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第一章 推しがクラスにやってきた
男爵家 クロムを攻略しよう
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もう一度ジェラールにトライ?
いえいえ。ここはアニメの世界で、似ていても乙女ゲームではないのだ。時間は永遠ではなくどんどん進み、残りの話数にも限りがある。
だったら次は、ジェラールと同じく三年生のクロムと仲良くなって、仲間に推薦してもらおう!
「知的なクロムは図書館にいるはずよね」
クロムは富豪の三男で、一代限りの男爵家。彼はグランローザの政治や歴史に興味を示し、書架では飽き足らず、厳重に保管されている本を借りようとする。けれど学園の規則により、止められてしまう。
貴重な書物を借りる場合、ここでは保証人を立てなければならない。保証人は我が国に籍があり、万一の場合、弁償できる能力がある者。言い換えれば、ある程度の身分と財力を有する生徒……つまり私だ。
アニメの筋では、他国人のクロムが困った様子で立ち尽くす。そこに名乗り出たのがアリアで、彼のために赤い革表紙の分厚い本を借りてあげる。戸惑う彼に「ちょうど私も読みたかったの」と、笑顔で口にするのだ。その後は仲良く並んで読書――
「サインして、本を借りればいいだけだもの。簡単だわ」
顔を寄せ、同じ本を覗き込む二人。
クロムはアリアの知識に舌を巻き、次第に惹かれていく。
「政治の本なんて見たことないけど、自国の言葉で書かれているから、なんとかなるでしょ」
ヒロインは、敵の心を掴むのが上手かった。
中盤までストーリー通りの行動をすれば、彼らの方から近づいてくるだろう。
「完っ璧な計画ね! さて、クロムに会いに行きましょう」
二年の私が三年生の教室に乗り込んで、変に目立つわけにはいかない。なので直接、図書館に向かうことにした。
学園の図書館は、二階建てのレンガ造り。
校舎とは別で、講堂の隣にある。
窓は小さく、その分光の魔法石が昼夜安定した光を供給していた。一階には受付と閲覧スペース、授業で使う本の他、多くの本が揃えられている。二階には倉庫と職員専用控え室、貴重な本のコレクションがあるという。
用事があるのは一階だけ。
まずは中に入り、クロムを探そう!
受付付近をうろうろするが、彼の姿は見当たらない。もう少し待ってみようかな。
「赤い髪で琥珀色の瞳に眼鏡。イケメンだから、すぐにわかるわよね。それとも、今日じゃないのかしら?」
ジェラールの場合、タイミングが良すぎた――いえ、結果的には良くなかった。私よりヒーローと親しくなった彼は、時々うちの教室までオルトを迎えに来る。放課後連れだって教室を出るのは、子猫に会いに行くため?
私だって猫を触りたかった。
ヒロインなのにジェラールには全く相手にされず、オルトも最近よそよそしい気がする。
こんなはずではなかったけれど、くよくよしている場合じゃない。
クロムとの距離を縮めて、仲間になろう!
「念のため、奥も見てみましょう」
いくら待っても受付には現れなかったので、閲覧スペースに移動する。木でできた長い机と椅子が並ぶ他、奥にはカフェにあるようなテーブルとソファが置かれていた。雰囲気があって快適なため、カップルに人気という噂だ。
――私は今まで使ったことがないけど、それが何か?
「あら、アリアじゃない。こんなところに来るなんて、珍しいわね」
ふいに声をかけられて、振り向く。
その途端、私は驚きに目を瞠る。
「会長! 隣は……な、なな、なんで?」
生徒会長のリヴィアーナと一緒にいるのは、探していた推しのクロムだ! 二人はカップルが好むソファに、並んで腰かけていた。
「……どうも」
クロムに軽く頭を下げられるが、挨拶を返すどころではない。
「お二人が……どうして?」
呆然としながら口にすると、リヴィアーナが肩をすくめた。
「どうしてって? 三年生は今日、講義が早く終わったの。それに借りたい本があるとかで、困っていらしたから。同じクラスですもの、協力するのは当然でしょう?」
紺色の長い髪に青い瞳の美人生徒会長が、アリアのいるべき席にいる。彼らが読んでいたのは、まさにアニメで見た、赤い革表紙の本だ!
「彼女の解説は見事でした。あなたも政治に興味があるのですね?」
クロムが眼鏡を外して質問する。
やはり整った、綺麗な顔!
でも、興味があるのは政治ではなく、敵のみんなだ。
「いえ、あの……」
どう答えようかと迷っていたところ、生徒会長のリヴィアーナが弾んだ声を出す。
「もしかして、わたくしを探しに来てくれたの? アリア、可愛い子ね。いいわ、こっちにいらっしゃい」
彼女が身体をずらして席を空けたため、私は思わず後ずさる。
リヴィアーナは三年生で、副会長のオルトと書記の私は二年生。会長は、生徒会の仕事中も私をあちこち撫で回す癖がある。髪や肩ならまだしも、頬や首、胸やお尻もまんべんなく。
『女同士ですもの、いいでしょう?』
いつもそう言い不思議そうな顔をするけれど、私は彼女が苦手だ。
『男性よりも女性にご興味が……?』
以前、思い切って聞いてみたところ、微妙な感じで笑われた。
クロムと二人きりにはなれないようだし、身の危険も感じるため、ここは一旦逃げて体勢を立て直そう。
「遠慮しておきます。ええーっと、探している本があるので、また今度!」
私は慌ててその場を後にした。
ただでさえ会長のリヴィアーナは美人で博識。しかも学園長の姪だ。生徒からの信頼も厚く、強力な水の魔法を得意としている。彼女がクロムの保証人となって知識を披露したなら、私の出る幕ではない。
「本来本を借りるのは、ヒロインの役目よね? どうして上手くいかないの?」
アニメの通りに振る舞うはずが、それすらできない。
だけど、こんなことでめげる私ではない。
推しを応援するため、次の策を考えよう!
いえいえ。ここはアニメの世界で、似ていても乙女ゲームではないのだ。時間は永遠ではなくどんどん進み、残りの話数にも限りがある。
だったら次は、ジェラールと同じく三年生のクロムと仲良くなって、仲間に推薦してもらおう!
「知的なクロムは図書館にいるはずよね」
クロムは富豪の三男で、一代限りの男爵家。彼はグランローザの政治や歴史に興味を示し、書架では飽き足らず、厳重に保管されている本を借りようとする。けれど学園の規則により、止められてしまう。
貴重な書物を借りる場合、ここでは保証人を立てなければならない。保証人は我が国に籍があり、万一の場合、弁償できる能力がある者。言い換えれば、ある程度の身分と財力を有する生徒……つまり私だ。
アニメの筋では、他国人のクロムが困った様子で立ち尽くす。そこに名乗り出たのがアリアで、彼のために赤い革表紙の分厚い本を借りてあげる。戸惑う彼に「ちょうど私も読みたかったの」と、笑顔で口にするのだ。その後は仲良く並んで読書――
「サインして、本を借りればいいだけだもの。簡単だわ」
顔を寄せ、同じ本を覗き込む二人。
クロムはアリアの知識に舌を巻き、次第に惹かれていく。
「政治の本なんて見たことないけど、自国の言葉で書かれているから、なんとかなるでしょ」
ヒロインは、敵の心を掴むのが上手かった。
中盤までストーリー通りの行動をすれば、彼らの方から近づいてくるだろう。
「完っ璧な計画ね! さて、クロムに会いに行きましょう」
二年の私が三年生の教室に乗り込んで、変に目立つわけにはいかない。なので直接、図書館に向かうことにした。
学園の図書館は、二階建てのレンガ造り。
校舎とは別で、講堂の隣にある。
窓は小さく、その分光の魔法石が昼夜安定した光を供給していた。一階には受付と閲覧スペース、授業で使う本の他、多くの本が揃えられている。二階には倉庫と職員専用控え室、貴重な本のコレクションがあるという。
用事があるのは一階だけ。
まずは中に入り、クロムを探そう!
受付付近をうろうろするが、彼の姿は見当たらない。もう少し待ってみようかな。
「赤い髪で琥珀色の瞳に眼鏡。イケメンだから、すぐにわかるわよね。それとも、今日じゃないのかしら?」
ジェラールの場合、タイミングが良すぎた――いえ、結果的には良くなかった。私よりヒーローと親しくなった彼は、時々うちの教室までオルトを迎えに来る。放課後連れだって教室を出るのは、子猫に会いに行くため?
私だって猫を触りたかった。
ヒロインなのにジェラールには全く相手にされず、オルトも最近よそよそしい気がする。
こんなはずではなかったけれど、くよくよしている場合じゃない。
クロムとの距離を縮めて、仲間になろう!
「念のため、奥も見てみましょう」
いくら待っても受付には現れなかったので、閲覧スペースに移動する。木でできた長い机と椅子が並ぶ他、奥にはカフェにあるようなテーブルとソファが置かれていた。雰囲気があって快適なため、カップルに人気という噂だ。
――私は今まで使ったことがないけど、それが何か?
「あら、アリアじゃない。こんなところに来るなんて、珍しいわね」
ふいに声をかけられて、振り向く。
その途端、私は驚きに目を瞠る。
「会長! 隣は……な、なな、なんで?」
生徒会長のリヴィアーナと一緒にいるのは、探していた推しのクロムだ! 二人はカップルが好むソファに、並んで腰かけていた。
「……どうも」
クロムに軽く頭を下げられるが、挨拶を返すどころではない。
「お二人が……どうして?」
呆然としながら口にすると、リヴィアーナが肩をすくめた。
「どうしてって? 三年生は今日、講義が早く終わったの。それに借りたい本があるとかで、困っていらしたから。同じクラスですもの、協力するのは当然でしょう?」
紺色の長い髪に青い瞳の美人生徒会長が、アリアのいるべき席にいる。彼らが読んでいたのは、まさにアニメで見た、赤い革表紙の本だ!
「彼女の解説は見事でした。あなたも政治に興味があるのですね?」
クロムが眼鏡を外して質問する。
やはり整った、綺麗な顔!
でも、興味があるのは政治ではなく、敵のみんなだ。
「いえ、あの……」
どう答えようかと迷っていたところ、生徒会長のリヴィアーナが弾んだ声を出す。
「もしかして、わたくしを探しに来てくれたの? アリア、可愛い子ね。いいわ、こっちにいらっしゃい」
彼女が身体をずらして席を空けたため、私は思わず後ずさる。
リヴィアーナは三年生で、副会長のオルトと書記の私は二年生。会長は、生徒会の仕事中も私をあちこち撫で回す癖がある。髪や肩ならまだしも、頬や首、胸やお尻もまんべんなく。
『女同士ですもの、いいでしょう?』
いつもそう言い不思議そうな顔をするけれど、私は彼女が苦手だ。
『男性よりも女性にご興味が……?』
以前、思い切って聞いてみたところ、微妙な感じで笑われた。
クロムと二人きりにはなれないようだし、身の危険も感じるため、ここは一旦逃げて体勢を立て直そう。
「遠慮しておきます。ええーっと、探している本があるので、また今度!」
私は慌ててその場を後にした。
ただでさえ会長のリヴィアーナは美人で博識。しかも学園長の姪だ。生徒からの信頼も厚く、強力な水の魔法を得意としている。彼女がクロムの保証人となって知識を披露したなら、私の出る幕ではない。
「本来本を借りるのは、ヒロインの役目よね? どうして上手くいかないの?」
アニメの通りに振る舞うはずが、それすらできない。
だけど、こんなことでめげる私ではない。
推しを応援するため、次の策を考えよう!
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