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第四章 魔王様の料理番
ざまあの時間です 5
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「そういうわけで、これは人間が持つには危険な代物だ。返してもらうぞ」
魔王の言に反対の声は上がらない。
意見しようにもヒロインは言動を封じられ、王子は力なくうなだれている。
全員が沈黙する中国王だけがおろおろし、荒い息を吐いていた。
「さあ国王、必死で考えろ。お前は何をするべきだ?」
目を細めた魔王が、人の王に問う。
小心者の国王は、可哀想なほど真っ青だ。
「そ、そそ、それは……」
ブローチの影響かもしれないが、ピピは悪事を働いて、彼の息子はそんな彼女の言いなりだった。私の冤罪も、まだ晴れてはいない。
「愚かな王にヒントをあげよう。こういうことだ」
魔王は私の背後に立つと、後ろから突然抱きしめた。
「な、何!?」
焦って力いっぱいもがくけど、魔王は私を離さない。頭のてっぺんに乗っているのは、もしや彼の顎?
――これだとヒントと言われても、全くわからない。
ところが、国王はわかったらしく、のろのろ立ち上がる。
「そ、そうですね。謝罪がまだでした。魔界の王妃よ、心よりお詫び申し上げます」
「はいいぃぃ!?」
国王ったら、絶賛勘違い。
けれど魔王は顎を離し、笑みを含んだ声を出す。
「なるほど、それで?」
「お妃様の、こちらにいらした頃の名誉を回復いたしましょう。婚約破棄や追放などと申した愚息にも、責任を取らせます」
「ほう、どうすると言うのだ?」
「王位継承権を剥奪し、牢に収監いたします。その後、我が国から追放いたしましょう」
「父上、それはあんまりです!!」
「うるさいっ。お前は、それだけのことをしでかしたのだ。高貴なお方をこけにして、ただで済むとでも思うたのか。我が国を危機に晒す王子など要らん!」
「それは結果論でしょう? ヴィオネッタが魔界の王の寵愛を受けたからこそ、成り立つ話で……」
「愚か者め! 軽々しくその名を呼ぶなっ」
国王の一喝で、息子の王子は黙り込む。
「王妃様、大変申し訳ございません」
「いえ、それはいい……というか、違うんです」
ただ、今の言葉でよくわかった。
王子の謝罪は形だけ。彼は自分の行いを、それほど悪いとは思っていなかったようだ。
魔の森に追放された私は、一歩間違えれば死ぬところだった。その点は、十分反省してもらいたい。
だけど、それを言うなら国王も同罪だ。
愚息と言いつつ、自分だって息子を止めなかったでしょう?
「ふむ。我のものを愚弄しておきながら、その程度か?」
我のものって――。
魔王は周りを煽って、楽しんでいるみたい。妻というのもまだ、否定してないし。
だから国王も王子も、私に魔界の王妃とかお妃だとか寵愛なんて、変な言葉を使うんじゃないかな。
「魔界の王よ。私が王位を退けば、許していただけますか?」
「それで? この国を我に譲り渡すとでも言うのか?」
「まま、まさか! それだけはどうぞご勘弁を。王位は二番目の王子に譲り、森にも入らぬよう、よく言い聞かせますので」
「ふむ。して、その下女はどうする?」
「…………ぐ、…………っ」
血走った目のヒロインは、魔王の拘束を解こうと今まで頑張っていたらしい。
「忘れておったわ」
魔王が爪を弾いた途端、ピピは勢い余ってその場に崩れ落ちた。
「痛いじゃない。あんた、このあたしになんてことするのよっ!」
もはや礼儀をかなぐり捨てて、魔王に向かって吠え立てる。
『悪魔のブローチ』を所持してないにも拘らず、まるで悪魔のような形相だ。
「もちろん、直ちに牢へ入れます。その後、火刑か斬首刑に処すつもり……」
「はああ!? このジジイ、ヒロインのあたしに、なんてこと言うのよ!」
辺りは一瞬、水を打ったように静まりかえった。
次いで兵士が騒ぎ出す。
「陛下を、じじい呼ばわりだと?」
「ひろいんって、なんだ?」
「処刑の前に、不敬だろ」
ことなかれ主義の国王にしてはずいぶん重い刑だけど、ピピの言葉もあんまりだ。
悪魔のブローチのせいで、取り返しがつかないほど悪に侵されているの?
回された魔王の腕に手を添えて、私は彼に問いかける。
「魔王様。彼女の意思は、もう残っていないのでしょうか?」
「いや、緑の部分がある限り、わずかでも意識はある」
「では、いずれ元に戻ると?」
「さあな。邪悪な心を減らせば戻るやもしれぬが、それは本人の心がけ次第だ」
緑の部分は傷の場所。
ほんのわずかでも、希望はあるらしい。
それは王子の付けた傷。
王子と彼女には、最初から不思議な縁があったのかもしれない。
「魔王様、彼女と二人で話します。離してください」
「お願いの仕方なら、すでに教えたはずだが?」
振り向くと、金の瞳が楽しそうに揺らめいていた。
さっきのあれを気に入るなんて、魔王は結構変わり者。
でも、そんな彼とこの先も一緒にいたいと思う私も、相当変わっている。
「レオン、お・ね・が・い。じゃないと、もう甘いものを作ってあげないから」
「ふはっ。何を言うかと思えば、それか」
可愛いねだり方などわからない。
だけど、これが私だ。
ゲームの影に怯えるわけではなく、ヒロインから逃げ回るわけでもなく。本当は、自分らしく自由に過ごしたかった。
でも、魔界のみんなのおかげで、私の世界は変化した。充実した毎日と、楽しい仲間。
これからは死亡フラグなど気にせずに、堂々と生きていきたい。
「……わかった。存分に話すが良かろう」
腕を放した魔王が、私の背中を軽く押す。
私は一歩、また一歩とピピに近づく。
「何よ、なんであんたは無事なのよ! あたしだけがこんな目に遭うなんて、許せない。あたしはヒロインよ。この世界の主役なの!!」
「いいえ。仮にそうであったとしても、物語はとっくに終わっているわ。それに現実の世界には、主役なんていない。あなたもわかっているでしょう?」
「はああ? 何を偉そうに。悪役令嬢のくせに、よくも邪魔しないでくれたわね。顔を出さないあんたのせいで、あたしがどれだけ苦労したと思うのよ」
「それは、仕方がないでしょう? わたくしだって、命は大事だもの」
「醜い豚だったくせに、顔だって普通のくせに、何助かろうとしているのよ。可愛いあたしのために、雑魚が犠牲になるのは当然じゃない!!」
魔王の言に反対の声は上がらない。
意見しようにもヒロインは言動を封じられ、王子は力なくうなだれている。
全員が沈黙する中国王だけがおろおろし、荒い息を吐いていた。
「さあ国王、必死で考えろ。お前は何をするべきだ?」
目を細めた魔王が、人の王に問う。
小心者の国王は、可哀想なほど真っ青だ。
「そ、そそ、それは……」
ブローチの影響かもしれないが、ピピは悪事を働いて、彼の息子はそんな彼女の言いなりだった。私の冤罪も、まだ晴れてはいない。
「愚かな王にヒントをあげよう。こういうことだ」
魔王は私の背後に立つと、後ろから突然抱きしめた。
「な、何!?」
焦って力いっぱいもがくけど、魔王は私を離さない。頭のてっぺんに乗っているのは、もしや彼の顎?
――これだとヒントと言われても、全くわからない。
ところが、国王はわかったらしく、のろのろ立ち上がる。
「そ、そうですね。謝罪がまだでした。魔界の王妃よ、心よりお詫び申し上げます」
「はいいぃぃ!?」
国王ったら、絶賛勘違い。
けれど魔王は顎を離し、笑みを含んだ声を出す。
「なるほど、それで?」
「お妃様の、こちらにいらした頃の名誉を回復いたしましょう。婚約破棄や追放などと申した愚息にも、責任を取らせます」
「ほう、どうすると言うのだ?」
「王位継承権を剥奪し、牢に収監いたします。その後、我が国から追放いたしましょう」
「父上、それはあんまりです!!」
「うるさいっ。お前は、それだけのことをしでかしたのだ。高貴なお方をこけにして、ただで済むとでも思うたのか。我が国を危機に晒す王子など要らん!」
「それは結果論でしょう? ヴィオネッタが魔界の王の寵愛を受けたからこそ、成り立つ話で……」
「愚か者め! 軽々しくその名を呼ぶなっ」
国王の一喝で、息子の王子は黙り込む。
「王妃様、大変申し訳ございません」
「いえ、それはいい……というか、違うんです」
ただ、今の言葉でよくわかった。
王子の謝罪は形だけ。彼は自分の行いを、それほど悪いとは思っていなかったようだ。
魔の森に追放された私は、一歩間違えれば死ぬところだった。その点は、十分反省してもらいたい。
だけど、それを言うなら国王も同罪だ。
愚息と言いつつ、自分だって息子を止めなかったでしょう?
「ふむ。我のものを愚弄しておきながら、その程度か?」
我のものって――。
魔王は周りを煽って、楽しんでいるみたい。妻というのもまだ、否定してないし。
だから国王も王子も、私に魔界の王妃とかお妃だとか寵愛なんて、変な言葉を使うんじゃないかな。
「魔界の王よ。私が王位を退けば、許していただけますか?」
「それで? この国を我に譲り渡すとでも言うのか?」
「まま、まさか! それだけはどうぞご勘弁を。王位は二番目の王子に譲り、森にも入らぬよう、よく言い聞かせますので」
「ふむ。して、その下女はどうする?」
「…………ぐ、…………っ」
血走った目のヒロインは、魔王の拘束を解こうと今まで頑張っていたらしい。
「忘れておったわ」
魔王が爪を弾いた途端、ピピは勢い余ってその場に崩れ落ちた。
「痛いじゃない。あんた、このあたしになんてことするのよっ!」
もはや礼儀をかなぐり捨てて、魔王に向かって吠え立てる。
『悪魔のブローチ』を所持してないにも拘らず、まるで悪魔のような形相だ。
「もちろん、直ちに牢へ入れます。その後、火刑か斬首刑に処すつもり……」
「はああ!? このジジイ、ヒロインのあたしに、なんてこと言うのよ!」
辺りは一瞬、水を打ったように静まりかえった。
次いで兵士が騒ぎ出す。
「陛下を、じじい呼ばわりだと?」
「ひろいんって、なんだ?」
「処刑の前に、不敬だろ」
ことなかれ主義の国王にしてはずいぶん重い刑だけど、ピピの言葉もあんまりだ。
悪魔のブローチのせいで、取り返しがつかないほど悪に侵されているの?
回された魔王の腕に手を添えて、私は彼に問いかける。
「魔王様。彼女の意思は、もう残っていないのでしょうか?」
「いや、緑の部分がある限り、わずかでも意識はある」
「では、いずれ元に戻ると?」
「さあな。邪悪な心を減らせば戻るやもしれぬが、それは本人の心がけ次第だ」
緑の部分は傷の場所。
ほんのわずかでも、希望はあるらしい。
それは王子の付けた傷。
王子と彼女には、最初から不思議な縁があったのかもしれない。
「魔王様、彼女と二人で話します。離してください」
「お願いの仕方なら、すでに教えたはずだが?」
振り向くと、金の瞳が楽しそうに揺らめいていた。
さっきのあれを気に入るなんて、魔王は結構変わり者。
でも、そんな彼とこの先も一緒にいたいと思う私も、相当変わっている。
「レオン、お・ね・が・い。じゃないと、もう甘いものを作ってあげないから」
「ふはっ。何を言うかと思えば、それか」
可愛いねだり方などわからない。
だけど、これが私だ。
ゲームの影に怯えるわけではなく、ヒロインから逃げ回るわけでもなく。本当は、自分らしく自由に過ごしたかった。
でも、魔界のみんなのおかげで、私の世界は変化した。充実した毎日と、楽しい仲間。
これからは死亡フラグなど気にせずに、堂々と生きていきたい。
「……わかった。存分に話すが良かろう」
腕を放した魔王が、私の背中を軽く押す。
私は一歩、また一歩とピピに近づく。
「何よ、なんであんたは無事なのよ! あたしだけがこんな目に遭うなんて、許せない。あたしはヒロインよ。この世界の主役なの!!」
「いいえ。仮にそうであったとしても、物語はとっくに終わっているわ。それに現実の世界には、主役なんていない。あなたもわかっているでしょう?」
「はああ? 何を偉そうに。悪役令嬢のくせに、よくも邪魔しないでくれたわね。顔を出さないあんたのせいで、あたしがどれだけ苦労したと思うのよ」
「それは、仕方がないでしょう? わたくしだって、命は大事だもの」
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