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勇者は死ねない

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「わかった」

 ニケは思いのほか聞き分けがよく、すぐに引き下がってくれた。
 彼女にとって、悪魔から派生したであろう存在は天敵であるはずだ。だからこそ、僕を差し置いて自分が戦うなんて言い始めるかもと思ったが、予想外だ。
 僕はニケにほうから視線を切ると、男の方を見直した。

「あんたが、魔王だったらいいんだけど……」

 神の領域を犯す存在、生物にして天使を超えた『魔王』に成ったのであれば、悪魔という種族の垣根を超えたということだ。
 おそらく、あいつはその領域に踏み込んでいる。

「魔王ね……俺がそんなもんに見えるか?」
 嫌に威圧的な態度で、男は僕をにらみつける。
 それもそうなんだ。魔王にまでなれば、種族間にある神との盟約を果たす必要がなくなる。だから異世界人を殺したかったとしても、自分の手で殺せるということだ。
 それをしない。いや出来なかったと考えると、彼は魔王ではない。

「そこが謎なんだよな……かといって、僕に勝てる可能性がある悪魔となると、魔王ぐらいなものだろう。それより弱い存在じゃ無理だ」

 魔王じゃなければ、一応転生という手段もあるが……異世界人を傷つけることが出来ない種族は、人間と悪魔だけだ。悪魔が望んで、種族としてのレベルが低い人間になるとは考えられない。
――というより、もしそうならガッカリだ。弱い存在に興味はない。
 考えるだけ無駄か。だが、魔王じゃないというなら、戦うのは面倒くさいな。
「悪魔……? そんな低俗なものと同じにするなよ」
「だったらなんなんだというんだ?」
 聞いたこともない種族……というなら期待もできるが、そんなものが都合よくいるはずない。

「俺は悪魔と竜人のハーフ、悪魔竜人トイフェル・ドラゴネットのガリュートだ」

 ガリュートと名乗った男は、両手を広げて、背中の翼を広げる。
 あれは、まごうことなき竜人の翼だ。だがしかし、通常よりも禍々しく大きい。

「トイフェ……なんだ?」
悪魔竜人トイフェル・ドラゴネット、悪魔もドラゴンも超越した新たなる存在……それが俺だ」
「へぇ……面白そうだな」

 ごつい体と、強そうな翼。だがそれだけだ。見た目なんてものは、所詮第一印象でしかなく、重要なのは中身だ。
 悪い女に引っかかったことのある僕だからわかることだが、見た目が派手なやつは強く見せるために擬態しているということが多い。
 やつもそうでなければいいのだが……
「竜人と悪魔のハーフ……なるほど、だから私には分からなかったのか」
 ニケは、何度か頷いた。
 納得したならそれでいい。どうせ、彼女は竜人の血を引く相手とは戦えない。
 だから、彼女に邪魔されることはないだろう。

「期待していいんだな?」

 ここまでお膳立てして、実は弱かったなんてやめてくれよ。
 僕だって人間だ。
 徒労というのは嫌だからな。
「期待……それは無理だ。お前は絶望しかできねぇからな」
 格好つけてそんなことをいうガリュートだ。
 だいたいこういうやつは、弱かったりするんだよなぁ。
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