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第二章 魔界の料理は命懸け!?

太陽が消えた日

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 タピオカをドリンクに入れると、手軽に摂取できる。カロリーがあるから、魔力の回復も早くなるだろう。
 何よりあの黒芋を、美味しく食べられる!

 残念ながらストローがないので、タピオカドリンクはお預けだ。

「早速、魔王様にも報告しないとな」

「ええ」

 料理長の言葉に首肯しゅこうする。

 前世では、タピオカ粉に米粉を混ぜれば、小麦粉の代わりにもなった。

 パスタや食パン、パンケーキにカステラ、クレープ、シュークリームなどいろんな料理に応用できる。

 それならこれも、美味しくなるかな?
 
 ――待って。米粉が足りないわ!

 慌てて調理場のみんなに告げると、お祭り騒ぎはまたたく間にしずまった。

「じゃあ、黒芋だけじゃなく『こめこ』というものがないと無理なんだな」

「はい。お米を粉にしたものですが、それがないと粘り気がすごくて……」

「おこめ? あの、一生懸命栽培していたやつか?」

「ええ。たるで育てていた稲から採れたものが、お米です」
 
 そんなわけで、魔王への報告はいったん中止。私はさらに研究を重ねることにした。

 米粉を入れるともちもちしていたタピオカが、米粉なしだとただのゴム。黒麦の粉だとなんか違う。
 黒芋のねばつきは最強で、粉にしてもあまり衰えない。

「やっぱり、米粉を混ぜないと美味しくないのね」

 収穫後の種籾は、水に浸けてある。繰り返し作れば、お米はまた確保できるはず。

 ただそれだと、たくさん採れる黒芋に対して、米粉の量が圧倒的に足りない。しかもお米は、魔王の浮かべる光の球が届く範囲でないと、育たない。

「うまくいくと思ったのに、ダメかぁ」

 後日、肩を落とした私を料理長がなぐさめてくれた。

「ま、一度だけでも美味しく味わえたから、礼を言わなきゃな。そのうち良い方法が見つかるさ」

 ルーは相変わらずお肉にしか興味がなく、もふ魔達はお気に入りのすり鉢が使えなくてがっかりしている。

 それでもまだ、終わりにしたくない。
 少しずつでも収穫できればいいと、私はせっせとお米作りに励む。



 そんなある日。
 稲の苗に水をあげていたところ、見知らぬ魔族に絡まれた。

「んあ? 人間臭いぞ」

「本当だ。美味そうな匂いだな」

 トカゲのような頭とひょうの頭の魔族が、こっちを見てニヤニヤしていた。
 嫌な予感に襲われて、私はじりじり後ずさる。

「その格好かっこうは下女か?」

「非常食だろ。なら、味見くらいはいいよな」

 今日に限ってもふ魔はそばにいないし、ここは巡回の兵士も来ない死角だ。
 
「おい、お前。返事は?」

「わ、わたくしは魔王様から言いつかった大事な役目の途中です」

「ハッ、つくならもっとマシな嘘をつけ」

「そうだぞ。人間ごときが魔王様の名を語るな!」

 嘘じゃないのに、全然わかってもらえない。食事のための殺戮さつりくは禁止だと聞いているのに、この二匹は無視するつもりなの!?

 気がつけば、前後を挟まれ逃げられない!

「戻ります。通してください」

「いやだね。だが、腕の一本でもくれれば、考えてやらないこともない」

 理不尽な要求に、はい、そうですかと言うとでも?

 私はくるりと背中を向けて、そのまま走る。

「あっ」

「待て、人間!」

 危険が迫っているのに、待てと言われて待つバカはいない。

 全速力で調理場をめざすが、あっと言う間に豹の頭の魔族に追いつかれてしまう。

「もう逃げられないぞ。おとなしく、腕をかじらせ……うわあーっ」

 肩を掴まれそうになった瞬間、豹頭がはるか後方に吹っ飛んだ。遅れてきたトカゲ頭は、驚いて目を見開いている。

「今、何が起きた?」

 すると、バタバタと走る音と城の兵士らしき声がする。

「こっちで何か聞こえた。なんだ?」

 トカゲと豹がうろたえているそのすきに、私は急いで調理場に駆け込んだ。

「た、助けて、ください。知らない、方々、が……」

 上がった息で説明すると、サイクロプスの料理長が、木の麵棒めんぼうを手にした。

「ああ? ヴィーをいじめるとは、けしからん!」

 料理長を連れて戻ると、二頭の姿は消えていた。ホッとする間もなく、衝撃を受ける。
 
「そんな! 苗がめちゃくちゃだわ!!」

 私に逃げられて腹が立ったのか、それとも逃げ惑ったからなのか。さっきいた場所が、手当たり次第に踏み荒らされていた。

 苗の入った樽はひっくり返り、近くの畑にも侵入した跡がある。
 周りもいつもより薄暗い。

「何かが足りないわ」

 違和感の正体に気づいた途端、青くなる。

「光の球が消えている!」

 なんと、太陽代わりの光の球が、影も形もなくなっていた。

 怪しい彼らは、苗を樽ごと蹴飛ばして、その拍子に真上にあった光の球まで消してしまったのだろうか?

 私は半べそをかきながら、苗を樽に戻していく。手は泥だらけで爪に泥が入るけど、そんなの気にしていられない。
 
 お願い、元通りに復活して!

 料理長が兵士に事情を話してくれたようで、後からスクレットがやってきた。

「おや、まあ。なぜこんなことに?」

「わたくしにも、わからない。見知らぬ魔族に襲われ逃げたので。戻った時にはこの状態よ」

 ショックと怒りで震えが走る。

「ご無事で良かった」

 同情された気もするが、スクレットはガイコツなので、表情が読めない。

「ありがとう。でも、稲が……」

「見つけ次第、そいつらには罰を与えましょう。どうせ遠方から来た下級魔族が、魔王様の不在を知って、腹いせに暴れたのでしょうが」

「え、魔王様はいらっしゃらないの? お戻りはいつ?」

 彼がいないと光の球が作れない。
 日照不足では、苗が枯れてしまう!

「さあ? 今日でないことは確かですね。詳しくは、クリストラン様がご存じです」

「あの、嫌みな吸血鬼……」

 私は顔をしかめた。人間嫌いの吸血鬼に尋ねるなんて嫌だけど、背に腹は代えられない。

 仕方なく会いに行くと、吸血鬼のクリストランも嫌そうな顔をする。
 
「なんですか? 仕事の邪魔をしないでください」

「魔王様の、お戻りの日を教えてください」

「なぜ私が、人間なんかに教えないといけないんですか?」

「苗が枯れてしまうので、大至急連絡を取りたいんです」

「苗? ……ああ、あなたの勝手なお遊びのことですね」

「遊びではありません。真剣に栽培しています!」

「それが、お遊びだと言うんです。これ以上余計なことをして、魔王様のお手をわずらわせないでください」

「余計なことではありません。光を作っていただければ、食糧事情が解決できるんです! でも、もしなければ……」

「それはそれは、いい気味ですね」

 ダメだ。話が通じない。
 それならルーにお願いしよう。

「ああ、それから。あなたのペットに成り下がったフェンリルも、魔王様と一緒に遠征中ですよ。味方がいなくて残念ですね」

 吸血鬼は嫌みったらしくそう言うと、それはそれは綺麗な笑みを浮かべた。
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