117 / 132
最終章 冒険者5~6か月目
112話 アンファーグル
しおりを挟む
「服、ありがとうございました」
一旦、宿に戻って着替えた後、オレとアルム、リレルは洋服屋を再び訪れていた。
3着の服を渡すと、店長さんは1つ1つを広げて状態を確認する。
「ふむ、確認完了だよ。綺麗に使ってくれてありがとう、これで少し仕事が減った」
「仕事が、ですか?」
「そうですよー。慰霊祭の時期は、どうしても略礼服を借りられるお客さんが多くて。言い方は悪いけど、絶好のかき入れ時!……なんわけで、やっぱりその分忙しくて。師匠には毎年この期間に助っ人をお願いして、お客さんをさばいているんです」
店長さんから服を受け取りながら、お弟子さんが説明してくれる。
なるほど、店長さんがこの街に居た理由って、そういうことだったのか。
「貸し出すだけでも一苦労、ってことですか?」
「いーえ、貸し出す程度は苦労のうちに入りません。むしろわたしらの地獄はここから……そう、恐怖の返却対応のお時間なのです!」
ぐっ、と拳を握りながら、お弟子さんは力説する。
貸出よりも、返却対応が……?
思わず首を捻っていると、店長さんは笑いしながら……
「返って来た服の汚れや解れの確認に、服の状態に合わせた洗濯方法の振り分け、解れたり破れたりした場所は直して、返しに来ないアホに催促を促す……ははははははは、いやぁ、今から想像しただけでもイラッ、とくるねぇぇぇ」
「ししょー……笑顔が怖んで、笑うのやめてくださーい……お客様方がドン引きしてまーすよー……」
どうどう、とお弟子さんが店長さんをなだめる。
そう聞くと確かに、ただ貸し出すだけって作業が凄く楽に聞こえてくるよな。
いや、採寸やいくつかの候補を見繕うとかの作業も大変だとは思うけど。
「返却時に服が綺麗で、手直しが不要であるほど、そちらには利益があるってわけか」
「目に見えない労力と費用ってことですね。返却時の作業が増えるほど、費用対効果が低くなってしまう、と」
アルムとリレルの説明に、オレはなるほどと納得する。
貸出の際にお金を貰っているし、返却時に見た範囲で追加請求しても、その後やっぱりあそこも、ここも! みたいに直す部分が見つかれば見つかる程、利益が減っちゃうってわけか。
おまけに、貸出先が冒険者の場合は、そこでお金を取れなかったら追加でってのは難しくなる。
今、何処の街や国にいるかもわからないし、下手したら死んでいる可能性すらあるわけだから……うん、そうなると返却時の対応が大変になるのは必然ってわけか。
「そういうことだよ。はぁぁ……なぁ我が弟子、帰っていい?」
「ええええ!? わたしを見捨てないで、ししょー! この地獄期間を乗り切る為に、破格の報酬支払ってるじゃないですかあああ!」
「破格の安価報酬、の間違いじゃないのかい」
「そこは弟子の顔に免じてー!」
帰る素振りをしかけた店長さんを、お弟子さんが必死に引き留める。
何とも漫才コンビみたいなノリだな、この人たち……
「とにかく、君らの分は問題なし。安く済ませてくれてむしろありがとう」
「……これ、どういたしまして、って言うべき場面なのか凄い迷うんですけど、お役に立てたのならば良かったです」
少しでも利益が出るなら、良いことのハズだ。うん。
小粋なトークを聞きながら、オレたちは洋服屋を後にした。
そのまま宿へ戻り、滞在している部屋の前に到着すると……
『………はあああああああ!?』
急に、部屋の中からサディエルの絶叫が響き渡った。
一瞬、何事かと動きを止めてしまったが、大慌てで部屋のドアを開ける。
「サディエル!? 何かあったの!?」
「うわあ!? いや、急に入ってこられた方がびっくりしたんだが。と言うか、お帰り」
ノックも無しに入ると、びくりと肩を跳ねながらサディエルはオレたちを見る。
丁度着替えようとしていたのか、上半身裸の状態なわけだけど……
「びっくりしたのはこっちもだ。夜じゃないとはいえ、急に叫んだら迷惑だろ」
「部屋の外まで響いておりましたよ」
「そんなに響いていたのか。悪い、気を付ける」
上着を着ながら、サディエルは申し訳なさそうに言った。
部屋のドアを締めて、オレたちは適当な椅子に座る。
「それで、何があったんですか? 急に大声を出して……」
「ん? あー、コレを見て驚いていたんだ」
リレルの問いかけに、サディエルはちょいちょいと自身の首元を指さした。
彼の首元って言えば……痣があった場所、のはずだけど。
あの痣は、古代遺跡の戦闘の折にガランドが付けたものであり、あいつを核にした際に消え去っていたはずだ。
オレら全員が1度確認しているから、間違いはない。
……無いはず、なんだけど。
その痣があった場所を指差されて、思わず眉を顰める。
オレたちの表情を見て、サディエルは自身の服を引っ張って首元が見えるようにしてくれたんだけど。
「……嘘だろ、痣が復活してる!?」
そこには、消えたはずの痣が復活していた。
「だけど、色が違わないか?」
「そうですね、以前は赤黒かったはずですが……」
「透明度の高い青緑、だよね。模様はそのままだけど」
改めて、サディエルの首元にある痣を見る。
うん、これまでの明らかに呪いです! みたいな色はしていない。
むしろ、何と言うか……
「解呪されたような雰囲気に見えるけど。体調とかは大丈夫?」
「そっちは問題ないかな。前の痣と違って不快感は無いんだが……」
見た目上は安全っぽい色をしていても、痣は痣。
どういう効果か分からない以上、警戒してしまうのは仕方がない。
「んー……カイン君ー! ちょっと来てー! 事情説明してー!」
無理を承知で、オレはカイン君の名前を呼んでみる。
だけどまぁ、都合よく現れてくれないわけで……生物学上は人間とは言え、魔王様なんだから、ここはテンプレ通りに出てきて欲しい。
核からガランドが丁寧に教えてくれる、ってのも無いよな……流石に。
「痣に関しては、情報が少なすぎるからな」
アルムもお手上げと言う感じだ。
「とりあえず、バークライスさんには一報入れておくべきでしょうね」
「それが無難かな。今からちょっとギルドに……いって!?」
リレルの提案を聞いて、ギルドへ向かおうとしたサディエルは急に顔を抑えて蹲る。
コロロ……と、彼の近くに筒状の何かが転がったのが見えて、オレはそれを手に取った。
「何だろう、この卒業証書を入れておく筒みたいな奴は」
蓋を開けて、中身を確認すると……うん、何か手紙っぽいのが入っているな。
オレはそれを取り出して、内容を確認するが……読めない。いつも通り読めない。
無言でオレは隣にいたリレルに手紙を手渡す。
「……えーと、魔王さんからですね」
「こんな事して来るのは魔王ぐらいだろ。で、なんだって?」
「―――"今、サディエル君に出ているであろう痣は無害だよ。痣を付けた当人を退けた場合に浮かび上がる、一瞬の魔族避けみたいなモノだから、安心してね" だ、そうです」
簡潔過ぎる内容。
と言うか、もっと詳細な説明が欲しいわけなんだが……あと数百年は秘匿にする予定だった内容だから、教えて貰えただけラッキーと思うべきなのか。
「おい、コレを信じるのか?」
疑いの眼差しで、アルムがカイン君からの手紙を指さす。
言いたいことはわかる、分かるんだけど……
「……カインさんだしなぁ」
「カイン君だもんなぁ」
「アルム、ダメみたいですよ。あの魔王さんと下手に交流があったせいで、2人とも疑う気ゼロです」
ため息を吐きながら、リレルは呆れながら言う。
いやだって、あのカイン君だしさ。
魔王だし、怖い部分はあるけど、こういう律儀な部分があることは知っているから、つい。
「どっちにしろ、バークライスさんは報告しておくよ」
リレルから手紙を受け取り、サディエルはギルドへと向かった。
で、相談の結果なのだが、『現状維持』で決まった。
バークライスさん曰く『魔王本人が一応は素直に話していること、サディエル自身も不快感を感じてないこと、ガランドの件は元々魔王も公認していた』と言う3点から、以前ほどの緊急性はないと判断したそうだ。
そうだった。
一応ガランドを倒して良いってやつは、カイン君公認だったな。
となると、魔族側にもある程度情報は浸透しているわけだし、言うほど目くじらたてたり、警戒しなくてもいいってわけか。
それに、カイン君はサディエルのことも結構気に入っているみたいだし、無下に扱うことはないだろう。
========================
そんな騒動がありつつも、オレたちは9日間の滞在を終え、旅に戻ることになった。
麓の街から2日かけて平地へ戻り、途中にあった村で休憩を挟みながら移動すること2週間と1日。
「つ、着いた……! アンファーグルだ!」
異世界に来て158日目。
半年の期限よりもかなり早く、最初の街……アンファーグルへと戻って来ることが出来た。
「日が暮れる前に着けて良かったよ」
「本当ですね。とりあえず、今日はもう宿を取って休息にしませんか?」
「それもそうだな。明日のことは明日考えるとして、まずはゆっくり休もう」
「賛成! オレもうクタクタだよ……」
宿へ向かう道すがら、街の様子をのんびりと眺める。
オレの記憶にあるまま変わらず、平和そのものな街の様子に思わず頬が緩んでしまう。
しばらく歩くと、見覚えのある宿屋が見えた。
思わず駆け足になりながら宿屋まで行くと、入口がガチャリと開く。
そこから出てきた人物は、見覚えのある人だった。
あちらもオレに気づいたのか、驚いた表情を浮かべている。
「……ん? 君は……もしかして、ヒロト君かい!?」
「はい、そうです! お久しぶりです、ご主人!」
覚えていてくれたことに嬉しくて、宿の主人に駆け寄り握手を交わす。
少し遅れてやって来たサディエルたちを見て、宿の主人は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「皆も久しぶりだね。ここに来たってことは、泊っていくんだろ」
「はい。4部屋……最低でも2部屋、空いていますか?」
「4部屋確保出来るよ。ほら、入った入った! 部屋に案内するから」
宿の主人に背中を押されながら、オレたちは宿屋に入った。
サディエルが代表で宿泊手続きをしていると、宿の主人がオレの方を見てくる。
「にしても……見違えたよ、ヒロト君。凄く生き生きとして、以前の君とは比べ物にならないぐらいだ」
「そうですか?」
「あぁ、そうさ。この変化は、毎日顔を合わせていたサディエル君たちには、きっと分からないだろう。久しぶりに会ったおれだからこそ分かる、と格好つけて言ってみようかな」
嬉しそうに宿のご主人は笑う。
「ご主人にそう言って貰えるなら、オレ、とっても嬉しいです!」
「おっ、素直な言葉を言うようになったのか。うんうん、まるで我が子のことのように嬉しいよ、君の成長は」
そこまで言われると、ちょっと嬉しい反面むずかゆいというか。
恥ずかしさも同時に込み上げてくる。
「手続きは完了だよ。はい、部屋の鍵。朝食は朝の6時から9時までの好きな時間に食堂へよろしく」
「ありがとうございます」
宿の主人から鍵を受け取り、オレたちは2階へと上がる。
そして、ルームキーに書かれている番号を元に、どの部屋を使うか決めて入室した。
荷袋を床に置き、ブーツを脱いで、オレはベッドへダイブする。
「これで、あとは洞窟遺跡に向かうだけ、か」
部屋の天井を眺めながら、オレはぽつりと呟く。
―――別れの時が、確実に近づいていた。
一旦、宿に戻って着替えた後、オレとアルム、リレルは洋服屋を再び訪れていた。
3着の服を渡すと、店長さんは1つ1つを広げて状態を確認する。
「ふむ、確認完了だよ。綺麗に使ってくれてありがとう、これで少し仕事が減った」
「仕事が、ですか?」
「そうですよー。慰霊祭の時期は、どうしても略礼服を借りられるお客さんが多くて。言い方は悪いけど、絶好のかき入れ時!……なんわけで、やっぱりその分忙しくて。師匠には毎年この期間に助っ人をお願いして、お客さんをさばいているんです」
店長さんから服を受け取りながら、お弟子さんが説明してくれる。
なるほど、店長さんがこの街に居た理由って、そういうことだったのか。
「貸し出すだけでも一苦労、ってことですか?」
「いーえ、貸し出す程度は苦労のうちに入りません。むしろわたしらの地獄はここから……そう、恐怖の返却対応のお時間なのです!」
ぐっ、と拳を握りながら、お弟子さんは力説する。
貸出よりも、返却対応が……?
思わず首を捻っていると、店長さんは笑いしながら……
「返って来た服の汚れや解れの確認に、服の状態に合わせた洗濯方法の振り分け、解れたり破れたりした場所は直して、返しに来ないアホに催促を促す……ははははははは、いやぁ、今から想像しただけでもイラッ、とくるねぇぇぇ」
「ししょー……笑顔が怖んで、笑うのやめてくださーい……お客様方がドン引きしてまーすよー……」
どうどう、とお弟子さんが店長さんをなだめる。
そう聞くと確かに、ただ貸し出すだけって作業が凄く楽に聞こえてくるよな。
いや、採寸やいくつかの候補を見繕うとかの作業も大変だとは思うけど。
「返却時に服が綺麗で、手直しが不要であるほど、そちらには利益があるってわけか」
「目に見えない労力と費用ってことですね。返却時の作業が増えるほど、費用対効果が低くなってしまう、と」
アルムとリレルの説明に、オレはなるほどと納得する。
貸出の際にお金を貰っているし、返却時に見た範囲で追加請求しても、その後やっぱりあそこも、ここも! みたいに直す部分が見つかれば見つかる程、利益が減っちゃうってわけか。
おまけに、貸出先が冒険者の場合は、そこでお金を取れなかったら追加でってのは難しくなる。
今、何処の街や国にいるかもわからないし、下手したら死んでいる可能性すらあるわけだから……うん、そうなると返却時の対応が大変になるのは必然ってわけか。
「そういうことだよ。はぁぁ……なぁ我が弟子、帰っていい?」
「ええええ!? わたしを見捨てないで、ししょー! この地獄期間を乗り切る為に、破格の報酬支払ってるじゃないですかあああ!」
「破格の安価報酬、の間違いじゃないのかい」
「そこは弟子の顔に免じてー!」
帰る素振りをしかけた店長さんを、お弟子さんが必死に引き留める。
何とも漫才コンビみたいなノリだな、この人たち……
「とにかく、君らの分は問題なし。安く済ませてくれてむしろありがとう」
「……これ、どういたしまして、って言うべき場面なのか凄い迷うんですけど、お役に立てたのならば良かったです」
少しでも利益が出るなら、良いことのハズだ。うん。
小粋なトークを聞きながら、オレたちは洋服屋を後にした。
そのまま宿へ戻り、滞在している部屋の前に到着すると……
『………はあああああああ!?』
急に、部屋の中からサディエルの絶叫が響き渡った。
一瞬、何事かと動きを止めてしまったが、大慌てで部屋のドアを開ける。
「サディエル!? 何かあったの!?」
「うわあ!? いや、急に入ってこられた方がびっくりしたんだが。と言うか、お帰り」
ノックも無しに入ると、びくりと肩を跳ねながらサディエルはオレたちを見る。
丁度着替えようとしていたのか、上半身裸の状態なわけだけど……
「びっくりしたのはこっちもだ。夜じゃないとはいえ、急に叫んだら迷惑だろ」
「部屋の外まで響いておりましたよ」
「そんなに響いていたのか。悪い、気を付ける」
上着を着ながら、サディエルは申し訳なさそうに言った。
部屋のドアを締めて、オレたちは適当な椅子に座る。
「それで、何があったんですか? 急に大声を出して……」
「ん? あー、コレを見て驚いていたんだ」
リレルの問いかけに、サディエルはちょいちょいと自身の首元を指さした。
彼の首元って言えば……痣があった場所、のはずだけど。
あの痣は、古代遺跡の戦闘の折にガランドが付けたものであり、あいつを核にした際に消え去っていたはずだ。
オレら全員が1度確認しているから、間違いはない。
……無いはず、なんだけど。
その痣があった場所を指差されて、思わず眉を顰める。
オレたちの表情を見て、サディエルは自身の服を引っ張って首元が見えるようにしてくれたんだけど。
「……嘘だろ、痣が復活してる!?」
そこには、消えたはずの痣が復活していた。
「だけど、色が違わないか?」
「そうですね、以前は赤黒かったはずですが……」
「透明度の高い青緑、だよね。模様はそのままだけど」
改めて、サディエルの首元にある痣を見る。
うん、これまでの明らかに呪いです! みたいな色はしていない。
むしろ、何と言うか……
「解呪されたような雰囲気に見えるけど。体調とかは大丈夫?」
「そっちは問題ないかな。前の痣と違って不快感は無いんだが……」
見た目上は安全っぽい色をしていても、痣は痣。
どういう効果か分からない以上、警戒してしまうのは仕方がない。
「んー……カイン君ー! ちょっと来てー! 事情説明してー!」
無理を承知で、オレはカイン君の名前を呼んでみる。
だけどまぁ、都合よく現れてくれないわけで……生物学上は人間とは言え、魔王様なんだから、ここはテンプレ通りに出てきて欲しい。
核からガランドが丁寧に教えてくれる、ってのも無いよな……流石に。
「痣に関しては、情報が少なすぎるからな」
アルムもお手上げと言う感じだ。
「とりあえず、バークライスさんには一報入れておくべきでしょうね」
「それが無難かな。今からちょっとギルドに……いって!?」
リレルの提案を聞いて、ギルドへ向かおうとしたサディエルは急に顔を抑えて蹲る。
コロロ……と、彼の近くに筒状の何かが転がったのが見えて、オレはそれを手に取った。
「何だろう、この卒業証書を入れておく筒みたいな奴は」
蓋を開けて、中身を確認すると……うん、何か手紙っぽいのが入っているな。
オレはそれを取り出して、内容を確認するが……読めない。いつも通り読めない。
無言でオレは隣にいたリレルに手紙を手渡す。
「……えーと、魔王さんからですね」
「こんな事して来るのは魔王ぐらいだろ。で、なんだって?」
「―――"今、サディエル君に出ているであろう痣は無害だよ。痣を付けた当人を退けた場合に浮かび上がる、一瞬の魔族避けみたいなモノだから、安心してね" だ、そうです」
簡潔過ぎる内容。
と言うか、もっと詳細な説明が欲しいわけなんだが……あと数百年は秘匿にする予定だった内容だから、教えて貰えただけラッキーと思うべきなのか。
「おい、コレを信じるのか?」
疑いの眼差しで、アルムがカイン君からの手紙を指さす。
言いたいことはわかる、分かるんだけど……
「……カインさんだしなぁ」
「カイン君だもんなぁ」
「アルム、ダメみたいですよ。あの魔王さんと下手に交流があったせいで、2人とも疑う気ゼロです」
ため息を吐きながら、リレルは呆れながら言う。
いやだって、あのカイン君だしさ。
魔王だし、怖い部分はあるけど、こういう律儀な部分があることは知っているから、つい。
「どっちにしろ、バークライスさんは報告しておくよ」
リレルから手紙を受け取り、サディエルはギルドへと向かった。
で、相談の結果なのだが、『現状維持』で決まった。
バークライスさん曰く『魔王本人が一応は素直に話していること、サディエル自身も不快感を感じてないこと、ガランドの件は元々魔王も公認していた』と言う3点から、以前ほどの緊急性はないと判断したそうだ。
そうだった。
一応ガランドを倒して良いってやつは、カイン君公認だったな。
となると、魔族側にもある程度情報は浸透しているわけだし、言うほど目くじらたてたり、警戒しなくてもいいってわけか。
それに、カイン君はサディエルのことも結構気に入っているみたいだし、無下に扱うことはないだろう。
========================
そんな騒動がありつつも、オレたちは9日間の滞在を終え、旅に戻ることになった。
麓の街から2日かけて平地へ戻り、途中にあった村で休憩を挟みながら移動すること2週間と1日。
「つ、着いた……! アンファーグルだ!」
異世界に来て158日目。
半年の期限よりもかなり早く、最初の街……アンファーグルへと戻って来ることが出来た。
「日が暮れる前に着けて良かったよ」
「本当ですね。とりあえず、今日はもう宿を取って休息にしませんか?」
「それもそうだな。明日のことは明日考えるとして、まずはゆっくり休もう」
「賛成! オレもうクタクタだよ……」
宿へ向かう道すがら、街の様子をのんびりと眺める。
オレの記憶にあるまま変わらず、平和そのものな街の様子に思わず頬が緩んでしまう。
しばらく歩くと、見覚えのある宿屋が見えた。
思わず駆け足になりながら宿屋まで行くと、入口がガチャリと開く。
そこから出てきた人物は、見覚えのある人だった。
あちらもオレに気づいたのか、驚いた表情を浮かべている。
「……ん? 君は……もしかして、ヒロト君かい!?」
「はい、そうです! お久しぶりです、ご主人!」
覚えていてくれたことに嬉しくて、宿の主人に駆け寄り握手を交わす。
少し遅れてやって来たサディエルたちを見て、宿の主人は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「皆も久しぶりだね。ここに来たってことは、泊っていくんだろ」
「はい。4部屋……最低でも2部屋、空いていますか?」
「4部屋確保出来るよ。ほら、入った入った! 部屋に案内するから」
宿の主人に背中を押されながら、オレたちは宿屋に入った。
サディエルが代表で宿泊手続きをしていると、宿の主人がオレの方を見てくる。
「にしても……見違えたよ、ヒロト君。凄く生き生きとして、以前の君とは比べ物にならないぐらいだ」
「そうですか?」
「あぁ、そうさ。この変化は、毎日顔を合わせていたサディエル君たちには、きっと分からないだろう。久しぶりに会ったおれだからこそ分かる、と格好つけて言ってみようかな」
嬉しそうに宿のご主人は笑う。
「ご主人にそう言って貰えるなら、オレ、とっても嬉しいです!」
「おっ、素直な言葉を言うようになったのか。うんうん、まるで我が子のことのように嬉しいよ、君の成長は」
そこまで言われると、ちょっと嬉しい反面むずかゆいというか。
恥ずかしさも同時に込み上げてくる。
「手続きは完了だよ。はい、部屋の鍵。朝食は朝の6時から9時までの好きな時間に食堂へよろしく」
「ありがとうございます」
宿の主人から鍵を受け取り、オレたちは2階へと上がる。
そして、ルームキーに書かれている番号を元に、どの部屋を使うか決めて入室した。
荷袋を床に置き、ブーツを脱いで、オレはベッドへダイブする。
「これで、あとは洞窟遺跡に向かうだけ、か」
部屋の天井を眺めながら、オレはぽつりと呟く。
―――別れの時が、確実に近づいていた。
0
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
元兵士その後
ラッキーヒル・オン・イノシシ
ファンタジー
王国の兵士だったダンは5年間所属した王国軍を退団することにした。元々、実家からの命で軍に入隊していたが、ここでの調べ物が終わったのと丁度よく堂々と暗殺されかけた事実があったため、団長へと除隊嘆願書を提出して軍を去ることにしたのだ。元兵士となったダンは次の行き先を目指す。「まずは東かな……」
自覚あまりなしの主人公の話となります。基本物理でなんとかする。魔法ありの世界ですが、魔法はちょっと苦手。なんだかんだと仲間が集まってきますが、その仲間達はだいたい主人公の無茶ぶりに振り回されることとなります。
それと書いていませんでしたが不定期更新となります。温かい目で更新をお待ちください。
*小説家になろう様にて公開を始めました。文章を読みやすく修正したりしていますが、大筋では変えておりません。
小説家になろう様にてネット小説大賞にエントリーしました。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる