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地味顔に転生しました
プレゼントには
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俺がこの家に来てから、あっという間に半年が過ぎた。
今日はアリィの誕生日。誕生月が近かったから、同じ年齢だったのはほんのわずか。アリィは今日からまた、お姉さんぶってあれこれと世話を焼きたがるのだろう。
毎日『レオン、大好き~~』と言ってくれる彼女に、俺は何を返せるだろうか?
アリィの言葉で俺は救われた。
毎日大好きだと言いながらギュッとハグしてくれる。
嬉しいけれど、最近は少し苦しくもある。
そんな俺の葛藤を彼女は知らない。
アリィの優しさで、俺は少しずつ疎まれていた自分を好きになれた。彼女の綺麗な茶色の瞳で見つめられる度、彼女の唇が嬉しそうに俺の名を呼ぶ度、温かいような切ないようなそんな気持ちが胸に広がる。
アリィがいれば、満足だった。
今日もできればいつものように穏やかに過ごしたかったけれど。
誕生会の席で「お披露目しなくちゃ」と張り切った彼女は、集まったみんなに俺を紹介した。話しかけられて卒なく答えた自信はある。でもほとんどを愛想笑いでごまかしてしまった。
女の子達もおめかししていてみんながそれぞれ綺麗だった。だけどやっぱりアリィが一番! 誰も彼女には敵わない。
主役のはずの彼女は、会話よりも食事に夢中。
そんな所がいつものアリィらしくて笑えた。
その様子を微笑ましく見つめる人物が、俺の他にももう一人。
リオネル王子だった。
アリィと同い年で賢そうな顔立ちの彼は、彼女の幼なじみだという。誕生会にもわざわざ来たし、隣の席でかいがいしくアリィの世話を焼いていた。本人全く気づいていなかったようだけど。
俺の最大のライバルが、この国で最高の存在だなんて聞いていない! アリィもアリィでいつもよりも楽しそうに笑っている気がする。
王子も俺の事を警戒していたと思う。
目の前でアリィに囁く時、わざとこっちを見て満足そうにしていたから。
生まれながらに全てを持つ恵まれた彼。
何も持たない俺は、少しだけ悲しくなってしまった。
けれど――
「アリィ、これ」
渡したのはただの安物の料理の本。
それが、今の俺に用意できる精一杯。
公爵家に頼らずに、町で書写の手伝いをして稼いだ金で買ったもの。
ドキドキしながら彼女の反応を待つ。
そんな俺にアリィは驚きながら、満面の笑みで言ってくれた。
「レオン、私がお料理好きだって知ってたのね! 大好き~~」
良かった! 喜んでくれたんだ。
でもみんなの前で平気で抱きつこうとしたから、さすがに照れて拒絶した。
「ハッそうか、ここは外だった」
ブツブツ呟く可愛らしいアリィ。
一つ上だなんて、とても思えない。
ねぇアリィ、気づいてる?
俺が絶対に『姉』と呼ぼうとしないのを。
本人の前で1度でも『姉』と呼んでしまったら、本当の姉弟になってしまう気がして。
あと一年、早く生まれていたかった。
もう少し早くアリィと出会っていたかった。
そうすれば、もしかして……
だけどそれは叶わない。
それならせめて、姉とは呼ばずに『アリィ』と呼び続けてもいいだろう?
彼女の明るさと優しさは、みんなを幸せにする。
なぜか『地味だ』と言い続ける彼女。
その周りは、いつだって特別で光り輝いている。
俺はいつまで、彼女のそばにいられるだろうか?
俺はこれからも、弟でいなければいけないのだろうか?
悩む俺に大事そうに本を抱き締めたアリィが声をかけてくる。
「一番最初はこの中から、レオンの好きな物を作ってあげるね!」
ほら、それだけで――
世界が輝き満たされた気分になるからとても不思議だ。
*****
「レオン……どんなやつなんだろう?」
ここ何日か王子である僕は、彼女の側にいるという義弟のことを考えていた。
アレクことアレキサンドラ嬢は僕の大切な幼なじみ。けれど、彼女の一番近くにいるのは新しくできた義弟のレオンで、義兄であるヴォルフの評価も高く彼女自身も可愛がっているという。
誕生会当日、初めて会った彼女の義弟は天使のような容貌の賢そうな少年だった。アレクは自慢気に「可愛い弟のレオンです」と、彼を紹介した。レオンは見た目よりもしっかりしていて、何かとアレクの世話を焼いていた。彼女に対して一見無愛想に見える態度を取ってはいたが、義姉を見る目が優しかった。はっきり言って面白くない。
心が狭いと言われようが、構わない。スゴく仲が良い2人を見て少し意地悪をしたくなった。だからわざと彼女に顔を近付けて「後で渡すものがあるから」と耳元でそっと囁いた。案の定、レオンはこちらを睨んできた。
あの日――
一方的に「お別れ」を言われた後、何がいけなかったのかを自分なりに考えてみた。知らないうちに彼女を傷つけてしまったのだろうか? 王子という肩書の上に胡座をかいて、不快な思いをさせていたのだろうか?
手紙を書いたら嫌がられるかな。
それとも僕の事を考えてくれるだろうか?
考えれば考えるほど、わからなくなってしまった。
王子としての責務を果たすため、何事にも真面目に取り組んでいくうちに「才気煥発」「文武両道」などと囁かれるようになってしまった。だけど本当の僕はこんなにも弱く情けない。
もう一度仲良くなれるように、何か形に残る物を贈りたかった。そんな時、彼女の誕生日は良い口実になる気がした。「レオン」にだけは負けたくなかった。アレクとずっと一緒にいる事のできる血の繋がらない彼女の義弟。僕は彼が羨ましい。王子と言う肩書を持たない彼が。
誕生日にはみんなもプレゼントを用意してきたようで、受け取ったアレクは感極まって泣いていた。素直で感受性の強い所は昔から変わらないんだな。「レオン」からのプレゼントにも、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
僕のプレゼントも、喜んでもらえるだろうか?
中座して二人で散歩することにした。
ヴォルフには予め話していたので、協力してくれた。
叔父は……まあ、相変わらずだ。
フラフラと好きに色んな所を歩いている。
彼女の義弟がずっとこちらを見ていたが、気にしないことにした。
ガーデンパーティーの会場から少し離れた緑の植え込み。
そのそばのベンチに座り、僕は彼女にプレゼントを渡した。
クリスタルでできた『ラビット』のペーパーウェイト。
「ラビットが好きだとヴォルフから聞いて。クリスタルの輝きがアレクの瞳に似ていたから」
アレクは驚き赤くなって、僕からの贈り物を見て感激してくれた。相変わらずコロコロ変わる表情が愛しくて、やっぱり目が離せない。『ラビット』の下に刻んだ文字は、僕の誕生色の緑。『アレクへ リオンより』と入れておいた。この国では好意を表す時に、自分の誕生色を入れた贈り物をする。彼女は気付いてくれただろうか?
本当は『愛をこめて』と入れたかったが、今はやめておいた。堂々と告げられるような大人になるまで、その言葉はとっておくことにしよう。
再びこぼれたクリスタルのような彼女の涙をそっと指ですくってあげる。
慌てる彼女に優しく微笑みかけながら、僕はこの世にアレクが生まれて来てくれたこの日を深く感謝した。
今日はアリィの誕生日。誕生月が近かったから、同じ年齢だったのはほんのわずか。アリィは今日からまた、お姉さんぶってあれこれと世話を焼きたがるのだろう。
毎日『レオン、大好き~~』と言ってくれる彼女に、俺は何を返せるだろうか?
アリィの言葉で俺は救われた。
毎日大好きだと言いながらギュッとハグしてくれる。
嬉しいけれど、最近は少し苦しくもある。
そんな俺の葛藤を彼女は知らない。
アリィの優しさで、俺は少しずつ疎まれていた自分を好きになれた。彼女の綺麗な茶色の瞳で見つめられる度、彼女の唇が嬉しそうに俺の名を呼ぶ度、温かいような切ないようなそんな気持ちが胸に広がる。
アリィがいれば、満足だった。
今日もできればいつものように穏やかに過ごしたかったけれど。
誕生会の席で「お披露目しなくちゃ」と張り切った彼女は、集まったみんなに俺を紹介した。話しかけられて卒なく答えた自信はある。でもほとんどを愛想笑いでごまかしてしまった。
女の子達もおめかししていてみんながそれぞれ綺麗だった。だけどやっぱりアリィが一番! 誰も彼女には敵わない。
主役のはずの彼女は、会話よりも食事に夢中。
そんな所がいつものアリィらしくて笑えた。
その様子を微笑ましく見つめる人物が、俺の他にももう一人。
リオネル王子だった。
アリィと同い年で賢そうな顔立ちの彼は、彼女の幼なじみだという。誕生会にもわざわざ来たし、隣の席でかいがいしくアリィの世話を焼いていた。本人全く気づいていなかったようだけど。
俺の最大のライバルが、この国で最高の存在だなんて聞いていない! アリィもアリィでいつもよりも楽しそうに笑っている気がする。
王子も俺の事を警戒していたと思う。
目の前でアリィに囁く時、わざとこっちを見て満足そうにしていたから。
生まれながらに全てを持つ恵まれた彼。
何も持たない俺は、少しだけ悲しくなってしまった。
けれど――
「アリィ、これ」
渡したのはただの安物の料理の本。
それが、今の俺に用意できる精一杯。
公爵家に頼らずに、町で書写の手伝いをして稼いだ金で買ったもの。
ドキドキしながら彼女の反応を待つ。
そんな俺にアリィは驚きながら、満面の笑みで言ってくれた。
「レオン、私がお料理好きだって知ってたのね! 大好き~~」
良かった! 喜んでくれたんだ。
でもみんなの前で平気で抱きつこうとしたから、さすがに照れて拒絶した。
「ハッそうか、ここは外だった」
ブツブツ呟く可愛らしいアリィ。
一つ上だなんて、とても思えない。
ねぇアリィ、気づいてる?
俺が絶対に『姉』と呼ぼうとしないのを。
本人の前で1度でも『姉』と呼んでしまったら、本当の姉弟になってしまう気がして。
あと一年、早く生まれていたかった。
もう少し早くアリィと出会っていたかった。
そうすれば、もしかして……
だけどそれは叶わない。
それならせめて、姉とは呼ばずに『アリィ』と呼び続けてもいいだろう?
彼女の明るさと優しさは、みんなを幸せにする。
なぜか『地味だ』と言い続ける彼女。
その周りは、いつだって特別で光り輝いている。
俺はいつまで、彼女のそばにいられるだろうか?
俺はこれからも、弟でいなければいけないのだろうか?
悩む俺に大事そうに本を抱き締めたアリィが声をかけてくる。
「一番最初はこの中から、レオンの好きな物を作ってあげるね!」
ほら、それだけで――
世界が輝き満たされた気分になるからとても不思議だ。
*****
「レオン……どんなやつなんだろう?」
ここ何日か王子である僕は、彼女の側にいるという義弟のことを考えていた。
アレクことアレキサンドラ嬢は僕の大切な幼なじみ。けれど、彼女の一番近くにいるのは新しくできた義弟のレオンで、義兄であるヴォルフの評価も高く彼女自身も可愛がっているという。
誕生会当日、初めて会った彼女の義弟は天使のような容貌の賢そうな少年だった。アレクは自慢気に「可愛い弟のレオンです」と、彼を紹介した。レオンは見た目よりもしっかりしていて、何かとアレクの世話を焼いていた。彼女に対して一見無愛想に見える態度を取ってはいたが、義姉を見る目が優しかった。はっきり言って面白くない。
心が狭いと言われようが、構わない。スゴく仲が良い2人を見て少し意地悪をしたくなった。だからわざと彼女に顔を近付けて「後で渡すものがあるから」と耳元でそっと囁いた。案の定、レオンはこちらを睨んできた。
あの日――
一方的に「お別れ」を言われた後、何がいけなかったのかを自分なりに考えてみた。知らないうちに彼女を傷つけてしまったのだろうか? 王子という肩書の上に胡座をかいて、不快な思いをさせていたのだろうか?
手紙を書いたら嫌がられるかな。
それとも僕の事を考えてくれるだろうか?
考えれば考えるほど、わからなくなってしまった。
王子としての責務を果たすため、何事にも真面目に取り組んでいくうちに「才気煥発」「文武両道」などと囁かれるようになってしまった。だけど本当の僕はこんなにも弱く情けない。
もう一度仲良くなれるように、何か形に残る物を贈りたかった。そんな時、彼女の誕生日は良い口実になる気がした。「レオン」にだけは負けたくなかった。アレクとずっと一緒にいる事のできる血の繋がらない彼女の義弟。僕は彼が羨ましい。王子と言う肩書を持たない彼が。
誕生日にはみんなもプレゼントを用意してきたようで、受け取ったアレクは感極まって泣いていた。素直で感受性の強い所は昔から変わらないんだな。「レオン」からのプレゼントにも、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
僕のプレゼントも、喜んでもらえるだろうか?
中座して二人で散歩することにした。
ヴォルフには予め話していたので、協力してくれた。
叔父は……まあ、相変わらずだ。
フラフラと好きに色んな所を歩いている。
彼女の義弟がずっとこちらを見ていたが、気にしないことにした。
ガーデンパーティーの会場から少し離れた緑の植え込み。
そのそばのベンチに座り、僕は彼女にプレゼントを渡した。
クリスタルでできた『ラビット』のペーパーウェイト。
「ラビットが好きだとヴォルフから聞いて。クリスタルの輝きがアレクの瞳に似ていたから」
アレクは驚き赤くなって、僕からの贈り物を見て感激してくれた。相変わらずコロコロ変わる表情が愛しくて、やっぱり目が離せない。『ラビット』の下に刻んだ文字は、僕の誕生色の緑。『アレクへ リオンより』と入れておいた。この国では好意を表す時に、自分の誕生色を入れた贈り物をする。彼女は気付いてくれただろうか?
本当は『愛をこめて』と入れたかったが、今はやめておいた。堂々と告げられるような大人になるまで、その言葉はとっておくことにしよう。
再びこぼれたクリスタルのような彼女の涙をそっと指ですくってあげる。
慌てる彼女に優しく微笑みかけながら、僕はこの世にアレクが生まれて来てくれたこの日を深く感謝した。
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