本気の悪役令嬢 another!

きゃる

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カイル編

代われるものなら

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「……授業中は私に君を独占させて」
 
  そう言って、今日も私はブランカとペアを組む。
   今は、魔法の授業の時間。
   高等部に上がると実践練習が増えるから、自然と縦割りで行動する事が多くなる。

『高等部特進魔法科2年』それが今の私とリュークの肩書きで、ブランカやマリエッタ、ライオネルは1学年下。ユーリスとジュリアンは『中等部の特進魔法科』に在籍している。

   王立カルディアーノ学園はその設立の意図からも明らかなように、魔法が手厚く保護されている。そのため、高等部では魔法の講義や演習により多くの時間が割かれるようになっている。個人差はあるものの、それぞれの持つ属性に従って指導され、高位魔法への移行を目的とした教育課程が組まれている。
   だから、魔力が大きく存分に魔法を使える者にとっては楽しい時間が増える。けれど、属性を持たず魔法を封じられたままの状態のブランカにとっては、最も苦痛な時間が続く。

   

   広場での実践訓練――

   下の学年と組んで訓練しなければならないので、今日も私はブランカを指名した。魔力の大きいリュークは大抵、ライオネルかマリエッタと組んでいる。
 リュークからは時々「なぜ全く魔法が使えない者と組むんだ。自分の練習にならないだろう?」と不思議そうに問われるけれど、ブランカは全く魔法が使えないわけではない。ただ封じられてしまっているだけで、魔法に対する耐性は人並み以上にあるし、十分な魔力だって持っている。
   彼自身が誰よりもその事を心配していたくせに、全く記憶にないようだ。まあ、もし仮に彼女の魔力が十分でなかったとしても、私は彼女をパートナーに指名しただろうけれど。

 ただ、ブランカのことを全く思い出せないリュークには腹が立つ。もし彼がブランカの事を少しでも覚えていたのなら、自分が真っ先に彼女と組んで他の皆を牽制していたはずなのに。ちょうど留学する前日のあの日のように……


   一途で健気なブランカは今日も、訓練に必要な道具を準備しながらリュークのことを気にかけて、チラチラ視線を投げかけている。
 そうかと思えば近づいたリュークに何か嫌な事を言われたようで、急に動きが早くなった。

   ああ、私のための道具をそんなに急いで運ばなくても良いのに。持ってくる量が多すぎると思ったら、マリエッタの分まで一緒に準備してあげているんだね? リュークの行動に傷つきながらも一生懸命で優しい君を見ていると、胸が痛い。私なら、君に辛い思いはさせないのに――

 

 ブランカが私の為に用意してくれたまと人形ひとがた。私やリューク、ライオネルは攻撃特化で魔力が強過ぎるから、訓練で生身の人間は相手にできない。
 余計な考えを一旦振り払い、『光』の攻撃魔法の精度を上げるため、的に意識を集中する。『競技会』で2連覇したとはいえ、まだまだ足りない。この国の王子として誰よりも強くなって、他国の脅威から民を守らなければならないから。
 
 力はある程度抑えていたものの、光の矢は真っ直ぐ的に命中し、次々と大破していった。まだ威力が大きいようだ。余力を十分に残すためにも、魔力をもう少し抑えなければ。
 通常は交代で攻撃したり防御したりするのだが、ブランカは魔法を封じられていて使えないために、授業の全てを道具の準備や片づけに当てている。私が真剣に魔法の訓練に取り組めば取り組むほど、彼女の負担が増えるので非常に申し訳ない。

「次々と破壊しちゃってゴメンね。回収するのも大変だったね」

 授業の終わりにそう言葉をかけただけなのに、彼女はなぜか嬉しそうな表情をした。
 
 君は決して誰かを責めたりしない。魔法を封じられて何もできなくても、他人より多く働かされても。大好きなリュークに冷たくされた時だって君は誰も責めないし、泣き言を言わない。

   いつだって優しくて頑張り屋の君。だからこそ、君の周りには人が集まる。
 私だけでなくライオネルもマリエッタも、魔法科の他の生徒達もそんな君の一生懸命頑張る姿をよく見ている。――見ていないのはリュークのみ。

 本当に、彼はどうして君を忘れる事ができたのだろうか?

 
 去っていくリュークの姿を見つめる君の瞳。
 その瞳に映るのが、私であれば良いのに。もし私が彼よりも早く君と出会っていたなら、君は私の方を好きになってくれたのだろうか? もし幼い日の婚約が壊れずにそのままであったなら、君は今、私の隣で嬉しそうに微笑んでくれていたのだろうか?

 リュークを見つめるブランカの姿を見ながら、私は親友に代わりたいと心の底から願っていた。


 ☆☆☆☆☆



「ちょっと!  魔法が使えないあなたなんかを、カイル様が本気で相手にしていると思っているわけ? ずうずうしく隣にいるのもいい加減にしなさいよね!」

「そうよ。ちょっとぐらい見栄えが良いからって何様のつもり? いーい、カイル様はあなたを可哀想に思って相手をして下さっているだけなの。いつまでも調子に乗っていると痛い目に遭いますわよ!」


 私はブランカ。
   魔法を封じられている。
   言われなくても、そんなことぐらい私が一番よくわかっている。
 というより先輩方、魔法科の生徒じゃないわよね? それに脅したり呼び出すのって『プリマリ』だと私のポジション。しかも、本当の標的は私ではなくマリエッタちゃん! 
   幼なじみのリュークに全く相手にされない私に同情しているだけで、カイルが本当に好きなのはマリエッタ。彼女を差し置いて私に文句を言いに来るだなんて、あなた達もまだまだわかっていないわね?

 それにしても、『プリマリ』でも人気ナンバー1のカイル。学園の女生徒達からも圧倒的な支持を集めている。まあ確かに、あれだけイケメンで優しくて背が高くて頭が良くって甘い声の持ち主は、そうはいない。携帯ゲームでもこちらの世界でもファンが多いのは納得できる。

「ちょっとあなた、聞いていらっしゃるのかしら? ふてぶてしいのも大概になさいませよ!」

 

 私がなぜ講堂の裏で女生徒達に囲まれているのかというと……

 広場での魔法の実践訓練の度に、カイルはパートナーとして必ず私を指名する。それはとってもありがたいんだけど、一方であまりよろしくない。
   だってカイルは女生徒の憧れで、現在婚約者もいない現役王子様。狙っているご令嬢はたくさんいる。しかも校舎の配置も悪い事に、広場に一番近いのが高等部の校舎。次いで中等部、初等部となっているから、窓側のお姉様方の席からは一目瞭然。講義を無視してカイルと、彼と一緒にいる私の姿を追うことなど容易たやすい。
   
 みんなは『プリマリ』を知らないから、私が実はただの悪役で、カイルの本命はマリエッタだという事に気づかない。
   あんなに可愛くて優しくて素敵なマリエッタだもの。ちょっと考えれば、カイルがどちらを選ぶかすぐにわかりそうなものなのに。


 もう誰も傷つけないために、再び悪役令嬢に戻ると決めた私。こんな所で囲まれたからっておどおどしている場合ではない。正面から堂々と彼女達に立ち向かって戦わなければ!
 両手を腰に当て、あごをしゃくって『プリマリ』お得意の悪役令嬢ブランカの決めポーズをする。

「ああ~~ら、カイルがあなた達みたいなのを相手にすると本気でお思い? 分不相応って言葉を聞いた事はあるかしら? まったく、自分が相手にしてもらえると信じているなら、あなた達って本当におバカさんよね?」

 うう、罵ったりなんかしてごめんなさい。でも、できればもうこれ以上近づいて欲しくないの。カイルとマリエッタを、くっつけないといけないから。

「はぁ? 何ですって! 言わせておけば。この!!」



 バシンッ

 平手打ちって結構痛い。
   女性の力だからって舐めてました。
 でも、ブランカは『プリマリ』の中でマリエッタの事を平気でビシバシ叩いていたよね? 何てひどい奴なんだ! こんなに痛い思いを愛らしいマリエッタちゃんにさせていただなんて……

「謝らないわよ! 泣きもしないだなんて、あなたも相当なものね!」

 うーん、そのセリフもブランカが使っていたような。この流れだと、もしかして……

「君達、そこで何をしているんだ!」

「「「カ……カイル様!!」」」

 う~~ん、やっぱり。
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