先生と僕

１０

国語教師

――７年前の教室

「すなわち、これが彼の気持ちを表しているというのは、わかってくれたかな？」
　国語教師として２０年近く務めた私が言うのもなんだが、『彼』とやらの気持ちを文章から読み取るなんて不毛な作業に過ぎない。
　だがどうだ。私の問いかけに対してほとんどの生徒たちはうなずいている。
　教育とは何ともくだらない作業だ。情操教育もくそもあったもんじゃない。こんなくそをさらに薄めた授業で人の気持ちが理解できるものか。

「それは違うんじゃないですかね？」
　そんな中で、１人の生徒が手を挙げる。１年生でありながら非常に優秀な生徒だ。名前は確か――と言ったはずだ。何でも理事長の娘だとかで、教師たちからも一目置かれる存在だ。真っ黒な髪を肩まで伸ばして、まるで人形のような大きな目を二つ私の方に向けて、敵意をむき出しにしたかと思うと、すぐさま正気に戻ったようでしゅんとした。
　だが私はそんなことどうでもいい。

「何が違うのかね？」
　知りたいのはその答えだ。私の求める答えなら、彼女は私の初めての成功例になり得る。
　最高の生徒をどう作るか、それが私の教師人生において最後で最大級の問題だった。芸術家にとっては最高の作品を作り上げること、アスリートにとっては最高の記録を残すこと、資産にとっては富と名声を築き上げることが目的であり人生だ。だったら教鞭をとるものにとってのそれは何を指す？　もちろん、最高の生徒を育てることだ。