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私の人生地味じゃない!

恐るべき真実

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 光に導かれて過去の記憶を覗き、真実を知った私。自分の身に起こった全てを理解してしまった。
 私の前世は、高倉 たかくら 愛梨あいり

 私――愛梨と妹――海梨の母は、日本人の高倉 恵美子えみこ。父は、この異世界にある魔導王国リンデルの魔導士トーマス=リンデル。前世の私、愛梨はずっと父親に捨てられたんだと思っていた。母と私を放っていなくなってしまった人を恨んでいた。

 でも、彼には事情があったのだ。
 母と私の元へ戻れない理由が。
 けれど、長年の思いは消えない。
 生きているかもしれないと嬉しく思う反面、素直に会いたいとは思えない。不慮の事故とはいえ、顔も覚えていなかった本人を目の前にして、「お父さん」と呼べる自信もない。



 更に気づいた事がある。
 父のトーマスは若い頃、自国リンデルの研究所で既に『』を完成させていたのだ。

『時を超えるには、星を吹き飛ばす程の威力がいる』

 昔、何かの本に書いてあったのを読んだ気がする。謎の大爆発で吹き飛んだというリンデルの研究所。周囲を巻き込み、全てのものを吹き飛ばす程の威力と魔導を組み合わせたなら、時空を超えて日本に来ることができたのでは?

 そこで父は母と出逢い、母の姓である『高倉たかくら』を名乗っていた。望んでいた平凡だけど穏やかな生活。やがて双子の子どもも生まれて、家族4人で順風満帆な日々を送るはずだった。

 だけど――

 一度発動した『時空魔法』は、消えてはいなかった。その魔法は父と妹を再び取り込み、元いた世界へ戻してしまった。トーマスがいたリンデル国に。
   以前と違う姿で現れたのも当たり前だ。だって、異世界であるこちらの服装と日本の服装は大きく異なる。

 父は困ったはずだ。
   研究所や周囲を巻き込んだ大事故で、自分だけが助かって生きて戻ってしまったのだ。事実を知った時、彼は何を思ったのだろう? 自分は死んだはずの人間、事故を引き起こした張本人で、そこにいてはいけない存在。だから日本名の『トーマ=タカクラ』をそのまま使い、別人として振舞おうとしたのかも。


 父は迷ったはずだ。
 幼子を抱えながら、どう生活していくのか。残してきた妻子をどうやって取り戻せばいいのか。
 幸い、学生時代の親友アドルフ公爵と接触できたから、娘の海梨かいりを預ける事ができた。その際、また「アイリ」と呼び間違えたんだろう。今の私は『アリィ』と家族に呼ばれているから。アリィとアイリはよく似ている。もしかして、『アレキサンドラ』の方が後から付けられた名前だとしたら?

 公爵家に引き取られた本当の娘は、双子の妹の海梨。けれど、時空移動の無理がたたって亡くなってしまった。その身体に姉である私、愛梨の魂が入った。私がこの世界にいるのは、海梨のおかげ。たった一人の大切な妹が、ここにいて私を受け入れてくれたから。



 自分の考えを整理していたら、ハッとある事に気がついてしまった。
 父がしようとしていることを。
 彼のせいで、この世界で何が起こっているのかを。
 父――トーマスはまた『時空魔法』を発動して、日本に残してきた母と私を取り戻そうとしている?

 彼の願いは決して叶わない。
 だってそこに、死んでしまった私はもういないから。時間の流れ方が違うから、母の姿があるかどうかもわからない。失くしてしまった幸せな未来は、彼の望んだ平凡で穏やかな生活は、決して元には戻らない。
 叶わない願いのために『時空魔法』を再び発動させようとして、父のトーマスが【黒い陰】を生み出し続けているのだとしたら……

 時空魔法は『闇』の魔法。
 彼が呑み込まれた時、見覚えのある【黒い陰】より一段と強力な大きな黒い闇が見えた。本物の『時空魔法』を発動するには、私が以前取り込まれていた陰の何倍もの強大な力がいるはず!
 閃いた最悪の可能性に愕然がくぜんとした。

   大変!   実の父親であるトーマスを止めなければ!
   私は慌てて飛び起きた。



 目を開けると、見慣れた自分の部屋の天井が見えた。周りには、心配そうな様子の母――公爵夫人と侍女さん達の姿があった。気がついた私を見た彼女達は、皆一様にホッとした顔をしている。

 どうしてここにいるんだっけ?
 今日は私の誕生日。
 確かお昼過ぎに応接室で父――グリエール公爵の話を聞いていたはずだ。
 本当の親子ではないと言われ、自分の生い立ちを聞かされた。あまりのショックにその時すぐに理解することはできなかった。レイモンド様も本当の父の事をいろいろと言っていたような気がする。

 私が不覚にも気を失ってしまったのは、前世でも聞いたことの無い『トーマ=高倉』という父の名前を知ったから。父のことは全く覚えていなかった。けれど、気絶している間に過去の記憶を垣間見ることで、あれは夢でではなく、真実なのだと理解した。
   私が見た彼の赤みがかった金髪、金色の瞳という容姿は、今の自分の姿にすごくよく似ている。だから、自分が公爵家の人間どころか、元々この世界に生まれたわけでもないと確信することができたのだ。



 顔を上げると、慈愛のこもった紫色の瞳と目が合った――グリエール公爵夫人だ。
 今の私は、彼女が引き取った海梨ではない。だけど、妹の海梨の身体に入った私を、実の娘のように厳しくも優しく育ててくれたのは、この人だ。
 まだ、母と呼んでもいいのだろうか?   本当のことは上手く伝えられないけれど。今の世界、私の記憶の中で母と呼べる女性は、たった1人だけ。

「お母様……」

 彼女は紫の瞳にみるみる涙を溢れさせると、私の手をギュッと握って自分の頬に押し当てた。すごく、温かい。

「気がついて良かったわ、アリィ。みんなとても心配していたのよ」

「ゴメンなさい、お母様。ええっと……これからも、お母様とお呼びしても?」

「本当は違うのよ」と言われたらどうしよう? いいえ、大丈夫。共に過ごした年月が、許してくれると知っている。それでもやはり、少し不安だ。彼女は何と言ってくれるのかしら?   ドキドキしながら次の言葉を待った。

「当ったり前じゃないの~~! 違う呼び方をしたら、逆にぶっ飛ばしてしまうわよ?」

 そう言いながら、彼女は私の背中をバシッと思いきり叩いた。

「ブホッ」

 起きたばかりの私に何てこと!
 次は脳震盪のうしんとうになったらどうしてくれるの?
 いつも通りの母の態度に安心した私。気がつけば、大きな声で笑っていた。

「ふっ、うふふふふ、あっはははは、はぁはぁ」

 最後はちょっと息が切れてしまった。
 涙を流しながら思いきり笑うことで、心の重しも今までの辛い過去も何だか浄化されていくようだ。

「え? ちょっ、アリィちゃん、どうしちゃったの? まさか狂ってしまったんじゃ……。わたくし、そんなに強く叩いてないわよね?」

 母のマリアンヌ――これからも堂々と母と呼ぶことにする――が、慌てたように周囲の侍女に同意を求める。

「お嬢様はこれが普通ですから」
「お嬢様は変わり者ですから」
「お嬢様は変態ですから」

 最後がひどく間違っている。
 けれど、太鼓持ち~ズの侍女さん達も相変わらずなので、私はこの後、笑い転げてお腹が痛くて当分苦しむことになった。

 ひとしきり笑い終え、ようやく落ち着いたところで母に尋ねてみる。

「お父様や皆様は……?」

「あら、未婚の淑女レディの寝室に男性を入れるわけないじゃない。下で待たせているわよ? みんな、やきもきしながら待っているでしょうね。アリィが気づいたと知ったらスゴーく喜ぶわよ!」

 そう言って、母は私に向かって茶目っ気たっぷりにウィンクした。
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