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ゴールデンウィークに入ると生徒達のほとんどは、一斉に帰省をする。
旅行や純粋に家族と過ごす為に帰省する生徒もいるが、大和に聞いた話では殆んどが親元で会社の手伝いの為に帰省するのだそうだ。
人脈を繋ぐ為のパーティーにも参加したりと、長期休憩中は結構忙しく過ごすらしい。
庶民の僕には別世界のような話だ。
蘭は学生の内から仕事ばかりでは遊べない彼等は可哀想だと言う。でも僕には学生の内から責任ある仕事を任されている彼等は素直に格好良いと思えた。
いつもは騒がしい寮内も今日は閑散としている。
まばらにしか人のいない寮内はとても静かで過ごしやすく、僕は騒がしさから、すっかり足の遠退いていたカフェで読書をすることにした。
いつもは人が多く騒がしいカフェも今日は静寂に包まれており、読書には最適な場所に思えたからだ。
南仏風のカフェは太陽の光が入るように設計されており、大きな窓から見える木々の緑が目に優しい。
僕はなるべくオープンテラスに近い席に座ると、文庫本に挟んでいた栞を抜き、本を読み進めた。
爽やかな風が時折吹いて凄く心地良い、こんな風に落ち着いて過ごすのは久しぶりだ。
夜はいつも蘭が部屋に友人を連れ込むからなんだか落ち着かないし、その蘭ともこの間から険悪な雰囲気で、顔を合わせると文句を言われるからずっと避けていた。
「お待たせ致しました。」
注文していたミルクティーとパウンドケーキが僕の目の前に置かれる。ミルクティーは目の前でウェイターさんが入れてくれた。
何だか凄く贅沢をしている気になって自然と微笑んでしまう。
「ありがとうございます。」
僕がそうお礼を言うと、ウェイターさんは少しだけ目を開いた後に微笑んで「ごゆっくりどうぞ」と声を掛けてくれた。
ミルクティーを飲んでホッと一息付く、ここ最近の張り詰めていたものが解れていくような気がした。
こんな穏やかな時間を過ごすのは久しぶりだ。最近は自室ですら蘭の気配がすると落ち着けない場所になってしまった。
パウンドケーキにも手を伸ばす。オレンジピールが入っていて酸味が効いており、甘すぎない爽やかな味がする。
今度、気分転換にパウンドケーキを作るのも良いかもしれない。
オレンジピールやドライフルーツが入ったおしゃれなのも良いけど、僕は断然小豆や抹茶といった和風のパウンドケーキの方が好きだ。
帰りにスーパーに寄って製菓食材がないか見てみよう。
そんなことを考えていると、急に目の前に影が落ち、
対面の椅子が引かれ、誰かが僕の向かいに座った。
驚いて顔を上げると、そこにはずっと会いたいと思っていた顔が此方を見て微笑んでいた。
「晋!」
「久しぶり、上手そうなもん喰ってるな。」
驚く僕の頬をさらりと撫でると晋は顔を近付ける。
「相変わらず可愛い顔してんね。」
「…晋は相変わらず目が悪いよ。可愛くなんてない…。」
「可愛いよ、カスミはすっげえ可愛い。」
「………。」
熱っぽい視線を感じて下を向くと、そんな態度すら可愛いと言われた。
「ねぇ、晋ずっと見掛けなかったけど学校を休んでたの?」
話を反らすように話題を変える。
「いや、ずっと来てたぜ。俺はEクラスだからな、校舎が違うから会えなかったんだろ。」
「…やっぱり晋はEクラスなんだ…。」
Eクラスのひどい噂が頭を過る。
「色々聞いたみたいだな、…怖いか?」
「…晋のことは怖くないけど…、Eクラスはちょっと恐い…。」
正直に答えると晋は嬉しそうな顔をした。
「怖いことなんか何にもねぇよ。」
安心させるかのように髪を優しく撫でられる。
「中々会いに来なくて悪かったな、掃除に手間取っちまってな。」
「掃除?」
「あぁ、カスミを安心してこっちの校舎に呼べるように色々片付けてた。」
「そうなんだ、ありがとう。でも別に汚れてたって気にしないよ?」
「俺が嫌なの、汚いところにカスミを連れて行きたくない。……もう片付けは済んだからいつでもこっちに来いよ。」
「うん!」
晋に誘われて嬉しくなる。やっぱり晋は僕を友達だと思ってくれてるんだ。
「なんならこれから行くかねぇ?俺の部屋にも案内する。」
「良いの?行きたい!?」
友達の部屋に招待されるのなんて久しぶりだ。浮かれる気持ちを押さえきれずに晋の手をつい握ってしまうと、その手を強い力で握り返された。
「そんなに俺の部屋に行けるのが嬉しい?」
真剣な眼差しで問われて戸惑う。
「う、うん。」
「ふ~ん」
晋はニヤリと笑うと立ち上がり、僕の手を引いて立ち上がらせた。
「行こうぜ、早く二人きりになりたい。」
晋の嬉しそうな様子になんで?とは問えなかった。
強引な力で手を引かれて少しだけ怖くなるが、晋がひどいことをする訳がないと思い直し、大人しく付いて行く。
遠くの方で、月岡先輩の神崎には気を付けろと言う声が聞こえたような気がした。
旅行や純粋に家族と過ごす為に帰省する生徒もいるが、大和に聞いた話では殆んどが親元で会社の手伝いの為に帰省するのだそうだ。
人脈を繋ぐ為のパーティーにも参加したりと、長期休憩中は結構忙しく過ごすらしい。
庶民の僕には別世界のような話だ。
蘭は学生の内から仕事ばかりでは遊べない彼等は可哀想だと言う。でも僕には学生の内から責任ある仕事を任されている彼等は素直に格好良いと思えた。
いつもは騒がしい寮内も今日は閑散としている。
まばらにしか人のいない寮内はとても静かで過ごしやすく、僕は騒がしさから、すっかり足の遠退いていたカフェで読書をすることにした。
いつもは人が多く騒がしいカフェも今日は静寂に包まれており、読書には最適な場所に思えたからだ。
南仏風のカフェは太陽の光が入るように設計されており、大きな窓から見える木々の緑が目に優しい。
僕はなるべくオープンテラスに近い席に座ると、文庫本に挟んでいた栞を抜き、本を読み進めた。
爽やかな風が時折吹いて凄く心地良い、こんな風に落ち着いて過ごすのは久しぶりだ。
夜はいつも蘭が部屋に友人を連れ込むからなんだか落ち着かないし、その蘭ともこの間から険悪な雰囲気で、顔を合わせると文句を言われるからずっと避けていた。
「お待たせ致しました。」
注文していたミルクティーとパウンドケーキが僕の目の前に置かれる。ミルクティーは目の前でウェイターさんが入れてくれた。
何だか凄く贅沢をしている気になって自然と微笑んでしまう。
「ありがとうございます。」
僕がそうお礼を言うと、ウェイターさんは少しだけ目を開いた後に微笑んで「ごゆっくりどうぞ」と声を掛けてくれた。
ミルクティーを飲んでホッと一息付く、ここ最近の張り詰めていたものが解れていくような気がした。
こんな穏やかな時間を過ごすのは久しぶりだ。最近は自室ですら蘭の気配がすると落ち着けない場所になってしまった。
パウンドケーキにも手を伸ばす。オレンジピールが入っていて酸味が効いており、甘すぎない爽やかな味がする。
今度、気分転換にパウンドケーキを作るのも良いかもしれない。
オレンジピールやドライフルーツが入ったおしゃれなのも良いけど、僕は断然小豆や抹茶といった和風のパウンドケーキの方が好きだ。
帰りにスーパーに寄って製菓食材がないか見てみよう。
そんなことを考えていると、急に目の前に影が落ち、
対面の椅子が引かれ、誰かが僕の向かいに座った。
驚いて顔を上げると、そこにはずっと会いたいと思っていた顔が此方を見て微笑んでいた。
「晋!」
「久しぶり、上手そうなもん喰ってるな。」
驚く僕の頬をさらりと撫でると晋は顔を近付ける。
「相変わらず可愛い顔してんね。」
「…晋は相変わらず目が悪いよ。可愛くなんてない…。」
「可愛いよ、カスミはすっげえ可愛い。」
「………。」
熱っぽい視線を感じて下を向くと、そんな態度すら可愛いと言われた。
「ねぇ、晋ずっと見掛けなかったけど学校を休んでたの?」
話を反らすように話題を変える。
「いや、ずっと来てたぜ。俺はEクラスだからな、校舎が違うから会えなかったんだろ。」
「…やっぱり晋はEクラスなんだ…。」
Eクラスのひどい噂が頭を過る。
「色々聞いたみたいだな、…怖いか?」
「…晋のことは怖くないけど…、Eクラスはちょっと恐い…。」
正直に答えると晋は嬉しそうな顔をした。
「怖いことなんか何にもねぇよ。」
安心させるかのように髪を優しく撫でられる。
「中々会いに来なくて悪かったな、掃除に手間取っちまってな。」
「掃除?」
「あぁ、カスミを安心してこっちの校舎に呼べるように色々片付けてた。」
「そうなんだ、ありがとう。でも別に汚れてたって気にしないよ?」
「俺が嫌なの、汚いところにカスミを連れて行きたくない。……もう片付けは済んだからいつでもこっちに来いよ。」
「うん!」
晋に誘われて嬉しくなる。やっぱり晋は僕を友達だと思ってくれてるんだ。
「なんならこれから行くかねぇ?俺の部屋にも案内する。」
「良いの?行きたい!?」
友達の部屋に招待されるのなんて久しぶりだ。浮かれる気持ちを押さえきれずに晋の手をつい握ってしまうと、その手を強い力で握り返された。
「そんなに俺の部屋に行けるのが嬉しい?」
真剣な眼差しで問われて戸惑う。
「う、うん。」
「ふ~ん」
晋はニヤリと笑うと立ち上がり、僕の手を引いて立ち上がらせた。
「行こうぜ、早く二人きりになりたい。」
晋の嬉しそうな様子になんで?とは問えなかった。
強引な力で手を引かれて少しだけ怖くなるが、晋がひどいことをする訳がないと思い直し、大人しく付いて行く。
遠くの方で、月岡先輩の神崎には気を付けろと言う声が聞こえたような気がした。
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