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しおりを挟む「たっだいまー!!」
蘭の荷物がすっかり片付いた頃、元気良くドアを開けて蘭は帰ってきた。
「お帰り蘭、荷物がほったらかしだったようだけど……。」
一言文句を言ってやろうと玄関に向かうと、僕の目に蘭と、もう一人…見たことのない人物が映りこむ。
「なぁなぁ、俺友達できた!こいつ、月岡聖っていうんだ!聖、こいつがさっき言ってたカスミ、俺の双子の兄貴!」
興奮気味の蘭に腕を組まれて部屋に入ってきた人物は、驚くほど整った容姿をしていた。
蘭の友達はいつだって派手めのイケメンばかりだったけど…、聖と呼ばれた青年は彼らとは段違いの美形だ。 高い身長、緩くウェーブを描いた蜂蜜色の髪、それと同じ色の瞳が印象的で、正に貴公子、王子様といった呼び方がぴったりだと思った。
「ふ~ん?」
突然のことに固まる僕を、彼は興味津々といった様子で除き込んできた。
「………。」
至近距離でジロジロと見つめられ、慌てて後ずさる。
興味深げに僕の顔をみる視線が酷く不快だ。この視線には覚えがある。双子だと聞いて彼が僕らの顔を見比べているのだ。
正直こういう無遠慮な視線をぶつけられるのが一番嫌だ。
視線から逃れるように顔を背けると、嫌がる様子に気付いたのか、彼は僕から目を離して自己紹介を始めた。
「どうも初めまして、僕は月岡聖。ここの三年で風紀委員長をしているんだ。今日は迷子になっていた君の弟君を保護したってところかな?」
彼の言葉に蘭が怒り出す。
「迷子っていうなよ!」
「迷子に違いないだろ?寮内を探検中に帰りかたが解らなくなったんなら」
「うぅ~!」
蘭が恥しそうに唸ると、彼は笑い声を上げた。
誰とでもすぐに打ち解けることができるのは蘭の特技で、僕には決してできないことだ。
表裏を感じさせない蘭の性格ゆえのことだろう。
僕はといえば、昔から有名だった蘭の存在ありきで話しかけてくる人が多かったせいか、初対面の人と打ち解けるのは極端に苦手だ。
気のおけない友人は勿論いるが、打ち解けるには時間がかかった。
二人がまるで昔からの友人のように楽しそうに話すのを、僕は少し羨ましい気持ちになって見てしまう。
「石原カスミです。あの、蘭がお世話になりました。」
自己紹介をしてくれた相手…。それも蘭がお世話になった先輩を無下に扱うわけにもいかず僕は挨拶をする。
すると彼はにっこりと笑い「どういたしまして」と返事をした後、僕がもっとも聞きたくない言葉を口にした。
「それにしても双子なのに似てないんだね。蘭の方がずっと魅力的だ。」
何度言われても堪えるセリフだ…。僕は目線を下に向け、やるせない気持ちをどうにかやり過ごした。
蘭は「魅力的とかいうなよ!恥ずかしいだろ」と、僕が貶された事にも気付かず照れている。
「聖は俺みたいなやつがうろうろしてたら危ないって言うんだ!迷子ぐらいで大袈裟だろ?」
蘭が言うように、確かに迷子ぐらいで大袈裟だ。
子供っぽい言動はあるが、蘭も高校生になったのだ。
寮内地図でも張り出していれば自力で帰ってこれただろうし、1階にある寮管室に助けを求めることだってできたはずだ。
「そういう意味で危ないんじゃないよ、そうか…君たちは外部入学生だったね。ここの特色を知らないんだ?」
「「特色?」」
先輩の言葉に二人そろって首を傾げる。そういうところは双子っぽいと笑われた。
「良く聞いてね、ここでは男同士の恋愛は当たり前なんだ。」
衝撃的な事を話され僕と蘭は固まった。
「…それって、ゲイが多いってことですか?」
僕は恐る恐る尋ねる。
「そう、ここは幼稚舎から大学まで一環の男子校だからね、要するに異性との出会いがないんだ。特に中等部・高等部は全寮制だからますます女の子との縁が遠ざかる。やりたい盛りの健康な男子がそんな生活に満足できると思う?…自然と恋愛の相手は同性になってくるんだ。」
先輩は蘭を指さす。
「特に蘭みたいな可愛い子は気をつけた方が良いよ、一人で人気のない所を歩いていたらどこかに連れ込まれてレイプされることだってあるんだ。」
あまりの言葉に絶句する。男に男がレイプされるなんて考えもしなかった。それが本当なら可愛く華奢な蘭を一人にするのは危ない。
学園内では離れて過ごしたかったが、蘭の身の安全を考えるとそうも言ってはいられないのかもしれない。
「あっ蘭のことは心配しなくて良いよ、暫く寮と学園の送り迎えは僕がするし、僕が側に居れない時は他の風紀委員をつけるから」
僕の心配を余所に先輩は朗らかに話す。
「オニィチャンの方も気をつけた方が良いかもね、小柄で男臭くなければ誰でも良いって輩もいるから…。」
どうやら僕に護衛のような人を付けてくれる気はないようだ。別に構わない、僕のようなやつを襲うやつなどいないだろう。
「僕なら構いません、蘭の事を宜しくお願いします。」
僕の反応に先輩は目を丸くした。自分にも護衛をつけろと文句を言うとでも思ったのだろうか?
あいにく僕は親しくもない人に、無償で自分を守れと頼むほど愚かじゃないし、蘭のおまけので守られるのかんか冗談じゃなかった。
「俺の送り迎え聖がしてくれんの!?じゃあ連絡先交換しようぜ!」
蘭はスマホを取り出し、先輩の腕を引っ張ってソファーに座らせる。先輩もそれに従い、スマホを取り出すと慣れた手つきで連絡先の交換を始めた。
この様子だと先輩はもう暫くこの部屋で過ごすことになりそうだ…。それならお茶でも出すべきかな?と思ったがヤカンもお茶っ葉もないことに気づく…。
確か寮の二階にはスーパーがあったはずだ。
「蘭、ちょっと買い物に行ってくるね。」
声を掛けると蘭は「んー」っとこちらを見ずに生返事をした。余程先輩との会話に夢中になっているようだ。 僕は構わずお財布を片手に玄関を出た。ドアが閉まる瞬間、なんとなくリビングの方に目を向けると先輩が何を考えているのか読み取れないような目でこちらを見ていた。
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