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地味顔に転生しました

パーティーの終わりに

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 いつの間に眠ってしまったのだろうか?

 誰が一番カッコいいとか、どんなスイーツが好きかとか、オススメの美容法は何かといったガールズトークで夜遅くまで盛り上がってしまった。

「新年おめでとう~~!!」

「今年もよろしく~」

   そんな感じでみんなと一緒にお茶や果実水で乾杯したのは覚えている。今日の記念に、とレオンと一緒に作った手作りサブレットクッキーを配ったら、すごく喜んでもらえた。
 お菓子も結構食べ散らかした……主に私が。
 本当に楽しかったなぁ~。

 横になっていたベッドからそうっと起き上がる。
 みんなを起こさないように中から抜け出すと、忍び足で部屋を移動した。ドアの外に立っていた護衛にしーっと合図をして、音がしないようゆっくり歩いて自分の部屋へと向かう。真夜中の2階の廊下は、シンとしていてとても静か。



 部屋に戻るとバルコニーに出た。
 暗い夜空にこの世界特有の2つの月が浮かび、たくさんの星が瞬いている。

「やっぱり、夢じゃなかったんだ」

 ここは、前世とは違う世界。
 地球ではない、世界のどこか。
 でも、とても優しく温かな世界。

 私は満足すると、ポケットに忍ばせていたリオネル王子から届いた手紙を広げた。みんなの前では恥ずかしくて読めなかった手紙も、月明かりの下でならゆっくり読める。
 今日集まる事は、幼なじみの王子様にも伝えていた。彼は去年の誕生会にもわざわざ来て下さったので。女子会でもあるパジャマパーティーには招待できないけれど、夕食ぐらいは一緒にできるかな? と少しだけ期待していた。まあ、彼は王子の仕事が忙しくって無理だとわかっていたけれど。


『元気ですか? みんなと一緒に楽しんでますか?』


   リオネル様からの手紙は、そう始まって近況報告が綴られていた。仕事は忙しいけれど、頑張っているとの事。今年も最後までバタバタしそうだから、城から出られずどこにも行けそうにないな、と。年明けも公務や出席しなくてはならない行事が目白押し、との事だった。
 その後は『最近物騒な事件が多いから一人で出歩かないように』とか、『パーティーだからといって食べ過ぎはよくないよ』とか、『お菓子はほどほどに』、『感動して泣き過ぎると翌日困るからね』などと私の心配をしていた。
   私のオカンか!   君は。
   同い年なのに保護者みたい。
   くすくす笑いながら、手紙を読み進める。
 最後は『新しい年も、君が幸せでありますように』で終わっていた。
 彼の思いやりにちょっとキュンとしてしまった。
   ただの締めくくりの挨拶かもしれないけれど、優しい王子様が私の事を思って書いたと考えると、心がほわんと温かくなった。微笑みながら手紙を書く彼の姿が目に浮かぶようで、想像しただけで嬉しかった。

 だけど……
   新たな年は私だけではなく、王子様やみんなにも幸せになってもらいたい。この世界の優しい人々が、どうか皆幸せを実感できますように。

   日々、小さな事にも感謝して一生懸命生きる。
 些細な事にも喜びを感じたり、大きな事を成し遂げて達成感でいっぱいになったり。時には泣いたり怒ったり、挫折して落ち込む日があっても良い。けれどいつまでも暗くはならずに自分にできる努力をして、たくましく前に進む。頑張っている自分を見てくれる人は、きっといるはずだから。小さな努力が報われる時がきっと来るはずだから。そんな風に成長を重ねて充実した人生をおくる。
 ――人はきっと、それを『幸せ』と呼ぶ。

 前世の記憶を思い出した今も、私はみんなから優しくされている。毎日が充実していて怖いくらい幸せで、不満なんて何も無い。今年は私がみんなに返す番! 少しずつ自分にできる事を見つけて、この世界の人達に恩返しをしようと思っている。



 手紙をそっと胸に押し当てる。

『幸せ』という言葉は、掴みどころがないけれど。
 それでも私は、彼にも幸せになってもらいたい。
   ただの幼なじみにまで心を配る王子様に、幸福を感じてもらいたい。
   新年始めの日に心のこもった手紙が読めるなんて、やっぱり私は幸せだ。唇に笑みを浮かべたまま、丁寧にたたんで手紙をしまった。



 カタン

 隣の部屋で音がした。
 扉の開く音とともにバルコニーに誰かが出てきた。
 各部屋は、外のバルコニーで繋がっている。

「レオン?」

 月の光にキラキラと輝く金色の髪の持ち主。
 それは我が家の天使、弟のレオンだった。

「アリィ、こんな時間に何してるの?   パーティーは終わったんじゃなかった?」

   首を傾げて尋ねる仕草が、抜群に可愛い。

「あ、もしかしてうるさかった?   ゴメンね、すぐ戻るから。あ、そうそう。それからね……」

   私は弟に近付くといつものようにギュッとハグをした。

「レオン、新年おめでとう。今年も大好きよ!   今年もをよろしくね」

『お姉さん』を強調したの、わかったかしら?   
 お姉ちゃんと呼ばれるのは諦めたけれど、『お姉さん』とか『お姉様』って呼ばれるのは諦めていない。可愛い弟に『お姉さん』と呼ばれて甘えられたら、私はそれだけで確実に幸せを実感できる!
   今年こそ絶対に呼ばせてみせるからね、と密かに闘志を燃やす。

「ん、よろしく。アリィも今年はもっと、幸せになれるといいな」

 相変わらずの名前呼びだけど、偶然とはいえリオネル様の文言と同じ言葉を言ったレオン。美少年って考え方まで似てくるのかしら?   そう考えた自分がおかしくて、クスッと笑ってしまった。

「私はもう十分幸せだよ?   可愛いあなたがいてくれるから。優しい友人ができたし家族も温かいし、幼なじみは甘々だしね? 私だけでなく今年はみんなが幸せになれるといいね!」

「ちっ、甘々って……王子、いったい何言ってんだよ。やっぱりあいつは油断ができない……」

 ぶつぶつと呟く弟。

「ん?   レオン、聞こえなかったけど何か言った?」

「いいや。もう遅いから俺は寝るぞ」

「うん、お休み~~。また明日ね」

 部屋に戻る弟のレオンが、ひらひらと手を振る。
 パジャマパーティーに浮かれて気づかなかったけれど、一人だけ放っておかれて寂しかったのね? 
 次は男の子も仲間に入れる企画にするから。
 ゴメンね。小さな可愛いレオン、大好きよ。



 新年最初の静寂――

 澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、星を眺めながらこの世界に転生した幸運と感慨に浸る。
 今年も家族やみんなと仲良く楽しく過ごせますように。
 この世界の人達が幸せでありますように。
 願った事はみんなの幸せ。
 そして変わらない、穏やかな日常。

 もう遅いし眠くなったので、あくびをしながら女友達が眠る部屋へ戻った。
 ぐっすり眠る彼女たちを見て、じんわりと温かい気持ちになる。女の子の友達、得難い仲間、私の欲しかった関係。考えれば考えるほど嬉しくて、この世界に生まれ変われた幸運に再び感謝をする。
 そのままベッドに横になる。
 幸せな気分の私の口元は、笑みをかたどったまま。
   大事な友達に囲まれて、私は深い眠りについた。
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