よみがえりの一族

真白 悟

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3.3虚なる魔法

時間

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「難しいことをしようとするなら補助はかえって邪魔になりかねないってこと! そんなこんなで魔法ってのは単純なようで奥深いのよ」
 ムトは当たり前のことを新しい発見であるかのように僕に言う。だが、そんなことは僕にだってわかっている。もし魔法が単純なものだったとするなら、僕がこれほどまでに思い悩まされることもなかっただろう。
 しかし、現実は厳しい。僕はそんな一見単純そうに見える魔法をほとんど使えない。
 僕は肩を大きく落とし、彼女に問いかける。

「まあそれはおいておこう……だけどだったらどうして僕はさっき魔法が使えたんだ?」

 これは僕が持つ中でも最大級の疑問だろう。先程の彼女の説明を聞いた上でなら何となく分かる。大まかに説明するのであれば、僕は言語という補助がある上で魔法を発動する才能がない、ということなのだろう。
 つまり、先程のように言語を使用した魔力発動は基本的に発動しないはず。
 頭の上にはてなを浮かべる彼女に、このことを説明するのに大分時間がかかってしまった。――彼女は確かに凄腕の魔法士なのだろうが、要領は良くないのかもしれない。
 だが僕の説明を聞いた上で、彼女は再びがっかりしたのだろう肩が数ミリ下がっている。

「そこから!?」

 そこまで驚かれたのには僕も驚いた。驚きが隠せなかった。

「悪いが、何も知らないと思ってもらったほうがいいぞ」
 僕は投げやりにそういう。
 彼女は僕の恥の暴露にも似た告白を聞いて、少しだけよろめいた。
「……まあ仕方ないか。ともかく、もう細かい話をしても仕方ないということはよくわかったわ」
「仕方なくはないだろう……」
「仕方ないわよ。あなたは座学に向いてないもの」
 そう言われてしまうと否定できないわけだが、それにしても言いようってものがあるだろう。僕にもプライドというものがあるわけで、少しだけ不満を感じたのは言うまでもない。
 そんなことをいくら僕が考えようとも、彼女と以心伝心しているわけでもなく、僕の本心が伝わるわけでもない。なんというか、憂鬱だ。

「そんな悲観することないわよ。座学が苦手な人間なんて掃いて捨てるほどいるし、それならそれでよかったといってもいい」
「何がよかったんだ?」
「真なる魔法は習うよりも慣れろよ」

 彼女は落ち込んだ僕を慰めるように、再び肩を二度たたいた。その動作にはきっと意味などないだろうが、彼女の癖みたいなものなのだろう。もうすでに何度かたたかれていることからもよくわかる。
 それにしてもおかしなものである。
「だったら、どうして魔法の説明に何の意味があったんだ?」
「意味のないことなんてしないわよ! 大体どのようなものかを知ってもらうことが重要なの」
 ニヒルもそんなことを言っていたような気もするけど、いや言ってたっけ?

「で、どうするんだ?」
 
 長々しくもわけのわからない話を聞かされた後に、実戦のほうが役に立つなんて言われてしまっては期待せざるを得ない。むしろ、期待するなという方が酷だろう。
 僕は口では冷静に尋ねながらも、内心はかなり期待していた。
 だからこそ、ムトが言葉を渋っているのがなぜなのか、気になって気になって仕方がない。彼女の実戦とはそれほどの地獄なのだろうか……ともかく、彼女の口だっていつまでも閉じているわけではない。だけど、彼女の口は思ったよりも早く開いた。
「なにを?」
 その言葉から察するに、彼女は言い辛いことを話せないのではなくて、何を尋ねられているのかが分かっていないということだ。
「いや、普通に『慣れろ』のことだけど」
「……はあ、あなたは本当にすごい才能の持ち主だな。そう易々と人に頼みごとができるとは……でも、修業とは劇とは違う。どんなにしょうもない日常だって飛ばすことはできないそれはわかるよね?」
 彼女のは何を言っているんだ? 日常? 何が言いたい?
「はあ……」
 僕が何も答えられずにいると、ムトは大きくため息をついた

「だからね……時間を考えろって言ってるの!」

 一瞬時が止まった。時間? まあ、彼女の言う時間といま止まった時はまるで別のものだということは僕でもわかる。まあ、時が止まるなんてことはありえないからな。
 つまり、彼女のいう時間というのは、そのまま一日における夜とか、朝とかそういったことを指しているのだろう。なるほど、もうあたりはわずかにだが暗くなっている。時間的に考えてもこれ以上ここにいるのはナンセンスだろう。
 誰だって死んでしまっては、それまでのことは無意味になるのだから。別に神がいないだとか言うつもりはないし、実際に自らを悪魔だという存在を知っている。なにより、僕は一度死んだ身であるから、死に意味を見出すことにおいては右に出る者も少ないだろう。
 でも、だからこそ、死に意味などないと感じてしまう。死とはすべてをリセットしてしまう出来事でしかないのだ。
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