よみがえりの一族

真白 悟

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2.3 密室にて

9.歳月

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 耳鳴りがやみ、徐々に思考能力を回復してから彼女の言葉を思い出した。しかし、僕は彼女にあった記憶など一切ない。だが、僕のスマホの日付が丁度記憶が途切れた日から7日後であるわけだから、僕の記憶は丁度一週間分消えたと考えて間違いないはずだ。
「どういうことなんだ? 僕は彼女にあった記憶が一切ないし、そもそも、僕がこの世界にきてからまだ一ヶ月も立ってないだろう?」
 しばしの沈黙、僕の質問に対して、悪魔がいつも用いる方法。おそらく、悪魔が僕に心の準備をするために与えている時間なのだろうが、今回ばかりは必要なかった。
 それに、悪魔だけならまだしも、今回は3人一致でだんまりを決め込んでいるようだ。何をもったいぶっているというのだろうか?
 しかし、今回は静寂がいつよりも遥かに長かった。

「えっと……」

 だが時が永遠でない限り、その物事には終焉というものがあるはずだ。と言っても、今回その静寂に終止符を打ったのは予想外にもサルガタナスと呼ばれる悪魔だった。彼女は続けて困惑気味に僕に説明してくれた。

「人間さんと私は一ヶ月前にあったという事は先程話したとおりです……それは良いですか?」
 もちろん全然理解できていないが、ここで了承しなければ一笑話しが進まない気がする。
「ああ……」
 僕は仕方なく同意した。が、それに同意しかねる者達がいた。
「ちょっと待て、それを今ここで伝えるという事は、こいつの精神に何らかの以上を着たしてしまうかもしれんで……イグニスの悪魔がそれを伝えんかったんだってそのためやろ?」
「そうだ。ここで宿主にショック死でもされたらまずい」
 二人して僕に何かを隠していたようだ。だったら、彼女が敵だとかなんだとか言う話は一体何だったのか、頭の中は渦が巻いていて、一向に整理がつかない。
 それの渦を止めようとするのがサルガタナスという、僕の中の悪魔が敵と言った存在で、それに対抗するのが僕の味方であるべき二人という奇妙な構図のもと、自体は佳境を迎えた。

「確かに、話さないという事は人間さんの脳に一番ショックを与えん方法でしょうね……ですが、私的には彼の脳がどうなろうが、今日の任務だけは絶対に成功させていただかねばなりません。失敗するんやったら、何のためにここまできたんかわかりません。記憶を一週間分消したのだって今日のためです。この人の精神が今日まで持ちこたえることを願って消したんですし、この方だってそれをのぞんでた。――そりゃあ今は記憶が消えて覚えてないかもしれませんが、今日の任務を成功させたいと一番思ってたのだって、この人でしょう? だったら説明しないわけには行きませんよ」
 彼女がそう言ったあとは堺も悪魔も、歯切れが悪いように「ああ」とか「そうだな」とかそんな返事を返した。
 なんだかよくわからないが、どうやらふたりとも、僕に対して少なからず後ろめたいという気持ちがあったようだ。その理由まではわからないが、悪いことではないと願うばかりだ。
 さて、それでは彼女たちの相談も終わったようだし、本題に入ってもらうとする。
「それで、僕がショックを覚えるほどのことってなんだ? この数時間の間に大概のことでは驚かない耐性が出来たと自負しているのが……」

「だったら、尚の事驚くと思います。覚悟は良いですか?」

 今更そんな脅し文句を言われたところで、引き戻すことは出来ないって彼女もわかっているはずだが、そこまで念を押されると少しだけ後ろ向きになる。
 だけど、決断を迷っている暇はない……一番状況が分からない僕がそのままでいいはずがないし、早く本当のことを知りたいという気持ちのほうが遥かに上回っている。
「前置きは良いから、さっさと話してくれ」
 彼女は少しだけ咳払いをし、では……という合図とともに話を初めた。

「少しだけ衝撃的かもしれませんし、もしかしたらなんとなく気がついていたのかもしれませんが、あなたの失った記憶は一週間ではありません」
 まあ、それはさっきの話の内容から理解はしていたが、だったら一ヶ月か二ヶ月程度だろうか?
 そんな僕の疑問はすぐに彼女の言葉によって回答を得られた。
「あなたはこちらの世界に来てから一ヶ月も立っていないと言ってはりましたよね? でもそれじゃあ計算は合いません。私があなたから一ヶ月前に聞いた話では、こちらにきてから3年と言ってはりました。つまりあなたの消えた記憶は三年と一ヶ月ということになります」
 思わず彼女の両肩に手を置いて揺らしてしまった。それも正面から……だが、それほどまでに意味が分からない状況であった。だからこそそうせずにはいられない。
「どういうことだ!? 僕はいや彼女はどうなってしまったんだ!?」
 今度は彼女が驚いたのだろう、両肩に置いた手を掴み振りほどこうとしていた。それも相当な力が篭っていたのでかなり痛かったのかもしれない。
「……っ! ちょっと! 痛いですっ!!」
 その言葉でようやく僕は正気を取り戻した。
「悪い……」
 彼女は肩を抑え、苦悩の表情を浮かべながらも先程の調子で続きを話した。
「私が順序を踏まなかったのが悪かったので仕方ありません。ですが、此処から先はどう話したものか……ひとまずあなたの言う彼女については私は全く知らないというわけでもありませんが、話せるほど知っているというわけでもありません。ですから、ひとまず変わったことを適当にかい摘んで話しましょう。
 ちょっと長くなりますが、三年前とはかなり状況が変わっています。一番変わったことと言えばサンクチュアリでしょうか……サンクチュアリは現在三年前の三分の一程度しか残ってません。特に私達が住んでいた中央区はほぼ壊滅しました。その代わりにあなたがいた密室みたいな施設が見つかりました。悪魔に感知されない施設ですね、まあ1年前ほどまでは必要なかったから誰も気が付かんかったんでしょうが、今となっては魔法士の良い隠れ蓑ってやつです。そして、どうしてサンクチュアリが減ったのかと言うと、最悪の悪魔ルシファーの出現によるものです」
 長い説明の中、水をさすのもどうかとは思ったが、どうしても聞いておきたかった。
「ルシファーってベリアルが名乗った名前と同じだが――」
「そうや、ベリアルが名乗った名前で、その人物その人やな。まあ悪い人じゃないねんけど、あまりにも悪魔として強すぎてこっちに来ただけで世界が崩壊してもうた」
 堺が僕の疑問に即座に答えた。

「世界が崩壊?」

「せや、この世界は一年前にバランスが崩壊してしまったんや。もともとはベルゼブブ・サタン対アスタロト+サンクチュアリのお陰でなんとかなりたっとたけど、サンクチュアリが減ったことによってベルゼブブとサタンのほうが優勢になったというわけや」
 なるほど、全く知らなかった。こいつはどうしてそんな肝心なことを教えてくれなかったんだろう?
「まあその構図になったのもベルゼブブがこの世界に来た二年前からのことやけどな……」
 そうか、つまりは僕がいた世界では争いそのものが無かったというわけか……

 そんな堺の説明を煩わしく思ったのか、サルガタナスは再び僕と堺の間に割って入って、説明を再開した。
「そして、今日結構するはずだった任務というのが、ベルゼブブ暗殺です」
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