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第一章 推しがクラスにやってきた
将軍家 ジェラール(裏)
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「くっくっく……」
俺――ジェラールの口から笑いが漏れた。
驚きに紫色の目を見開く様子が可愛くて、たまらない。わざと邪険に扱ったが、アリアと呼ばれる少女は、傷ついただろうか?
彼女は昨日学園を案内してくれた生徒で、ここにいるオルトとともに、生徒会の一員だという。桃色の髪に紫色の瞳という組み合わせは珍しく、本国にいる桃色のウサギを連想させた。
もちろん、隠れてこちらを伺っていたことも感じ取っていたし、木の陰からぴょこぴょこ顔を出す仕草は、森に住む動物みたいだ。あえて気づかないフリをし、顔を合わせた後も冷たく振る舞った。ショックを受けていたところを見ると、相当の猫好きらしい。追い払うような真似をして、悪いことをしたな。
「ジェラール、どうかした?」
「……いや。オルト、彼女が君の気になる存在?」
「へ? いや、ええっと、その……違う」
答えるまでに間が空いたが、どっちなのだろう?
昨日、寮の説明を手早く済ませたオルトは、談話室に行こうと俺達を誘った。彼は初対面でも物怖じしない性格らしく、我々を周りに紹介しようとする。だが、俺はまだしもあの方は……。
意図を汲んだクロムが、きっぱり断った。そのせいでシュンとなったオルトに、俺は慌てて話を振る。
「オルト……と、呼んでもいいかな? 俺はジェラールだ。よろしく」
握手をしようと手を差し出す。
嬉しそうに顔を輝かせる彼を見て、子犬みたいだと感じた。オルトは尻尾の代わりに、繋いだ手を元気よく上下に振る。
「もちろんだよ。ジェラール、君っていい人だね!」
オルトは中性的な顔立ちで、笑うと可愛い。れっきとした男性だし、俺にそんな趣味はない。どちらかといえば、彼と一緒にいたアリアの方が好みだ。
けれど俺達は、ここに友情を求めて来たわけではない。彼の注意を逸らそうと、俺はどうでもいい質問をする。
「いい人……かどうかは、判断基準が分かれるところだ。それよりオルト、君はモテそうだな。相手はいるのか?」
「相手って?」
不思議そうな顔のオルトに、ディオニスが微笑みながら補足した。
「付き合っている相手、のことだよ。何組かのカップルを見かけたから、学園で男女交際は禁止されてないんだろう? 恋人、と言えばいいかな?」
「こっ、恋人なんて……」
真っ赤な顔を見れば、まだだと容易にわかる。しかし、好きな相手はいるそうだ。特に興味はないが、聞いておけば何かの役に立つかもしれない。
「良ければ教えてくれないか? 女性……だよな」
「当たり前だろ!」
怒った表情はやはり子犬で、思わず目を細めた。「お手」と言いそうになる気持ちを抑え、俺は続きを促す。
「どんな人?」
「どんなって……素晴らしい人だよ。みんなのことを第一に考えているし、優しいし。同じ生徒会だけど、彼女は決して手を抜かない。僕はいつも怒られてばかりだ」
怒られているのに好きだとは。
彼は、変わった性癖の持ち主なのか?
「告白はしたの?」
ディオニスが面白そうに口を挟む。
恋に関することなら、彼の右に出る者はいない。
「まだだ。身分が違うし、僕は彼女に釣り合わない」
「身分、か……」
レヴィーが低く呟く。
従者の立場の彼は、歯がゆい思いをしているようだ。
「なるほど。身分を気にする方、ということですね? この国らしい……」
「違うよ! 彼女はきっと、そんなことは気にしない。だけど、周りが許さないんだ」
「そうですか」
クロムが眼鏡の位置を直しながら、軽く頷く。
この国の身分制度に関して、彼以上に憤っている者はいない。俺達は間違いを正すため、ここに留学してきたと言ってもいい。
「あのさ、僕の話はもういいよ。君達は? みんなカッコいいから、クラスの女子がすごかったよね。案内中も視線を感じたし。勢いに押され、呆れてなければいいけど……」
ため息をつくオルトを見ながら、俺は苦笑する。
「慣れている」と言ったら、偉そうに聞こえるだろうか?
本国でも目立たないように過ごしてきたつもりだが、気づけば訓練中にも人だかりができていた。それはみなも同じこと。特に公爵家のディオニスは親しみやすく、女性の人気が高い。
「呆れるなんて、とんでもない。可愛い子がたくさんいて、楽しく過ごせそうだよ」
そう答えるディオニスの横で、レヴィーが舌打ちする。オルトもさっきのアリアも、ディオニスとは同じクラスだ。早々に彼の虜となるか、それとも……。
「これから、仲良くしてくれると嬉しい」
「僕も! よろしく」
満面の笑みで答えるオルトに、胸が痛む。
ここに来た真の目的を明かせない自分が、つらかった。
俺――ジェラールの口から笑いが漏れた。
驚きに紫色の目を見開く様子が可愛くて、たまらない。わざと邪険に扱ったが、アリアと呼ばれる少女は、傷ついただろうか?
彼女は昨日学園を案内してくれた生徒で、ここにいるオルトとともに、生徒会の一員だという。桃色の髪に紫色の瞳という組み合わせは珍しく、本国にいる桃色のウサギを連想させた。
もちろん、隠れてこちらを伺っていたことも感じ取っていたし、木の陰からぴょこぴょこ顔を出す仕草は、森に住む動物みたいだ。あえて気づかないフリをし、顔を合わせた後も冷たく振る舞った。ショックを受けていたところを見ると、相当の猫好きらしい。追い払うような真似をして、悪いことをしたな。
「ジェラール、どうかした?」
「……いや。オルト、彼女が君の気になる存在?」
「へ? いや、ええっと、その……違う」
答えるまでに間が空いたが、どっちなのだろう?
昨日、寮の説明を手早く済ませたオルトは、談話室に行こうと俺達を誘った。彼は初対面でも物怖じしない性格らしく、我々を周りに紹介しようとする。だが、俺はまだしもあの方は……。
意図を汲んだクロムが、きっぱり断った。そのせいでシュンとなったオルトに、俺は慌てて話を振る。
「オルト……と、呼んでもいいかな? 俺はジェラールだ。よろしく」
握手をしようと手を差し出す。
嬉しそうに顔を輝かせる彼を見て、子犬みたいだと感じた。オルトは尻尾の代わりに、繋いだ手を元気よく上下に振る。
「もちろんだよ。ジェラール、君っていい人だね!」
オルトは中性的な顔立ちで、笑うと可愛い。れっきとした男性だし、俺にそんな趣味はない。どちらかといえば、彼と一緒にいたアリアの方が好みだ。
けれど俺達は、ここに友情を求めて来たわけではない。彼の注意を逸らそうと、俺はどうでもいい質問をする。
「いい人……かどうかは、判断基準が分かれるところだ。それよりオルト、君はモテそうだな。相手はいるのか?」
「相手って?」
不思議そうな顔のオルトに、ディオニスが微笑みながら補足した。
「付き合っている相手、のことだよ。何組かのカップルを見かけたから、学園で男女交際は禁止されてないんだろう? 恋人、と言えばいいかな?」
「こっ、恋人なんて……」
真っ赤な顔を見れば、まだだと容易にわかる。しかし、好きな相手はいるそうだ。特に興味はないが、聞いておけば何かの役に立つかもしれない。
「良ければ教えてくれないか? 女性……だよな」
「当たり前だろ!」
怒った表情はやはり子犬で、思わず目を細めた。「お手」と言いそうになる気持ちを抑え、俺は続きを促す。
「どんな人?」
「どんなって……素晴らしい人だよ。みんなのことを第一に考えているし、優しいし。同じ生徒会だけど、彼女は決して手を抜かない。僕はいつも怒られてばかりだ」
怒られているのに好きだとは。
彼は、変わった性癖の持ち主なのか?
「告白はしたの?」
ディオニスが面白そうに口を挟む。
恋に関することなら、彼の右に出る者はいない。
「まだだ。身分が違うし、僕は彼女に釣り合わない」
「身分、か……」
レヴィーが低く呟く。
従者の立場の彼は、歯がゆい思いをしているようだ。
「なるほど。身分を気にする方、ということですね? この国らしい……」
「違うよ! 彼女はきっと、そんなことは気にしない。だけど、周りが許さないんだ」
「そうですか」
クロムが眼鏡の位置を直しながら、軽く頷く。
この国の身分制度に関して、彼以上に憤っている者はいない。俺達は間違いを正すため、ここに留学してきたと言ってもいい。
「あのさ、僕の話はもういいよ。君達は? みんなカッコいいから、クラスの女子がすごかったよね。案内中も視線を感じたし。勢いに押され、呆れてなければいいけど……」
ため息をつくオルトを見ながら、俺は苦笑する。
「慣れている」と言ったら、偉そうに聞こえるだろうか?
本国でも目立たないように過ごしてきたつもりだが、気づけば訓練中にも人だかりができていた。それはみなも同じこと。特に公爵家のディオニスは親しみやすく、女性の人気が高い。
「呆れるなんて、とんでもない。可愛い子がたくさんいて、楽しく過ごせそうだよ」
そう答えるディオニスの横で、レヴィーが舌打ちする。オルトもさっきのアリアも、ディオニスとは同じクラスだ。早々に彼の虜となるか、それとも……。
「これから、仲良くしてくれると嬉しい」
「僕も! よろしく」
満面の笑みで答えるオルトに、胸が痛む。
ここに来た真の目的を明かせない自分が、つらかった。
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