7 / 16
1
7
しおりを挟む
「――やっぱり体は覚えていたのね!」
僕が魔法を使えるとわかってよっぽどうれしいのか、シアは何度も僕の肩を叩く。
彼女の容貌はまだしも、その行動は僕の想像していた貴族とはかなりかけ離れたものだ。この国の貴族というはみんなこんな感じなんだろうか。
「近いよ。離れてくれ」
「おっと、ごめんなさい」
僕が嫌がるのを感じて、彼女は軽く謝罪の言葉を述べて離れる。
この世界ではみんなこんな感じで距離が近いのだろうか……この世界の住人と関わって来なかったからよくわからないが、生粋の日本人である僕にはあまりうれしくないことだ。
そんなことを考えている僕に、シアが感慨深そうにこちらを見ながら口にした。
「それにしても火の魔法か、遺物とかを探すとき便利なのよね。最初に声をかけた時から、そうなんじゃないかと思ってたんだけど……やっぱりいい拾い物だわ」
「拾い物って……」
人のことを文字通り、物みたいに扱わないでほしい。が、これでどうして彼女が僕に声をかけてきたかのなぞは解けた。
「君は最初から僕の魔法が目当てだったという事か」
僕みたいな浮浪者に声をかけるのだから、何らかの理由はあるとは思っていたけど、そう言う事なら合点がいく。
シアの話なら僕の人種……すなわち東洋――この世界では北洋と言うべきか? ともかく、僕の人種が主に火の魔法を使えるらしい。つまりは、彼女は最初から僕個人には用がなく、僕の人種が使える火属性の魔法を冒険者として欲して声をかけてきたというわけだ。冒険なり開拓なりをするにおいて、火は持っておくべきものの1つだとするなら、火種を必要としない魔法があればどれほど便利かは想像に難くない。
「もちろん! 最初から言ってるじゃない。あなたに声をかけたのは意味があるって」
そう言って不敵な笑みを浮かべてみせるシアが僕にはどこか恐ろしく感じた。
たぶん僕の考えすぎだとは思うけど、彼女は短絡的で直情的であるかのように見えるが、その実かなりの切れ者なのかもしれない。と思ったが、「やっぱり開拓には火よね。火って格好いいしね」とはしゃいでる彼女の姿を見て、やっぱり考えを改める必要性がありそうだと思った。
「本当に貴族なのか……」
彼女のはしゃぎようったら、まるで子供だ。貴族の淑女にあるまじきはしゃぎようだ。
普通にしている時はまともな貴族っぽいのに、冒険とか開拓とかの話になると途端にこの調子だ。なんだか変な人物と関わってしまったのかもしれない。と言っても、もう後に引くことは出来ない。
ああ、人生って本当に面倒くさい。だけどこれもすべては娯楽のためだと思えば、耐え難い苦痛とまではならないだろう。
「今の時代、貴族ってだけじゃ食べていけないのよ。それに父が貴族だってだけで、私は生まれてこのかた貴族だったつもりはないわよ。私はウトピア生まれのウトピア育ちだし、この国には数度来たことがある程度だしね」
僕のひとり言に対して、シアはそう冷たく言い放った。
どうやら僕は地雷を踏んでしまったらしい。というか、よく考えてみれば貴族に対して『貴族性』を疑うのはかなり失礼なことかもしれない。シアが優しいから大丈夫なものの、他の貴族に同じことをしてしまったら彼女の言うとおり処刑されてしまうのだろうか。そう考えると、面倒くさいけど自分の性格を治さなくちゃいけないという気持ちになった。
なんて、そんなことは別にどうでもいい。ただ1つ気になったのは唐突に出てきた『ウトピア』という言葉だ。僕はこの世界の地理については全く知らない。この国の名前すらしらない始末だ。面倒だけど、冒険者として仕事をしていくうえで、地理的なことを何も知らないのは大問題だ。
「ウトピアってのはどんなところなんだ?」
「いいところよ。土地は広いし、自然は豊か……いい人ばかりだし、食べ物はおいしいしね」
「食べ物がおいしい」
それは耳寄りな情報だ。
おいしいものを食べるのは、この世でもっとも楽しいことだ。おいしいものを食べずして生きて行くことは、死んでいるのと何も変わらない。どれだけ面倒くさいことが待ち合わせていようと、生きる屍も同然に生きて行くのは嫌だ。
だから僕はおいしいものが食べたい。おいしいものがあるならどこにだって行きたい。
「食べ物が好きなのね。ずっと仏頂面だったのに、食べ物の話になると途端に顔がゆるんでるし」
シアに言われて初めて気が付いた。僕は感情が顔に出てしまうらしい。
たぶん僕は今まで他人と深く関わったことがない。友達のことはおろか、家族のことすらまともに覚えていないのだからきっとそうなんだ。そんな僕に異世界で婚約者が出来るなんて思ってもみなかった。
顔がゆるんだところを見られるなんて何とも気持ち悪い。いや、気分が悪いわけじゃない。だけど他人に自分も知らないところを見つけられるのが何とも気恥ずかしいだけだ。
僕が魔法を使えるとわかってよっぽどうれしいのか、シアは何度も僕の肩を叩く。
彼女の容貌はまだしも、その行動は僕の想像していた貴族とはかなりかけ離れたものだ。この国の貴族というはみんなこんな感じなんだろうか。
「近いよ。離れてくれ」
「おっと、ごめんなさい」
僕が嫌がるのを感じて、彼女は軽く謝罪の言葉を述べて離れる。
この世界ではみんなこんな感じで距離が近いのだろうか……この世界の住人と関わって来なかったからよくわからないが、生粋の日本人である僕にはあまりうれしくないことだ。
そんなことを考えている僕に、シアが感慨深そうにこちらを見ながら口にした。
「それにしても火の魔法か、遺物とかを探すとき便利なのよね。最初に声をかけた時から、そうなんじゃないかと思ってたんだけど……やっぱりいい拾い物だわ」
「拾い物って……」
人のことを文字通り、物みたいに扱わないでほしい。が、これでどうして彼女が僕に声をかけてきたかのなぞは解けた。
「君は最初から僕の魔法が目当てだったという事か」
僕みたいな浮浪者に声をかけるのだから、何らかの理由はあるとは思っていたけど、そう言う事なら合点がいく。
シアの話なら僕の人種……すなわち東洋――この世界では北洋と言うべきか? ともかく、僕の人種が主に火の魔法を使えるらしい。つまりは、彼女は最初から僕個人には用がなく、僕の人種が使える火属性の魔法を冒険者として欲して声をかけてきたというわけだ。冒険なり開拓なりをするにおいて、火は持っておくべきものの1つだとするなら、火種を必要としない魔法があればどれほど便利かは想像に難くない。
「もちろん! 最初から言ってるじゃない。あなたに声をかけたのは意味があるって」
そう言って不敵な笑みを浮かべてみせるシアが僕にはどこか恐ろしく感じた。
たぶん僕の考えすぎだとは思うけど、彼女は短絡的で直情的であるかのように見えるが、その実かなりの切れ者なのかもしれない。と思ったが、「やっぱり開拓には火よね。火って格好いいしね」とはしゃいでる彼女の姿を見て、やっぱり考えを改める必要性がありそうだと思った。
「本当に貴族なのか……」
彼女のはしゃぎようったら、まるで子供だ。貴族の淑女にあるまじきはしゃぎようだ。
普通にしている時はまともな貴族っぽいのに、冒険とか開拓とかの話になると途端にこの調子だ。なんだか変な人物と関わってしまったのかもしれない。と言っても、もう後に引くことは出来ない。
ああ、人生って本当に面倒くさい。だけどこれもすべては娯楽のためだと思えば、耐え難い苦痛とまではならないだろう。
「今の時代、貴族ってだけじゃ食べていけないのよ。それに父が貴族だってだけで、私は生まれてこのかた貴族だったつもりはないわよ。私はウトピア生まれのウトピア育ちだし、この国には数度来たことがある程度だしね」
僕のひとり言に対して、シアはそう冷たく言い放った。
どうやら僕は地雷を踏んでしまったらしい。というか、よく考えてみれば貴族に対して『貴族性』を疑うのはかなり失礼なことかもしれない。シアが優しいから大丈夫なものの、他の貴族に同じことをしてしまったら彼女の言うとおり処刑されてしまうのだろうか。そう考えると、面倒くさいけど自分の性格を治さなくちゃいけないという気持ちになった。
なんて、そんなことは別にどうでもいい。ただ1つ気になったのは唐突に出てきた『ウトピア』という言葉だ。僕はこの世界の地理については全く知らない。この国の名前すらしらない始末だ。面倒だけど、冒険者として仕事をしていくうえで、地理的なことを何も知らないのは大問題だ。
「ウトピアってのはどんなところなんだ?」
「いいところよ。土地は広いし、自然は豊か……いい人ばかりだし、食べ物はおいしいしね」
「食べ物がおいしい」
それは耳寄りな情報だ。
おいしいものを食べるのは、この世でもっとも楽しいことだ。おいしいものを食べずして生きて行くことは、死んでいるのと何も変わらない。どれだけ面倒くさいことが待ち合わせていようと、生きる屍も同然に生きて行くのは嫌だ。
だから僕はおいしいものが食べたい。おいしいものがあるならどこにだって行きたい。
「食べ物が好きなのね。ずっと仏頂面だったのに、食べ物の話になると途端に顔がゆるんでるし」
シアに言われて初めて気が付いた。僕は感情が顔に出てしまうらしい。
たぶん僕は今まで他人と深く関わったことがない。友達のことはおろか、家族のことすらまともに覚えていないのだからきっとそうなんだ。そんな僕に異世界で婚約者が出来るなんて思ってもみなかった。
顔がゆるんだところを見られるなんて何とも気持ち悪い。いや、気分が悪いわけじゃない。だけど他人に自分も知らないところを見つけられるのが何とも気恥ずかしいだけだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件
藤岡 フジオ
ファンタジー
四十一世紀の地球。殆どの地球人が遺伝子操作で超人的な能力を有する。
日本地区で科学者として生きるヒジリ(19)は転送装置の事故でアンドロイドのウメボシと共にとある未開惑星に飛ばされてしまった。
そこはファンタジー世界そのままの星で、魔法が存在していた。
魔法の存在を感知できず見ることも出来ないヒジリではあったが、パワードスーツやアンドロイドの力のお陰で圧倒的な力を惑星の住人に見せつける!
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる