ヒロインだけど敵が好き♪

きゃる

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第一章 推しがクラスにやってきた

アリア

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 女子寮の病人専用の部屋に隔離かくりされ、私――アリアはベッドの中で退屈な時を過ごしていた。

「こんなふうに熱を出すのは、子供の時以来?」

 健康だけが取り柄の私は、めったに熱を出さない。だからこそ、ヒロインの役目も無事にできると考えていた。あれしきの雨で風邪を引くとは、なんとも情けない。

「もともと熱があったのかもしれないわ。自分でも気がつかないほど、興奮してたみたい」

 幼い頃のように、高熱のせいで記憶が混濁しては困る。
 せっかく推しに会えたから、早く治しましょう。

 私は小さな時に、この国を出たことがあるらしい。
「らしい」と言うのは、全然覚えていないから。
 
 母を亡くしたばかりの父は、仕事で隣国へ行くこととなった。幼い娘を一人にしたくないと考えて、私も同行させたそうだ。

 馬車の旅に慣れない環境。
 見知らぬ大人に囲まれて、気疲れしたのか。
 それとも母親を亡くしたショックが、遅れて出てきた?

 ともかく帰国後すぐ、私は倒れた。
 高熱が続き、いく日もうなされたと聞いている。

 ようやく治ったある日のこと。
 父が私の異変に気がついた。娘の頭からは、旅の間の記憶がきれいさっぱり消えている。国外に出たことさえ、覚えていなかった。

「今考えると、すっっっごくもったいないことしたわ! 隣の国って、憧れの『ベルウィード』よね? もっと早く前世を思い出していたら、意地でも覚えていたのに……」
 
 敵地ベルウィードは、アニメでもちらっと出る程度。森や畑に囲まれたうちに比べて、整備された緑や石造りの建物が多く、都会的な雰囲気だった。いつか聖地巡礼してみたい。

「こんなことを考えられるのは、回復してきた証拠よね? もう大丈夫。つれなくされても諦めないわ」

『推しは見るものでるもの』
 せっかくだから、一番近くで応援したい。

「早く治して頑張ろう。レヴィーの周りをうろうろすれば、いつか私に心を開いてくれる……はず」

 努力あるのみだ。
 私は最推しの笑顔を頭に描き、苦い薬を残さず飲み干した。



 五日後、ようやく復活!
 久々に推しに会えて嬉しい。
 見ればレヴィーは、重い荷物を一人で運んでいる。ここぞとばかりに手伝いを申し出た。

「重そうね。一緒に運びましょう」
「君には無理だ」
「あら。こう見えて私、力はあるのよ」

 けれど彼は、首を横に振る。
 きっと私に、気を遣ってくれたのね。 

 感謝の思いで休み時間も見つめていたら、嫌そうに顔をゆがめられた。

 ――違う、たぶん顔がかゆかったのよ。

 他の三人は諦められても、レヴィーだけは譲れない。無愛想な彼が、本当は優しいことを知っている。子供の頃だって……。

「変ね。ファンブックに、幼少期のレヴィーのイラストって掲載されていたかしら?」

 グッズか何かで見たのかもしれない。
 もしくは同人誌?

 前世で集めに集めた限定グッズは、本当に惜しいことをした。持ち込めていれば今頃、部屋に飾っていたはずなのに。

「んー。病気も治って、ご飯が美味しい!」

 お昼時、噛み応えのある食事をゆっくり味わう私。
 おかゆ代わりのオートミールはふにゃふにゃで、味が薄すぎた。もったいないので全部いただいたけど、正直二度と食べたくない。

 クラスの男子が「快気祝いだ」と言っておごってくれた特別メニューのジュレ(ゼリー)。
 私はみんなが食堂を出た後で、ようやくデザートに取りかかる。スプーンの上には、ふるふるのジュレ。輝く赤は、甘酸っぱいラズベリー味だ。

 そこへ、レヴィーが通りかかる。

 ――神様、ありがとう。ジュレは好きだけど、推しはもっと好きです♪

「アリア、まだ食べているのか? 病み上がりだから無理するな」

 嬉しい! 彼は私が病気で休んでいたと、知っているのね?

「いいえ。無理なんてしてないわ。このデザート、とっても美味しいの」

 私はジュレが入った器を持ち上げた。
 するとレヴィーの目が、ふいに細くなる。

 ――まさか今、ちょっと笑った? ……そうか。ファンブックの情報だと、彼は甘いもの好きだ!

「ほどよい甘さよ。まだ残っているから、頼めば出してくれると思うわ」

 この時間に余っているなら、割引きだろう。
 レヴィーなら顔がいいので、食堂のおばさんもタダにするかもしれない……私なら確実にそうする。

「いや、これでいい」

 言うなりレヴィーが私の手首を掴んだ。
 赤いジュレはスプーンごと、彼の口の中へと消えていく。

「なっ、なな、な……」
「確かに美味しいな」

 なんてこと! 
 ジュレが羨ましい!!

 今のって、いわゆる間接キスだよね?

 口をポカンと開けた私を見て、再び目を細めたレヴィー。
 そうかと思えば、片手を上げて去って行く。

 私の顔が熱を持つ。
 こんなシーン、アニメにもファンブックにもなかったのに――。

 恥ずかしくって、胸がドキドキしてしまう。
 せっかく治ったのに、また熱が出て病人部屋に逆戻り?


 側で見守ろうと決めたけど、推しとの接点やっぱり嬉しい。
 ちなみにこのスプーンは記念にもらって、コレクションに加えよう。

 
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みんなの感想(3件)

クロツメ
2019.10.24 クロツメ

設定を聞いただけでも面白そうです!敵側につくのか、はたまた敵達を寝返らせるのか……主人公が今後どう動いていくのか楽しみです!

きゃる
2019.10.29 きゃる

クロツメ様、ありがとうございます( ´ ▽ ` )。結末はすでに浮かんでいるのですが、今はまだ内緒です。よろしくお願いします♪

解除
柚木ゆず
2019.10.23 柚木ゆず

敵の仲間になりたい。それが斬新で、面白い予感しかしません。
次の更新を楽しみにしておりますが、ご無理をなさらないようにしてくださいませ。

きゃる
2019.10.23 きゃる

柚木ゆず様、ご感想嬉しいです\(^O^)/
敵の仲間になって、一緒に世界を征服? それとも……?
己に正直なヒロインの今後に、是非ご注目ください。

体調までご心配いただき、ありがとうございます。
書き上がり次第、徐々に更新していきますね♪

解除
うろこmax
2019.10.22 うろこmax

きゃる様

お待ちしておりました✨
新作面白そうで、ワクワク😃💕しています。
敵の仲間になりたいなんて、なんて大胆なんでしょう🎵

次の更新が楽しみです💖

きゃる
2019.10.22 きゃる

うろこmax様、ご無沙汰してました〜(*≧∀≦*)。
いろんなことを考えていましたが、結局自分の書きたいものを書くことにしました。ヒロインの思いは私の想い。
時々、敵の方がイケメンでは!? と感じていたので。楽しんでいただければ幸いです♪

解除

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