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プロローグ
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「貴方を元の世界に帰す方法が見つかった。」
神妙な面持ちで僕にそう言った老人は、この国では大賢者と呼ばれる偉大な人物だった。
しかし本来は誰からも崇めたてられ尊敬されるべき筈の老人は、今ではつま弾き者として扱われている。
全ては僕のせいで…。
人々を守る為に異世界から召喚された神子、そのオマケとして何の意味もなくこの世界に召喚された人間である僕は、この国では邪魔な存在でしかなく人々に…、取り分け神子の周囲の人達からはひどく邪険に扱われた。
老人は何の意味もなくこの世界に引き込まれた僕にひどく同情的で、僕がこの世界で過ごしやすいように気に掛けてくれていた。
それだけではなく、様々な国から取り寄せた文献を寝る間を惜しんで調べたり、時には魔物の蔓延る危険な街道を抜けて他国に赴き、僕を元の世界に戻す方法を探してくれていたらしい。
役立たずの為に尽くすなんて大賢者は気が狂っただなんて陰口を叩かれても彼が僕を見捨てることはなかった。
そこまでして元の世界に帰る方法を探してくれた老人には感謝の気持ちしかない。
彼の目の下に出来た濃い隈は、老人のこれまでの苦労を想像させるには十分な物で彼の想いを無下にするなんて出来ないと強く思わせた。
それなのに僕は老人の言葉には頷くことは出来なかった…。
僕が何の返事もせずに目線を落とすことしかできずにいるのは、この辛い世界にどうしても留まりたい理由があったからだ。
この世界で僕は誰にも必要とされなかった…。
でも、僕を保護してくれたこの国の騎士である彼だけは僕が大切だと、必要だと言ってくれた。
長い時間をかけて彼の優しさに触れた僕はしだいに彼を愛するようになっていた。
その気持ちは今さら彼のいない世界を選ぶことはできない程に強くなっていた。
だから元の世界に帰してくれると言う大賢者の申し出を断り、僕はこの世界に残る事を選んだ。
それでも大賢者は僕を元の世界帰そうと時間を空けては僕の元を訪れ帰郷を促し続けた。
「貴方はやはり元の世界に帰るべきだ。」
あれから数ヵ月後、再び僕の元へやってきた大賢者にそう言われた時、僕はその方が良いかもしれないとうっすら考えるようになっていた。
あんなに僕に愛してると言ってくれた彼は、今は僕とこの世界に来た神子と呼ばれる少年に夢中で、僕の待つ部屋に帰る事はなくなっていた。
でも少年は彼だけではなく、この国の王子様や、宰相、有力貴族にも気のある素振りを見せていたから、少年が騎士の事さえ選ばなければ、いずれは僕の所に帰って来てくれるんじゃないかと淡い期待を胸に抱いて、僕はやっぱり元の世界に帰ることを選べなかった。
「貴方は元の世界に帰るべきだ。」
三度目に老人にそう言われた時、僕はその通りだ、元の世界に帰らなくてはいけないと思うようになっていた。
結局少年は騎士の事を選んだ。
他の皆が悔しがる中、幸せそうに微笑み合う二人を僕は部屋の窓から暗い気持ちで見つめることしかできないでいた。
彼は二度と僕の元には帰って来ない。
それなのに何故自分はこの世界に居続けなくてはいけないのだろう…。いくら考えても、理由なんて1つも思いつかなかった。
この頃はどれだけ待っても帰って来ない彼の事を考えるのは止めて、元の世界に残してきた家族や友人のことばかりを毎日考えていた。
あの世界でも僕は特に優れたところのない、ただの平凡な高校生だったけれど、少なくとも両親には愛されていたし、友人にだって恵まれていた。
元の世界が恋しい、家族や友人に会って、心配をかけたことを謝りたい。
この世界に留まる理由を失った僕はとうとう大賢者の提案に頷き、元の世界に帰ることを選んだ。
神妙な面持ちで僕にそう言った老人は、この国では大賢者と呼ばれる偉大な人物だった。
しかし本来は誰からも崇めたてられ尊敬されるべき筈の老人は、今ではつま弾き者として扱われている。
全ては僕のせいで…。
人々を守る為に異世界から召喚された神子、そのオマケとして何の意味もなくこの世界に召喚された人間である僕は、この国では邪魔な存在でしかなく人々に…、取り分け神子の周囲の人達からはひどく邪険に扱われた。
老人は何の意味もなくこの世界に引き込まれた僕にひどく同情的で、僕がこの世界で過ごしやすいように気に掛けてくれていた。
それだけではなく、様々な国から取り寄せた文献を寝る間を惜しんで調べたり、時には魔物の蔓延る危険な街道を抜けて他国に赴き、僕を元の世界に戻す方法を探してくれていたらしい。
役立たずの為に尽くすなんて大賢者は気が狂っただなんて陰口を叩かれても彼が僕を見捨てることはなかった。
そこまでして元の世界に帰る方法を探してくれた老人には感謝の気持ちしかない。
彼の目の下に出来た濃い隈は、老人のこれまでの苦労を想像させるには十分な物で彼の想いを無下にするなんて出来ないと強く思わせた。
それなのに僕は老人の言葉には頷くことは出来なかった…。
僕が何の返事もせずに目線を落とすことしかできずにいるのは、この辛い世界にどうしても留まりたい理由があったからだ。
この世界で僕は誰にも必要とされなかった…。
でも、僕を保護してくれたこの国の騎士である彼だけは僕が大切だと、必要だと言ってくれた。
長い時間をかけて彼の優しさに触れた僕はしだいに彼を愛するようになっていた。
その気持ちは今さら彼のいない世界を選ぶことはできない程に強くなっていた。
だから元の世界に帰してくれると言う大賢者の申し出を断り、僕はこの世界に残る事を選んだ。
それでも大賢者は僕を元の世界帰そうと時間を空けては僕の元を訪れ帰郷を促し続けた。
「貴方はやはり元の世界に帰るべきだ。」
あれから数ヵ月後、再び僕の元へやってきた大賢者にそう言われた時、僕はその方が良いかもしれないとうっすら考えるようになっていた。
あんなに僕に愛してると言ってくれた彼は、今は僕とこの世界に来た神子と呼ばれる少年に夢中で、僕の待つ部屋に帰る事はなくなっていた。
でも少年は彼だけではなく、この国の王子様や、宰相、有力貴族にも気のある素振りを見せていたから、少年が騎士の事さえ選ばなければ、いずれは僕の所に帰って来てくれるんじゃないかと淡い期待を胸に抱いて、僕はやっぱり元の世界に帰ることを選べなかった。
「貴方は元の世界に帰るべきだ。」
三度目に老人にそう言われた時、僕はその通りだ、元の世界に帰らなくてはいけないと思うようになっていた。
結局少年は騎士の事を選んだ。
他の皆が悔しがる中、幸せそうに微笑み合う二人を僕は部屋の窓から暗い気持ちで見つめることしかできないでいた。
彼は二度と僕の元には帰って来ない。
それなのに何故自分はこの世界に居続けなくてはいけないのだろう…。いくら考えても、理由なんて1つも思いつかなかった。
この頃はどれだけ待っても帰って来ない彼の事を考えるのは止めて、元の世界に残してきた家族や友人のことばかりを毎日考えていた。
あの世界でも僕は特に優れたところのない、ただの平凡な高校生だったけれど、少なくとも両親には愛されていたし、友人にだって恵まれていた。
元の世界が恋しい、家族や友人に会って、心配をかけたことを謝りたい。
この世界に留まる理由を失った僕はとうとう大賢者の提案に頷き、元の世界に帰ることを選んだ。
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