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一拍子
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気温も下がり時に肌寒い日すらある頃
9月も後半である
「おーい九重」
「はい、なんですか先生」
「今度の大会なんだが出れるか?」
「ええ、まあ、多分‥」
「多分か」
「丸々二日でしかも日曜ですからね、時間が」
「空けられないかね?」
「どうしても?」
「どうしても」
「分りました、なんとかしますよ」
「そうか!有難う!」
「それはいいんですが‥そんな大事な大会なんですか」
「うむ、地元開催で予選無し、しかも防具フルコンの個人戦だ。いい結果出すとかなり後にも響く」
「成る程ねぇ‥」
「各学校から推薦で出せるし。ウチにとっては滅多に無いチャンスなんだ」
「地元推薦?て事は「あの」北条も出るんですか?」
「ん‥そりゃ出るだろうな‥ま、まあ、勝つのは無理かもしれんが九重なら‥」
「いえ、分りました任せてください」
「おお!そうか!期待してるぞ」
「はい」
先生が大笑いで去った後、七海も嬉しそうに話しかけてくる
「お、いよいよ陣も世界デビューだな!」
「なんで世界‥」
「だってさー、陣ってマジ強いじゃん。楽しみだし」
「んー‥そう上手く行くかねぇ」
「謙遜か」
「いいや、組み合わせに寄るけど、北条も出るらしいからな」
「ああ‥あの」
「そういう事だ」
「陣ならいけそうだけどね」
「野戦ならそうかも知れんが、このルールだと使える「技」がな」
「ああ‥何でもありの八陣拳だときついのか」
「そうだ、それに八陣って殺人技みたいの多いし、かと云って大怪我にもさせられんし」
「はぁ~、色々難しいんだな‥」
「投げ、関節、跳び技ダメ。当てるのも防具のある、胴、フェイスのある頭、しかも極新ルールだから手業もダメ、だしなぁ‥」
「そう並べられるとめっちゃ不利ぽい感じだね」
「条件は同じなんだが、前提の練習から違うからな。ま、技一つでもどうにかなるかもしれんけど」
「うーーん」
「そういう訳だ、あまり期待しないでくれよな」
「そうだね、期待し過ぎてずっこけた時逆にショックだしね」
その日から陣は家の道場での練習を始めた。受けた大会出場、このルール、この条件だと使える「技」が限定される
「得意」という程ではないあの技をより錬度を上げる必要がある。只管、上段蹴りの練習だった
0時近くになってみやびに声を掛けられた
「あら?まだやってたの?」
「まあな。正直、あんまり得意な技て程でもないし」
「そうかしら」
「楽、ではあるんだがな」
「んー、そうねぇ、それにお互いフェイス防具有りだと「空察」も難しいしねぇ」
「実際、やってみないと分からん所があるしな」
「いいけど程ほどにね。負けたからって死ぬ訳じゃないし気楽に」
「ああ、もう上がるよ」
「いよいよ世界デビューッスね!」と悟にも言われた
「それ昨日七海にも云われたが‥」
「え?」
「それは兎も角楽しみですね」
「まあ、余裕過ぎ?みたいな?」
「んな訳ないだろ」
「そうかな~陣兄ならどこでも大体無双するっしょ」
「つか、ルールがなぁ」
「同感ッスね」
「兎に角皆で応援しましょう!」
何故か叶が張り切っている、わからんでもないが。鳳静空手部といえば、毎度下位か初戦負けが多い
滅多に名前が挙がらない部で、特に今回の大会は地元で推薦枠がある。ある意味この状況で無様な結果も出せないし名を売るチャンスでもある訳だ
尤も「北条」が出ると成れば、注目されるのは向こうであって、コッチではないだろう、とすら思われている、それだけに陣の責任役目は重いとも云えた
9月末
土曜日 参加人数の多いトーナメント戦である為、土曜の午後と日曜の半日、二日使われて行われる、舞台も国立武道館。普通に万は入る
「うへー‥えらい人だなぁ‥」
「関係者が半分かな」
「参加高の数も凄いしな」
当然溜り場メンバーも応援に来た。観客席での其々である
「七海ちゃんは?」
「一応部員だから、関係者、陣についてるよ」
開会式の後、其々準備が整えられ、いよいよと成った
「ここ空いてるかしら?」
「あ」
「みやびさん!どうぞどうぞ」
「みやび姉来たんだ?」
「そりゃそうよ」と葉月の隣に座った
「で、どうですかね?」
「どう?」
「見立てとか」
「んー、やっぱりルールの問題はあるわよね。まあ、アレだけでどうにか成るとは思うけど」
「アレ?」
「このルール、手業は胴突きのみ、顔への攻撃は蹴りだけ、しかも倒す倒さないは関係ない打撃ポイント制だから」
「まー、雷光しかないよねー」
「実際「一拍子」は結構練習してたみたいよ」
「ああ、あのめちゃくちゃ早い蹴りッスね」
「そそ」
「つまりみやびさんと陣さんの見解は同じって事か‥」
「ボクが出てもいいんだけど、あ、無理か」
「女子にはありません」
一方鳳静空手部では
「おお、二戦目だぞ‥準備いいか九重‥緊張してないか」
「先生よりは落ち着いてますよ‥」
「おっしゃ!陣頼むぞ!」と七海にヘルメット渡された
「まだ早いから‥」
どうみても一番落ち着いてるのは当人の方だった
「あれ‥あいつ‥」
「んー?どした北条」
「ちょっとした顔見知りですよ峰岸さん」
「ほうー、強いのか」
「ま、戦ってるのは見た事ないんでなんとも‥」
「んー?鳳静の男子か。そりゃ残念だ」
「まあ、毎度初戦で消えてますからねぇ」
「だな、しかしまあ、北条の知り合いなら撮っとくか」
と峰岸はハンディカメラを構えた
「なんかしょぼい機材ですね‥」
「んー?そうでもねーよ?最近のは一般家庭用ビデオカメラでも性能いいしな」
「へぇ」
「まぁ、俺の担当金回ってこないしな、格闘技なんざ大しても人気ないし。米国なら兎も角なぁ」
「ですね」
「商業的にもサッカーとか野球とかのが儲かるしな」
「なんか悲しいですね」
「まあ、その分お前は頑張れや‥顔もいいし、人気でるかもしれんぞ?」
「顔でやるもんじゃないでしょうに」
ガハハと峰岸も笑って返した
北条はその場を離れた所で今度は坂田に話しかけられた
「おい!北条こないだの奴!」
「ああ、さっき峰岸さんと話したよ」
「マジカよ‥やべーんじゃね?」
「それは分らんだろ、まあ、もうすぐだし、見てから判断すりゃいいさ」
「あ、ああ‥そうだな」
「お前が葉月って子にボロ雑巾にされたのは記憶に新しい所だが」
「それを云うなって‥」
そうして二人は次の試合を待った、無論陣の初戦を見る為前へで
「しかし、空手やってたんか」
「どうかな?八陣とかいう拳法使いだそうだが。多分在籍だけだろ」
「そうだなぁ、あのお嬢ちゃんも関節使いだし」
「それに今までどこにも出てないしな」
「ああ、確かに」
「始まるぞ」
一同期待と不安の混じった、陣の初戦である。だが、それを裏切るかの様な出来事が起こった
「始め!」の主審の掛け声の瞬間
陣と対峙した相手選手の頭が弾かれ右にフラフラとよろめいた後、右手と右膝を床につけてガクっと落ちた
「ザワ‥」と観客席もざわめく
主審、副審二人が集合して協議になる
「な、なんだぁ??」
「坂田、あれ、見えたか??」
「‥多分、右上段?」
「右上段には違い無い、が‥」
「お前でもハッキリ分らんのか‥」
「食らった方はもっと分らんだろうよ‥」
だが驚きなのは観客も溜り場メンバーもである
「あれ‥一拍子?前より早くねぇ??」
「俺にはさっぱりだな」
「私にも‥」
「ふつーに一拍子だよ」
「ええ、ただ、雷光拳に近づいてはいるわね、相手が反応できてないし」
葉月とみやびがそう言ったが云われた方にはさっぱりである
「どこに違いが‥?」
「一拍子っていうのは「構え→引き→打つ」の3アクションを文字通り「1」で全部やる技法の事よ。」
「そんな事出来るんすか?」
「訓練すればね」
「で、雷光拳ていうのは。一拍子に「空察」ていう技術を合せたものよ」
「それは?」
「んー「打つ前に読む技術ね」説明しにくいけど、相手の呼吸、気を読んで。反応できない時間に打ち込む技法、かしら」
「呼吸を読む?!??」
「元は剣術の技法よ、人間は呼気と吸気という「間」がある、この「間」には「反応が鈍くなる時間」というのが存在する、そこを突かれると無防備のまま、ああなるわ八陣拳、第三拳「雷光」の究極の形がソレね」
「‥」
説明されて悟も声が無かった。半分意味不明なのもあるが、あまりにも異次元な技術でもあるからである
ようやく審判の協議が終ってそれぞれの立ち位置に戻った後。そこで「一本」の宣誓と陣の「勝ち」が告げられた
「なんなんだ??」
「多分、審判も略見えてない」
「!??」
「いや、あるんじゃね、俺にも分からんかったし」
「私にも‥」
と、長行と叶が云った事でもよく分る、一般人から見ればまともに見える速度ではない
ただ蹴り、その物が見えない程「早い」という訳ではない、説明にあった通り「本来の2~3のアクションを1でやっている」というだけで蹴りの速度が飛躍的に上がっているのとは違う
無論、この打ち方だと予備動作、つまり「溜め」がなく力が一切入っていないので早くは成る。
ボクシンングのジャブが極端に早いのも「脱力している」からでもあるが、この場合錯覚を利用している蹴り、にも属する
所詮人間の手足の届く範囲での「打ち合い」では「見えている」事は多くない、だから元々「読み」の要素はある
視線、動作、準備、肉体の様々な動き、それを「察知」する事で成り立って居る
化学的に言えば、人間の反射速度(250ミリ秒四分の1秒)で手や足の打撃を見て避けるのは基本的に不可能、反応して動くより打撃のが早いからで、だから殆どの場合読みで相手が出す前に回避に入っている
構えて、上半身を捻って、腰が回って、と経験者程、そう「思い込む」
ボクシングなら近接での極端に予備動作の少ない、ジャブ等のパンチがある。だが、蹴りは動作が大きく、予備動作を「消す」という概念自体がない
だからそこを無くすそれが「見えない」「見てない」「認識をずらす」という事に近づく
食らった相手が「来る」と思った時にもう当っている、そういうズレを狙った業だ
だが受けた当人と周りから見れば「神速」には違い無い 故、そう呼ばれる「雷光」と
歓声も拍手も無い
ただ「シーン」としていた。陣は何事も無かった様に軽く礼をして舞台を降りた、そこでようやく、拍手がかなり遅れて起こる、見ていた殆どの者が呆然だったのである
そして下で見ていた北条も坂田も離れ、控え室に戻った
「まいったね」
「ああ‥あれ防げねーだろ‥」
その戻る途中慌てて駆け寄って来た峰岸に呼び止められた
「おい!北条!」と
云いたいことは分っているゆえに
「ああ、峰岸さん俺らも戻るんで一緒に」と遮って、3人で戻った
控え室に、と言ってもサブ練習場のようなスペースだが3人座って話した
「見てたか?!」
「ええ、右上段まわし蹴りですね、前後のモーションから見て」
「なんなんだありゃ‥」
そこで峰岸の持っていたカメラを思い出した
「それ、見れます?撮ったんですよね?」
「あ、ああ、一応」
正直撮っていた峰岸にもさっぱりな程だった。右蹴りは分るがどういう理屈でそうなっているのかが分らない、だから「北条の所へ」来たのでもある
そして峰岸が撮った先ほどの試合、と言っても一秒か二秒の試合だが繰り返しスロー再生して北条は見た
6回繰り返し見た後 「成る程‥」と呟いた、北条には分った様だ
「どういう事なんだ?」
そこで北条はビデオカメラを返して立ち上がる
「実際やってみましょう」
「出来るのか?!」
「いえ、理屈を説明するだけです」
「普通蹴りってのはこうです。腕を振り上げる、蹴り足を引く」
説明と同時に構えて左腕を振り上げ。蹴り足を後ろに引く
「蹴って、戻して、構えに戻ります」スッスッ、とそれをやってみせる
「あ、ああ」
「あいつの蹴りはこの、構え、腕の振り上げ体の捻り、蹴ってを同時に、1,2,3でなく「1」でやってるんです」
「!??」
「そんな事出来るのか?!」
「やってるんだから出来るんでしょうね。ただ、相当な訓練が必要でしょう」
「ふむう、弓の動作の装填、引き絞る、放つを同時、て事だな」
「大げさに言えばそうですね」
「すげぇな」
「それと、回し蹴り、ですがかなり独特ですね」
「と、云うと?」
「下からの回し蹴りです、前蹴りから下から上に蹴り上げる、そこで足の甲を少しだけ斜めに向けて当ててる」
「つまり実質前蹴りなのか」
「ええ、ほぼ直線に飛んで来ます、そして、これは左右ガードでは防げない」
「横からで無く下からだからか‥」
「そうですね、ボクシングで言う、ストレートアッパー、あるいはスマッシュの様な。けど欠点もあります」
「それは?」
「本来必要な「弓の引き絞り」を極端に省いている、故に、威力がほぼ無い、事です」
「溜めが0な訳だしな、ジャブみたいなもんか?」
「が、それでも、倒してたよな?‥」
「簡単ですよ、蹴られたのが分らない、見えない、なら防御も無駄だし、食いしばって耐える事も出来ない、そういう事です」
「目を塞がれた、あるいは暗闇の中からいきなり、殴られたようなもんだな‥」
「ええ」
「何者なんだ‥普通の武術じゃないだろ‥」
「話したときには‥「ウチで教えてる古武術」と言ってましたから、多分、どっかしらの古流の流れを組む拳法か、いや、術‥「八陣拳」とか云ったかな?」
「とんでもない奴が出てきたな‥」
「それはいいが、勝てるのか、あれ」
「無理でしょうね。技がアレ一つって事は無いでしょうし‥」
云われて峰岸も坂田も「そうか‥」と黙り込んだ
あまりの質の違う技 そして北条ですら無理と分る、その二つからである、だが、北条は印象が違っていた様だ
胴着の上のジャケットを脱いで、スッ、スッ、と上段蹴りの素振りを始めた
「お、おい、北条‥」
「どうするつもりだ?」
「あの蹴り、多分真似るだけなら出来る‥」
「!?」
「俺は、まだ時間ありますから」
「確かにお前はシードだから2回は免除、出番は今日の最後だけだが‥」
「ええ、2時間は楽にあります」
「まさかその間に習得しよってのか?!」
「ええ、あいつとは当るのは明日でしょう。こっちがあの「技」を使えれば運よく「相打ち」には出来るかも知れない‥」
「お前‥」
「いや、その通りだ。」
「ええ、時間来るまで、後、お願いします」
「分った出番が来たら呼ぶ」
と峰岸と坂田はそのまま控え室を出た
陣は二戦目、三戦目も順調に勝った、同じく「一拍子」の右上段回し蹴りで。
3戦合せて試合時間10秒掛かってない。そして初日の試合を全て終え、最後にシードである北条明の試合が〆に行われる
「あら?あれが?」
「うん、天才君」
「どんな試合するのかしらねぇ」
「あれ??」
出てきた北条を見て、みやびも葉月も驚いた
「なんか随分疲れてるみたいね」
「汗だくじゃん?」
もっと驚いたのはその「試合」である
「始め!」の合図から二秒
北条は相手選手のフェイスに神業のスピードで右上段回し蹴りを当てて一本取って終らせた
「陣兄みたいね」
のん気に葉月は言ったが。みやびは厳しい顔を見せて黙っていた
「どしたの?みやび姉」
「綺麗な形じゃなかったけど。今の一拍子よ‥正確には1半かしら?」
「え?まさか‥」
「ええ、多分、コピーした」
「ウッソ!?」
「おそらく、だけど、一戦目の陣の試合を見て、理解して、そして今まで、多分練習してた。たっぷり、二時間はあった訳だし」
「だからヘロヘロなんだ‥」
みやびの見解は当りだった。北条は礼をした後。舞台を下り、数歩歩いた後、その場に座り込んで頭をたれた、体から湯気が上がる程の疲労、汗、熱さ
「とんでもない相手が居たものね‥」
みやびもそれしか云えなかった。単に凄いだけではない、技を見破った事ではない
その意思と覚悟「内面、外面」の強さに目が離せなかったのである
その日の夜一行は家に帰って食卓を囲んだ
「陣、見た?」
「ああ北条だろ?」
「ええ」
「凄い奴が居たもんだな」
「私も色々な武術家を見てきたけど」
「そうだな「天才」て居るんだな」
「んー‥陣兄より?」
「そこはなんとも‥いい勝負には成るんじゃね?」
「マジデ」
「陣様といい勝負、ですか‥」
「オレは寧ろ楽しみだけどな。姉貴とオヤジ以外「怖いとか強い」と思う相手居なかったし。寧ろ、ここで会えたのは不幸中の幸い、て奴だな」
「たしかに、大昔なら殺し合いの話だしね」
「そういう事、大会、だけにな」
「そうですね‥」
「ま、兎に角、明日だな」
と夕食を平らげて陣も部屋に戻った
「うーん、不安とかなさそうね」
「嬉しい、のでしょうか?」
「ライバル、と言える相手すら居なかったからね」
「けどまあ、確かに「不幸中の幸い」ね」
「気が早いんじゃない?」
「そうね油断は禁物、ね、まだ勝ち残るとも限らない」
9月も後半である
「おーい九重」
「はい、なんですか先生」
「今度の大会なんだが出れるか?」
「ええ、まあ、多分‥」
「多分か」
「丸々二日でしかも日曜ですからね、時間が」
「空けられないかね?」
「どうしても?」
「どうしても」
「分りました、なんとかしますよ」
「そうか!有難う!」
「それはいいんですが‥そんな大事な大会なんですか」
「うむ、地元開催で予選無し、しかも防具フルコンの個人戦だ。いい結果出すとかなり後にも響く」
「成る程ねぇ‥」
「各学校から推薦で出せるし。ウチにとっては滅多に無いチャンスなんだ」
「地元推薦?て事は「あの」北条も出るんですか?」
「ん‥そりゃ出るだろうな‥ま、まあ、勝つのは無理かもしれんが九重なら‥」
「いえ、分りました任せてください」
「おお!そうか!期待してるぞ」
「はい」
先生が大笑いで去った後、七海も嬉しそうに話しかけてくる
「お、いよいよ陣も世界デビューだな!」
「なんで世界‥」
「だってさー、陣ってマジ強いじゃん。楽しみだし」
「んー‥そう上手く行くかねぇ」
「謙遜か」
「いいや、組み合わせに寄るけど、北条も出るらしいからな」
「ああ‥あの」
「そういう事だ」
「陣ならいけそうだけどね」
「野戦ならそうかも知れんが、このルールだと使える「技」がな」
「ああ‥何でもありの八陣拳だときついのか」
「そうだ、それに八陣って殺人技みたいの多いし、かと云って大怪我にもさせられんし」
「はぁ~、色々難しいんだな‥」
「投げ、関節、跳び技ダメ。当てるのも防具のある、胴、フェイスのある頭、しかも極新ルールだから手業もダメ、だしなぁ‥」
「そう並べられるとめっちゃ不利ぽい感じだね」
「条件は同じなんだが、前提の練習から違うからな。ま、技一つでもどうにかなるかもしれんけど」
「うーーん」
「そういう訳だ、あまり期待しないでくれよな」
「そうだね、期待し過ぎてずっこけた時逆にショックだしね」
その日から陣は家の道場での練習を始めた。受けた大会出場、このルール、この条件だと使える「技」が限定される
「得意」という程ではないあの技をより錬度を上げる必要がある。只管、上段蹴りの練習だった
0時近くになってみやびに声を掛けられた
「あら?まだやってたの?」
「まあな。正直、あんまり得意な技て程でもないし」
「そうかしら」
「楽、ではあるんだがな」
「んー、そうねぇ、それにお互いフェイス防具有りだと「空察」も難しいしねぇ」
「実際、やってみないと分からん所があるしな」
「いいけど程ほどにね。負けたからって死ぬ訳じゃないし気楽に」
「ああ、もう上がるよ」
「いよいよ世界デビューッスね!」と悟にも言われた
「それ昨日七海にも云われたが‥」
「え?」
「それは兎も角楽しみですね」
「まあ、余裕過ぎ?みたいな?」
「んな訳ないだろ」
「そうかな~陣兄ならどこでも大体無双するっしょ」
「つか、ルールがなぁ」
「同感ッスね」
「兎に角皆で応援しましょう!」
何故か叶が張り切っている、わからんでもないが。鳳静空手部といえば、毎度下位か初戦負けが多い
滅多に名前が挙がらない部で、特に今回の大会は地元で推薦枠がある。ある意味この状況で無様な結果も出せないし名を売るチャンスでもある訳だ
尤も「北条」が出ると成れば、注目されるのは向こうであって、コッチではないだろう、とすら思われている、それだけに陣の責任役目は重いとも云えた
9月末
土曜日 参加人数の多いトーナメント戦である為、土曜の午後と日曜の半日、二日使われて行われる、舞台も国立武道館。普通に万は入る
「うへー‥えらい人だなぁ‥」
「関係者が半分かな」
「参加高の数も凄いしな」
当然溜り場メンバーも応援に来た。観客席での其々である
「七海ちゃんは?」
「一応部員だから、関係者、陣についてるよ」
開会式の後、其々準備が整えられ、いよいよと成った
「ここ空いてるかしら?」
「あ」
「みやびさん!どうぞどうぞ」
「みやび姉来たんだ?」
「そりゃそうよ」と葉月の隣に座った
「で、どうですかね?」
「どう?」
「見立てとか」
「んー、やっぱりルールの問題はあるわよね。まあ、アレだけでどうにか成るとは思うけど」
「アレ?」
「このルール、手業は胴突きのみ、顔への攻撃は蹴りだけ、しかも倒す倒さないは関係ない打撃ポイント制だから」
「まー、雷光しかないよねー」
「実際「一拍子」は結構練習してたみたいよ」
「ああ、あのめちゃくちゃ早い蹴りッスね」
「そそ」
「つまりみやびさんと陣さんの見解は同じって事か‥」
「ボクが出てもいいんだけど、あ、無理か」
「女子にはありません」
一方鳳静空手部では
「おお、二戦目だぞ‥準備いいか九重‥緊張してないか」
「先生よりは落ち着いてますよ‥」
「おっしゃ!陣頼むぞ!」と七海にヘルメット渡された
「まだ早いから‥」
どうみても一番落ち着いてるのは当人の方だった
「あれ‥あいつ‥」
「んー?どした北条」
「ちょっとした顔見知りですよ峰岸さん」
「ほうー、強いのか」
「ま、戦ってるのは見た事ないんでなんとも‥」
「んー?鳳静の男子か。そりゃ残念だ」
「まあ、毎度初戦で消えてますからねぇ」
「だな、しかしまあ、北条の知り合いなら撮っとくか」
と峰岸はハンディカメラを構えた
「なんかしょぼい機材ですね‥」
「んー?そうでもねーよ?最近のは一般家庭用ビデオカメラでも性能いいしな」
「へぇ」
「まぁ、俺の担当金回ってこないしな、格闘技なんざ大しても人気ないし。米国なら兎も角なぁ」
「ですね」
「商業的にもサッカーとか野球とかのが儲かるしな」
「なんか悲しいですね」
「まあ、その分お前は頑張れや‥顔もいいし、人気でるかもしれんぞ?」
「顔でやるもんじゃないでしょうに」
ガハハと峰岸も笑って返した
北条はその場を離れた所で今度は坂田に話しかけられた
「おい!北条こないだの奴!」
「ああ、さっき峰岸さんと話したよ」
「マジカよ‥やべーんじゃね?」
「それは分らんだろ、まあ、もうすぐだし、見てから判断すりゃいいさ」
「あ、ああ‥そうだな」
「お前が葉月って子にボロ雑巾にされたのは記憶に新しい所だが」
「それを云うなって‥」
そうして二人は次の試合を待った、無論陣の初戦を見る為前へで
「しかし、空手やってたんか」
「どうかな?八陣とかいう拳法使いだそうだが。多分在籍だけだろ」
「そうだなぁ、あのお嬢ちゃんも関節使いだし」
「それに今までどこにも出てないしな」
「ああ、確かに」
「始まるぞ」
一同期待と不安の混じった、陣の初戦である。だが、それを裏切るかの様な出来事が起こった
「始め!」の主審の掛け声の瞬間
陣と対峙した相手選手の頭が弾かれ右にフラフラとよろめいた後、右手と右膝を床につけてガクっと落ちた
「ザワ‥」と観客席もざわめく
主審、副審二人が集合して協議になる
「な、なんだぁ??」
「坂田、あれ、見えたか??」
「‥多分、右上段?」
「右上段には違い無い、が‥」
「お前でもハッキリ分らんのか‥」
「食らった方はもっと分らんだろうよ‥」
だが驚きなのは観客も溜り場メンバーもである
「あれ‥一拍子?前より早くねぇ??」
「俺にはさっぱりだな」
「私にも‥」
「ふつーに一拍子だよ」
「ええ、ただ、雷光拳に近づいてはいるわね、相手が反応できてないし」
葉月とみやびがそう言ったが云われた方にはさっぱりである
「どこに違いが‥?」
「一拍子っていうのは「構え→引き→打つ」の3アクションを文字通り「1」で全部やる技法の事よ。」
「そんな事出来るんすか?」
「訓練すればね」
「で、雷光拳ていうのは。一拍子に「空察」ていう技術を合せたものよ」
「それは?」
「んー「打つ前に読む技術ね」説明しにくいけど、相手の呼吸、気を読んで。反応できない時間に打ち込む技法、かしら」
「呼吸を読む?!??」
「元は剣術の技法よ、人間は呼気と吸気という「間」がある、この「間」には「反応が鈍くなる時間」というのが存在する、そこを突かれると無防備のまま、ああなるわ八陣拳、第三拳「雷光」の究極の形がソレね」
「‥」
説明されて悟も声が無かった。半分意味不明なのもあるが、あまりにも異次元な技術でもあるからである
ようやく審判の協議が終ってそれぞれの立ち位置に戻った後。そこで「一本」の宣誓と陣の「勝ち」が告げられた
「なんなんだ??」
「多分、審判も略見えてない」
「!??」
「いや、あるんじゃね、俺にも分からんかったし」
「私にも‥」
と、長行と叶が云った事でもよく分る、一般人から見ればまともに見える速度ではない
ただ蹴り、その物が見えない程「早い」という訳ではない、説明にあった通り「本来の2~3のアクションを1でやっている」というだけで蹴りの速度が飛躍的に上がっているのとは違う
無論、この打ち方だと予備動作、つまり「溜め」がなく力が一切入っていないので早くは成る。
ボクシンングのジャブが極端に早いのも「脱力している」からでもあるが、この場合錯覚を利用している蹴り、にも属する
所詮人間の手足の届く範囲での「打ち合い」では「見えている」事は多くない、だから元々「読み」の要素はある
視線、動作、準備、肉体の様々な動き、それを「察知」する事で成り立って居る
化学的に言えば、人間の反射速度(250ミリ秒四分の1秒)で手や足の打撃を見て避けるのは基本的に不可能、反応して動くより打撃のが早いからで、だから殆どの場合読みで相手が出す前に回避に入っている
構えて、上半身を捻って、腰が回って、と経験者程、そう「思い込む」
ボクシングなら近接での極端に予備動作の少ない、ジャブ等のパンチがある。だが、蹴りは動作が大きく、予備動作を「消す」という概念自体がない
だからそこを無くすそれが「見えない」「見てない」「認識をずらす」という事に近づく
食らった相手が「来る」と思った時にもう当っている、そういうズレを狙った業だ
だが受けた当人と周りから見れば「神速」には違い無い 故、そう呼ばれる「雷光」と
歓声も拍手も無い
ただ「シーン」としていた。陣は何事も無かった様に軽く礼をして舞台を降りた、そこでようやく、拍手がかなり遅れて起こる、見ていた殆どの者が呆然だったのである
そして下で見ていた北条も坂田も離れ、控え室に戻った
「まいったね」
「ああ‥あれ防げねーだろ‥」
その戻る途中慌てて駆け寄って来た峰岸に呼び止められた
「おい!北条!」と
云いたいことは分っているゆえに
「ああ、峰岸さん俺らも戻るんで一緒に」と遮って、3人で戻った
控え室に、と言ってもサブ練習場のようなスペースだが3人座って話した
「見てたか?!」
「ええ、右上段まわし蹴りですね、前後のモーションから見て」
「なんなんだありゃ‥」
そこで峰岸の持っていたカメラを思い出した
「それ、見れます?撮ったんですよね?」
「あ、ああ、一応」
正直撮っていた峰岸にもさっぱりな程だった。右蹴りは分るがどういう理屈でそうなっているのかが分らない、だから「北条の所へ」来たのでもある
そして峰岸が撮った先ほどの試合、と言っても一秒か二秒の試合だが繰り返しスロー再生して北条は見た
6回繰り返し見た後 「成る程‥」と呟いた、北条には分った様だ
「どういう事なんだ?」
そこで北条はビデオカメラを返して立ち上がる
「実際やってみましょう」
「出来るのか?!」
「いえ、理屈を説明するだけです」
「普通蹴りってのはこうです。腕を振り上げる、蹴り足を引く」
説明と同時に構えて左腕を振り上げ。蹴り足を後ろに引く
「蹴って、戻して、構えに戻ります」スッスッ、とそれをやってみせる
「あ、ああ」
「あいつの蹴りはこの、構え、腕の振り上げ体の捻り、蹴ってを同時に、1,2,3でなく「1」でやってるんです」
「!??」
「そんな事出来るのか?!」
「やってるんだから出来るんでしょうね。ただ、相当な訓練が必要でしょう」
「ふむう、弓の動作の装填、引き絞る、放つを同時、て事だな」
「大げさに言えばそうですね」
「すげぇな」
「それと、回し蹴り、ですがかなり独特ですね」
「と、云うと?」
「下からの回し蹴りです、前蹴りから下から上に蹴り上げる、そこで足の甲を少しだけ斜めに向けて当ててる」
「つまり実質前蹴りなのか」
「ええ、ほぼ直線に飛んで来ます、そして、これは左右ガードでは防げない」
「横からで無く下からだからか‥」
「そうですね、ボクシングで言う、ストレートアッパー、あるいはスマッシュの様な。けど欠点もあります」
「それは?」
「本来必要な「弓の引き絞り」を極端に省いている、故に、威力がほぼ無い、事です」
「溜めが0な訳だしな、ジャブみたいなもんか?」
「が、それでも、倒してたよな?‥」
「簡単ですよ、蹴られたのが分らない、見えない、なら防御も無駄だし、食いしばって耐える事も出来ない、そういう事です」
「目を塞がれた、あるいは暗闇の中からいきなり、殴られたようなもんだな‥」
「ええ」
「何者なんだ‥普通の武術じゃないだろ‥」
「話したときには‥「ウチで教えてる古武術」と言ってましたから、多分、どっかしらの古流の流れを組む拳法か、いや、術‥「八陣拳」とか云ったかな?」
「とんでもない奴が出てきたな‥」
「それはいいが、勝てるのか、あれ」
「無理でしょうね。技がアレ一つって事は無いでしょうし‥」
云われて峰岸も坂田も「そうか‥」と黙り込んだ
あまりの質の違う技 そして北条ですら無理と分る、その二つからである、だが、北条は印象が違っていた様だ
胴着の上のジャケットを脱いで、スッ、スッ、と上段蹴りの素振りを始めた
「お、おい、北条‥」
「どうするつもりだ?」
「あの蹴り、多分真似るだけなら出来る‥」
「!?」
「俺は、まだ時間ありますから」
「確かにお前はシードだから2回は免除、出番は今日の最後だけだが‥」
「ええ、2時間は楽にあります」
「まさかその間に習得しよってのか?!」
「ええ、あいつとは当るのは明日でしょう。こっちがあの「技」を使えれば運よく「相打ち」には出来るかも知れない‥」
「お前‥」
「いや、その通りだ。」
「ええ、時間来るまで、後、お願いします」
「分った出番が来たら呼ぶ」
と峰岸と坂田はそのまま控え室を出た
陣は二戦目、三戦目も順調に勝った、同じく「一拍子」の右上段回し蹴りで。
3戦合せて試合時間10秒掛かってない。そして初日の試合を全て終え、最後にシードである北条明の試合が〆に行われる
「あら?あれが?」
「うん、天才君」
「どんな試合するのかしらねぇ」
「あれ??」
出てきた北条を見て、みやびも葉月も驚いた
「なんか随分疲れてるみたいね」
「汗だくじゃん?」
もっと驚いたのはその「試合」である
「始め!」の合図から二秒
北条は相手選手のフェイスに神業のスピードで右上段回し蹴りを当てて一本取って終らせた
「陣兄みたいね」
のん気に葉月は言ったが。みやびは厳しい顔を見せて黙っていた
「どしたの?みやび姉」
「綺麗な形じゃなかったけど。今の一拍子よ‥正確には1半かしら?」
「え?まさか‥」
「ええ、多分、コピーした」
「ウッソ!?」
「おそらく、だけど、一戦目の陣の試合を見て、理解して、そして今まで、多分練習してた。たっぷり、二時間はあった訳だし」
「だからヘロヘロなんだ‥」
みやびの見解は当りだった。北条は礼をした後。舞台を下り、数歩歩いた後、その場に座り込んで頭をたれた、体から湯気が上がる程の疲労、汗、熱さ
「とんでもない相手が居たものね‥」
みやびもそれしか云えなかった。単に凄いだけではない、技を見破った事ではない
その意思と覚悟「内面、外面」の強さに目が離せなかったのである
その日の夜一行は家に帰って食卓を囲んだ
「陣、見た?」
「ああ北条だろ?」
「ええ」
「凄い奴が居たもんだな」
「私も色々な武術家を見てきたけど」
「そうだな「天才」て居るんだな」
「んー‥陣兄より?」
「そこはなんとも‥いい勝負には成るんじゃね?」
「マジデ」
「陣様といい勝負、ですか‥」
「オレは寧ろ楽しみだけどな。姉貴とオヤジ以外「怖いとか強い」と思う相手居なかったし。寧ろ、ここで会えたのは不幸中の幸い、て奴だな」
「たしかに、大昔なら殺し合いの話だしね」
「そういう事、大会、だけにな」
「そうですね‥」
「ま、兎に角、明日だな」
と夕食を平らげて陣も部屋に戻った
「うーん、不安とかなさそうね」
「嬉しい、のでしょうか?」
「ライバル、と言える相手すら居なかったからね」
「けどまあ、確かに「不幸中の幸い」ね」
「気が早いんじゃない?」
「そうね油断は禁物、ね、まだ勝ち残るとも限らない」
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