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ウィルが助けに来てくれました
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びっくりして顔を上げると、さっきまで横たわっていたはずのウィルが私に微笑んでいた。
「一体・・・どういうことだ・・・。」
さすがにうろたえた様子のレオン王子が、つい先ほどとは打って変わってか弱い声を上げた。
「安全装置です。殿下。クルールには全て、安全装置が付いているのです。」
ウィルは私が泣き止んだのを確認すると、立ち上がってレオン王子の方を向いた。
安全装置・・・。たしかに公爵と当初そういった魔法を掛ける案も出ていたけど、没になったはずなのに。
「安全装置だと?」
レオン王子が聞き返すとウィルは得意げな顔で答えた。
「そうです。実は、トゥリアヌス公爵に半年前にお願いされていたのです。
このクルールに対し、安全装置になるような魔力を探してほしいとね。」
相当苦労しましたが、とウィルは付け加えてから話の続きを始めた。
「この国の東の森のはずれに、古びた教会が有ります。その教会で造られる聖水をアリスの毒薬に混ぜると、
毒の効果が半減するのです。一瞬失神しますが、聖水の浄化の力が働くので死には至らないのです。」
そんな話、全く知らなかった。
ただ、最初貴族向けに高額な価格を設定したクルールを売らず、中流階級から平民向けを対象にした水で薄めた3週間程度しか持たないクルールのみを販売しているのを不思議には思っていた。
そうか、水で薄めると髪色を保つ効果も半減するけど、聖水を混ぜればそれに加えて毒の効果も半減するのね。
それにしても、まさかあの公爵がウィルにそんなお願いをしていたなんて。
そしてウィルはウィルで、半年前からずっと、私の状況を知っていたんだ。
あっさり喋ってしまったのねと思いながらトゥリアヌス公爵の方を見ると、相変わらず表情は無機質だったが、少しほっとしたような顔になっている気がした。
ウィルに公爵が話してくれていたおかげで私は助かったのね。
ウィルの口から語られる真実に、あらゆる面で驚いていた。
それは、レオン王子も同じだったようで。
ウィルの話をそこまで聞いたレオン王子が後ずさりした。
それを見たウィルがとどめを刺すように言った。
「これが、この処罰が不当と申し上げる理由です。
クルールは万が一誤って飲んだ場合でも、毒としての効果は浄化されるようできているからです。」
「レオン様・・・。」
いつの間にか断頭台に上がってきていたメイが、ふらつくレオン王子の体を支えた。
それを見てなんとなく、ようやく終わったのだと思った。
メイがレオン王子を支えたまま、視線だけ私を捉え、そして睨んだ。
「アリス、あんたやってくれたわね。覚えてなさい。」
まるで悪役令嬢みたいな事を言うメイに、思わず身体が強張った。
でもそんな私を庇うようにウィルが立ち、私の代わりにメイを睨み返した。
「レオン王子も、メイ、君も。今回の事は恐らく国王陛下の耳に入り次第、厳しく処罰されるだろう。
特にメイ、君のみんなを洗脳した罪は軽く済まされるものではないよ。」
「せ、洗脳?メイが、俺たちを・・・?」
ウィルから告げられた真実を聞いたレオン王子がふらつく身体を支えるメイの腕を振り払って、メイを見つめた。
私は私で、ウィルのその言葉を聞いてこの場に国王陛下がいないことを思い出した。
そうだった。国王陛下が不在の隙を狙って、レオン王子独断でした処刑だった。
もちろん、それを裏で操っていたのはメイだけど。
メイの方を見ると、崩れ落ちるようにしてその場に座り込んでいた。
「どうして・・・あたしがヒロインなのに・・・どうしてなの・・・・。」
そうブツブツ呟く声は、周りからしたら不気味でしかないだろう。
同じく転生者である私にしか意味が分からないのだから。
ウィルの言う通り、このまま私が生き延びて今回の事を国王陛下に報告すれば、二人とも冤罪で公爵家の令嬢を処刑しようとしたことになり、かなりの罪になるはずだ。
つまり、もう既に物語としては破綻しているのだ。
それに気が付いた時、やたら小説にこだわっていたのは他でもない自分自身だと気が付いた。
私は最初から、小説に囚われていたわけではなかったのね。
そう思ったら、目の前にいるメイも怖くはなくなった。
強張った身体が、氷が解けるようにやわらいでいった。
そして、悔しそうな表情をしているメイに言い放った。
「メイ。ここでは私、幸せにならせてもらうわ!」
後の事をトゥリアヌス公爵に任せ、私はウィルの腕を掴み走り出した。
この場所には1秒だっていたくないし、何より、伝えたいことがある。
「待ちなさい!アリス!!!!」
我に返ったように叫ぶメイを、公爵家の騎士たちが取り押さえた。
レオン王子の方をちらっと見ると、メイとは真逆で、暴れたり叫んだりせずただ呆然としていた。
少しメイの洗脳が解けてきているのだろうか。
それとも、愛していた女に洗脳魔法を掛けられていたのがショックなのだろうか。
まあ、でも、もうそんなの関係ない。
叫んでいるメイの声には一切耳を貸さず、ただウィルの腕を引いて私たちは走った。
「一体・・・どういうことだ・・・。」
さすがにうろたえた様子のレオン王子が、つい先ほどとは打って変わってか弱い声を上げた。
「安全装置です。殿下。クルールには全て、安全装置が付いているのです。」
ウィルは私が泣き止んだのを確認すると、立ち上がってレオン王子の方を向いた。
安全装置・・・。たしかに公爵と当初そういった魔法を掛ける案も出ていたけど、没になったはずなのに。
「安全装置だと?」
レオン王子が聞き返すとウィルは得意げな顔で答えた。
「そうです。実は、トゥリアヌス公爵に半年前にお願いされていたのです。
このクルールに対し、安全装置になるような魔力を探してほしいとね。」
相当苦労しましたが、とウィルは付け加えてから話の続きを始めた。
「この国の東の森のはずれに、古びた教会が有ります。その教会で造られる聖水をアリスの毒薬に混ぜると、
毒の効果が半減するのです。一瞬失神しますが、聖水の浄化の力が働くので死には至らないのです。」
そんな話、全く知らなかった。
ただ、最初貴族向けに高額な価格を設定したクルールを売らず、中流階級から平民向けを対象にした水で薄めた3週間程度しか持たないクルールのみを販売しているのを不思議には思っていた。
そうか、水で薄めると髪色を保つ効果も半減するけど、聖水を混ぜればそれに加えて毒の効果も半減するのね。
それにしても、まさかあの公爵がウィルにそんなお願いをしていたなんて。
そしてウィルはウィルで、半年前からずっと、私の状況を知っていたんだ。
あっさり喋ってしまったのねと思いながらトゥリアヌス公爵の方を見ると、相変わらず表情は無機質だったが、少しほっとしたような顔になっている気がした。
ウィルに公爵が話してくれていたおかげで私は助かったのね。
ウィルの口から語られる真実に、あらゆる面で驚いていた。
それは、レオン王子も同じだったようで。
ウィルの話をそこまで聞いたレオン王子が後ずさりした。
それを見たウィルがとどめを刺すように言った。
「これが、この処罰が不当と申し上げる理由です。
クルールは万が一誤って飲んだ場合でも、毒としての効果は浄化されるようできているからです。」
「レオン様・・・。」
いつの間にか断頭台に上がってきていたメイが、ふらつくレオン王子の体を支えた。
それを見てなんとなく、ようやく終わったのだと思った。
メイがレオン王子を支えたまま、視線だけ私を捉え、そして睨んだ。
「アリス、あんたやってくれたわね。覚えてなさい。」
まるで悪役令嬢みたいな事を言うメイに、思わず身体が強張った。
でもそんな私を庇うようにウィルが立ち、私の代わりにメイを睨み返した。
「レオン王子も、メイ、君も。今回の事は恐らく国王陛下の耳に入り次第、厳しく処罰されるだろう。
特にメイ、君のみんなを洗脳した罪は軽く済まされるものではないよ。」
「せ、洗脳?メイが、俺たちを・・・?」
ウィルから告げられた真実を聞いたレオン王子がふらつく身体を支えるメイの腕を振り払って、メイを見つめた。
私は私で、ウィルのその言葉を聞いてこの場に国王陛下がいないことを思い出した。
そうだった。国王陛下が不在の隙を狙って、レオン王子独断でした処刑だった。
もちろん、それを裏で操っていたのはメイだけど。
メイの方を見ると、崩れ落ちるようにしてその場に座り込んでいた。
「どうして・・・あたしがヒロインなのに・・・どうしてなの・・・・。」
そうブツブツ呟く声は、周りからしたら不気味でしかないだろう。
同じく転生者である私にしか意味が分からないのだから。
ウィルの言う通り、このまま私が生き延びて今回の事を国王陛下に報告すれば、二人とも冤罪で公爵家の令嬢を処刑しようとしたことになり、かなりの罪になるはずだ。
つまり、もう既に物語としては破綻しているのだ。
それに気が付いた時、やたら小説にこだわっていたのは他でもない自分自身だと気が付いた。
私は最初から、小説に囚われていたわけではなかったのね。
そう思ったら、目の前にいるメイも怖くはなくなった。
強張った身体が、氷が解けるようにやわらいでいった。
そして、悔しそうな表情をしているメイに言い放った。
「メイ。ここでは私、幸せにならせてもらうわ!」
後の事をトゥリアヌス公爵に任せ、私はウィルの腕を掴み走り出した。
この場所には1秒だっていたくないし、何より、伝えたいことがある。
「待ちなさい!アリス!!!!」
我に返ったように叫ぶメイを、公爵家の騎士たちが取り押さえた。
レオン王子の方をちらっと見ると、メイとは真逆で、暴れたり叫んだりせずただ呆然としていた。
少しメイの洗脳が解けてきているのだろうか。
それとも、愛していた女に洗脳魔法を掛けられていたのがショックなのだろうか。
まあ、でも、もうそんなの関係ない。
叫んでいるメイの声には一切耳を貸さず、ただウィルの腕を引いて私たちは走った。
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