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今時の友人同士は挨拶変わりに頬にキスをするのが普通なのだろうか……?
左の頬を押さえ、晋が出て行った扉を眺めつつ僕はそんな馬鹿げたことを考えていた。
そんな訳はないとはわかっている。これまでそんな光景には出くわしたことがないし、友人達からもそんな挨拶をされたことはなかった。
やはりあれは鶫原学園特有のものだろう…。
先輩が帰る時にこっそり蘭にあの挨拶をするのか見てみようかな…。
「何してるの?」
「!!」
そんなことばかり考えていると直ぐ背後から声を掛けられた。
「何玄関で固まってるの、早く中に入れば?」
そこにいたのは月岡先輩だった。
中々部屋に入らない僕の様子を、何故か蘭ではなく先輩が見にきたらしい。
「すっすいません。」
慌てて距離をとり、買ってきた荷物をかき集めた。
先輩の目線から逃れるようにそのままキッチンに向かおうとする僕に再び声が掛けられた。
「さっき君を送ってきたの神崎晋だよね、知り合い?」
(先輩、晋のこと知ってるんだ…)
「さっき知り合いました。ここまで荷物を運んでくれて…」
「神崎が荷物を?」
意外そうに目を見開かれる。
「はい、あんまり荷物が多かったから見るに見兼ねたみたいで、ここまで運ぶのを手伝ってくれたんです。」
「見るに見兼ねて?…あいつはそんな親切心で動くような男じゃないよ、…君、神崎に何をしたの?」
探るような目で見られると居心地が悪い……。まるで疑われているような気になる。
「何もしてません…。」
「そう?でもキスはしてたよね。」
(うそ!見られてた!)
頬とはいえ、他人にキスシーンを見られていたことに羞恥心が高まる。
首や耳にまで熱を感じ、自分の全身が赤く染まっていくのがわかった。
あまりの恥ずかしさに下を向いていると、顎を取られて強引に顔を上げさせられた。
「ふぅん?地味だと思ってたけどそういう顔はちょっと良いね、神崎もこれが気に入ったのかな。」
先輩は薄く笑みを浮かべ、僕の顔を探るように嘗め回すようにじっとりと見つめてきた。
他人にそんな風に見られたことなんて無い。混乱と恐怖からじんわりと涙が浮かんでくる。
その時
「先輩ー?何やってんの、カスミも帰ってきたんだろ。こっち来いよ!」
リビングから蘭の呑気な声が聞こえてきた。
「………。」
少しの沈黙の後、先輩はあっさりと僕から離れた。
「神崎は問題児だから気をつけた方が良いよ、なるべく関わらないことだね。…それとくれぐれも蘭にとばっちりがこないように注意してね。」
そう忠告するとリビングに戻っていった。僕もはやる鼓動を抑え、ギクシャクと強ばる身体を動かして遅れてリビングへ向かう…。
「カスミ遅かったな!」
リビングに入ると直ぐに蘭から声を掛けられる。既に先輩はソファーに座り、さっきとはうって変わった爽やかな笑顔で蘭と話をしていた。
「ちょっと買い込んじゃって…、お茶入れてくるね。」
「おう!」
僕はキッチンに逃げるように駆け込むと手早く二人分のお茶を入れ蘭と先輩に出した。
「なんで二人分?カスミも一緒にしゃべろうぜ!」
冗談じゃない。こんな怖い先輩にはなるべく近づきたくないし、邪魔者扱いされるのもごめんだった。
「ごめん、なんか疲れちゃって…、今日はもう部屋で休むよ。」
「まじで、大丈夫かよ?」
蘭が僕の首筋に触れてくる。「んっ、」どうやら熱を測ってくれているようだがくすぐったがりの僕は思わず身を捩ってしまう。
「熱はないみたいだな」
「大丈夫だよ、本当に疲れてるだけだから…。」
「でもカスミ、疲れるとすぐに熱出すじゃん。」
尚も心配され、全身をペタペタと触られる。
「……君達は本当に仲が良いんだね。」
先輩が意味深な目線を僕たちに送る。もしかしたら嫉妬しているのかもしれない、蘭のことを随分と気に入っているようだから…。
「おう!双子だからな!」
先輩は蘭が嬉しそうに答えるのを微笑ましそうに見た後、僕に向き直り「今日は早く休んだ方が良いかもね」と声を掛けてきた。
早く蘭と二人きりになりたかったのかもしれない…。
「はい、先に休ませて頂きます。先輩はゆっくりしていってください」
心にもない言葉を口にして僕は自室へと退散した。
左の頬を押さえ、晋が出て行った扉を眺めつつ僕はそんな馬鹿げたことを考えていた。
そんな訳はないとはわかっている。これまでそんな光景には出くわしたことがないし、友人達からもそんな挨拶をされたことはなかった。
やはりあれは鶫原学園特有のものだろう…。
先輩が帰る時にこっそり蘭にあの挨拶をするのか見てみようかな…。
「何してるの?」
「!!」
そんなことばかり考えていると直ぐ背後から声を掛けられた。
「何玄関で固まってるの、早く中に入れば?」
そこにいたのは月岡先輩だった。
中々部屋に入らない僕の様子を、何故か蘭ではなく先輩が見にきたらしい。
「すっすいません。」
慌てて距離をとり、買ってきた荷物をかき集めた。
先輩の目線から逃れるようにそのままキッチンに向かおうとする僕に再び声が掛けられた。
「さっき君を送ってきたの神崎晋だよね、知り合い?」
(先輩、晋のこと知ってるんだ…)
「さっき知り合いました。ここまで荷物を運んでくれて…」
「神崎が荷物を?」
意外そうに目を見開かれる。
「はい、あんまり荷物が多かったから見るに見兼ねたみたいで、ここまで運ぶのを手伝ってくれたんです。」
「見るに見兼ねて?…あいつはそんな親切心で動くような男じゃないよ、…君、神崎に何をしたの?」
探るような目で見られると居心地が悪い……。まるで疑われているような気になる。
「何もしてません…。」
「そう?でもキスはしてたよね。」
(うそ!見られてた!)
頬とはいえ、他人にキスシーンを見られていたことに羞恥心が高まる。
首や耳にまで熱を感じ、自分の全身が赤く染まっていくのがわかった。
あまりの恥ずかしさに下を向いていると、顎を取られて強引に顔を上げさせられた。
「ふぅん?地味だと思ってたけどそういう顔はちょっと良いね、神崎もこれが気に入ったのかな。」
先輩は薄く笑みを浮かべ、僕の顔を探るように嘗め回すようにじっとりと見つめてきた。
他人にそんな風に見られたことなんて無い。混乱と恐怖からじんわりと涙が浮かんでくる。
その時
「先輩ー?何やってんの、カスミも帰ってきたんだろ。こっち来いよ!」
リビングから蘭の呑気な声が聞こえてきた。
「………。」
少しの沈黙の後、先輩はあっさりと僕から離れた。
「神崎は問題児だから気をつけた方が良いよ、なるべく関わらないことだね。…それとくれぐれも蘭にとばっちりがこないように注意してね。」
そう忠告するとリビングに戻っていった。僕もはやる鼓動を抑え、ギクシャクと強ばる身体を動かして遅れてリビングへ向かう…。
「カスミ遅かったな!」
リビングに入ると直ぐに蘭から声を掛けられる。既に先輩はソファーに座り、さっきとはうって変わった爽やかな笑顔で蘭と話をしていた。
「ちょっと買い込んじゃって…、お茶入れてくるね。」
「おう!」
僕はキッチンに逃げるように駆け込むと手早く二人分のお茶を入れ蘭と先輩に出した。
「なんで二人分?カスミも一緒にしゃべろうぜ!」
冗談じゃない。こんな怖い先輩にはなるべく近づきたくないし、邪魔者扱いされるのもごめんだった。
「ごめん、なんか疲れちゃって…、今日はもう部屋で休むよ。」
「まじで、大丈夫かよ?」
蘭が僕の首筋に触れてくる。「んっ、」どうやら熱を測ってくれているようだがくすぐったがりの僕は思わず身を捩ってしまう。
「熱はないみたいだな」
「大丈夫だよ、本当に疲れてるだけだから…。」
「でもカスミ、疲れるとすぐに熱出すじゃん。」
尚も心配され、全身をペタペタと触られる。
「……君達は本当に仲が良いんだね。」
先輩が意味深な目線を僕たちに送る。もしかしたら嫉妬しているのかもしれない、蘭のことを随分と気に入っているようだから…。
「おう!双子だからな!」
先輩は蘭が嬉しそうに答えるのを微笑ましそうに見た後、僕に向き直り「今日は早く休んだ方が良いかもね」と声を掛けてきた。
早く蘭と二人きりになりたかったのかもしれない…。
「はい、先に休ませて頂きます。先輩はゆっくりしていってください」
心にもない言葉を口にして僕は自室へと退散した。
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