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第四章 残酷な組織のテーゼ

眩しすぎたから

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「そうとも知らずに私は……。カトリーナ、お前は知っていたのか?」

 兄の必死な眼差まなざしを受け、ごまかすべきではないとさとった私。
 無言で静かにうなずいた。

「……そうか。おろかな兄は暗殺者を招き入れて、妹を危険な目にわせていたんだね」
「違います! それは、ぜ……全部、私のためを思ってでしょう?」

 危ない、危ない。
「前世で遊んだゲームのせい」と言いそうになってしまった。私に前世の記憶があることは、クラリス以外、内緒にしている。

「それに私が知ったのは、クロム様ご自身が語ってくれたからです」

 ひとまず、そういうことにしておこう。
 私と彼との出会いは運命だ。
 だから兄にも、反省なんてしてほしくない。

「お兄様、私の方こそ報告しなくてごめんなさい。だけどクロム様は、組織を脱退したそうです。殺しもしないと誓ってくれました」

 するとハーヴィーは、私とクロム様を探るように見た。

「暗殺者の口約束は信用できない……と言いたいところだが、現にお前は生きている。クロム、カトリーナを殺さなかったのはなぜだ?」
「殺さなかったのではなく、殺せなかったのです」
「殺せなかった?」

 兄はチラリとこちらを見るが、理由は私にもわからない。

「……はい。闇の世界しか知らない俺に、明るい王女はまぶしすぎた。民を思う心や人をいたわる優しさ、屈託くったくのない笑顔に、どれだけやされたことか。カトリーナの命を奪うくらいなら、組織から足を洗う方が簡単です。あとは遠くから見守るため、俺が姿を消せばいい。それなのに……」
「カトリーナが追いかけた、ってわけか」

 兄の相槌あいづちはどうでもいい。
 クロム様の想いに感動した私は、脳内で反芻はんすうする。

 ――眩しすぎた、眩しすぎた、眩しすぎた、眩しすぎた…………。

 どうしてこの世界には、録音機能の付いたスマホがないのだろう?

「――なるほど。セイボリー王国にも支部があるのか。それなら、ルシウス殿下も呼ぼう」

 彼の到着を待つ間、私はクロム様の整った顔に視線をそそぐぐ。

 相変わらずの無表情。
 それが彼だし全部しゅき♪
 命が助かって、本当に良かった。

 やってきたルシウスは、用意された椅子に座るなり口を開く。

「暗躍する組織があるとは、薄々気づいていた。でも、我が国にも支部があるとは、知らなかったよ」
「知らなくて当然です。普段は酒場や、輸送用の馬車を扱う店として活動していますから。組織の本体と暗殺者の養成所は、オレガノ帝国内に。支部は大陸各地にあります」
「尻尾を掴ませないと思ったら、これほどまでとはね」
「ああ。大陸中に存在するなら、なおさら危険だ。即刻調査させよう」

 クロム様の証言を得て、ルシウスとハーヴィーが感想を漏らす。

 ――変ね。ゲームではそこまで大きくなかったはずなのに。暗殺組織が幅を利かせるようになったのって、ヒロインの私がストーリーを外れたせい? 

 中でも、アルバーノの変わりようはすさまじい。
『バラミラ』では穏やかで、誰にでも平等に接するヘルプ係。しかし現実では、クロム様と同じ組織に所属して、裏で人をあやめていた。

「それはそうと、アルバーノという男の行方は判明しましたか?」
「いや、まだだ。関係各所を当たっているが、見つからない。研究室にもりきりの彼に、協力者がいるとは思えないが……」

 ルシウスに問われた兄が、困った顔をする。

「モブに近いアルバーノが、組織の連絡役で失踪事件の元凶。そんな彼に、協力する人なんている?」
「カトリーナ、聞こえない。発言があるならどうぞ」
「……え? ええっと、忘れちゃったわ」
 
 違和感はあるのに言葉にできず、笑ってごまかした。

 ルシウスの青い瞳が私に注がれる。
 ルシウスといえば、クラリスだ。
 彼女と最後に会ったのは――。

「そうか!」

 気づいた途端、立ち上がる。

「お兄様、ルシウス様、クロム様。私、急用を思い出しましたの。ごめんあそばせ」

 そのまま素早くひざを折り、慌てて部屋を出た。



 ――違和感の正体は、クラリスだ!

 帰国して間もないアルバーノ。
 そんな彼の友人は、兄のハーヴィーだけのはず。
 だけどクラリスは、彼と親しいようだった。

 私がアルバーノの研究室で危ない目にったのは、彼女が原因だ。
 
 ――まさか、本物の悪役令嬢なの!?

『クラリス嬢はあなたがルシウス殿下を選ぶよう、この私に説得してほしいそうですよ。健気けなげですね』

 それはあくまで、アルバーノの主張だ。
 私はまだ、彼女の話を聞いていない!

 クラリスが、自分の推しを私に勧める意図は?
 もしかして、彼女がアルバーノをかくまっているのでは?

 クラリスを探して問いただそう!
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