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第一章 神生みの時代
オロチ八人衆
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「いいじゃん、くれてやんなよ」
モモはスサノオに叢雲の剣を与えるように言った。カグツチは顎が外れる程に口を開けて「はあ!?」と声を張り上げる。
「姉ちゃんはこの剣を作るのに俺がどれだけ苦労したのか知らないんだよ!」
「うるさいね、ガタガタ抜かすんじゃないの。剣の一本や二本、また作りゃいいでしょうに」
「そんな大根作るみたいに簡単に言わないでくれ」
「お、おう……すまんな。そこまでモメるとは思わなんだ」
スサノオは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「仮にもあんたに仕えるんだから、それくらいの奉仕は必要でしょ。カグも姉様のために少しは折れなさいよ」
モモの言葉でカグツチは黙ってしまう。だが悔しそうに歯軋りはしているため、心の内は未練があるのだろう。
「……さて、行きますか」
モモは馬に乗り、馬上からカグツチとミクラに別れを告げる。
「それじゃあ行ってくるから、しばらく留守をお願いね」
「突然のことで驚いてますが、モモ様がそうしたいのなら仕方ないですね」
ミクラが少しだけ寂しそうな顔をした。
「武功を上げて出世したら二人を呼ぶかもね。楽しみにしててよ」
「……その時は叢雲を返してくれ」
カグツチは憮然とした表情をしている。
「カグ、あんたしつこいね」
モモは苦笑いを浮かべながら手を振って二人と別れ、馬を走らせてスサノオの部隊に合流した。
「お待たせ」
「ちゃんと別れを告げたか?」
「まあね」
すると、スサノオの部下の一人が不服そうにモモに意見する。
「おいモモとやら、スサノオ様に対する口の利き方がなっておらん。仮にもおまえは仕える身であるから、慎重に言葉を選ばぬか」
スサノオは部下の言葉を手で制す。
「まあ良い。俺はまだこの女を正式に雇うとは言ってないからな」
「えっ、そうなの?」
モモは驚いて目を丸くする。
「おまえの実力を見たい。ここから東へ進んだところに凶悪な山賊に荒らされた村がある。その山賊を村から追い払えば入隊を許可しよう」
「試験というワケね」
「まあそんなところだ」
スサノオは不敵な笑みを浮かべた。
「その山賊の人数は分かってるの?」
「およそ30~40人くらいといったところか。所詮は烏合の衆だ、おまえの怪力があれば苦もなく追い払えるであろう」
「いいよ、その話に乗ってあげる」
「では行け。俺たちはナギの国で待っているぞ」
モモはスサノオの一行に軽く頭を下げると、馬を走らせて東の村へ向かった。
「ちょっとスサノオさん!モモさん一人で行かせるんですか?」
スサノオの後ろにいたチキが抗議する。
「なんでおまえがここにいる!?付いて来るなと言っただろう!」
「入隊試験とはいえ、あまりにも厳し過ぎます。モモさんがいくら怪力でも、40人を相手にできるとは思えません。多勢に無勢という言葉を知らないのですか?」
「心配ならおまえも行けば良いだろう。生きて帰ったらモモと一緒に入隊させてやるぞ」
「そんなものに興味はないです。生きて帰ったらあなたを引っ叩いてやりますから、覚悟しておいてください」
チキは馬を走らせてモモの後を追った。
「やれやれ、じゃじゃ馬を相手にすると疲れるわい」
スサノオは額から流れた汗を袖で拭った。
「良いのですかスサノオ様?あの娘たち、おそらく生きては帰れませぬぞ」
「ああ知っている。俺は逃げて帰って来ると見ているがな」
「あの村を支配する山賊は500人に達すると聞いております。ナギ様の専属部隊が動かなければ決して勝てぬ相手。二人で立ち向かうのは無謀を通り越して自殺行為としか思えませぬ」
「恥を掻かせる意味で行かせたのだ。あいつは自分の力を異常に過信しているからな。100人以上いると分かれば、いくら阿保でも流石に逃げるだろう。己の無力さを知れば、こちらも扱い易くなるからな」
――その頃、モモは全力で馬を走らせて目的の村まで数刻のところまで来ていた。
(……ん?なんか後ろで馬の蹄の音がする)
モモが馬を止めると、弓を引いて迫り来る者を待ち構えた。すると、現れたのは馬に乗ったチキだった。
「あれ……チキちゃん?」
「ようやく追い付いた、探しましたよモモさん」
「なにしてんの、ここに来ちゃ危険だよ」
「モモさんが心配になったもので……」
「う~ん、これから500人以上は相手にするから、あんたが来ても一瞬で倒されちゃうかもね」
「えっ……ご、500人以上なんですか!?スサノオさんは40人と言ってたのに」
「あんなのは見え透いた嘘だよ。あの村が襲われた噂は私の耳にも入ってるから、どれだけの数がいるか把握しておかないとね」
「無茶です!一緒に逃げましょう」
「逃げたいのは山々なんだけど、このままほっとくと私の村にも被害が出そうだから、今の内に連中を叩き潰しておくつもり」
「でも……」
「ちょっとあの丘の上に行こうか」
モモとチキは馬を走らせ、村を一望できる丘の上へと向かった。モモは上から村を眺めると、中央に大きな旗が立てられていることに気付く。
「はは~ん、こりゃタチが悪そうだわ」
「どうしました?」
「あそこの旗が見える?大蛇が八匹描かれてるヤツだけど」
「見えましたが……なんの旗ですか?」
「あれはね、最近勢力を伸ばしている“オロチ八人衆”の旗だよ。悪逆非道の限りを尽くした連中さ」
モモはスサノオに叢雲の剣を与えるように言った。カグツチは顎が外れる程に口を開けて「はあ!?」と声を張り上げる。
「姉ちゃんはこの剣を作るのに俺がどれだけ苦労したのか知らないんだよ!」
「うるさいね、ガタガタ抜かすんじゃないの。剣の一本や二本、また作りゃいいでしょうに」
「そんな大根作るみたいに簡単に言わないでくれ」
「お、おう……すまんな。そこまでモメるとは思わなんだ」
スサノオは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「仮にもあんたに仕えるんだから、それくらいの奉仕は必要でしょ。カグも姉様のために少しは折れなさいよ」
モモの言葉でカグツチは黙ってしまう。だが悔しそうに歯軋りはしているため、心の内は未練があるのだろう。
「……さて、行きますか」
モモは馬に乗り、馬上からカグツチとミクラに別れを告げる。
「それじゃあ行ってくるから、しばらく留守をお願いね」
「突然のことで驚いてますが、モモ様がそうしたいのなら仕方ないですね」
ミクラが少しだけ寂しそうな顔をした。
「武功を上げて出世したら二人を呼ぶかもね。楽しみにしててよ」
「……その時は叢雲を返してくれ」
カグツチは憮然とした表情をしている。
「カグ、あんたしつこいね」
モモは苦笑いを浮かべながら手を振って二人と別れ、馬を走らせてスサノオの部隊に合流した。
「お待たせ」
「ちゃんと別れを告げたか?」
「まあね」
すると、スサノオの部下の一人が不服そうにモモに意見する。
「おいモモとやら、スサノオ様に対する口の利き方がなっておらん。仮にもおまえは仕える身であるから、慎重に言葉を選ばぬか」
スサノオは部下の言葉を手で制す。
「まあ良い。俺はまだこの女を正式に雇うとは言ってないからな」
「えっ、そうなの?」
モモは驚いて目を丸くする。
「おまえの実力を見たい。ここから東へ進んだところに凶悪な山賊に荒らされた村がある。その山賊を村から追い払えば入隊を許可しよう」
「試験というワケね」
「まあそんなところだ」
スサノオは不敵な笑みを浮かべた。
「その山賊の人数は分かってるの?」
「およそ30~40人くらいといったところか。所詮は烏合の衆だ、おまえの怪力があれば苦もなく追い払えるであろう」
「いいよ、その話に乗ってあげる」
「では行け。俺たちはナギの国で待っているぞ」
モモはスサノオの一行に軽く頭を下げると、馬を走らせて東の村へ向かった。
「ちょっとスサノオさん!モモさん一人で行かせるんですか?」
スサノオの後ろにいたチキが抗議する。
「なんでおまえがここにいる!?付いて来るなと言っただろう!」
「入隊試験とはいえ、あまりにも厳し過ぎます。モモさんがいくら怪力でも、40人を相手にできるとは思えません。多勢に無勢という言葉を知らないのですか?」
「心配ならおまえも行けば良いだろう。生きて帰ったらモモと一緒に入隊させてやるぞ」
「そんなものに興味はないです。生きて帰ったらあなたを引っ叩いてやりますから、覚悟しておいてください」
チキは馬を走らせてモモの後を追った。
「やれやれ、じゃじゃ馬を相手にすると疲れるわい」
スサノオは額から流れた汗を袖で拭った。
「良いのですかスサノオ様?あの娘たち、おそらく生きては帰れませぬぞ」
「ああ知っている。俺は逃げて帰って来ると見ているがな」
「あの村を支配する山賊は500人に達すると聞いております。ナギ様の専属部隊が動かなければ決して勝てぬ相手。二人で立ち向かうのは無謀を通り越して自殺行為としか思えませぬ」
「恥を掻かせる意味で行かせたのだ。あいつは自分の力を異常に過信しているからな。100人以上いると分かれば、いくら阿保でも流石に逃げるだろう。己の無力さを知れば、こちらも扱い易くなるからな」
――その頃、モモは全力で馬を走らせて目的の村まで数刻のところまで来ていた。
(……ん?なんか後ろで馬の蹄の音がする)
モモが馬を止めると、弓を引いて迫り来る者を待ち構えた。すると、現れたのは馬に乗ったチキだった。
「あれ……チキちゃん?」
「ようやく追い付いた、探しましたよモモさん」
「なにしてんの、ここに来ちゃ危険だよ」
「モモさんが心配になったもので……」
「う~ん、これから500人以上は相手にするから、あんたが来ても一瞬で倒されちゃうかもね」
「えっ……ご、500人以上なんですか!?スサノオさんは40人と言ってたのに」
「あんなのは見え透いた嘘だよ。あの村が襲われた噂は私の耳にも入ってるから、どれだけの数がいるか把握しておかないとね」
「無茶です!一緒に逃げましょう」
「逃げたいのは山々なんだけど、このままほっとくと私の村にも被害が出そうだから、今の内に連中を叩き潰しておくつもり」
「でも……」
「ちょっとあの丘の上に行こうか」
モモとチキは馬を走らせ、村を一望できる丘の上へと向かった。モモは上から村を眺めると、中央に大きな旗が立てられていることに気付く。
「はは~ん、こりゃタチが悪そうだわ」
「どうしました?」
「あそこの旗が見える?大蛇が八匹描かれてるヤツだけど」
「見えましたが……なんの旗ですか?」
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