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第一章 自虐ネタではありません

適当ヒロイン 10

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 ロディが私の両手を握る。彼の表情は真剣だった。

「君やご両親にお世話になっておきながら、何もできずにごめん。国外にいた時に、シルフィが年上の男性と結婚して家を出た、と聞かされたんだ。人をって調べたところ、その通りだと言われた。確認しようにも男爵はすでに亡く……その時は信じたけど、違うよね?」

 どうやら持参金目当ての継母が、嘘を教えたようだ。修道院に私を入れ、ていのいい厄介払いができたと、満足していたのだろう。
 答えを待つ金色の瞳が、私を食い入るように見つめている。私は彼に向き直り、口を開いた。

「ええ。さっきも話したけれど、父が亡くなってすぐ、私は修道院に入ったの」
「そう、か。男爵の葬儀に行けなくてごめん。最近まで僕は、この国を離れていたから」
「もしかして、身体が悪くて静養していたの?」
「違うよ。国外の知識を学ぶべく、留学していた」
「そう、それなら良かったわ」

 私は安堵あんどし、息を吐き出した。ロディは外国にいて、そこでたくましく成長したらしい。
 小さな彼は大きくなった後も、私のことを気にかけてくれていた。私も同じように、彼のことを心配していたのだ。まるで本物の姉弟みたいだと、嬉しくなる。今頃父も母も「ロディに会えて良かったね」と天国で笑っているはずだ。

「それでシルフィは、これからどうしたい?」

 どうしたいのかと聞かれても、ノープランだなんて恥ずかしくて言えなかった。どこかへ行こうにも、先立つものがない。男爵家に戻って持参金の返却を求めても、渡してもらえないどころか、下手したら義兄に会ってしまう。ラノベの展開通りだと、そのまま寝室へ直行だ。それだけは、なんとしてでも避けねば。

「まだ決めていないわ。どこかへ行こうにも、我が家に余分なお金はないし」
「は? なんだそれは。そんなわけがないだろう? いや、遊ぶ金欲しさに田舎の屋敷を売り払ったと聞いたが……」

 ロディの男っぽい口調に、私は思わず身をちぢめた。
 継母が家を売ったのって、うちがお金に困っていたからじゃなかったの? 大事な思い出の場所を手放したのは、まさか贅沢ぜいたくのため?

 私はまぶたを伏せ、唇を噛みしめた。
 だまされていたことにも気がつかないシルヴィエラ――私にだって十分責任がある。それでも、田舎の屋敷がくだらない理由で人手に渡ったと知り、胸が苦しくなる。この悲しみは、どこにぶつければいいのだろう?
 
 目を開くと、ロディの心配そうな顔が目の前にあった。私は限界まで背中をらし、超絶美形から一生懸命遠ざかる……成長した彼には、当分慣れそうもない。

「驚かせてごめんね。でも、良いことを思いついたんだ。シルフィは僕の所に来ればいい」

 ロディが目を細めてにっこり笑う。働き口でも斡旋あっせんしてくれるのだろうか? それならお金も貯まるし、意地悪な家族からも逃げられて一石二鳥だ。
 さっきの彼の話から、ロディは長期留学が可能なくらい裕福な家の子か、高位貴族の息子だとわかった。きっと彼の家には、メイドや侍女などたくさんの仕事があるだろう。お菓子作りには自信があるから、厨房ちゅうぼうの下働きを希望しようかな。

「ありがとう。助かるわ」
「喜んでくれて嬉しいよ。じゃあ、今すぐ行こうね」
「え、今から? だってあなた、用があってここに来たんじゃないの?」
「そうだよ。大切な用事が終わったところだ。シルフィを招待できるなんて、楽しみだな」

 大事な用って、小屋のこと? 不審者がいるって、誰かが通報したとか。
 でもまあ、狩猟小屋の持ち主がロディ一家で良かった。やはり神様は、この世に存在するみたい。



 そんなわけで私はロディと共に、外で待機していた白馬に乗ることとなった。彼はやはり身分が高く、五人も従者を引き連れている。そのうちの一人が代わろうと申し出ると、彼は笑みを浮かべた。

「命知らずだね。僕のものに手を出すの?」
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