんもテレビやニュースで取り上げられましたね」
「ご存知でしたか」
「ニュースも新聞もよく読みますから、皆、若いのに大したものです」
「恐縮です」

「何か困った事があれば何でも言ってください、わたくしの様な老人でも出来る事はあります」
「有難う御座います」
「大昔の約束もありますが、貴方達の様な方が物事の中心にあるというのも回りに良い影響を与えます」
「そうかもしれませんね」
「ええ、世の中はそうでなくては、本来なら‥年長者が積極的にそういう若い人を立てていかねばならない」

「所で雪斎さんはお元気ですか?」
「そうですねぇ、今は長としての立場を引きましたので直接お会いになっては如何でしょうきっと祖父も時間を持て余しているでしょうし」
「あらあら、なんか催促したみたいねぇ」
「きっと祖父も会いたがっているでしょう「キッカケ」があれば出てくると思いますよ、意外と頑固な人ですから」
「フフ、そうかも知れません」

「兎に角私の方から連絡を入れておきます」
「よろしくお願いします」

屋敷を出て一度ぐるりと見回した後、みやびはそのまま徒歩で岐路についた、辺りはもうすっかり夜だった

「偶に街に寄り道するのも悪くないわね」と繁華街に徒歩で

考えて見れば寄り道というのも何かのついででもない限り殆どしたこともない、時間が遅くとも大抵の店は開いているのであちこちまわってみた

時々「九重みやびさんですね!あ、握手してください!」という人や、主に女子高生なんかに写真を撮られたりするが笑顔で応じる

みやびは元々最低限の礼儀を払う人間には極めて寛容だそしてすぐに知己となる

「へー、みやびさんて買い食いとかするんだ」
「普段の料理のレパートリーになったりしますからねぇ、ただ、あまりやった事がないのでどこに行ったらいいのか」
「じゃあアタシらのお勧めの所行く?」
「ええ、近くでしたら」

言葉遣いは兎も角最近の若い子は無関心か積極的で物怖じしないかのどちらかで接しやすい人は極めて接しやすい

なんだかんだ二時間あちこち買い物をして街を出る所で別れた、結局メアド交換までした、もう普通に友達であった

22時を過ぎて途中の住宅街まで来た、そこで近所のマンションの駐車場前に不審な物を見る

駐車場から離れて止まる小型トラック横に、下りて辺りを見回す一人

遠くから様子を見ていると見ている先、駐輪場に3人。工具の類で素早くチェーンロックを外して引っ張って移動

「いわゆるバイク泥棒てやつねぇ」とみやびにも分った

ここで一旦素早く離れて携帯から通報して電源を落とす、路上に立ててある交通安全の書かれた「のぼり」から旗を外して武器にする、逃げられても困る為、再び戻って先に片付ける事にした

トラックの運転席前に降りてイライラしてタバコをふかす一人に普通に歩いて接近

いきなり手刀でそいつの首筋に打ってその場に昏倒させた
そうされるまで接近に気がつかなかったのである

素早く運転席から挿したままのキーを抜き草むらに投げ入れ
外国製の高級バイクを押して運んでくる残り三人と対峙する

向こうもギョッとした、声を挙げなかったがこの時点で混乱した、みやびは間髪いれず真正面から静かに飛び込みプラスチックポールの

「棍」で一人目の喉に「螺旋突き」を叩き込んだ
相手は後ろにひっくり返って悶絶する。

脆いし硬くも無い武器だがこれで十分な威力が出る、そして残り二人は逃走、反対側から車に乗り込む、が、鍵が無い

「んな?!」と思わず叫んだが、ほぼ同時に運転席の男が外に引っ張り出されつつ投げ飛ばされた、芙蓉の指きりで

ヘタに抵抗した為相手の中指が折れた上地面に背中から落ちて息を激しく吐いて動けなくなった

そうなるともう一人も逃げる判断は無い、降りてナイフを抜きつつ、飛び掛ったが、それが果される事無くナイフを叩き落される

相手の武器を持っている手のヒラ側つまり指の先に近いほうに先に棍の螺旋突きが入る

「いって!‥」と思わず出たがほぼ同時、今度は同じ形で喉にも突きを入れられて後ろにひっくり返った

仰向けで転がって七転八倒する、呼吸が出来ない
みやびは直立で見下ろしながらそいつらに言った

「潰す程激しくは打ってないわよ?深呼吸しなさい」と

相手集団も従ってぶっ倒れたまま必死に呼吸する、それでどうにか収まったが一歩も動けなかった

みやびは棒を地面に立ちつけたまま10歩離れて監視
警察が来たのは5分後だった。当然連中はその場で逮捕、みやびも事情聴取で署にとなった

家に帰れたのは0時過ぎだった

「随分遅かったな、ナンかあったんか?」と陣らも聞いたが
「ちょっと警察署に」と返され一同も「?」だったが

翌日の朝からマスコミの取材攻勢と成った

昼頃みやびは現場検証にも呼ばれ、それが終るとテレビに囲まれたのである

「偶々居合わせていたので、条件も揃っていたので協力しただけですわ」と軽く云って終らせた

そこから数日は夕方ニュースを賑わせた

ただ、強引な取材というのは全く無い、過去の総合ケンカ試合の例もあり「みやびさんに失礼を働くと怖い」というのがメディアの共通認識で

取材関係も異常に低姿勢で手を上げて質問してみやびが応じて答えるという物だった

その為情報も主に警察発表からと合わせた正確な物で情報拡散されて「煽った」報道は0だったが余りにお手柄事件でありなんだかよく分らない専門家等が出て

事件の詳細と戦闘など分析されて途中から意味不明なものにはなっていたが

その後、警察庁から表彰を受けた

相手は外国人窃盗団の一つで逮捕からの捜査でグループの壊滅まで行った事で、みやびも最初の貢献が大きくそうなった

「なんだかえらい事になってますわね‥」
「まあ、実害は無いんだしいんじゃない?」と葉月も軽く返した

図らずしもまたも名を上げる事には成ってしまったが

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