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第三章 愛人にはなりません
微かな変化 1
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いえ、どうもしませんが……
けれど、ロディは妙なスイッチが入ってしまったらしく、なんとも言えない表情で目を細めた。彼は私の顎に手をかけると、整った顔を寄せてくる。鼻と鼻がぶつかった瞬間、私の顔から血の気が引く。
――なな、何? まさかロディ、ラノベ化したんじゃ……
私は弾かれたように席を立ち、部屋を転がり出た。ドレスのスカートを摘まみ、一目散に逃げ帰る。
自分の部屋に戻った私は、後ろ手にドアを閉めて呟く。
「何が起こったの? 誘惑なんてしてないのに、ロディはどうして……」
「……ロディ?」
しまったあぁぁ!
ここにはカリーナがいたんだ。
両手を腰に当て、首を傾げる彼女と目が合う。ローランド王子好きの彼女を、これ以上刺激してはいけない。
「いえ、あの……」
「もう、シルヴィエラったら。今さらごまかすのはやめて。ローランド様と貴女は、昔からの知り合いなのよね?」
「……え? ええ。でも、どこでそれを……」
私は目を丸くする。コネ採用と思われるのが嫌で、私は彼と幼なじみだということを誰にも語っていないのだ。
カリーナは茶色い髪を片手で払うと、フンと鼻を鳴らした。淑女らしからぬ行動だけど、女官部屋での彼女はいつもこんな感じだ。
「私の情報網を舐めてもらっちゃ困るわね。だって、貴女をここに連れて来たのってローランド様でしょう?」
「ええ、まあ」
カリーナに嘘はつきたくないから、正直に答えよう。
ただし、話せる範囲で。
「王城に女官見習いなんて職務はないから、びっくりしたのよね。シルヴィエラはよく働くのにどうして女官じゃないのかって、みんなも疑問に思っていたし」
女官じゃなくて見習いだから、逆に目立ったってこと?
「ローランド様もひどいわ。内部調査のためかもしれないけれど、自分の恋人を女官見習いとして潜り込ませるなんてね」
「……はい? いえ、それは違うわ」
「あら、調査じゃないの?」
「いいえ」
「でも、二人は付き合っているんでしょう?」
「や……あの、それはちょっと……微妙?」
恋人のフリに付き合ってはいるが、本物ではない。そのことを、ロディの許可なくカリーナに話していいのかどうか。
結局私は、ロディと幼なじみであることと、頼み込んで女官見習いにしてもらったことを彼女に明かした。婚約の予定については、言葉を濁す。
「それならそうと、最初から話してくれれば良かったのに」
「ごめんなさい。幼なじみで特別扱いだなんて、言い出しにくくって」
「特別扱い? そうかしら。むしろ他人よりよく働いていたわよね。私がローランド様に憧れているから、言えなかったのではなくて?」
「う……。まあ、それもあるわ」
「だからよ。貴女、私が怒っていた理由がまだわからないの?」
「え? ローランド殿下と私が、親しくしていたからでしょう?」
「違うわ。ショックだったけど、そんなことでは怒らない。あなた達、誰がどう見ても美男美女でお似合いですもの」
「……は?」
私はポカンと口を開けた。
それならどうして、カリーナはずっと不機嫌だったの?
カリーナは私を見て呆れたように肩を竦めると、大きなため息をついた。
「まったくもう、シルヴィエラったら。鈍いにもほどがあるわ」
「ご、ごめ……」
「謝ってほしいわけじゃないわ。あのね、私は貴女の口から本当のことを教えてもらいたかったの。隠すなんて水くさい。だって、私と貴女は親友でしょう?」
「……親友?」
「あらやだ。そう思っていたのは私だけ? 年下は嫌い?」
「ち、違っ……」
私は急いで否定する。
確かに仲は良かった。だけど、彼女が私を親友だと思ってくれていたなんて……
胸が詰まった私は声も出ず、ただ首を横に振り続けた。
「え? ちょっと待って。シルヴィエラ、どうして泣いているの?」
王妃様の前でも涙を流し、今またカリーナの前で泣く。ヒロインのように涙を武器にするつもりはないけれど……
この時の私は、どうにも止められなかったのだ。
けれど、ロディは妙なスイッチが入ってしまったらしく、なんとも言えない表情で目を細めた。彼は私の顎に手をかけると、整った顔を寄せてくる。鼻と鼻がぶつかった瞬間、私の顔から血の気が引く。
――なな、何? まさかロディ、ラノベ化したんじゃ……
私は弾かれたように席を立ち、部屋を転がり出た。ドレスのスカートを摘まみ、一目散に逃げ帰る。
自分の部屋に戻った私は、後ろ手にドアを閉めて呟く。
「何が起こったの? 誘惑なんてしてないのに、ロディはどうして……」
「……ロディ?」
しまったあぁぁ!
ここにはカリーナがいたんだ。
両手を腰に当て、首を傾げる彼女と目が合う。ローランド王子好きの彼女を、これ以上刺激してはいけない。
「いえ、あの……」
「もう、シルヴィエラったら。今さらごまかすのはやめて。ローランド様と貴女は、昔からの知り合いなのよね?」
「……え? ええ。でも、どこでそれを……」
私は目を丸くする。コネ採用と思われるのが嫌で、私は彼と幼なじみだということを誰にも語っていないのだ。
カリーナは茶色い髪を片手で払うと、フンと鼻を鳴らした。淑女らしからぬ行動だけど、女官部屋での彼女はいつもこんな感じだ。
「私の情報網を舐めてもらっちゃ困るわね。だって、貴女をここに連れて来たのってローランド様でしょう?」
「ええ、まあ」
カリーナに嘘はつきたくないから、正直に答えよう。
ただし、話せる範囲で。
「王城に女官見習いなんて職務はないから、びっくりしたのよね。シルヴィエラはよく働くのにどうして女官じゃないのかって、みんなも疑問に思っていたし」
女官じゃなくて見習いだから、逆に目立ったってこと?
「ローランド様もひどいわ。内部調査のためかもしれないけれど、自分の恋人を女官見習いとして潜り込ませるなんてね」
「……はい? いえ、それは違うわ」
「あら、調査じゃないの?」
「いいえ」
「でも、二人は付き合っているんでしょう?」
「や……あの、それはちょっと……微妙?」
恋人のフリに付き合ってはいるが、本物ではない。そのことを、ロディの許可なくカリーナに話していいのかどうか。
結局私は、ロディと幼なじみであることと、頼み込んで女官見習いにしてもらったことを彼女に明かした。婚約の予定については、言葉を濁す。
「それならそうと、最初から話してくれれば良かったのに」
「ごめんなさい。幼なじみで特別扱いだなんて、言い出しにくくって」
「特別扱い? そうかしら。むしろ他人よりよく働いていたわよね。私がローランド様に憧れているから、言えなかったのではなくて?」
「う……。まあ、それもあるわ」
「だからよ。貴女、私が怒っていた理由がまだわからないの?」
「え? ローランド殿下と私が、親しくしていたからでしょう?」
「違うわ。ショックだったけど、そんなことでは怒らない。あなた達、誰がどう見ても美男美女でお似合いですもの」
「……は?」
私はポカンと口を開けた。
それならどうして、カリーナはずっと不機嫌だったの?
カリーナは私を見て呆れたように肩を竦めると、大きなため息をついた。
「まったくもう、シルヴィエラったら。鈍いにもほどがあるわ」
「ご、ごめ……」
「謝ってほしいわけじゃないわ。あのね、私は貴女の口から本当のことを教えてもらいたかったの。隠すなんて水くさい。だって、私と貴女は親友でしょう?」
「……親友?」
「あらやだ。そう思っていたのは私だけ? 年下は嫌い?」
「ち、違っ……」
私は急いで否定する。
確かに仲は良かった。だけど、彼女が私を親友だと思ってくれていたなんて……
胸が詰まった私は声も出ず、ただ首を横に振り続けた。
「え? ちょっと待って。シルヴィエラ、どうして泣いているの?」
王妃様の前でも涙を流し、今またカリーナの前で泣く。ヒロインのように涙を武器にするつもりはないけれど……
この時の私は、どうにも止められなかったのだ。
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