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第三章 愛・おぼえていますが
不吉な予言
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「母が亡くなる前、僕は未来を垣間見た。『悪魔が空を引っ掻いて、大量の星がものすごい速さで地に落ちる。黒い霧が発生し、街には誰もいなくなった』」
ルシウスは言葉を切って、悲しそうな顔をする。
「今思えばあれは、流行病を暗示していた。僕がもっと早く気づいていれば、母も民も命を落とすことはなかったのに」
「それは違うわ!」
【星の瞳】が見せる映像はあまりに抽象的で、『バラミラ』ファンの間でも「なんのこっちゃ」と物議を醸していた。
ルシウスファンの多くが、「最も使えない能力」だとSNS上で怒っていたのは、有名な話だ。
「違う? だが、多くの人を救える力がありながら、僕は使いこなせない。なぜこんな自分に能力があるんだろう? 瞳など要らない、潰してしまった方がマシだと思い詰めたこともある」
「ダメよ! だってあなたの瞳は、とても綺麗だもの。それに抽象的なら読み違えてもおかしくないわ。人は本来、未来を視られない。わかりづらくとも、それはあなただけのもの。いわば、神様からの贈りものなのよ」
「贈りもの? カトリーナは、僕の話を信じてくれるんだね?」
「当たり前でしょ! ……ってあれ? ええっと……」
いけない! ルシウスのプロフィールを知っているため、納得するのが早すぎた。ゲームの中のカトリーナでさえ、受け入れるまでもっと時間をかけていたような。
でもこれ、確実にルシウスのイベントに突入しているよね?
中断するには、話をぶった切るしかない!
「そんな君だからこそ、伝えておきたいことがあ……」
「待って! 大事な話を、ここでするのはおかしいわ」
「ここで語らず、いつ語れと? 今朝方、またもや未来を視た。残念ながら、今の僕にはわからない。でもきっと、君に拘わることなんだ!」
――ヒロインなので拘わりがあるっちゃある。でもそれは、当分後の話。ルシウスとの距離が縮まる方が、私にとっては大問題!
「じゃあ、兄に相談してみてはいかが? ハーヴィーも能力者で博識だもの。私よりいい答えを導き出せるはずよ」
「カトリーナッ」
突然、甲高い声が響く。
「クラリス、来ていたのね」
振り向けば、親友のクラリスが手を腰に当て、ぷりぷり怒っていた。
「カトリーナ、いい加減にして!」
「え? クラリスごめん、突然何?」
「だから、どうしてあなたはルシウス様のお気持ちを考えないの? 話をきちんと聞きなさい!」
だけど、今はルシウスのイベントなので、カトリーナが彼の未来視を聞くと、好感度が一気に上がってしまう。
そうなれば引き返せなくなるってこと、あなたの方がよく知っているよね?
「ええっと……」
言葉に迷っていると、クラリスの目が怒りに燃えた。
「カトリーナッ」
「やめるんだ!」
私に伸ばされたクラリスの手を、ルシウスが払う。
彼は私を背に庇い、クラリスと対峙した。
「そんな、ルシウス様! あの、私は別に…………くっ」
彼女はくるりと向きを変え、パタパタ走り去る。
「クラリス、待って!」
その目に光るものが見えた気がして、私は足を踏み出した。
ところが急に、手首をルシウスに掴まれてしまう。
「カトリーナ、行かないで。このまま話を聞いてくれ」
「いいえ、後にしてください。今はクラリスが………」
けれどルシウスが、勝手に話し始めた。
驚くべきは、その内容だ。
「『本を抱えた闇が、光の間で紫の薔薇を傷つける。そして、最後の薔薇が散りゆく』。この未来視を、君はどう思う?」
――こんな未来視は、知らない!!
ゲームに出てきたのは、『光り輝く剣が、紫の薔薇の隣で闇を払う』だった。剣は攻略対象の誰かを意味し、紫の薔薇とは私を示す。
本を抱えた闇ってことは、元教師で黒い衣装のクロム様?
彼が私を傷つけて、最後に残った命を奪う?
「カトリーナ、怖がらせてごめん。だけど、嘘はついていない。僕に君を護らせてくれ」
ルシウスの声音は、これ以上ないほど真剣だった。
彼の未来視が正確だと知っている私は、返事をするどころではない。
クロム様は、心優しくも暗殺者。
その彼が、私を置いて城を出た。
――彼が消えたのは、私のせい? 側にいたら暗殺しそうになるからと、自ら離れたの?
ルシウスは言葉を切って、悲しそうな顔をする。
「今思えばあれは、流行病を暗示していた。僕がもっと早く気づいていれば、母も民も命を落とすことはなかったのに」
「それは違うわ!」
【星の瞳】が見せる映像はあまりに抽象的で、『バラミラ』ファンの間でも「なんのこっちゃ」と物議を醸していた。
ルシウスファンの多くが、「最も使えない能力」だとSNS上で怒っていたのは、有名な話だ。
「違う? だが、多くの人を救える力がありながら、僕は使いこなせない。なぜこんな自分に能力があるんだろう? 瞳など要らない、潰してしまった方がマシだと思い詰めたこともある」
「ダメよ! だってあなたの瞳は、とても綺麗だもの。それに抽象的なら読み違えてもおかしくないわ。人は本来、未来を視られない。わかりづらくとも、それはあなただけのもの。いわば、神様からの贈りものなのよ」
「贈りもの? カトリーナは、僕の話を信じてくれるんだね?」
「当たり前でしょ! ……ってあれ? ええっと……」
いけない! ルシウスのプロフィールを知っているため、納得するのが早すぎた。ゲームの中のカトリーナでさえ、受け入れるまでもっと時間をかけていたような。
でもこれ、確実にルシウスのイベントに突入しているよね?
中断するには、話をぶった切るしかない!
「そんな君だからこそ、伝えておきたいことがあ……」
「待って! 大事な話を、ここでするのはおかしいわ」
「ここで語らず、いつ語れと? 今朝方、またもや未来を視た。残念ながら、今の僕にはわからない。でもきっと、君に拘わることなんだ!」
――ヒロインなので拘わりがあるっちゃある。でもそれは、当分後の話。ルシウスとの距離が縮まる方が、私にとっては大問題!
「じゃあ、兄に相談してみてはいかが? ハーヴィーも能力者で博識だもの。私よりいい答えを導き出せるはずよ」
「カトリーナッ」
突然、甲高い声が響く。
「クラリス、来ていたのね」
振り向けば、親友のクラリスが手を腰に当て、ぷりぷり怒っていた。
「カトリーナ、いい加減にして!」
「え? クラリスごめん、突然何?」
「だから、どうしてあなたはルシウス様のお気持ちを考えないの? 話をきちんと聞きなさい!」
だけど、今はルシウスのイベントなので、カトリーナが彼の未来視を聞くと、好感度が一気に上がってしまう。
そうなれば引き返せなくなるってこと、あなたの方がよく知っているよね?
「ええっと……」
言葉に迷っていると、クラリスの目が怒りに燃えた。
「カトリーナッ」
「やめるんだ!」
私に伸ばされたクラリスの手を、ルシウスが払う。
彼は私を背に庇い、クラリスと対峙した。
「そんな、ルシウス様! あの、私は別に…………くっ」
彼女はくるりと向きを変え、パタパタ走り去る。
「クラリス、待って!」
その目に光るものが見えた気がして、私は足を踏み出した。
ところが急に、手首をルシウスに掴まれてしまう。
「カトリーナ、行かないで。このまま話を聞いてくれ」
「いいえ、後にしてください。今はクラリスが………」
けれどルシウスが、勝手に話し始めた。
驚くべきは、その内容だ。
「『本を抱えた闇が、光の間で紫の薔薇を傷つける。そして、最後の薔薇が散りゆく』。この未来視を、君はどう思う?」
――こんな未来視は、知らない!!
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彼の未来視が正確だと知っている私は、返事をするどころではない。
クロム様は、心優しくも暗殺者。
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