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第5章 冒険者4か月目
93話 帰路に向けて【中編】
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「と言うわけで、少なくとも次にガランドが襲撃してくるのは、洞窟遺跡近辺だとは思っているんですが……」
「航海中に魔族からの襲撃が無い、と断言したのも……」
「アルムがこちらに救援要請をしたのも、君の世界における架空の物語による知識だったと」
一通りの説明を終え、バークライスさんとアークさんは、以前のことを思い出してか納得した表情を浮かべる。
「対魔族に限定されますが、既に何度も実証されています。ほぼ確実と見ていいと思います」
オレの言葉を引き継ぐように、サディエルが同意を示す。
「……ヒロト君。君が示した可能性のうち、まだ予兆が見られないものは何かね」
「えーっと、そうですね……」
さて、そうなるとほとんどが "痣" についてになるな。
オレが可能性として挙げていた中で、まだ未発生なのは合計3つ。
1つ目は、弱体化効果の内容。
即効性は最初から除外されて、徐々に効いて来る部分は現在進行形で効果を発揮中。
襲撃直前のタイミングで一気に弱体化効果を重くすると言う部分が、現在の要注意点になる。
なにせ、魔王様……カイン君のお陰で、サディエルの弱体化がリセットされた状態である以上、ここだけは高確率と思っても問題ないはずだ。
2つ目は、襲撃合図になる可能性だ。
ガランドが近づいてきた時に、何かしら痣に反応があること。
これも今のところ見受けられないわけだけど、油断は出来ない。
3つ目は……この国の滞在中に、痣の無効化が出来ない可能性。
こればかりは実に理不尽で、相手との因果関係が消えるからって理由で無効化が出来ない。
なお、敵側の場合はこっちが追えなくなる、つまりは、物語を長引かせるためにサクッと、本当にムカつくぐらいにサクッと解除されたりする。
実に解せない。
この3点をバークライスさんに説明すると、彼は苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべた。
「……3つ目が当たっているな。くそっ、腹立たしい」
「やっぱり、滞在中の無効化は難しいのでしょうか」
「期間が足りなさすぎるからな。本来であれば、サディエルだけはこのまま、この国に滞在して長期検査を受けて欲しいぐらいなんだ」
この短期間じゃ無理だったか。
初の事例で前例も無い以上は仕方ないのかもしれないけど。
「ですが、ヒロトを元の世界に戻すには、ガランドの核が必要となり……」
「奴の襲撃をエルフェル・ブルグで待っていたら、確実に半年内という期限を超えてしまう。あの洞窟遺跡に戻ることと、ガランドを迎え撃つのは同時進行じゃないと不可能だ」
アルムとリレルの言葉に、オレは頷く。
まさか、"半年" と言う期限がこんな形で足かせになるなんてな。
「あのさ、オレ、受験を来年にするから……」
「ダメだ。理由のない留年……だったか? ヒロトにとって余りにも負担が多すぎる。それに、親御さんたちのことも考えろ。せっかく、半年内に戻れる目途が立った以上、来年に先送りする理由はない」
ピシャリとサディエルが否定して来た。
分かっちゃいるけど……悔しいな。
「なぁ、サディ。その魔法陣を、このエルフェル・ブルグで同じように準備することは出来ないのか?」
ここまで黙り込んで考えを巡らせていたアークさんが顔を上げ、そんな提案をして来た。
魔法陣を、ここに。
「アークさんナイス! その可能性があるのを忘れていた!」
魔法陣そのものをここに準備出来れば、わざわざ洞窟遺跡まで移動する必要もない。
エルフェル・ブルグから移動する必要もなくなるから、万全な状態でガランドを迎え撃つことも……!
『あー、ごめん。それ無理』
そこに、この場にいない人物の声が響いた。
オレたちが慌てて周囲を確認すると、シュンッ、と音もなく誰かが現れる。
「魔法陣の件、そう言えば1つ伝え忘れていた」
「カインさん!」
「カイン君!?」
派手な演出もなく急に現れたのは、この世界の魔王カイレスティンことカイン君だった。
突然の登場に、バークライスさんは立ち上がり杖を向ける。
「やぁこんにちわ。そっくり反応ありがとう、サディエル君にヒロト兄ちゃん。バークライスは杖を降ろして」
「魔王カイレスティン……! 貴様、何故ここに!」
「前回、色々説明したけど、抜けがあったから追加で伝えに来たのと、確認をね」
お邪魔するねー、と普通に空いている椅子に座るカイン君。
相変わらずマイペースな魔王様だ。
「オレがこの世界に滞在した日数分だけ、元の世界でも同じ日数が進んだ地点に戻るってこと以外に、何かあったの?」
「そうだよ。結論から言うね。召喚された人間は、同じ魔法陣を利用しないと帰れない」
同じ魔法陣から!?
って、やっぱり洞窟遺跡に行かなきゃダメってことか……何でそこだけ律儀にテンプレ沿う形なんだか。
「カインさん、理由は?」
「実体験だからね。ヒロト兄ちゃんには話したけど、俺も戻る為に、同じことを考えて陣を準備した事がある。けど、上手く発動しなかった。で、試しに召喚された時の魔法陣を調べてみたら、魂が陣に紐づけられているみたいで」
カイン君は、パチンと指を鳴らす。
すると、オレの体が急に光って、ある一方向に光が伸びた。
「あっちの方角は……?」
オレが首を傾げていると、アルムは素早く荷物から地図らしきものと、方位磁石っぽいものを取り出す。
光の方角を確認して、地図をなぞっていくと……答えが判明した。
「洞窟遺跡がある方向か」
「そう言う事。あの陣は、この世界に呼び込んだ人物を覚えている。帰る場合は、来た時と同一の物を使うしかない」
なかなかに厄介だよ、本当に。と、カイン君は愚痴を零す。
うん、本当に厄介過ぎる。
「となると、やっぱ俺がこの国に残ると言う選択肢は無しだな」
「最後の最後で、否が応でも最悪手を取らざるおえないってわけか……魔族案件ってだけも厄介だってのに」
「しかも、ヒロトの世界でいう所の、試練だの困難だの、はたまた面白いからって名目でトラブルも発生するのでしょ?」
「オレ、今さ……心の底から自分の世界のテンプレに対して、殺意沸きそう……」
サディエル、アルム、リレルの順番で現状の問題点を挙げて貰ったわけだが。
聞いてて頭痛くなってきた。
恨めしい、今だけは心の底から、自分の世界のテンプレが恨めしい。
対魔族の件では助かってたけど、こと自分たちに牙を向けられたら、こうも厄介だなんて!
「それで魔王さん……カインさん? 確認したいことって?」
「君もカインって呼んでいいよ、アークシェイド君。俺と君らの仲じゃないか。今更改まる必要もないし、今後もぜひ仲良くして欲しいからさ」
ククッ、と嬉しそうにカイン君は笑う。
その返答に、若干複雑な表情の幼馴染コンビ。
いやまぁ、うん、分かる。
サディエルもうっかり『カインさん』って呼んじゃう辺り、やっぱり魔王と知らなかった時の交流が引っかかっているんだろうし。
オレも人の事言えないから……見た目が青年状態なのに、カイン君って呼ぶのにそろそろ抵抗が無くなって来た。
「確認事項は……サディエル君、"体調" は?」
カイン君の問いかけに、サディエルの肩が僅かに跳ね上がる。
「自覚は有るようだね。いや、無いと色々と困るんだけど」
「カインさん、弱体化の効果についてなんですが……この状態は一体……?」
右手をグーパーと何度か握ったり、開いたりしながら問いかける。
この行動……サディエルが不調な時の無意識なやつだ。
「こっちもこれは計算外だったよ。あの新人……ガランドの奴、独自に "痣" の効果を変えている」
カイン君はサディエルに近づいて、痣のある場所に右手をかざす。
すると、バチッ、と僅かに静電気のような破裂音がした。
「間違い無い。俺が作った痣に本来ありえない効果だ……相当早いペースで弱体化効果が効いてるんじゃないかい?」
「その通りです」
サディエルが頷き、肯定する。
早いペースで、弱体化が……!?
「サディエル、どういうこと!?」
「実はな、精密検査で判明したことだったんだけど、弱体化の効果が想像よりも早く進行しているんだ。バークライスさん、資料は手元にありますか?」
「あぁ、これだ」
バークライスさんは分厚い資料を取り出し、リレルに手渡した。
受け取った資料をパララッ、と捲り、リレルは素早く内容を確認していく。
「この進行度……このままでは、1か月も経たずに、エルフェル・ブルグ到着直後あたりまで戻ってしまいます」
「はぁ!? おい、サディエル! 何で黙ってたんだ!」
報告内容を聞いて、アルムはすぐさまサディエルに抗議の声を上げる。
「落ち着いてくれアルム。リレルも、顔が怖いからやめてくれ。ヒロト、泣きそうな顔すんなよ」
三者三様の反応に対して必死にあれこれとフォローを入れていく。
そんなこと言われても無理です。
最近妙に運動量が増えていたのも、その自覚があったからかよ。
「黙っていたのは、今回のコンビネーション試験で、お前たちに "俺は万全な状態で立ちふさがっている" って思っていて欲しかったからなんだよ。俺がこんな状態だって知ったら、3人とも気が散って集中出来なかっただろ!?」
「否定はしないけど、でもさ……!」
「それに、弱体化の対策として準備して貰っている薬の治験も兼ねていたんだ」
オレの抗議の声を抑えて、サディエルはそう説明した。
って、やっぱり薬を使ってたんじゃん!
「薬の治験?」
「お前たち、サディエルが何度か採血をしていたのを覚えているか? 直近だと、彼が魔族に攫われる前日になるか」
バークライスさんの言葉を聞いて、何度かギルドで採血していた事を思い出す。
1回目は、古代遺跡の国。
2回目は、航海が終わった後の港町。
そして3回目は、たった今バークライスさんが挙げたタイミングだ。
「てっきり、痣などの研究で使われていたのかと……」
「当初はな。だが、弱体化の効果を知らされた時点で、念の為に彼専用の一時的な増強剤を作っていたんだ。本人の血を使ったものだから」
「シーラム治療ですね……あ、ヒロト、意味わかりますか?」
「久々に英語っぽい形で出て来たな。血清療法だと思うから大丈夫」
と言うか、一部難病や治療法が英語な理由って、まさか。
オレはちらりと、カイン君を見る。
すると、シー、と人差し指を自身口元に持って行き、黙ってろのポーズをして来た。
……原因発見、いや、ある意味当然だな。
数千年の間で出て来た難病を、片っ端からこの世界にあった形で命名してきたんだろ、絶対。
ついでに、カイン君が元医学生だった疑惑も発生したな。
今は本題とは全く関係ないから問い詰められないけど、機会があったら聞き出そう。
こちらの地味な攻防を他所に、バークライスさんは言葉を続ける。
「この薬は、一時的な免疫向上による弱体化を緩和するモノだ。効果時間は6時間程度。副作用の方はどうだった?」
「眩暈と吐き気、だるさがありました。熱とかは無しで、だいぶ動きづらかったです」
「昨日、夕飯以降も姿を見せなかったのはそういうことだったのかよ」
アルムが睨みながらそう問いかけると、サディエルは両手を挙げて降参のポーズを取る。
「1度リセットしたはずだったんだけど、痣の方が元の進行度を覚えているんだろうね。リセット直後まで弱体化が進めば、本来の進行度に戻るとは思うけど」
「その情報だけでもありがたいです、カインさん」
助かります、と彼はカイン君にお礼を言う。
一方のカイン君は、気にしなくていいとジェスチャーで返した。
「どっちにしろ、ガランドとの戦闘は当然だけど、帰路で発生する戦闘に参加するには、バークライスさんたちが準備してくれた薬は必要不可欠だ」
「どれぐらい確保出来るですか、バークライスさん」
「今日の午後と、明日の分が浮いたからな。合計で6本になる。明後日には渡せるだろう」
アルムの問いかけに、バークライスさんが指を折りながら数え、最終的な個数を伝えてくれる。
6本……ガランド戦用に1本は絶対に死守するとしても、残りは5本だけ。
最初の街に近づけば近づくほど、サディエルが戦闘に参加するにはその薬が必須になるわけか。
「となれば、出発は早い方が良いな。4日後には、エルフェル・ブルグを出よう」
サディエルの決定に、オレたちは頷く。
「バークライスさん、薬の研究について私も少し参加させてください」
「お前に詳細を説明しておくのが一番安全そうだな。頼むぞ、リレル」
「ガランドについては道中で詰めるしかないから……ヒロト、協力してくれ」
「もちろんだよアルム! 任せて!」
「航海中に魔族からの襲撃が無い、と断言したのも……」
「アルムがこちらに救援要請をしたのも、君の世界における架空の物語による知識だったと」
一通りの説明を終え、バークライスさんとアークさんは、以前のことを思い出してか納得した表情を浮かべる。
「対魔族に限定されますが、既に何度も実証されています。ほぼ確実と見ていいと思います」
オレの言葉を引き継ぐように、サディエルが同意を示す。
「……ヒロト君。君が示した可能性のうち、まだ予兆が見られないものは何かね」
「えーっと、そうですね……」
さて、そうなるとほとんどが "痣" についてになるな。
オレが可能性として挙げていた中で、まだ未発生なのは合計3つ。
1つ目は、弱体化効果の内容。
即効性は最初から除外されて、徐々に効いて来る部分は現在進行形で効果を発揮中。
襲撃直前のタイミングで一気に弱体化効果を重くすると言う部分が、現在の要注意点になる。
なにせ、魔王様……カイン君のお陰で、サディエルの弱体化がリセットされた状態である以上、ここだけは高確率と思っても問題ないはずだ。
2つ目は、襲撃合図になる可能性だ。
ガランドが近づいてきた時に、何かしら痣に反応があること。
これも今のところ見受けられないわけだけど、油断は出来ない。
3つ目は……この国の滞在中に、痣の無効化が出来ない可能性。
こればかりは実に理不尽で、相手との因果関係が消えるからって理由で無効化が出来ない。
なお、敵側の場合はこっちが追えなくなる、つまりは、物語を長引かせるためにサクッと、本当にムカつくぐらいにサクッと解除されたりする。
実に解せない。
この3点をバークライスさんに説明すると、彼は苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべた。
「……3つ目が当たっているな。くそっ、腹立たしい」
「やっぱり、滞在中の無効化は難しいのでしょうか」
「期間が足りなさすぎるからな。本来であれば、サディエルだけはこのまま、この国に滞在して長期検査を受けて欲しいぐらいなんだ」
この短期間じゃ無理だったか。
初の事例で前例も無い以上は仕方ないのかもしれないけど。
「ですが、ヒロトを元の世界に戻すには、ガランドの核が必要となり……」
「奴の襲撃をエルフェル・ブルグで待っていたら、確実に半年内という期限を超えてしまう。あの洞窟遺跡に戻ることと、ガランドを迎え撃つのは同時進行じゃないと不可能だ」
アルムとリレルの言葉に、オレは頷く。
まさか、"半年" と言う期限がこんな形で足かせになるなんてな。
「あのさ、オレ、受験を来年にするから……」
「ダメだ。理由のない留年……だったか? ヒロトにとって余りにも負担が多すぎる。それに、親御さんたちのことも考えろ。せっかく、半年内に戻れる目途が立った以上、来年に先送りする理由はない」
ピシャリとサディエルが否定して来た。
分かっちゃいるけど……悔しいな。
「なぁ、サディ。その魔法陣を、このエルフェル・ブルグで同じように準備することは出来ないのか?」
ここまで黙り込んで考えを巡らせていたアークさんが顔を上げ、そんな提案をして来た。
魔法陣を、ここに。
「アークさんナイス! その可能性があるのを忘れていた!」
魔法陣そのものをここに準備出来れば、わざわざ洞窟遺跡まで移動する必要もない。
エルフェル・ブルグから移動する必要もなくなるから、万全な状態でガランドを迎え撃つことも……!
『あー、ごめん。それ無理』
そこに、この場にいない人物の声が響いた。
オレたちが慌てて周囲を確認すると、シュンッ、と音もなく誰かが現れる。
「魔法陣の件、そう言えば1つ伝え忘れていた」
「カインさん!」
「カイン君!?」
派手な演出もなく急に現れたのは、この世界の魔王カイレスティンことカイン君だった。
突然の登場に、バークライスさんは立ち上がり杖を向ける。
「やぁこんにちわ。そっくり反応ありがとう、サディエル君にヒロト兄ちゃん。バークライスは杖を降ろして」
「魔王カイレスティン……! 貴様、何故ここに!」
「前回、色々説明したけど、抜けがあったから追加で伝えに来たのと、確認をね」
お邪魔するねー、と普通に空いている椅子に座るカイン君。
相変わらずマイペースな魔王様だ。
「オレがこの世界に滞在した日数分だけ、元の世界でも同じ日数が進んだ地点に戻るってこと以外に、何かあったの?」
「そうだよ。結論から言うね。召喚された人間は、同じ魔法陣を利用しないと帰れない」
同じ魔法陣から!?
って、やっぱり洞窟遺跡に行かなきゃダメってことか……何でそこだけ律儀にテンプレ沿う形なんだか。
「カインさん、理由は?」
「実体験だからね。ヒロト兄ちゃんには話したけど、俺も戻る為に、同じことを考えて陣を準備した事がある。けど、上手く発動しなかった。で、試しに召喚された時の魔法陣を調べてみたら、魂が陣に紐づけられているみたいで」
カイン君は、パチンと指を鳴らす。
すると、オレの体が急に光って、ある一方向に光が伸びた。
「あっちの方角は……?」
オレが首を傾げていると、アルムは素早く荷物から地図らしきものと、方位磁石っぽいものを取り出す。
光の方角を確認して、地図をなぞっていくと……答えが判明した。
「洞窟遺跡がある方向か」
「そう言う事。あの陣は、この世界に呼び込んだ人物を覚えている。帰る場合は、来た時と同一の物を使うしかない」
なかなかに厄介だよ、本当に。と、カイン君は愚痴を零す。
うん、本当に厄介過ぎる。
「となると、やっぱ俺がこの国に残ると言う選択肢は無しだな」
「最後の最後で、否が応でも最悪手を取らざるおえないってわけか……魔族案件ってだけも厄介だってのに」
「しかも、ヒロトの世界でいう所の、試練だの困難だの、はたまた面白いからって名目でトラブルも発生するのでしょ?」
「オレ、今さ……心の底から自分の世界のテンプレに対して、殺意沸きそう……」
サディエル、アルム、リレルの順番で現状の問題点を挙げて貰ったわけだが。
聞いてて頭痛くなってきた。
恨めしい、今だけは心の底から、自分の世界のテンプレが恨めしい。
対魔族の件では助かってたけど、こと自分たちに牙を向けられたら、こうも厄介だなんて!
「それで魔王さん……カインさん? 確認したいことって?」
「君もカインって呼んでいいよ、アークシェイド君。俺と君らの仲じゃないか。今更改まる必要もないし、今後もぜひ仲良くして欲しいからさ」
ククッ、と嬉しそうにカイン君は笑う。
その返答に、若干複雑な表情の幼馴染コンビ。
いやまぁ、うん、分かる。
サディエルもうっかり『カインさん』って呼んじゃう辺り、やっぱり魔王と知らなかった時の交流が引っかかっているんだろうし。
オレも人の事言えないから……見た目が青年状態なのに、カイン君って呼ぶのにそろそろ抵抗が無くなって来た。
「確認事項は……サディエル君、"体調" は?」
カイン君の問いかけに、サディエルの肩が僅かに跳ね上がる。
「自覚は有るようだね。いや、無いと色々と困るんだけど」
「カインさん、弱体化の効果についてなんですが……この状態は一体……?」
右手をグーパーと何度か握ったり、開いたりしながら問いかける。
この行動……サディエルが不調な時の無意識なやつだ。
「こっちもこれは計算外だったよ。あの新人……ガランドの奴、独自に "痣" の効果を変えている」
カイン君はサディエルに近づいて、痣のある場所に右手をかざす。
すると、バチッ、と僅かに静電気のような破裂音がした。
「間違い無い。俺が作った痣に本来ありえない効果だ……相当早いペースで弱体化効果が効いてるんじゃないかい?」
「その通りです」
サディエルが頷き、肯定する。
早いペースで、弱体化が……!?
「サディエル、どういうこと!?」
「実はな、精密検査で判明したことだったんだけど、弱体化の効果が想像よりも早く進行しているんだ。バークライスさん、資料は手元にありますか?」
「あぁ、これだ」
バークライスさんは分厚い資料を取り出し、リレルに手渡した。
受け取った資料をパララッ、と捲り、リレルは素早く内容を確認していく。
「この進行度……このままでは、1か月も経たずに、エルフェル・ブルグ到着直後あたりまで戻ってしまいます」
「はぁ!? おい、サディエル! 何で黙ってたんだ!」
報告内容を聞いて、アルムはすぐさまサディエルに抗議の声を上げる。
「落ち着いてくれアルム。リレルも、顔が怖いからやめてくれ。ヒロト、泣きそうな顔すんなよ」
三者三様の反応に対して必死にあれこれとフォローを入れていく。
そんなこと言われても無理です。
最近妙に運動量が増えていたのも、その自覚があったからかよ。
「黙っていたのは、今回のコンビネーション試験で、お前たちに "俺は万全な状態で立ちふさがっている" って思っていて欲しかったからなんだよ。俺がこんな状態だって知ったら、3人とも気が散って集中出来なかっただろ!?」
「否定はしないけど、でもさ……!」
「それに、弱体化の対策として準備して貰っている薬の治験も兼ねていたんだ」
オレの抗議の声を抑えて、サディエルはそう説明した。
って、やっぱり薬を使ってたんじゃん!
「薬の治験?」
「お前たち、サディエルが何度か採血をしていたのを覚えているか? 直近だと、彼が魔族に攫われる前日になるか」
バークライスさんの言葉を聞いて、何度かギルドで採血していた事を思い出す。
1回目は、古代遺跡の国。
2回目は、航海が終わった後の港町。
そして3回目は、たった今バークライスさんが挙げたタイミングだ。
「てっきり、痣などの研究で使われていたのかと……」
「当初はな。だが、弱体化の効果を知らされた時点で、念の為に彼専用の一時的な増強剤を作っていたんだ。本人の血を使ったものだから」
「シーラム治療ですね……あ、ヒロト、意味わかりますか?」
「久々に英語っぽい形で出て来たな。血清療法だと思うから大丈夫」
と言うか、一部難病や治療法が英語な理由って、まさか。
オレはちらりと、カイン君を見る。
すると、シー、と人差し指を自身口元に持って行き、黙ってろのポーズをして来た。
……原因発見、いや、ある意味当然だな。
数千年の間で出て来た難病を、片っ端からこの世界にあった形で命名してきたんだろ、絶対。
ついでに、カイン君が元医学生だった疑惑も発生したな。
今は本題とは全く関係ないから問い詰められないけど、機会があったら聞き出そう。
こちらの地味な攻防を他所に、バークライスさんは言葉を続ける。
「この薬は、一時的な免疫向上による弱体化を緩和するモノだ。効果時間は6時間程度。副作用の方はどうだった?」
「眩暈と吐き気、だるさがありました。熱とかは無しで、だいぶ動きづらかったです」
「昨日、夕飯以降も姿を見せなかったのはそういうことだったのかよ」
アルムが睨みながらそう問いかけると、サディエルは両手を挙げて降参のポーズを取る。
「1度リセットしたはずだったんだけど、痣の方が元の進行度を覚えているんだろうね。リセット直後まで弱体化が進めば、本来の進行度に戻るとは思うけど」
「その情報だけでもありがたいです、カインさん」
助かります、と彼はカイン君にお礼を言う。
一方のカイン君は、気にしなくていいとジェスチャーで返した。
「どっちにしろ、ガランドとの戦闘は当然だけど、帰路で発生する戦闘に参加するには、バークライスさんたちが準備してくれた薬は必要不可欠だ」
「どれぐらい確保出来るですか、バークライスさん」
「今日の午後と、明日の分が浮いたからな。合計で6本になる。明後日には渡せるだろう」
アルムの問いかけに、バークライスさんが指を折りながら数え、最終的な個数を伝えてくれる。
6本……ガランド戦用に1本は絶対に死守するとしても、残りは5本だけ。
最初の街に近づけば近づくほど、サディエルが戦闘に参加するにはその薬が必須になるわけか。
「となれば、出発は早い方が良いな。4日後には、エルフェル・ブルグを出よう」
サディエルの決定に、オレたちは頷く。
「バークライスさん、薬の研究について私も少し参加させてください」
「お前に詳細を説明しておくのが一番安全そうだな。頼むぞ、リレル」
「ガランドについては道中で詰めるしかないから……ヒロト、協力してくれ」
「もちろんだよアルム! 任せて!」
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25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
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旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
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