19 / 57
第二章 魔界の料理は命懸け!?
栽培してみましょう
しおりを挟む処刑はまたもや延期だった。
いつになったら、撤回されるのだろう?
確かに今解放されても、私には行き場がない。
城の外に出れば、きっと魔族の餌食。人間界に戻ったとしても、追放された身で行くあてはない。
「だからって、ずっとこの状態というのもねえ」
胸元の魔法陣が、悪趣味なタトゥーのようにも思えて嫌になる。
罪人ではなく、仲間として認められたいと望むのは、図々しいだろうか?
「もしかして、魔王は私にタダ働きさせたいだけなんじゃあ……」
「きゅい? ぎゅいー」
「ぎゅいー、ぎゅいー」
もふ魔達は魔王が好きだけど、それは彼らが同じ魔族だから。人間の私と魔王とでは、分かり合えないのかもしれない。
「落ち込んでいる場合じゃないか。今後の対策を練らなくちゃ」
私は魔王の言葉を思い出す。
料理については「悪くない」。
だけど引っかかったのは、次のセリフだ。
『食糧事情の改善、というほどではないな。大きく出たが、果たされてはいないようだ』
裏を返せばそれは、私に果たしてほしかったってこと?
もしそうだとしたら、魔王は食糧事情の改善を切に望んでいるのだろう。
「城の中しか考えていなかったから、ダメだったんだ。魔界に大きく貢献できれば、処刑は撤回されるよね」
「ぎー」
「ぎぃー?」
「不機嫌になってごめんね。ほら、おいで」
「きゅいー」
「きゅーい♪」
可愛いもふ魔達に、心が癒やされる。
彼らと心置きなく過ごせる日が来るように、今日も頑張ろう。
あの運命の日以来、掃除が免除された私は、料理に専念している。だからさっきの考えも、的外れではないと思う。
「食糧事情の改善、か。まずは食材の確保ね」
真剣に頭を捻る。
「わかったわ! 人間界の作物を、ここで育てましょう」
そして魔界に広めたら、美味しいものが食べられる。
早速、料理長に相談してみよう。
調理場を訪れた私は、サイクロプスという種族の料理長に話を持ちかけた。
「はあ? 人間界の作物をここで育てたい、だと?」
「ええ。植物だったら種を蒔いて水をあげれば、育つので。手に入れる方法を教えてほしくて」
「なあんだ、そんなことか。出入りの行商人に頼めばいい」
「え? 行商の方って、人間界とも交流があるのですか?」
「もちろんだ。人間が、質のいい水晶や羽根飾りや魔具などを、どうやって手に入れていると思う?」
それは初耳だった。
でも、カラスにしては大きな羽や、見たこともない色の羽根飾りや扇などが、王都には溢れている。水晶や出所不明の不思議な品は、魔界から運ばれているみたい。
「魔界でも、客人の好みによって人間界の食品を取り寄せることがある。まあ、俺達の口にはめったに入らんが……」
まさかの裏事情。
魔界と人間界とは、交流があるらしい。
「行商に言っておくから、必要なものを書き出しといてくれ」
「ありがとうございます」
とりあえず、ジャガイモやナスの苗、リンゴの木や麦の種といったものを紙に記しておく。
うまくいけば、魔界の食糧事情を早々に解決できるかもしれない。
五日ほど経って届いたものを、城の空き地に植えていく。
リンゴの木は、調理場近くに。
ジャガイモやナスの苗や麦の種は、耕していたそれぞれの畑に。
もふ魔達もドロドロになって手伝ってくれる。
「ぎー、きゅき?」
「ぎぃー、きゅっき?」
「ええ、そっちにお願いね」
もふ魔達は、途中で虫を発見すると、そちらに気を取られてしまう。
飛び跳ねて苗を倒したり、せっかく蒔いた種をほじくり返してしまったり。
可愛いので、もちろん許せる。
そんなこんなで十日も過ぎると、麦の畑から小さな芽が顔を出した……が、元気がない。苗も順調かと思いきや、ひょろひょろしている。
このままだと、実が成る前に枯れそうだ。
「しまった。日照不足だわ!」
大事なことを忘れていたが、魔界に太陽はない。
赤い月が二つもあるが、常に薄暗いのだ。
「今まで人間界の作物を、育てなかったんじゃない。ここでは育たなかったのね!」
描いていた夢の食生活が、音を立てて崩れていく。
ライ麦に似た黒麦もそれなりに美味しいけれど、いつもそれでは飽きてしまう。
硬くて噛むほどにねばつく黒芋は、最適な調理法がいまだにわからない。だからジャガイモを栽培して、代わりにしようと思ったのに。
木をそのまま植えたため、リンゴはかろうじて実ったみたい。残念ながら太陽の光を浴びないせいで、すでに傷んでいる。小さなリンゴは、このままでは食べられそうにない。
「これは……無理ね」
「きゅー」
「きゅーー」
私の気持ちがわかったのか、もふ魔も沈んだ声を出す。
フェンリルのルーは植物に興味がないせいか、近頃めったに会えなかった。会えたとしても狼の姿で、調理場にしか出没しない。
「でも、大丈夫よ。発酵させればなんとかなるから」
「きゅ?」
「きゅっきゅー?」
「そう。天然酵母と言って、リンゴの酵母でパンを焼くの。甘くて美味しくなるはずよ」
栽培には失敗したけど、食材は極力無駄にしたくない。
苗や芽は土に還して肥料に、リンゴは室内で発酵させてパンを焼こう。
今さら悔やんでも仕方がない。
失敗から学ぶこともあると、私は知っている。
「次は何に挑戦しようかしら?」
わざと明るく口に出す。
心が折れたら、負けだ。
翌日。
魔王の私室に呼び出された私は、強張った顔で入室する。
「失礼いたします。お呼びだと伺いましたので」
「よく来たな。そなたに話がある」
魔王、レオンザーグは金糸の入った黒のマントに赤と黒の豪華な衣装で本日も麗しい。
彼の傍らにはきっちりした姿の吸血鬼がいるが、その顔は引きつっている。反対側の床には、巨大な銀色狼のルーが寝そべっていた。
この部屋には今、魔界でも力のある三名が揃っている。
私は気を引き締めて、魔王の言葉を待った。
11
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者
きゃる
恋愛
私は今日、暗殺される――。
攻略が難しく肝心なところでセーブのできない乙女ゲーム『散りゆく薔薇と君の未来』、通称『バラミラ』。ヒロインの王女カトリーナに転生しちゃった加藤莉奈(かとうりな)は、メインキャラの攻略対象よりもサブキャラ(脇役)の暗殺者が大好きなオタクだった。
「クロムしゃまあああ、しゅきいいいい♡」
命を狙われているものの、回避の方法を知っているから大丈夫。それより推しを笑顔にしたい!
そして運命の夜、推しがナイフをもって現れた。
「かま~~~ん♡」
「…………は?」
推しが好きすぎる王女の、猪突猛進ラブコメディ☆
※『私の推しは暗殺者。』を、読みやすく書き直しました。
断罪された商才令嬢は隣国を満喫中
水空 葵
ファンタジー
伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。
そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。
けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。
「国外追放になって悔しいか?」
「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」
悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。
その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。
断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。
※他サイトでも連載中です。
毎日18時頃の更新を予定しています。
【完結】極妻の悪役令嬢転生~あんたに払う安い命はひとつもないよ~
荷居人(にいと)
恋愛
「へぇ、それで悪役令嬢ってなんだい?」
「もうお母さん!話がさっきからループしてるんだけど!?」
「仕方ないだろう。げーむ?とやらがよくわからないんだから」
組同士の抗争に巻き込まれ、娘ともども亡くなったかと思えば違う人物として生まれ変わった私。しかも前世の娘が私の母になるんだから世の中何があるかわからないってもんだ。
娘が……ああ、今は母なわけだが、ここはおとめげぇむ?の世界で私は悪いやつらしい。ストーリー通り進めば処刑ということだけは理解したけど、私は私の道を進むだけさ。
けど、最高の夫がいた私に、この世界の婚約者はあまりにも気が合わないようだ。
「貴様とは婚約破棄だ!」
とはいえ娘の言う通り、本当に破棄されちまうとは。死ぬ覚悟はいつだってできているけど、こんな若造のために死ぬ安い命ではないよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる