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私の人生地味じゃない!
貴方は、誰?
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不思議そうに見上げる私を、傷ついたような目で見つめるその人。ふいに長身を屈めると、綺麗な顔を寄せて囁いた。
「アリィ……」
「ち、近い」
思わず顔が赤くなる。
端整な美貌にも切なそうに私の名を呼ぶその低い声にも、聞き憶えはない。
だけど――
頬を掠めるサラサラの金髪と、食い入るように見つめてくる深くて青い瞳には見覚えがある。まさか、という思いが胸を満たす。
「もしかして……レオン?」
その人は、青い瞳を細めて満面の笑みを浮かべると、突然ガバッと私を抱き締めた。
「アリィ、アリィだ! 本当に戻ってきたんだな。もうどこへも行くなよ!」
――もう、レオンったら~~。
抱きついてきてお子様なんだから~。
もちろん、お姉さんも大好きよ!
以前の彼になら、そう返せるのに。
一気に成長してしまったこのレオンには、どう対応していいのかわからない。戸惑う私に向き合うと、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる彼。
「あ、やっぱりレオンだ!」
可愛らしい天使のような面影は無くても、ちょっと偉そうな俺様系の名残りがある。
「レオン~~」
少しだけ動くようになった手を持ち上げて、弟の背に回す。意外と筋肉質の背中だ。
小ちゃなレオンは、目が覚めたら大きくなっていた。だけど懐かしいこの感じ、照れながらもしっかり抱き締め返す癖はそのまま。
私はこの世界に戻ってきてから初めて、ようやく涙を流すことができた。熱い滴が頬を伝い、その後は子供のように泣きじゃくる。
「うわーーん」
「お帰り……アリィ」
弟のレオンが、低い声で優しく言ってくれる。再び会えたのが嬉しくて、言葉にならない。以前と違う広い胸は、なぜか安心できたから。
身体を預けてわんわん泣きじゃくった。レオンが私の髪を優しく撫でてくれる。私の方がお姉ちゃんだけど、まあいいか。久しぶりだし、今日はこのまま甘えてしまおう。
ひとしきり泣いた後でようやく、顔が涙でぐちゃぐちゃにになったんじゃないかと気づく。姉としての威厳が! だけどレオンは私の頬を両手で挟むと、まるで大切なものを見るように、愛しそうに目を細めた。
『お姉ちゃんだから良いけれど、他の女の子にそんな顔を向けたら確実にカン違いされちゃうよ?』
そう教えてあげたかった。
でも、注意するのは今度でいいか。
私が起きてこんなに喜んでくれる、弟の心遣いが嬉しいから。
感動的な弟との再会後、今度は兄がレオンをベリッと引き剥がしてハグしてきた。次々と迫るイケメンの抱擁に兄妹とはいえ悪い気はしない。だけど、この人こんなキャラだったっけ? 家族思いとは知っていたけど、確かクールが売りだったような……
「お兄様?」
弟に渡したくないほど、そんなに妹のことが好きだとは気付かなかった。それとも寝ている間に成長した私が、地味じゃなくて可愛くなったから? 騎士団寮で離れて暮らしていたし、私をあやすレオンを見て急にお兄ちゃんぶりたくなっちゃったとか?
可愛く見えるってことは、寝ている間も侍女さん達が頑張ってお世話してくれたんだろうな~。髪も肌も思っていた以上にツヤツヤだったし。涙でぐちゃぐちゃな顔以外、恥じる所はない。後で侍女のみんなにもきちんとお礼を言わないと。
お父様とお母様は、兄妹弟の仲良しの抱擁を嬉しそうに見守っていらっしゃる。その笑顔が嬉しくて、感激した私は、また泣いてしまった。
ああ私はやっぱりここが、この世界が大好き! 目覚めて良かった。戻って来ることができて、本当に良かった。
今の状況を、なぜかすんなり受け入れることができた。家族や使用人達との感動の対面! 泣き過ぎて疲れてしまった私は、兄にギュっとされたまま安心して意識を飛ばしたーー
4年以上ぐーすか寝ていたツケが回ったのか、少し動いただけで身体がバキバキする。廊下を歩いて庭に出ただけで筋肉痛って、どんだけ弱っていたんだろう?
でも決しておばあさんになったわけではありません。むしろ日に当たらなかったから、髪も肌の色も抜けて、ちょっとだけ美少女に? この世界の平均値に近付いたような気がします。自分で言ってて恥ずかしいけど。
侍女改め『太鼓持ちーズ』はいつも褒めてくれるので、彼女達の感想は全くあてにはならない。でも前の地味な顔も好きだったけれど、目覚めた後のこの顔、馴染み深くて気に入っていたりもする。
太鼓持ちーズだけでなく、親や兄弟みんなで私を甘やかすから、ちょっと調子にのっているのかも。
実際は、急に背が伸びたから手足も動かし辛いし、寝ていただけだから筋肉弱って歩きにくいし。見た目だけだと華奢になって、お嬢様っぽくなってきた。
あ、やっぱり調子に乗ってるね? 私。だから庭に出た瞬間、大きな茶色の塊がドスッとスゴイ勢いでぶち当たってきたのは、ある意味天罰かもしれない。
「おまっ、ピーター、何フザケてんだよ!」
付き添ってくれていた弟が、咄嗟に庇って怒鳴ってくれた。だから、その巨大な塊が可愛いがっていたペットのウサギであろうことがわかった。でも、この大きさは一体何?
4年前までこの子は小さく可愛らしかったよね? 前世の学校の飼育小屋にいるような、平均的な大きさの可愛らしいウサちゃんだったと思う。でもこれはもう、ウサちゃんというレベルでは無いような……
『ジャイアントラビット』という種類を以前何かの本で読んだことがある。ここにいるピーターは、まさしくそれ。
こんなに大きくなるとは知らなかった。ぶみっとしているせいか、ウサギなのに偉そうに見える。鼻をヒクヒクさせている所とか、可愛いお目目は前のピーターのままなんだけど。
改めて、過ぎた月日の長さを実感させられる。
「ピータ~~」
レオンに庇ってもらったとはいえ、衝撃で身体が痛かったから、涙目になって訴える。ピーターは以前とは違って見える私のことがわかるかな?
ウサギは逃げずにこちらに近付いてきたけれど、餌が無いのを見て取ると、さっさと何処かへ行ってしまった。
「うん、やっぱりピーターはピーターだったね」
ちょっとがっかりして、腕の中に庇ってくれたレオンを見上げて苦笑する。あ、今笑い返してくれた? 笑顔がまるでアイドルみたい。
弟も、初めて2人でピーターを見た時のことを思い出しているのかな? だったらお姉ちゃん、スゴく嬉しいんだけど。
これが兄のヴォルフだったら、巨大とはいえ可愛いピーターが即座に斬られていたかもしれない。最近の兄は、過保護なくらい私を守ろうとするから。
「私が寝ている間に、妹への接し方を忘れてしまったのかしら?」
困った顔で呟くと、ため息を吐いた私の心配をしたからか、レオンが屈んで顔を寄せてきた。
だから近いんだってば~。
姉弟とはいえ距離感大事!
そんなに綺麗な顔で、こっちをじーっと見ないでよ。吸い込まれそうな青い瞳に、弟だということを時々忘れそうになってしまうから。
義理とはいえ、弟にうっかりときめいてしまわないかと、最近では内心冷や汗ものだ。
4年もの歳月は、私やピーターだけでなく、弟の容姿を大きく変えてしまっていた。
成長期の男の子って、こんなに変わるものだったっけ? 天使のような童顔だったのが、鼻筋の通ったスッキリした顔に変わった。綺麗だけど精悍な顔は、もう可愛らしいとは言えない。私より少しだけ高かった身長も、兄と同じくらいまで伸びてしまった。騎士の修行をしているからか、細身とはいえガッチリしている。
サラサラの金髪はストレートで、肩に少しかかるくらい。前髪も長くなっていて、時々かき上げる仕草が妙に色っぽい。
レオンの恵まれた造形、圧倒的美貌の前には、元地味子の私は白旗を上げる以外にない。
「はい、負けました~。ちょっとくらいキレイになったからって、調子にのってました、私!」
「はあ? 何ブツブツ言ってんの? ケガが無かったからいいけど、あんまり無理すんなよ」
そう。私の前でだけ俺様ぶっきらぼうなこの物言い。イケメンになったとはいえ、やっぱり弟のレオンです!
以前と同じ所を探して安心する私。男らしくなった弟に、さっきうっかり見惚れたのは無しで。
いかんいかん、しっかりしなければ! 間が抜けているとはいえ、私は彼のお姉さん。自分を窘めつつ、私は彼と仲良く家の中に戻った。
「アリィ……」
「ち、近い」
思わず顔が赤くなる。
端整な美貌にも切なそうに私の名を呼ぶその低い声にも、聞き憶えはない。
だけど――
頬を掠めるサラサラの金髪と、食い入るように見つめてくる深くて青い瞳には見覚えがある。まさか、という思いが胸を満たす。
「もしかして……レオン?」
その人は、青い瞳を細めて満面の笑みを浮かべると、突然ガバッと私を抱き締めた。
「アリィ、アリィだ! 本当に戻ってきたんだな。もうどこへも行くなよ!」
――もう、レオンったら~~。
抱きついてきてお子様なんだから~。
もちろん、お姉さんも大好きよ!
以前の彼になら、そう返せるのに。
一気に成長してしまったこのレオンには、どう対応していいのかわからない。戸惑う私に向き合うと、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる彼。
「あ、やっぱりレオンだ!」
可愛らしい天使のような面影は無くても、ちょっと偉そうな俺様系の名残りがある。
「レオン~~」
少しだけ動くようになった手を持ち上げて、弟の背に回す。意外と筋肉質の背中だ。
小ちゃなレオンは、目が覚めたら大きくなっていた。だけど懐かしいこの感じ、照れながらもしっかり抱き締め返す癖はそのまま。
私はこの世界に戻ってきてから初めて、ようやく涙を流すことができた。熱い滴が頬を伝い、その後は子供のように泣きじゃくる。
「うわーーん」
「お帰り……アリィ」
弟のレオンが、低い声で優しく言ってくれる。再び会えたのが嬉しくて、言葉にならない。以前と違う広い胸は、なぜか安心できたから。
身体を預けてわんわん泣きじゃくった。レオンが私の髪を優しく撫でてくれる。私の方がお姉ちゃんだけど、まあいいか。久しぶりだし、今日はこのまま甘えてしまおう。
ひとしきり泣いた後でようやく、顔が涙でぐちゃぐちゃにになったんじゃないかと気づく。姉としての威厳が! だけどレオンは私の頬を両手で挟むと、まるで大切なものを見るように、愛しそうに目を細めた。
『お姉ちゃんだから良いけれど、他の女の子にそんな顔を向けたら確実にカン違いされちゃうよ?』
そう教えてあげたかった。
でも、注意するのは今度でいいか。
私が起きてこんなに喜んでくれる、弟の心遣いが嬉しいから。
感動的な弟との再会後、今度は兄がレオンをベリッと引き剥がしてハグしてきた。次々と迫るイケメンの抱擁に兄妹とはいえ悪い気はしない。だけど、この人こんなキャラだったっけ? 家族思いとは知っていたけど、確かクールが売りだったような……
「お兄様?」
弟に渡したくないほど、そんなに妹のことが好きだとは気付かなかった。それとも寝ている間に成長した私が、地味じゃなくて可愛くなったから? 騎士団寮で離れて暮らしていたし、私をあやすレオンを見て急にお兄ちゃんぶりたくなっちゃったとか?
可愛く見えるってことは、寝ている間も侍女さん達が頑張ってお世話してくれたんだろうな~。髪も肌も思っていた以上にツヤツヤだったし。涙でぐちゃぐちゃな顔以外、恥じる所はない。後で侍女のみんなにもきちんとお礼を言わないと。
お父様とお母様は、兄妹弟の仲良しの抱擁を嬉しそうに見守っていらっしゃる。その笑顔が嬉しくて、感激した私は、また泣いてしまった。
ああ私はやっぱりここが、この世界が大好き! 目覚めて良かった。戻って来ることができて、本当に良かった。
今の状況を、なぜかすんなり受け入れることができた。家族や使用人達との感動の対面! 泣き過ぎて疲れてしまった私は、兄にギュっとされたまま安心して意識を飛ばしたーー
4年以上ぐーすか寝ていたツケが回ったのか、少し動いただけで身体がバキバキする。廊下を歩いて庭に出ただけで筋肉痛って、どんだけ弱っていたんだろう?
でも決しておばあさんになったわけではありません。むしろ日に当たらなかったから、髪も肌の色も抜けて、ちょっとだけ美少女に? この世界の平均値に近付いたような気がします。自分で言ってて恥ずかしいけど。
侍女改め『太鼓持ちーズ』はいつも褒めてくれるので、彼女達の感想は全くあてにはならない。でも前の地味な顔も好きだったけれど、目覚めた後のこの顔、馴染み深くて気に入っていたりもする。
太鼓持ちーズだけでなく、親や兄弟みんなで私を甘やかすから、ちょっと調子にのっているのかも。
実際は、急に背が伸びたから手足も動かし辛いし、寝ていただけだから筋肉弱って歩きにくいし。見た目だけだと華奢になって、お嬢様っぽくなってきた。
あ、やっぱり調子に乗ってるね? 私。だから庭に出た瞬間、大きな茶色の塊がドスッとスゴイ勢いでぶち当たってきたのは、ある意味天罰かもしれない。
「おまっ、ピーター、何フザケてんだよ!」
付き添ってくれていた弟が、咄嗟に庇って怒鳴ってくれた。だから、その巨大な塊が可愛いがっていたペットのウサギであろうことがわかった。でも、この大きさは一体何?
4年前までこの子は小さく可愛らしかったよね? 前世の学校の飼育小屋にいるような、平均的な大きさの可愛らしいウサちゃんだったと思う。でもこれはもう、ウサちゃんというレベルでは無いような……
『ジャイアントラビット』という種類を以前何かの本で読んだことがある。ここにいるピーターは、まさしくそれ。
こんなに大きくなるとは知らなかった。ぶみっとしているせいか、ウサギなのに偉そうに見える。鼻をヒクヒクさせている所とか、可愛いお目目は前のピーターのままなんだけど。
改めて、過ぎた月日の長さを実感させられる。
「ピータ~~」
レオンに庇ってもらったとはいえ、衝撃で身体が痛かったから、涙目になって訴える。ピーターは以前とは違って見える私のことがわかるかな?
ウサギは逃げずにこちらに近付いてきたけれど、餌が無いのを見て取ると、さっさと何処かへ行ってしまった。
「うん、やっぱりピーターはピーターだったね」
ちょっとがっかりして、腕の中に庇ってくれたレオンを見上げて苦笑する。あ、今笑い返してくれた? 笑顔がまるでアイドルみたい。
弟も、初めて2人でピーターを見た時のことを思い出しているのかな? だったらお姉ちゃん、スゴく嬉しいんだけど。
これが兄のヴォルフだったら、巨大とはいえ可愛いピーターが即座に斬られていたかもしれない。最近の兄は、過保護なくらい私を守ろうとするから。
「私が寝ている間に、妹への接し方を忘れてしまったのかしら?」
困った顔で呟くと、ため息を吐いた私の心配をしたからか、レオンが屈んで顔を寄せてきた。
だから近いんだってば~。
姉弟とはいえ距離感大事!
そんなに綺麗な顔で、こっちをじーっと見ないでよ。吸い込まれそうな青い瞳に、弟だということを時々忘れそうになってしまうから。
義理とはいえ、弟にうっかりときめいてしまわないかと、最近では内心冷や汗ものだ。
4年もの歳月は、私やピーターだけでなく、弟の容姿を大きく変えてしまっていた。
成長期の男の子って、こんなに変わるものだったっけ? 天使のような童顔だったのが、鼻筋の通ったスッキリした顔に変わった。綺麗だけど精悍な顔は、もう可愛らしいとは言えない。私より少しだけ高かった身長も、兄と同じくらいまで伸びてしまった。騎士の修行をしているからか、細身とはいえガッチリしている。
サラサラの金髪はストレートで、肩に少しかかるくらい。前髪も長くなっていて、時々かき上げる仕草が妙に色っぽい。
レオンの恵まれた造形、圧倒的美貌の前には、元地味子の私は白旗を上げる以外にない。
「はい、負けました~。ちょっとくらいキレイになったからって、調子にのってました、私!」
「はあ? 何ブツブツ言ってんの? ケガが無かったからいいけど、あんまり無理すんなよ」
そう。私の前でだけ俺様ぶっきらぼうなこの物言い。イケメンになったとはいえ、やっぱり弟のレオンです!
以前と同じ所を探して安心する私。男らしくなった弟に、さっきうっかり見惚れたのは無しで。
いかんいかん、しっかりしなければ! 間が抜けているとはいえ、私は彼のお姉さん。自分を窘めつつ、私は彼と仲良く家の中に戻った。
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