よみがえりの一族

真白 悟

文字の大きさ
上 下
68 / 109
2.2 悪魔との出会い

8.目的

しおりを挟む
 最後が訪れた時、僕にはまだ光が残っているということを僕は忘れていた。いや、忘れていたという言葉は厳密には違う。今ここにある中で、最上級の光に対して僕は期待していなかったというべきだろう。その時間を待つことが出来なかった。なぜなら、悪魔によって、僕の最後が訪れたからだ。――その2つは同時に訪れることはまずない、もしそんなことがあるとするなら、人はそれをこう呼ぶのだろう……奇跡と。

「奇跡などおこることはまずない。それがお前の今の状況といえるだろう……まさに死ってやつだ」

 悪魔はきっとそんなことを呟くのだろう。だが、それこそ当たり前なことなのだ。悪魔が人に希望を与えること事態が奇跡みたいなものだ。じゃあ、仮に、今爪を僕の頭の上に振りかざしている悪魔に対して僕がこういったしよう。

「待て、最後にお前がどうして僕を殺すのかを教えてくれ!」

 すると悪魔はきっとこう答えるだろう。

「そんなのなんとなくに決まってるだろう? お前はアリを殺すときに理由を考えるか?」

 それが気の狂った悪者の常套句というやつだから、容易に予想を立てることが出来ただろう。
 では、そもそも、どうして絶望の淵で、このような考察ができるのか、それを最初に話しておこう。それはもちろん思い出の一部だからだ。僕が思い出している過去にほかならないからである。だからこそ、そこに目的など無いし、うまくストーリーになっているはずもない。思い出だからこそ思い出せない部分もあるし、矛盾が生まれることもある。――だが、思い出とは時として、その後の人生にとって有意義な物となる。
 つまるところ、僕が思い出したかったのは、悪魔との出会いであり、悪魔に対して大敗を着したことではない。ならどうして、悪魔との出会いを思い出さなければならなかったのかということであるが、それこそ目的があったからにきまっている。
 それではもう少し思い出すとしよう。

「僕が聞きたいのはそういう話ではない。悪魔にとって召喚されるという事は嬉しいことのはずだ……!」
 僕が必死で問いかけているのに対し、悪魔はどこかどうでもいいというふうに投げやりに答える。
「そりゃそうだが、俺の場合は召喚されたわけじゃないし、封印を解いたやつも死んだ。ならあとは自由にしてもいいだろう? 俺は悪魔なんだから」
「違う、明らかにお前は目的を持っている。それも悪魔的な物ではないように感じるんだ」
「おいおい、俺は悪魔だぜ……もし、俺が嘘をついていたとしてもそれは普通のことだろう?」
「それなら、お前たちはもともと神だろう?」
「……何度も言うが俺は悪魔だ」
「なら、それでもいい。だが、お前が封印された理由ぐらいは教えてくれよ」
 悪魔は首をかしげる。
「いまから殺す人間に対して、なぜそんなことを教えにゃならん?」
「意味はない、話したくないなら殺せ……やり残したことはいっぱいあるが、それが運命だと受け入れよう」
 悪魔は笑う。
「はっはっは、本心では神など信じていないやつが、言うに事欠いて運命とは! お前面白いやつだな。まあ面白かろうがつまらなかろうが殺すのは殺す……いいだろう、少しだけ時間をやろう」
 そうして、だがと続けた。
「話すのは俺じゃなくてお前だけどな」
 そう言って悪魔は首をかしげる僕に説明をした。

 つまりは、この悪魔は自分のことを話すつもりは一切ないということだ。その代わり、僕のことを話せと、どうして僕がこの火山を訪れることになったのか、はたまた、自分自身が封印を解かれた理由を所望するということだった。それを代償として、悪魔は僕の命を話した時間と同じだけ猶予をくれるという、ただそれだけの話しだ。――つまり、僕が話している時間の間だけ小細工する時間があるということになる。
 だが、その時間すら僕にとってはあまり意味があるとは思えない。僕にはもはや戦うすべというやつが一つたりとも無いからだ。
 しかし、それでも僕は自分のことを話した。僕の国で二体の悪魔が暴れていること、それを対処するために火の騎士から意思を受け継ぐことが必要なこと、その意思を受け継ぐために火山を訪れたこと、そこで部下や信頼していた師匠に裏切られたということ、そんな風に王道が下の下までいくその瞬間を一語一句省略せずに話した。
 もちろん、自分の寿命を少し伸ばすという醜い意思を持ってそのようなことをしたわけではないし、それを聞いた悪魔を笑わせるために話したわけでもない。それこそ、小細工のために時間を稼いだなんて的はずれな想像をしているのだったら、笑いものだ。――ただ、人生の最後に少しだけ昔を振り返るのも悪くはないと、それを誰かに聞いてもらうのも悪くないとそう感じた。それだけの話だった。

「つまり、お前の人生はほとんど意味がなかったということだな?」
 嘲笑うだけ嘲笑い、悪魔は皮肉を吐いた。しかし、それは半分くらいは間違っていない。
「ほとんどと言うよりは、半分ぐらいだな……故郷の奴らは良い奴らだし、そこで寝転がったまま起き上がらないそいつだって良いやつだ。だからそいつらのために生きたと思えば、全て無駄だったというわけでもない」
 僕はムキになって反論する。
「お前がそう思おうんだったらそうなんだろうな、お前の中ではな!」
「悪魔のくせに知ったようなことをいうんだな」
「俺は悪魔だが、それでも神だった頃の記憶もあるし、人間だった頃の記憶もある」
 そう悪魔は気になる言葉をこぼした。だから、僕も思わず聞き返す。
「人間だった頃?」
「俺がお前に俺のことを話すことはあったとしても、お前からの問に答えることはない……それだけは今のところ俺の言葉で信じていい言葉だ。それ以外は信じてくれるなよ」
 もともと、意味が分からないことをいう悪魔ではあったが、時々話が通じていないような、そんな風にも取れる突拍子もないセリフを吐く時がある。まるで、僕が聞きたい事を予め知っているいるかのような、そんな不気味な言葉だ。そのせいか、いささか違和感が生じていたが、それも気にしないようにすればなんとも感じなかった。だが、会話をする気は一気に失われる。
「……」
「黙り込んでどうしたんだ? 命が惜しくはないのか、それとも……」
 悪魔がそう言いかけた時、そんな時、僕は自分の最後をゆっくりと噛み締めた上で、もう死んでもいいなんてしょうもないことを考えていた。だがしかし、本当に死にたいなんてそんなやつはいないだろう。僕だってそうだ。――最後に死ぬ以外の選択肢がないというそれだけの話だ。結果としての死、それを諦めと取るのか、自殺と取るのは僕じゃない。
「命なんて、惜しいに決まってるだろ!」
「じゃあ、やっぱりお前の言う卑怯な手と言うやつか?」
「そうだ、この上なく卑怯な手。そして神に背く背徳行為……だがしかし、お前を倒すには十分な方法だ」
 悪魔は、ほう……とこぼすと火山にある火口を覗き込んだ。その行動にいかほどの意味がるのかと言われても僕には分からない。ただ呆然としているようで、今にも飛び込んでしまいそうにも見えた。たとえ悪魔とは言えマグマの中で生きられるようには出来てはいないはずだ。そこに入っただけで全てのものに平等に死が訪れるということだ。だが、悪魔にとってこの状況は死以外選択肢のない状況とはとてもいい難い。つまり、今回に限っては僕がどれほど卑怯な手段を講じたところで何も変わらないというのが現状であり、もしもこの状況を僕の方に傾ける事が出来たとしてもそれはどのみち僕のほうが分が悪いだろう。そんなことは悪魔だってわかっているはずだ。わかっていてその行動を取る事が出来る者を悪魔と呼ぶのはいささかふさわしいような気もするが、それでは今回の話は意味が分からないまま終わってしまう。
 しかし、悪魔は火口へと足を進め、落ちてしまう寸前で足を止め、こちらを振り返った。

「一度言ってみたかった事がある……それを今言ってみることにするよ…………お前が神の子なら、ここから下へ飛び降りてみろ。神はお前のために御使たちに命じてお前が下に落ちる前にその体を支えるだろう」
 それはおそらく僕に向けられた言葉ではない。なぜなら僕は神の子ではないのだから……。きっと彼は自分が最も信頼する悪魔の言葉を使ってみたかったというただそれだけなのだろう。もちろん――
「その言葉を当てられた相手は神を試みてはならないと。だけど僕は神の子じゃないし、その言葉を全面否定出来るほど優れた信者でもない。一体お前は何が言いたんだ……最初から目的が見えない」
 
「言ったはずだ。目的などない、と。最初から俺は言いたい言葉を言いたいときに言ってるだけだ。お前は俺の意味のない言葉の羅列を聞いて奇妙な気分を味わい。俺はそれを酒の肴にすると言うだけのこと、それに、悪魔に対して意味を求める事自体おかしな話だ。俺には大した目的もないし、世界がどうなろうとも知ったことではない。ただムカついたら殺すし、眠りを妨げられても殺す。こうしてお前の話に付き合ってるのだって暇だからだ。俺にやるべきことがあったとするなら、お前はもう死んでいる。だが、暇だからこそお前を殺すし、国も滅ぼす。まあ若干の暇つぶしにはなるだろう?」
「……暇つぶしで国潰しか……まるで悪魔だな?」
「だから何度も言ってるだろう? 俺は悪魔だ。さて、お前から聞き出せることもなくなったわけだし、悪魔にしては十分すぎるほど時間はやった。悪いが暇つぶしもそろそろ終わりと行こうか? お前の最後の手段とやらを早く見せてもらおうか……まあ、どうせお前が死んで終わるだけだ。なんだ? その退屈そうな目は……暇つぶしなんだから結末が退屈なものでもしかたがないだろう? せいぜい楽しませてくれよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...