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第一章 自虐ネタではありません

適当ヒロイン 4

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『実は奥様が陰でこう言っているのを、私、聞いてしまったんです。それなのに、今までお伝えしませんでした』

 彼女は継母の声を真似まね、三年前の話を私に教えてくれた。

『シルヴィエラのための持参金を娘のテレーザに回せば、良縁がめぐってくるざます。シルヴィエラ? あの子はボーッとしているから、修道院にでも押し込めておけば、満足でしょう』

 当時の私は確かにそうだったのかもしれない。
 言葉の出ない私を前に、メイドは気の毒そうな顔をする。次いで一礼すると修道院を立ち去った。

 *****

 以上、またもや回想終わり!

「なーにおとなしく男爵家を乗っ取られているのよ! それともまさか、ラノベ補正!?」

『聖女はロマンスがお好き』はヒロインがのし上がり、いずれ王太子妃となる話だ。そのために私ったら、知らないうちにストーリーに沿った行動を?

「いやいや、無理だから。ロマンス要らない」

 修道院のみんなは優しいけれど、このままここにいれば、いずれ義兄が迎えに来る。ラノベの通りなら、彼はシルヴィエラに執着し、彼女も彼を受け入れるはずで……

「絶対に嫌! まだ大丈夫。冷静になって考えよう。庭を掃くより我が身が大事」

 とはいえ、すでに両親は他界し、頼れる親族もいない。私は自分の身を守りつつ男爵家を取り戻す方法はないものかと、頭をひねる。
 けれどその後すぐ、院長室に呼び出されてしまう。

 いくらラノベのヒロインが嫌でも、いきなり態度を変えれば、ここにいるみんなに変に思われる。追い出されたら私には行く所がない。だから、今後の身の振り方を考えるまで、いつも通りでいよう。
 掃き掃除をサボったことを咎められたら、素直に謝るつもり。
 それとももしかして、聖歌隊への加入が正式に認められたの? 嬉しいけれど、タイミングが悪い……だって私は、ずっとここにいるつもりはない。
 
 院長室で告げられたのは、私が最も恐れていた言葉だった。

「シルヴィエラ。あなたを呼んだのは他でもありません。三日後にご家族の方があなたを迎えに来ます。急ですが、戻る仕度をしておくように」

 一瞬目の前が真っ暗になった。
 よろけそうになった身体を、とっさに足を前に出して支える。
 私は顔を上げ、修道院長の目を見て必死に尋ねた。

「な、なぜ今になって……もしかして、義兄が迎えに来るのですか?」

 修道院長が、慈愛に満ちた目を私に向ける。悪い方ではないけれど、彼女は生真面目で誰に対しても平等だ。私が帰りたくないと言っても、家族からの申し出だと首を横に振るのだろう。

「『白銀の聖女』がいなくなるのは、うちにとっても残念なことです。けれど、ご家族が迎えに来るというのなら、あなたをここにとどめておくわけにはいきません」
「そんな! あと少し、ここに置いてください」

 ダメ元で必死に食らいつく。
 もう、自分の意見を言えなかったおとなしいシルヴィエラではないのだ。

「いいえ。院の規則に反しますので。それに、いらっしゃるのはヴィーゴ=コルテーゼ様だと聞いています。男爵家の家長自ら迎えに来るのを、無下にはできません」

 家長……あれ? 
 血なんて繋がっていないから、義兄は男爵でもなんでもないんだけど。
 でも、義兄が迎えに来るというところは、まさにラノベの展開通り。このままだと私は帰りの馬車で、彼に、く、食われてしまう! 

 私は頭を下げ、ふらふらと院長室を出た。
 ギリギリで前世とラノベの内容を思い出して良かった。だけどのんびり「これからどうしよう?」なんて考えている暇はない。男の人を利用して生きるだけの人生なんて、絶対に嫌だ!

 運命にまったくあらがわないシルヴィエラには無理でも、駄作を読んで違うと感じた私ならできる。
 そう、ここから逃げて遠くに行くのだ。

 義兄と鉢合わせないよう、私は明日修道院を出ると決めた。
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