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最終章 冒険者5~6か月目

110話 報告

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 あれから、オレたちはしっかりと休息を取った。

 と言っても、4日間も寝すぎたせいで体がバッキバキだったから、軽くゆったりとしたストレッチをしたり、流動食で胃を慣らしたりなど。
 まずは、寝ている間に落ちた身体能力を戻す作業からスタートとなった。

 ―――そして、入山から11日目にして、麓の街滞在2日目
 いや、3日目かもしれないけど、起きていなかったので2日目ってことで。

「よっと! お前らの荷物はこれで全部だと思うのだが……」
「中身が減っていないかとか、足りない荷袋があるなら言ってくれよな。ギルドの持ち主不明の荷物置き場に探しに行くから」

 ドサリ、とオレたちの前に置かれた荷袋4つ。
 荷車を押しながらクヴァルさんと、クヴァルさんのパーティリーダーである、あの少々無骨で人を寄せ付けない見た目をしている冒険者さん、フォーゲルさんが忙しい中運んできてくれた。

 うわぁ、こっちもすっかり忘れていた。
 そうだよ、ウルフと死人襲撃直前に、オレとサディエルは小高い丘の上にある木陰の傍。
 アルムとリレルは見ていないけど、それぞれ待機位置に置いてきていたはずだ。

「ありがとうございます、フォーゲルさん、クヴァルさん」

「良いってこった。この前の船旅のお返しだ」
「そうそう。その代わり、今度おれらがピンチなのを見かけた時は、いの一番に助けてくれよな!」
「お前は調子が良すぎるぞ、クヴァル!」
「いって!? ひっでぇなリーダー、ったくよー……」

 2人のやり取りを見て、オレたちと、フォーゲルさんのパーティメンバーが笑う。
 ひとしきり笑った後、オレたちはそれぞれの荷物の中身を確認する。

 えーっと、服の替え良し、リレルから貰った本も……あったあった。
 それから……制服も大丈夫っと。
 あれこれと荷物を確認して、とりあえず損失したものが無い事が確認出来た。

「うん、オレの分は大丈夫です!」
「僕の分もだ」
「私のもです」
「当然、俺のもだ。助かりました、動けるようになったら取りに行かなきゃいけないかなーと思っていましたし」

「仮に取りに行っても、別の盗賊か魔物にぐちゃぐちゃにされているのがオチだと思うぞ」

 サディエルの言葉に、フォーゲルさんが呆れ顔で言う。
 あれから4日……じゃなかった、5日も経過している以上、そうなるよな。
 荷物がこうして全部無事だったことを喜ばないと。

「さて、荷物も大丈夫ってことで、ここで失礼するよ。おれたちも旅に戻らないと」
「必要な路銀が溜まったしな。っつーわけで、またどこかで!」

「はい! フォーゲルさんたちもお元気で!」

 互いに握手を交わして旅の無事を祈り、なんともあっさりとしたお別れとなった。
 あっさりとはしていたけど、これが冒険者ってものなのかもな。

 フォーゲルさんたちが去った後、改めてオレたちは部屋にあった椅子に座り、安堵のため息を吐く。

「はー……これで、やっと全部終わったってことだよね?」
「ガランド関連はな。残すは、アンファーグルへ向かって、例の洞窟遺跡に行くだけ、ってわけだ」

 サディエルは手元の核をコロコロと転がしながら言う。
 ビー玉のようにも、少し高級そうな鉱石にも見えるガランドの核。

 戦闘終了直後は、魔力の縄に囲まれていたはずなのだが、現在は本当にただの綺麗な円形の球である。

 これがあのガランドかと思うと、何とも微妙な気持ちになってしまう。

「……その核、動きだしたりしない? 何か呪詛が響いてきたりとか」
「今のところはないかな。むしろそんな怪奇現象が起こったら、俺は安眠出来やしない」

 仮に動いたり呪詛吐いてきた場合に、真っ先に被害受けそうなサディエルがこんな感じだから、とりあえずは大丈夫なのだろう。
 サディエルは、荷物から頑丈な小箱を取り出して、そこに核を入れて閉じる。
 そのまま、無くさないように厳重に封をして、荷袋に戻した。

「今後の予定だけど、とりあえず1週間はこの街に滞在しよう。体の調子も戻さないといけないわけだし」
「元々、山越えとガランドに備えて、予備期間を多くとっていたんだ。大丈夫だろ」

 アルムの言葉に、当初の日程を思い返す。
 そうだそうだ、単純な移動日数だけならば5週間程度なわけだけど、街の滞在と予備日で3週間確保しているんだった。
 それなら確かに、1週間ぐらいは滞在しても影響は小さいか。

「そうですね。ここの看護婦さんたちが、寝ている間も私たちの足や腕を定期的に動かして、筋収縮の運動を行ってくれていたそうです。筋力の低下は最小限になるので、1週間あれば問題ないかと」

 自身の腕を確認しながら、リレルも同意する。
 そうか、だからオレも起き上がって早々に動けたのか。

「出発の2日前ぐらいに、食料品とか必要なモノの買い出し。前日に最終ルート確認、でいいよね? サディエル」
「そうだな。後半2日間はそれでいいと思う」

 さて、とサディエルはゆっくりと立ち上がる。
 1日休んだおかげで、ようやく副作用も消えたのか、足取りはしっかりしていた。

「前半の予定を決める前に、まずはエルフェル・ブルグへ連絡しないといけないから、ギルドへ行くか。ついでに、フェアツヴァイ盗賊団の懸賞金も受け取ろう」

========================

 ―――昨日、フォーゲルさんたちから聞いた、その後の顛末。

 まず、死人となった冒険者たち。
 言い方は変な上にあまりよろしくないけど、彼らは "元に戻って" いたそうだ。
 フォーゲルさんたちが確認したそうだから、間違いないらしい。
 オレらを助ける傍ら、フォーゲルさんたちは他の冒険者たちへ連絡し、彼らの遺体も下山している。
 現在は、ギルドで身元の最終確認を行っているとのこと。

 フェアツヴァイ盗賊団は、全滅が確認された。
 元々、この山脈で相当長い年月悪事を働いていた盗賊団だったらしく、懸賞金もかけられていた。
 あいつらを全滅させたのはガランドなわけだけど、結果的にオレらがその懸賞金を受け取ることになっている。
 サディエルは複雑そうな表情を浮かべてはいたものの、アルムとリレルはあっさりとしていて……

「まっ、貰えるものは貰っとこう」
「そうですね。これまでの迷惑料ってことで」

 と、受け取り大賛成状態である。
 オレは中立寄り賛成だが、サディエルが微妙にモニョる気持ちも分かる、と言う感じ。

 ……で、死人とフェアツヴァイ盗賊団の関連性について、当然ながらオレたちに事情説明が求められた。

 流石に馬鹿正直に話すと、ガランドの核を取り上げられかねなかった為、フェアツヴァイ盗賊団と魔族が共謀して、通りがかった旅人たちを殺害、死人に変えていたという事実だけを話す結果となった。
 運悪く、フェアツヴァイ盗賊団と共謀していた魔族と遭遇したオレたちが必死に応戦。
 その途中、魔族の怒りを買ってしまったフェアツヴァイ盗賊団は壊滅し、その隙をついて魔族を撤退させたことにより、死人になっていた人たちが解放されたのでは、という流れで決着をつけた。
 
 何だろうね、この嘘は言っていないけど、ちょっと違うって感じは。

 真実を言ったところで、信じられない場面が2~3か所あるわけだし。
 魔族を倒したとか、そいつの核を持ってますとか、魔族を倒した武器は魔王様から力を付与された特殊なものだったとか。

 信じて貰える未来が一切見えない!

 と言うわけで、この件に関してはこれ以上突っ込んでも藪蛇、ボロが出るだけなのであとは事情を知る者同士で共有すれば良し、と言う結論に至ったのだ。
 ……で、今その『事情を知る』数少ない人物へと連絡中である。

「どこのギルドも、似たような部屋なんだね」
「ギルド毎に内装や配置、運用ルールが異なっていたら、迅速な連絡が取れませんからね。統一すべき場所はしっかり統一しなければなりません」

 ギルドに辿り着いたオレたちは、受付で伝達用水晶を利用する許可を得て、通信専用室にいる。
 山脈の反対側にある街のギルドとほぼ変わらぬ内装に驚きはしたものの、リレルの説明で納得がいった。

 魔物襲撃時の避難訓練と言い、言語の統一と言い、本当にきっちりしてるよ……

 オレが感心している間にも、アルムは慣れた手つきで水晶に魔力を送る。
 ややあって、受信専用の水晶が光りだした。

【こちら、バークライス。お前たち、無事か!?】

 先日と同じように、バークライスさんからの暗号内容をリレルが翻訳してオレに聞かせてくれる。
 アルムもモールス符号であちらに文書を送りながらも、同一の内容を会話するかのように紡ぐ。

「こんにちわ、バークライスさん。はい、全員無事です。ガランドの核も手に入れました」

 その一言が届くと、受信用水晶の光がピタリ、と止まった。
 しばらく変化が無く、大丈夫なのかと心配になった次の瞬間、慌ただしく光り始める。

「……め、珍しく動揺していらっしゃいますね」
「違うってリレル。俺らが無事だって安堵してくれているんだよ」

 うっかり通訳を忘れて唖然としているリレルに、サディエルは苦笑いしながら答える。
 それはいいんだけど……

「リレル、通訳お願い。オレが話についていけない」
「ご、ごめんなさいヒロト! えっと……」
「俺が言うよリレル」

 リレルの役割を引き継いで、サディエルが言葉を続けた。

【本当だな!? 全員、無事なんだな!? 欠損とかなく、全員五体満足なんだろうな!?】

 本当だ、めっちゃ動揺している。
 と言うかこの内容を『安堵』と表現するサディエルって……と思っていると、その答えがもたらされた。

【……良かった……ここ数日、生きた心地がしなかったぞ】

 そっか……バークライスさんには入山前にガランドが接触してきたこととか、色々相談していたから、エルフェル・ブルグに居るみんなの中で、オレたちが最も危ない状態だって知っているんだった。
 順調であれば4日前には下山が終わっているはずなのに、オレたちからの連絡もない。

 4日間もあれば、最悪の可能性を想定するには十分すぎる時間だったはずだ。

 ようやく届いた吉報に、安堵するよな。

「はい。僕も、サディエルも、リレルも、ヒロトも大丈夫です。安心してください、バークライスさん」
【……そうか……そうか】

 それだけ言うと、再び水晶が沈黙する。

「あっちで泣いてるのかもな」

「え? あのバークライスさんが? あの鬼教官がだぞ!?」
「想像出来ないんですけど……少なくとも、私とアルムは」

 鬼の目にも涙。
 と言う単語が一瞬脳裏を過ったけど、別にバークライスさんは冷徹でも無慈悲でもないし……この表現はあわないな。

【とりあえず、まずはお疲れ様。しっかり休息をしてから、当初の目的を果たしてきなさい】
「分かりました。次の連絡は、全部終わった後になると思います」

【承知した。何はともあれ、残りも気を付けなさい。魔族の件が終わったからと油断していて、魔物や盗賊にやられては話にならんぞ】
「肝に銘じておきます。それでは、失礼します」

 ……確かに、ガランドとあれだけやりあっておいて、この後魔物とかに負けたら笑えないよな。
 うん、しっかり体の調子取り戻そう。

 アルムが通信を終え、安堵のため息を吐く。

「心配しまくるバークライスさん、めっちゃくちゃ貴重な経験をした気がする」
「ですよね。今の会話、ヒロトの世界にある "すまーとふぉん" とやらで撮影したかったです……」

「……サディエル。どれだけレアなわけ、心配するバークライスさんって」
「いや、そんなハズはなんだが。あの人、結構心配性だぞ?」

 アルムとリレルのやり取りに、オレらは首を傾げる。
 バークライスさんに対する評価、多分一生、相いれないんだろうな……と言うのだけは、分かった。
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