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魔王は友との約束を果たしたい
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あれから、僕は魔王として生きることになった。と言っても、勇者だったころと何かが大きく変わったというわけではないが、それでも死ぬために生きることはなくなった。
ヴラスカは僕のことをいまだに恨んでいるらしいが、それでも僕を殺そうとすることはなくなったし、お前が造った村を盛り上げるために頑張っているよ。まあ、僕もそれに駆り出されることがあって、少しだけ忙しくなったりもしたが、それでも前よりすべてがよくなった気がする。
ニケとヘカテーは……いや、お前は2人のことを知らないんだったな。だったら、話しても意味はないかもしれない。でも聞いてほしい。
「ニケは僕に倒されたことによって、魔王としての力を失ったって話は依然したよな? なんて墓に話しても答えが返ってくるわけもないだろうけど……」
友の墓は、彼の妻だったヘクセの墓があるいまだに凍てついたあの場所に造った。ここなら、誰にも邪魔されることなく夫婦水入らずで過ごせるだろうと、僕が独断と偏見でそうしたのだが、いつの間にか『解けない氷の大地』だとかで観光地とかしてしまった。
そんな風ににぎやかになっているにも関わらず、ここにくると僕の心にはいつまでたっても冷たい風が吹く。
それが悪いことだとは、僕は思わないが、いつまでも前に進まないわけにもいかない。彼との最後の約束を果たすためにここを訪れたのだから。
「あー、あー……とにかく、ニケがその原理を利用して、現世界人の魔王達から魔王の魂を奪い、消滅させられるんじゃないかって言うから数人倒してみたんだ。昔話した僕の半生と同じで、幼馴染の魔法使いと一緒に世界中を旅しながらな……」
きっと彼が生きていたら、『のろけですか?』なんて言うに違いない。
彼にはずっと話してきたから。僕が彼女のことをどれだけ大切に思っていたかを……そして、パーティーとしては決別することになった理由に関しても。
「まあ伝えておきたいことは色々あるんだけど、その前に、お前を殺したすぐ後のこととを話していなかったなと思って……先にそれを伝えようとここに来たんだよ……ああ、やっと覚悟が決まったってことさ。まったく……お前の言うとおりだったよ。僕はどうしようもなく情けない男だった。それにようやく気がついたよ。勇者じゃなくなった今、ようやくな……ああ、いや、今回はそれほど時間がないんだった。悪いが、一方的に話させてもらうぞ」
当然、返答などあるはずもなく、僕は少しだけ切ない気分になったが、それでも前に進むためにここを訪れたことを思いだし、静かに語りかけるのだった。
ヴラスカは僕のことをいまだに恨んでいるらしいが、それでも僕を殺そうとすることはなくなったし、お前が造った村を盛り上げるために頑張っているよ。まあ、僕もそれに駆り出されることがあって、少しだけ忙しくなったりもしたが、それでも前よりすべてがよくなった気がする。
ニケとヘカテーは……いや、お前は2人のことを知らないんだったな。だったら、話しても意味はないかもしれない。でも聞いてほしい。
「ニケは僕に倒されたことによって、魔王としての力を失ったって話は依然したよな? なんて墓に話しても答えが返ってくるわけもないだろうけど……」
友の墓は、彼の妻だったヘクセの墓があるいまだに凍てついたあの場所に造った。ここなら、誰にも邪魔されることなく夫婦水入らずで過ごせるだろうと、僕が独断と偏見でそうしたのだが、いつの間にか『解けない氷の大地』だとかで観光地とかしてしまった。
そんな風ににぎやかになっているにも関わらず、ここにくると僕の心にはいつまでたっても冷たい風が吹く。
それが悪いことだとは、僕は思わないが、いつまでも前に進まないわけにもいかない。彼との最後の約束を果たすためにここを訪れたのだから。
「あー、あー……とにかく、ニケがその原理を利用して、現世界人の魔王達から魔王の魂を奪い、消滅させられるんじゃないかって言うから数人倒してみたんだ。昔話した僕の半生と同じで、幼馴染の魔法使いと一緒に世界中を旅しながらな……」
きっと彼が生きていたら、『のろけですか?』なんて言うに違いない。
彼にはずっと話してきたから。僕が彼女のことをどれだけ大切に思っていたかを……そして、パーティーとしては決別することになった理由に関しても。
「まあ伝えておきたいことは色々あるんだけど、その前に、お前を殺したすぐ後のこととを話していなかったなと思って……先にそれを伝えようとここに来たんだよ……ああ、やっと覚悟が決まったってことさ。まったく……お前の言うとおりだったよ。僕はどうしようもなく情けない男だった。それにようやく気がついたよ。勇者じゃなくなった今、ようやくな……ああ、いや、今回はそれほど時間がないんだった。悪いが、一方的に話させてもらうぞ」
当然、返答などあるはずもなく、僕は少しだけ切ない気分になったが、それでも前に進むためにここを訪れたことを思いだし、静かに語りかけるのだった。
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