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第二章 ラノベ化しません

ヒロインよりも 8

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 ロディも私も大きいし、それではいくらなんでも甘えすぎだ。未婚女性が王子の寝室に行けば、特別な仲だと勘違いされてしまう。昔のように過ごしたくても、できることとできないことがある。
 そんなの、王子のロディが一番よく知っているはずなのに。

「あのね、冗談はいい加減にし……」
「シルフィはどんな表情でも綺麗だね。以前から美人になると思っていたけど、想像以上で驚いた」

 突然どうした?
 言い過ぎたと思って、無難な話題に変えようとしているのかな。だったら私も付き合おう。
 
「ロディの方こそ。かっこ良くて素敵だって」
「……?」
「ええ。女官達がいつも騒いでいるわよ」

 褒めたのに、ロディは変な顔をする。
 力を込めて言い過ぎたから? 
 でも、本当のことだし。
 ローランド王子はカリーナだけでなく、年上の女官や年配の女性にも受けがいい。そのことは、たぶん本人も知っているはずで……
そうか。何を今さら、ということだね?

 ロディが私の顔を見ながら、肩をすくめた。

「騒ぐと言えば、笑顔が可愛い女官が来たと噂になっていた。他人が嫌がる用も喜んで引き受けるらしい。綺麗な彼女に会いたくて、わざと仕事を残す者もいるそうだ……心配だな」 

 ロディの言葉にハッとした。
 女官じゃなくて見習いだけど、新入りは私だけ。可愛いや綺麗は、いつものごとく王城流の挨拶だろう。
 早朝の水くみのこと? それとも厨房で料理を手伝ったことかな? 拭き掃除はいつもだし、植木の手入れや荷物運びも……どれも女官の正式な仕事ではないけれど、自由時間だからいいのかと思っていた。でもそれが、業務のさまたげとなっていたなんて。

「だからあの部屋に隠しておきたかったのに。いや、今からでも遅くはないのかな?」

 今のも冗談だよね? 
 かくれんぼじゃあるまいし、私を隠してどうする。

 特別室にいるだけなら、ラノベのシルヴィエラと一緒だ。彼女は王子達を追いかけ回すのに忙しく、女官をあごで使い、城の仕事を一切手伝わなかった。王子達が彼女のどこに惹かれて妃にしようと考えたのか、未だに謎だ。

 同じシルヴィエラでも、私は違う。
 何もしない生活に価値があるとは思えないし、条件の良い男性だけを相手にして、その他を無視するなんて考えたくもない。

 親切な城のみんなは、私に仕事を教えるために残しておいてくれたのだろう。迷惑をかけるつもりはなかったのに、結局彼らの邪魔をしてしまったみたい。ロディはきっと、そのことを言っている。

「ごめんなさい。気をつけるから、仕事は取り上げないで。それからロディ、教えてくれてありがとう」

 勢いよく頭を下げた途端、ほつれた髪が帽子から落ちた。私の髪に優しく触れたロディが、耳にかけ直してくれる。

「あくまでも、使用人として扱ってほしいということだね? でも僕も、あきらめる気はないよ」

 部屋に押し込めるのを? 
 邪魔になるくらいなら、客人としておとなしくしておけってこと? 
 どうやら私は、ここに置いてくれたロディの顔に泥を塗ってしまったようだ。でも、できればこのまま残って仕事を覚えたい。

「考えを変えてもらえるように、一生懸命頑張るわ」

 ロディはけわしい表情だ。
 反対される前に退散しよう。

「お召し上がりいただけたようですね。では、私はこれで失礼いたします」

 立ち上がってお辞儀をした私は、急いで執務室を出た。

 まずは与えられた仕事を完璧にしなくちゃ。女官としての仕事もまだなのに、他を手伝おうとするとは生意気だった。言いにくいことを面と向かって伝えてくれたロディは、やっぱり優しいな。



 それから一週間後のこと。
 休みの日に王城の庭を散歩していたら、冬薔薇を背にたたずむ人物が見えた。緑の上着に赤い薔薇がよく映える。

「薔薇を背負って立つなんて、マンガでしか見たことがないけど」

 私はつぶやきクスクス笑いながら、近くを通り過ぎようとした。けれどその顔を認めた瞬間、慌てて向きを変える。
 運悪く、相手もちょうど私に気づいたらしい。背中越しに声をかけてきた。

「そこの君! 見ない顔だね。どうしてここへ?」

 無視したくても、相手が悪い。
 王城は広く、彼は私の管轄かんかつ外だ。
 滅多めったに会わない相手だと、油断してもいた。

 私はその人に近づくと、膝を折って丁寧に挨拶をする。

「おくつろぎのところをお邪魔して、大変申し訳ありません。リカルド殿下」
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