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第一章 ラスボスは気難しい

使い放題!?

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 ウリエルは大天使、のち堕天使なので光と闇の両方使える。

 ちなみにホーリーシールドとは、球体状の防御の魔法で、物理攻撃や魔法を通さない。中から外は見えるけど、外から中は見えない仕様となっている。

 セイクリッドロードライト――つまり聖なるオーロラは、光の高位の技。状態異常の解消と最大限の体力の回復を敵味方関係なく行うため、めったに出現しないのだ。

「キレイ~♪」

 優美で芸術的な魔法には、感動すら覚えてしまう。
 しかし外では、魔王と人の悪意が苦しんでいた。

「ぐっ……ぐぐ……」
「痛い、痛い、痛い~~~」

 ――そうか、彼らは闇属性。聖なる光とは相容あいいれない。

「ウリエル様。理解したので、おやめください」
「私もよくわかったよ」

 大天使が手を離した瞬間、球体とオーロラがかき消えた。


「不思議だな。君に触れると、大きな魔法が苦もなく使える。魔力はほとんど感じられないのに、どうしてだろうね?」
「……さあ?」

 大天使に問いかけられたが、答えは謎だ。
 自分でも魔力が増えた感覚はないし、他の変化もない。
 にも拘わらず、わたしに触れたウリエルは、巨大な魔法を同時に扱えた。

 これはもしや、召喚した者だけに与えられる特典?
 それとも女神の恩恵かな?

戯言ざれごとを。単に魔力が回復しただけではないか」

 不満げな顔の魔王が、爪の先に火を灯す……が、またたく間にかき消えた。

「……む」
「情けないね。じゃあ僕が。ダークファング……って、あれ?」

 人の悪意の魔法も不発。

「娘、良いか?」
「へ? い、一蓮様まで?」
「俺では嫌か?」
「ま、ま、まさかっ」

 力一杯応えるけれど、わたし自身がキャパオーバー。
 だけど龍神は、反対側のわたしの手を優しく持ち上げる。

「氷山、並びに水龍」

 龍神の声に反応し、氷の山が遠くに現れた。
 その山頂で、水の龍がとぐろを巻いている。

「すごい!!」

 龍神がわたしの手を離すや否や、二つは幻のようにかき消えた。

「む……」 
「……あ」

 一方、大神官は得意顔。

「やはりのう。そなたたちは、特別な絆で結ばれておるようじゃ。今後大きな魔法を使いたくば、ハルカに触れると良い」
「はいいいい!?!?!?」

 すかさず奇声を発したわたし。
 その横で、大天使がにっこり笑う。

「喜んで」
 
 魔王は考え込んでいて、人の悪意は不服そう。
 龍神は目を細めたものの、相変わらずの無表情。

「わかった。だが、触れるだけとはまどろっこしい。その娘、余がろうてやる」
「……は?」

 魔王の突飛とっぴな言葉に、わたしの思考は停止する。

「ならぬ。ハルカが死ねば絆は途切れて、魔力は回復せん」
「むう、ダメか」

 大神官様、ナイスフォロー。
 よくわからないけど、助かったみたい。

 ……ってことは召喚者のわたしがいれば、魔法が使い放題? そんでもって、わたしの願った通りに、ラスボスが動く?

 予想もしなかったすんごい能力だけど、恐れ多くも触らないと使えない?
 魔物退治は楽勝どころか、推しに対する罪悪感が半端ない。

「ラスボスのみなさま、わたしごときがすみません……」
「ラスボスって誰のこと?」
「余は魔王だ。呼び間違うなど無礼者め! 能力がなくば、今すぐひねり潰してくれるものを」
「まあまあまあ。女性は大事にしなくちゃね」

 推しだけど、ラスボスなので怖すぎる!!



 尊大なラスボス一行は、客室に案内するのもひと苦労。

「こんな狭い空間に、余を閉じ込める気か?」
「いえ、閉じ込めるのではなく、くつろいでいただきたくて……」
「ねえ、このオバさん誰?」
「オバッ……豊穣ほうじょうと慈愛の女神、エストレイヤ様です」

 部屋に飾られた小さな像は、女神エストレイヤでこの国の守り神。神殿だけでなく、王城にもまつられている崇高な存在だ。

「邪魔だから捨ててもいい?」
「絶対ダメですっ」
 
 語気を強めて言い返す。
 魔王は部屋の広さが、人の悪意は飾ってあった女神像が、お気に召さないみたい。

「ちぇ~」
「ふふ、あの子か。かなり美化されているね」

 大天使のウリエルが、意味深な笑みを浮かべた。

「もしかして、女神様とお知り合いですか?」
「そうだよ」
「下々の話はいい。余をもっと広い部屋に案内せよ」
「女神様を下々って……」

 魔王のセリフに絶句すると、龍神までもがぽつりと呟|《つぶや》く。

「知らない顔だな」

 龍神、龍ケ崎一連は洋装ではなく和装。
 元の世界の神職がまとうような紺色の狩衣かりぎぬで、中央に銀色の龍の刺繍が入っている。それに、水色のはかまを合わせていた。

 ポニーテールのような紺色の髪に金の瞳の青年は、言うまでもなく神々しい。
 
 ――そうか。龍神は、神様だよね。そっか。みんな神と同格なんだ。

 それだと大部屋では失礼だ。
 わたしは神殿中を走り回り、それぞれに個室を用意した。

「ふう……」

 これでおとなしくなったはず。
 けれど願いはむなしく、夕食時にも問題が持ち上がる。

「足りぬ、もっと寄越せ」
「え? でも今、牛一頭と羊三匹を丸々平らげましたよね?」
「余に相応の供物くもつを提供するのは、人間の義務だ」
「はあ……」

 なんだかちょっと、に落ちない。
 ゲームの魔王は、食事なんてしてたっけ?

「牛でなくていいよ。いっぱいいるから、人間でもいい」

 輪をかけて怖いのが、人の悪意の集合体ライムバルト。
 彼は、人の悪意が大好物。
 全ての悪意を吸い取られると、人は善人になるどころか、なぜか廃人になってしまうのだ。

「でも、やっぱりいいや。ここの人たち、みんなマズそうだから」
 
 ――それって悪意が足りないってこと?

 わたしをいじめる先輩も、一応神官なので外面はいい。
 とりあえずホッとしたものの、龍神は顔をしかめている。

「お口に合いませんか?」
「新鮮な魚はないのか?」

 龍神が魚を好む?

 残念ながらこの神殿は山間部にあり、干した魚か塩漬けしか食べられない。
 龍神のがっかりした横顔を見ながら、次は大天使……は、食べずに女性神官を口説いている。

「夕食より、君が食べたいな」

 ――おいおい、それってどこのチャラ男なの!?
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