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第一章 ラスボスは気難しい

まさかの能力

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「ねえ、誰にものを言ってるの? 人間のくせに僕の邪魔する気?」

 ライムバルトの言い草に、怒りがふつふつき起こる。

 わたしの好きなRPGのラスボスは、一般人には手を出さない。城や塔、ダンジョンの奥深くに来た強い者しか相手にしないはず。
 弱い者いじめをして楽しむなんて、ラスボス界の風上にも置けないじゃない!

「種族は関係ありません。やめなさい、と言いました」
「へええ。お姉さん、僕に逆らうの?」
「つまらぬことを申すなら、お前から消すぞ」

 人の悪意と魔王が結託し、わたしをおどす。
 でも、ここで屈するわけにはいかない。

「いいんですか? わたしが消えたら、あなたたちも消えますよ」

 精一杯のはったりだが、ラスボス相手に手段なんか選んでいられない。

世迷よまごとを。邪魔だ、どけ」
「いいえ、どきません。今すぐやめてください」

 魔王に一蹴いっしゅうされたけど、こうなったらもう、後には引けない。
 自らの寿命と引き換えに、ラスボスたちを呼び出した。その責任は、わたしにある。

「人に危害を加えるなら、許しません」 
「そう。だったらしょうがないね」

 人の悪意が肩をすくめた。
 その途端、神官たちを追いかけていた黒い霧が消える。

「わかってくださって、ありがとうございま……」
「な~んちゃって。ダークファング!」
「きゃあっ」

 二度も同じ手に引っかかってしまった。
 霧でできた狼が、今度はわたしに飛びかかる。

「なっ……氷壁!」 

 実態のない黒い霧は、龍神が作った氷の壁をもすり抜ける。

 もう、ダメだ――。

「バシュッ」

 狼のきばに噛まれた直後、黒いかたまりが霧散する。

「…………え?」
「あれれ? なんで?」

 人の悪意の集合体、ライムバルトが大きな目を丸くした。

「ふん、お前の魔法が弱いということだ。ファイヤーボール」

 今度は魔王、アルトローグが軽く手を振って、小さな火の玉をわたしに投げつける。

「ビシイッ」

 声を上げる間もなく、火の玉までもが弾かれた。

「なっ……」

 魔王が驚くけれど、わたしもわけがわからない。
 ラスボスの攻撃魔法が、なぜか当たらなかったのだ。

 ――まさか大神官が、わたしの知らないうちに防御魔法をかけてくれた?

 けれど当の大神官は、口をポカンと開けている。

「違う? じゃあ、いったい誰が……」
「あれえ? すごいね」
「ふむ。あの女人にょにんに、助けはらぬということか」

 大天使ウリエルと龍神の龍ケ崎一連が、感心したようにうなずいている。
 だけどわたしは、やっぱりわけがわからない。

「……なんで?」
「おのれ、魔法耐性が高いのか。ならば……」

 低くうなった魔王が、先ほどとは桁違けたちがいの炎のうずを、己の頭上に出現させた。

 ――マズい。あの技は『クリティカルブレイズシュトローム』!

 名前だけでなく、威力《いりょく》もさっきと段違い。辺り一帯を焼き尽くす技だ。

「お、おお、落ち着いてください」
「ハルカ、そなたが落ち着くのじゃ。早くなだめよ!」

 大神官が叫ぶ。
 そんなことを言われても、宥め方などわからない。
 なんとかしないと、魔王の奥義でここにいる全てが息絶えてしまう。

「大氷河」
「ウルティマホーリーブレス」
「じゃあ、僕も。インフェルノエクストリーム」 

 ――待って、待って、待って! 

 他のラスボスまで奥義を出すってどういうこと!?
 これだと辺り一帯どころか、この世界全体が消し飛んでしまうじゃない。
 
「やめてーーーーーーーーーーーーーっ」

 目を閉じて、力一杯絶叫した。
 わたしのせいで、世界がほろぶ。
 やっぱり自分は、役立たず――――――――――――――――――――――――――。



 ところが、いつまで経っても何も起こらない。

「……え?」

 ラスボスたちも、驚いた顔でその場に立ち尽くす。

「どうしてみんな、途中でやめちゃったの?」
「魔力切れ、じゃな」
「うわっと、大神官様!」

 気がつくと、大神官がわたしの隣に立っていた。

「わしが思うに、彼らが元いた世界は、ここより魔素が濃かったのじゃろう。魔力不足におちいったと見える」

 魔素とは、大気中にある魔力の素のこと。
 いくら魔力が多くても、取り入れなければ使えない。

「魔力不足? そうか。強大な魔法には、MPが大量に必要ですもんね」
「えむぴい? なんじゃ、それは」
「あっ……と、魔力を数値化したものです」 
「そうか。そなたが元いた世界にも、魔法があったのじゃな。だから、彼らを召喚できたというわけか」
「ははは」

 親代わりの大神官には、わたしがこことは別の世界から来たことも、ちゃ~んと話してある。
 ただし、ゲームの話は内緒なので、笑ってごまかすことにした。

 今は、ラスボスたちをおとなしくさせる方が先決だ。

 ――あれ? でも……。

 大変なことに気づいてしまった。

「大神官様。魔素が薄くて魔力切れにおちいるなら、強大な魔法を扱う彼らを召喚した意味がありません!」

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